2016/03/15 のログ
ご案内:「スラム街の一角」にイニフィさんが現れました。
イニフィ > 少しばかり、誇り臭い町の角。
華やかな街の裏では、やはりこういう闇が潜んでいるようなもの。
そもそも、光があるから闇があるし、闇があるから光がある。
哲学のような言葉だが、それは大いに理解できると、イニフィはため息をついた。

「ほんっと、神様って理不尽で自分勝手よねぇ…。
自分の子供だとか、信者は救われるとか…、だったらこの状況をどーにかしてみなさいっての。」

誰に言うわけでもなく、ただの独り言。
町の四角になるような場所に、まるで隠れるように。
置かれた木箱の上に座り、膝の上に肘を乗せて、大きな大きなため息をついた。

ご案内:「スラム街の一角」にティネさんが現れました。
ティネ > ため息をつくイニフィのそばを数人の品の良くない男たちが通りがかった。
儲けものだ、とか、これは高く売れる、いやいやもっと楽しんでおこうぜ、など、何やら盛り上がっている。
男のひとりの手には瓶が握られ、見せびらかされている。
その中に、見覚えのあるだろう小さな蝶羽根の妖精の少女が閉じ込められていた。

薬でも嗅がされたのか、ぐったりとした様子。
歓談する男たちの視線からも、それについて歓談していたのは明らかだった。
戦利品に夢中で、イニフィのことはさして気にも留めていない模様。

イニフィ > 人は平等だ、だとか等しく権利が与えられているだとか。
そんな安っぽい正義ぶりっ子にはずいぶんとうんざりさせられる。
そんな前置きなんかいらないから、もっと神様も正直になればいいのにと常日頃から思う。
まあ、無教徒な上に宗教嫌い、おまけに堅苦しいことが大嫌い。
そんなイニフィにとって、神様のありがたい教えなんて本当にただの余計なものでしかない。
もういちど、ふうっと大きなため息をつくと―――また下品な声が響いた。

どうせ、また何か悪巧みデモするつもりなんだろうと思って前をふっと見たら、男の手には小瓶。
そして、その中にはまた小さな――――妖精?

「ぶっ!?」

その姿を見た瞬間、大きく噴出していた。
その姿は紛れもなく、先日イニフィが「食べた」妖精そのものであった。
―――ほんとに復活したんだ、というのはまあさておき―――。

(……ずいぶんと柄の悪いのに捕まっちゃったみたいね。おまけにお楽しみされた?
………ったく、私の玩具に手を出すなんてずいぶん調子に乗ってるじゃない。)

イニフィにとって、一番嫌がることは何か。
それは、自分の玩具を誰かに横取りされることである。
ふつふつとわいてくる怒りは、空へと舞い上がり大きな大きな雷雲を作り出す―――。

「………あんたたち。悪いことは言わないわ。その妖精をおいてとっとと消えなさい。」

静かな、そして怒りを隠さない声が響いた。

ティネ > 怒気の篭った声をかけられ、彼らはようやくイニフィの存在に気づいたようだった。

高く売れそうな希少品を譲れ、などと急に言われ、舐めきったような声を上げるもの、
異性にとってあまりに魅力的に映る肢体に、下卑た視線を送るもの。
頭上にいつの間にか浮かんでいた雷雲を見て、女の正体に勘付き、怖気づくもの。
それでも尚、欲しいんなら力づくで奪って見ろよ、と挑発するもの。
反応は様々だった。

――数分後。
イニフィの手元には未だ視線の焦点の定まらないティネ入りの瓶がある。
いかなる経緯があったかはさておいて(さして重要でもないだろう)、
彼女を邪魔するものは、周囲にはもはやいない。

イニフィ > 下種な男の反応などいちいち気にしない。むしろ反吐すら出る。
男の無残な姿を見下ろすその真紅の眼は、正に魔そのもの。
あたりにはいくつも落雷が地面を抉った後がある。

大きな大きなため息と、ティネが入った小瓶を手に、再びスラムの死角へと消える。
ただの旅行者ではないと、あんまり悟られたくないのだ。
強大な力は恐れを抱く。そしてその話は騎士団へと伝わり、自分を探し始める。
それらから逃げ回る、そんな窮屈な生活、あまりにもごめんだ。

「んー……。もしもーし?て~ぃ~ね~?」

焦点が定まっていないところを見ると、人間用の薬でも盛られたのだろうか。
あちこちに目線をやる小さな妖精を便越しに見やりながら、どういう状況下を確認した。
さっき、愉しむとか言う声が聞こえてきたところを見ると、おそらく性欲を煽られている。
―――しかし、そんな人間の作ったまがい物のそれなど、気にするようなものでもないだろう。

「ティネー?もしもーし?」

ビンのふたを開け、掌に妖精を文字通り取り出す。
……にしても、妖精とはいえまさか自分が生命を助ける羽目になるとは。
まあ、ティネなら別にいいかと苦笑している自分がいるのだけれども。

ティネ > スラム街の人間の命は安い。
焼け焦げた死体が幾つか造られたところで、
よほど巡り合わせが悪くなければ気を払われることもないだろう。

……

イニフィの掌に取り出され、声に朦朧としていた意識が覚醒していく。

「んー……?」

どこかぼうっとした様子。未だ心ここにあらずと言った顔である。
やがて、視界に見覚えのある顔が像として結ばれる。

「あ、イニフィじゃん……。
 やっほー。どしたのこんな所で?」

小さく手を上げる。
自分の状況を理解しているとはとても思えない呑気すぎる挨拶。