2016/06/09 のログ
ご案内:「王都マグメール 貧民地区2」にリーユエさんが現れました。
■リーユエ > 今は月も星もはっきりと輝いている夜。
月明かりのみに依って照らされる、建物の屋根にフワリと一つの影が舞い降りる。
其処から下の光景を見る事はせず、夜空へと顔を上げた。
「今日は、月映える良い夜です…なのに…」
ポツリと呟く言葉、そして、小さな溜息。
シェンヤンから戻って直ぐに、友人が…否、想い人が消えたと聞いた。
理由は分からない、原因も分からない、何も分からない事だらけ。
勿論、自分は直ぐにでも探しに出ようとした。
然し、組合長の方には強く止められてしまう。
こうして、この場に自分が居る事を知られたら、間違いなく注意をされる。
それでも、動かずには居られなかった。
目的は一つ、想い人である彼女の手掛かりを得る事。
ご案内:「王都マグメール 貧民地区2」にセイン=ディバンさんが現れました。
■リーユエ > 眼を閉じ、意識を集中する。
月明かりに依って壁を、地面を、様々な場所を黒に染め上げる影が蠢き始めた。
屋根の上から移動はしない侭、其処で鞄を開け放つ。
見えるのは何枚もの紙、そこへと、自らが作り出す影から伸びる手が掴み、影の中へと引き込んでいった。
其れを確認してから、顔を屋根から見える光景へと移す。
辺りに感じる気配を探り、共に影から見える光景を感じ、ゆっくりと意識を広げていった。
■セイン=ディバン > 夜の涼やかな風。ハッキリと見て取れるほどに輝く月と星。
未だ戦火は国内にあれど、穏やかと言って良いような夜。
男が貧民地区を歩いていく。
「さってと、お仕事の受領も済んだし……と」
ギルドで依頼を受け、明日からの仕事に備えよう。
そう考えた男は、平常通り、貧民地区の宿へと向かっていた。
そんな中、自身の影と違う影があるのに気づき、上を見る。
「んあ……?」
なにかその影が気になり。男は屋根の上へと身を躍らせる。
壁を蹴り、跳躍。音もなく屋根に着地。そこには、少女が一人いた。
なにやらやたら集中しているのが遠くからでも判る。
「お嬢ちゃん、こんな夜更けに、こんな場所にいると危ないぜ」
相手を驚かせないように声をゆっくりとかける。距離は取ったまま。警戒されないようにのそり、と立つ姿。
■リーユエ > 後は影に意識を向けて人型と化し、口聞けぬ者を装って人相書きをした紙を提示して情報を集める。
その筈だったのに、邪魔をする様に現れた気配に、集中は解かない侭で眼を開く。
聞こえた声は男性のもの、気は引けるけれども…対応をしない訳にはいかない。
「…慣れておりますから、御気に為さらずに。
こうして、夜空を眺める事を楽しみの一つにしているだけですので」
適当な理由を付けて、この場を収める嘘。
あんまり嘘を付いたり騙したりを嫌ってはいる、でも、今は形振りは構っていられない。
ニコリと笑顔を浮かべ、小さく首を傾げてみせた。
その間にも、周りに伸びる月影は誰かを見付ける度に人型を取って情報を集め様と動いている。
この地区を一度に見渡す事の出来る存在が居れば、非常に奇妙な光景が見える筈。
同じ様な人影が、様々な場所で探る様に動いているのだから。
■セイン=ディバン > ひやり、と身を切る風。そしてそれよりも尚冷たい空気。
目の前の少女の身体から出る力の本流。ふむどうしたものか、と口内だけで呟き。
「あぁ、そうか。たしかに今日の夜空はキレイだからな。
……で? 何してるのお嬢ちゃん。そんなピリピリしてさ」
相手の笑顔、そして言葉をしっかりと受け止めた上で再度質問。
つまるところ、誤魔化し、嘘はいらないという意思の表明。
相手からは悪意などは感じないが、警戒をやや強める。
「……あぁ、自己紹介がまだだったな。
冒険者ギルド、シーフギルド。んで、『怠惰』の魔王軍所属のセイン=ディバンだ」
よろしく、お嬢ちゃん。と言いながら自分の所属組織を全て明らかにする。
最近、魔王軍のことを隠すのも煩わしくなったらしく。
■リーユエ > 男性の言葉から、自分が何処か焦っているのだと理解させられる。
表情は乱していない筈、為らば、相手の方は手練れな存在。
そう思えば、落ち着こうと深呼吸を一つ。
落ち着き切れるものでも無いのだけれども、少しでも拭わなければ何が起こるか分からない。
「…私は…只、人を探しているだけ。それだけです」
此方も警戒を強めるが、今度は本当の事を伝える。
下手に嘘を付けば、話が拗れるだけだと思って。
「…リーユエです。チェーンブレイカー、Beaconに所属しております」
言葉短くして名乗りを返す。
魔王軍所属、その言葉に小さくとも反応を示してはいた。
何時もならば、見過ごす事は出来ない存在。
それでも…今は、如何でも良かった。
自分の邪魔さえしないならば、どんな存在であろうとも。
■セイン=ディバン > 距離を詰めることをしていないのに、どこか緊張感だけが増していく。
あまり質問攻めも良くないか、と考え、頭をガシガシと掻く。
「人探し……、ね。なるほど……。
……もしかして、仲間とか友人とか、そういうこと?」
相手の言葉に嘘は無さそうだと判断し、質問内容を変える。
相手の様子にあったのは、怒りではなく焦り。
となると、敵ではなく味方、もしくはそれに近い存在を探していると考えるのが自然。そう判断した。
「リーユエちゃん、ね。可愛らしい名前だ。
って、ゲゲッ……チェーンブレイカー……」
相手の名前を褒めれば、聞いたことのある組織名に眉をひそめ、思わず声を洩らす。
そう、チェーンブレイカー。自身が今一番係わり合いになりたくない組織。
その組織の根城的場所、ドラゴンフィートでの捕り物を思い出してしまう。
■リーユエ > 笑顔は浮かべているものの、その眼には笑顔とは質の違う感情が込められている。
その眼が、目の前で頭を掻く男性を見詰め続けていた。
「…」
男性が自分の発言で何を思ったのか、それは理解し切れない。
それでも、気配は変わらないのは自分へと害を為そうとはしていない現われと判断する。
質問には言葉にはしないにしても、手にした一枚の紙で意図を示す。
その見せた紙に描かれた人物は男性の知る相手である筈だ。
彼がドラゴンフィートで出会った少女なのだから。
「…貴方で合ってますよね?ドラゴンフィートで問題を起こしたのは。
今だけは見逃しますから、直ぐに離れると良いでしょう。
私には、それを差し置いてもやるべき事がありますから」
男性の反応には、これという反応は示さない。
話には聞いていた、ドラゴンフィートで起こった出来事を。
本来ならば捕らえて連行すべき事だろうけれども、そこに手を割く気は無かった。
■セイン=ディバン > 瞳に何か、意思、力の様なものが秘められているのを感じ。
思わず視線を逸らしそうになるが、腹部に力を入れてそれを押さえ込む。
「沈黙、か。肯定って受け取っていいのかな?
って……」
相手が何も口にしないのを、勝手に解釈する。
恐らくチェーンブレイカーの同僚でも探しているのかな?
そう思っていれば、一枚の紙を見せられ。
「……これ、リーゼちゃんじゃん。
え、もしかしてリーゼちゃんになんかあったのか?」
その紙を見て思い返す。自分がドラゴンフィートに迷い込んだ時。
険悪ではあったかもしれないが、決して攻撃などをしてこなかった。
いや、むしろ理知的対応をしてくれた女性。その相手が探されている。どういうことなのか。
「なぁ、詳しく聞かせてくれないか?
もしかしたら力になれるかもしれないし」
相手にこの場を離れろ、と言われたのは頭から吹き飛んだ様子。
男の声色には心配する色だけが浮かんでいる。
■リーユエ > 勿論、その言葉にも沈黙が返って来る。
如何受け取られ様とも、答える気は無いのだから。
尤も、男性の考えに間違いは無かった訳だけれども。
「…っ!?」
人相書きを見せた、その相手の方の言葉に目を見開く。
彼女を知っている相手、只、その言葉から消えた原因は知らないだろうとは思う。
其れよりも、如何してこの方が彼女を気にするのかが分からない。
離れる様に言ったのに、それに従わない処か質問を返してくる。
戸惑う、其れに答えるべきなのか、黙っておくべきなのかを。
短かったのか、長かったのか、続く沈黙の中で小さく唇が動く。
「…居なくなったんです。私も離れている間に起こった事で、理由も原因も分からないんです。
只、この王都に来ていたのは分かっているのですが…それ以上は」
湧き上がりそうになる感情を押し殺すように、拳を握る。
一緒に居てあげられなかったから、きっと彼女は消えてしまった。
ずっと一緒に居ると言ったのに、強い強い後悔の念に苛まれる心。
だけど、振り返った処で彼女が姿を現す訳がないのだ。
其れならば、動くしかない。例え、止められていたとしても。
今は少しでも手掛かりが欲しいし、その可能性を上げれるならば、誰の手であろうと借りたって良い。
それが例え、魔族の手の者で在ったとしても。
■セイン=ディバン > 気づけば、一方的にしゃべるのは男の方だけだった。
しかし、男のその言葉に相手が反応を見せ……。
「ってことは、キミはリーゼちゃんと仲良いのか。なるほどね」
少女の焦り具合。見た目の年齢。そして息を呑む様子。
恐らくは同じ部隊の仲間か、直属の上司部下か。そう目星をつけるも。そう思案しているうちに相手の言葉で状況が少しずつ知らされ。
「居なくなった、って……拉致されたとか、仕事中にはぐれた、でなくて?
……しかもキミの様子だと、組織一丸での捜索も行われてないんじゃあないか?」
断片的、かつ少ない情報を必死に繋ぎ合わせ、推論を口にする。
直情的なタイプであるこの男。実のところ頭の回転と勘の鋭さは悪くはない。
相手の思いつめた様子、そして未だ見えぬ強い感情。
男はそれを見て強く頷く。
「オッケー。とりあえず、王都周辺で調査して。まず足取りを追わなくちゃね。
オレの方でも調べてみるよ。最近でかい冒険者ギルドに移籍したから、情報に関しては掴みやすいと思うし」
相手の苦悩、悩みに気づいているのかいないのか。
男はそう言い、自分の胸をドン、と叩く。まるで、任せろ、とでも言うかのように。
そこには嘘偽りなど一欠けらも混じってはいなかった。
■リーユエ > 流石に自分と彼女の仲がどんなものかを伝える事は出来ない。
否、伝えれる訳が無いだろう。
此方は黙った侭ではあったが、察してくれる処は有り難かった。
誰かと動いていた為らば、もっと早く気付けた筈だ。
そうでないと云う事は、一人で行動し…何かが在った、それしか無い。
「…私は…その、関わるなと、探索に関しては教えられていません。
居なくなったんです、きっと探索は行われているのだと思いますが…」
歯切れも悪く、相手の方へと答える。
いざ何かが起これば、きっと足を引っ張る可能性が高い、そういった判断だろう。
多分、そうなるに違いないとは自分でだって理解は出来る。
理解は出来るけど、納得なんて出来る訳がない。
だからこそ、こうして独断で動いてしまっているのだ。
「…はい。分かりました…宜しく、御願いします…」
男性の言葉に嘘偽りが無いからこそ、信じて、頭を下げる。
そうしている間にも影は動き続けていたのだが、収穫は無い様で、影を戻していく。
其れは、相手の方の目の前でも変化として見えた。
足元に置いてある開きっ放しの鞄、其処へと手の形をした影が伸び、使っていた複数枚の人相書きを戻したから。
身体を屈めて鞄を手に取り、改めて身を正す。
■セイン=ディバン > 相手の懊悩。そして捜索対象との関係についての秘匿に関して。
何か隠しているな、とは男も気づいていたが詮索はしない。それは今すべきことではないからだ。
「なるほどね……。なんか事情があるのね?
でも、キミは黙っていられなくて独断で動いた、と」
どこか歯切れの悪い言葉に頷きながら確認していく。
相手の組織の内情や事情になど興味はないが。
こと人間を捜索するに当たっては見事にそれらがしがらみになってしまっているようだ。
「あぁ、任されたよ。
って、うおっ!? い、今何かしてたよな!?」
男が目の前で起きた出来事に驚き、また質問を重ねる。
何か、魔術・呪法じみたことをしているのではないか、と予想していたが。
自分の知識の領域外のことのようだ、としか判らず。好奇心に瞳を輝かせている。まるで子供のようであり。
■リーユエ > 「…」
無言で頷く。話せない事も在るし、話さない事も在る、それは相手の方に失礼だとは思うのだけど。
それでも、必要最低限の事は伝わっているのだと、思いたい。
「…?…影、ですけれど、それが何か在りましたか?」
てっきり、月影を使っていた事は見られていたと思っていた。
だから、相手の方の驚いた様子に不思議そうな表情を浮かべる。
そして然も当然の様に答えてみせた。
■セイン=ディバン > 男の確認には、やはり無言での肯定。結構口数少ない子なのかな?
などと勝手に考える。あるいは自身が思いっきり警戒されているのか?
と考えてみれば心当たりもありまくるわけで。
「あ~……ただ、オレも情報収集は得意な方ではないんだ。
だから、もしかしたらキミが自力でリーゼちゃんを見つけるほうが早いかもね」
自身の能力を考慮し、そう断りは入れておく。冒険者として単独で活動することは多かったが、どうにも情報収集は苦手分野であり。
とはいえ、ズブの素人レベルでもないのだが。
「いや、影……って。使い魔とか、使役してる存在ってこと?
それか、そういう魔術なのか? 影に実体を持たせる?」
小規模な悪魔や天使など。もしくはそれを模した存在を使い魔にする。
そういった魔術系統もあるとは聞いていたが、影そのものが自在に動くなどは初めて見たらしく。
それこそ、リーゼロッテ嬢に魔法銃を見せてくれとせがんだ時の様に、知識欲からくる質問は止まらない。
■リーユエ > 男性の考えは強ち間違いでも無かった。
只、その理由が男性である事だとは、気付かないかもしれない。
如何しても、異性には未だに不慣れなのだ。
「…構いません。僅かでも情報の得られる可能性が在るならば、それだけでも助かるものです。
実際に見付ける事も在るでしょうし、心の持ち様としても…」
一人拠りも二人、それは当然の考え方。
彼の言う通りに此方が先に見付けたとしても、問題に為る訳でもないのだから。
少なくとも協力には嬉しいもので、小さく微笑む。
「…影は影です。申し訳在りません…それ以上は…」
制限の付いた力、流石に其れを教える訳にはいかない。
困った様な表情を浮かべ、其れだけを答える。
代わりに、月明かりに依る彼の影から一匹の小鳥を生み出し肩に留まらせた。
鞄をしっかりと手に、月の傾きを見る。
そろそろ戻らないと、生活に影響を与えるかもしれないと。
■セイン=ディバン > 男自身、まさか自分が男であることが相手の態度を強張らせている原因だとは露知らず。
微妙な距離感に、困ったように首に手を当てながら。
「そう言ってもらえると助かるね。
とりあえず、もしも何か情報を掴んだら連絡するよ」
どうやって、とは口にせず。それだけを告げる。
相手の小さな微笑には、つられてこちらも薄く笑い。
ようやっと少し打ち解けたか、と安心した様子。
「あぁ、秘密ってことね。わかったわかった。
こっちもまぁ、所属が所属だし。追求はしないよ」
これ以上自身の立場も悪くはしたくないという本音。
無用な警戒はさせないに越したことはないな、と思いながら辺りへ視線をめぐらせる。
気づけば、地平線が少し明るくなってきたようだ。
宿へと向かっていたことを思い出し、男はくあぁ、とあくびをする。
■リーユエ > 「…分かりました。御待ちしております」
連絡先は伝えずとも不要か、ドラゴンフィートに姿を現わした事のある方だからこそであって。
少しばかりの期待を持って、一歩下がる。
「…はい。それでは、私は戻るとしますね。
失礼致します」
完全に月明かりが消えれば、戻るのが手間になる。
別れの挨拶に頭を下げると、その身を影の中に落としていった。
■セイン=ディバン > 「あぁ。なるべく早く情報がつかめるといいんだけどね」
恐らく、また無断で侵入しようとしていることを相手も察したのであろう。
だが何も言わない相手に、少しばかりの感謝をしつつ苦笑を洩らす。
「あぁ。じゃあまた。
今度はゆっくりと穏やかに話が出来るといいな」
闇の中に融けるように消える少女を見送りながらそう言い。
男も屋根から飛び降りる。まずは宿に戻り、眠りにつこう。そう考えながら。
ご案内:「王都マグメール 貧民地区2」からリーユエさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 貧民地区2」からセイン=ディバンさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 貧民地区2」にリーユエさんが現れました。
■リーユエ > 今はまだ日が傾き始めた頃合。
予定としては、今日の夜も王都で人探しをする筈だった。
然し、天候が生憎の曇り空、今夜は月明かりは差さないだろうと考えている。
つまり、月の影を使った先日の様な事が出来ないのだ。
流石に一人で探し回るには、予定であった平民地区は広過ぎる。
溜息をつき乍、夜の行動は慎もうと考え、貧民地区の方達の健康診断と、応急処置的な治療を行っていた。
こうして何度も続けている内に必要としない方も増え、昼過ぎ頃には人も掃けた状態となっている。
最後の一人を終え、頭を下げる相手の方に笑顔を向けて見送った。
「…日中為らば、少しは大丈夫でしょうか…?」
夜の一人歩きは危険が伴うが、昼間ならば如何だろうか?
道具を仕舞い、鞄を閉じて空を見上げる。
ご案内:「王都マグメール 貧民地区2」にリーゼロッテさんが現れました。
■リーゼロッテ > 野生の花だけでは満たしきれない森の殺風景さを埋めるべく、王都へと繰り出すことにした。
種に苗、成長を促進させる魔法薬と必要なモノが多く、金もかかる。
幸い、こっちの性格でも戦う力もあれば、何時もと違い躊躇うこともない。
賊を狩って糧にしてしまおうと、酷い方法に打って出る。
「……」
わざと危なっかしいところを通り、釣られてくる賊を人目につかぬ路地へと引き寄せれば、刃物をチラつかせて脅そうとする男達にヴェールの裏で薄っすらと嘲笑を浮かべる。
少し餌をチラつかせて歩いただけで屑が集まる、腐った都だと心の中で呟きながら彼らに掌を翳す。
同時に……バサバサと烏の群れが空を塊となって舞い、裏路地へと黒い羽を散らしながら集中していく。
「貴方達…楽に殺す義理もないわね」
ぼそりとつぶやくと、一斉に鴉達が男達へ群がる。
突き立てる嘴は、彼らの魂だけを啄んで引きちぎっていき、激痛に断末魔のような声が響き渡る。
男達が刃物を振り回して鴉を振り払おうとすると、何匹かはそれにあたってしまうが…大して状況が変わらないどころか、恐怖を植え付けるだろう。
裂けた肉から筋がミミズのようにうごめいて強引に繋ぎ直すと、青白い炎を目に宿しながら再び襲いかかる。
嗚呼…声で気づかれるかもしれないと思いながら、やれやれと言いたげに溜息を溢す。
■リーユエ > 思い立ったら吉日、と云うべきか。
鞄を手に、今日は日中の人探しと予定を切り替える。
貧民地区、他の地区よりも細い路地は危険だろう。
だからこそ、其れを意識して避けて行こうと、注意を向けたのは偶々だった。
裏路地の方角から、変わった物音が聞こえてくる。
はっきりとは聞こえないけれども、その中に叫び声が混じっていた。
もしかしたら、裏路地を通った誰かが襲われているかもしれない。
其れは間違いではないが、考えていたものとは異質。
気付かぬ侭に、其方へと向かって駆け出した。
駆け乍、胸元に仕込んだ護符と手元に仕込んだ札を確認していく。
余程に強い力を持った相手で無い限り、何とか対応は可能だろう。
どれ位の距離があるのだろうか?辿り着けば、札を手に意識を向ける。
■リーゼロッテ > 響く悲鳴は絶叫や呻き声が多ければ、たまに命乞いの声が響くときもある。
助けてくれ、命だけはと縋り付くような声が響いても鴉達は啄むことを止めない。
足にしがみついた体に、普段では考えられないほど容赦なくケリを叩き込んで転がすほど、心は冷えきっていた。
「そう言って助けを求めて…殺さず、犯さず…逃がしたことなんてないでしょう? 勝手なお願いね」
絶望に絞りだすような断末魔が響くと、男は事切れて地面に伏した。
他の賊達も息絶えており、埋め尽くすような鴉達は懐から金目の物を漁り出すと少女の元へと戻っていく。
ゴルドが少々と、宝石類が幾つか。
これだけあれば必要なモノは揃うだろうと、再び鴉達へ預ける。
音を聞きつけてからここに来るまではそう遠くなく、丁度その頃に到達し、リーユエにはこの光景が見えるだろう。
息絶えて転がる無数の賊、周囲を埋め尽くすように留まった鴉達。
そしてその真中には喪服のようなドレス姿で冷えた表情をヴェールに隠すリゼの姿があった。
■リーユエ > 壁を越え、曲がった先にその光景は見えるだろう。
聞こえていた声は既に無く、助けるにも間に合わなかったと、心を痛める。
だが、せめて手に掛けたであろう相手ぐらいは罰せられなければと身構えた。
立っているのは一人、そして、足元で蠢く黒い生き物…鴉と、男性と思われる方々の倒れた姿。
あの人影が襲った者なのだと判断するのは簡単で、手にした束縛の符を放とうとするも…動きが止まってしまった。
其れを見詰める眼は大きく見開かれている。
「…リゼ…さん…?」
只、こうして目の前に立つ相手の方の名を呟くしか出来なかった。
頭の中が混乱する。
彼女は行方不明だった筈なのだ、こんな場所に居るのはおかしいのではないか?
そもそも、あの格好は如何したのだろう?
違う、そんな事よりもこの状況は何なのかを考えなければ…
考えても、その考えが纏まる事が無い。
喜ぶべき?其れとも、問い質すべき?
グルグルグルグルと、考えが回りっ放しだ。
■リーゼロッテ > 長居すると面倒なことになる、早く立ち去ろうと手を下ろした瞬間、現れた姿にこちらの凍りついた表情も砕けていく。
嬉しくもあり、そして事実を伝えねばならない苦しさもある。
視線を下へとそらしていくと、呼びかけられる声にほんの少しだけ本来の人格が反応する。
それだけ大切な存在だからだろう。
「……貴方が言う恋人とは少し違うわ、気づいてなかったみたいだけど…二重人格なのよ」
そんなに頻繁に変わっていたわけじゃないけどと、言葉を添えて顔を上げる。
ヴェールを横へとずらして耳にかけると、何時もよりも青みの濃い瞳が彼女を見つめつつ、ゆっくりと近づこうと歩き出す。
届くなら、その手に昔と変わらぬ小さな手を重ねようとするだろう。
「何処から…話したらいい? 色々知りたいでしょう?」
位置から全て話してしまうのは、ショックが強すぎるかもしれないと思えば、加減するようにそんな問いかけをするも、彼女から恋人を奪っているような立場にいる後ろめたさから、視線を重ねようとしない。
■リーユエ > 考えを巡らせている処に、彼女の声が掛かる。
ハッと為って、慌てた様に顔を向けた。
「二重人格…ですか…?」
違う、そんな鸚鵡返しの様な返し言葉を彼女に掛けたい訳じゃない筈。
心ではそう思っていても、彼女に掛けるべき言葉が見付からない。
然し、言われてみれば確かにそうだと納得出来る処もあった。
だけど、だからと云って簡単に納得し切る事が出来る訳でも無い。
彼女が近付いて来れば、札を持つ手は下がっていく。
それでも、目の前に居る彼女は彼女なのだ。
その手を重ね様とする彼女の手を避ける事は無く、重なって。
「…分かりません。答えが、見付からないんです…
確かに私は知りたいです。でも、知って欲しくないかもしれないと考えてしまっています。
知られたくない事を知られてしまう…色々の中には、そういった事も含まれているのではないですか?」
触れた手に目を向け、顔を上げて彼女の表情を見る。
視線を逸らす彼女の姿に、自分が望む通りに全てを知りたいなんて、はっきりと口にする事が出来なかった。