2023/07/21 のログ
ご案内:「王都マグメール 貧民地区」にルプランさんが現れました。
ルプラン >  
平民地区の外れと言うべきか、貧民地区のとば口と言うべきか。
とにもかくにもうら寂しく、擦れ違う人もないような裏路地。
いつからそうして置かれているのか、まるで分からないような煤けた木箱の陰に、
片膝を抱えて座り込み、ぐったりと項垂れる女の姿があった。

数分前、平民地区方面からふらふらと歩いてきて、そこで力尽きてしまったのだ。
完全に意識を失っているわけではない、近づけば肩が大きく上下しているし、
もしも通りがかりの誰かから声を掛けられれば、なにがしかの反応もするだろう。
しかし、不自然に頬や耳朶、首筋を赤く染め、浅く忙しない呼吸を繰り返し、
両腕で抱え込んだ片膝を、ぎゅっと抱き締める必死さは、尋常ならざる事態を示している。

「は、…… はぁ、っ……… ん、んん、―――――…」

熱い、苦しい、からだが疼いてたまらない。
平民地区のとあるギルドで、女の良からぬ噂を聞きつけた連中に絡まれ、
ようやく振り切って逃げてきたけれど、定宿にしている部屋まで、あと少しなのだけれど。
これ以上歩けそうにない、せめて、しばらく休まなければ。
溜まったものを発散させるのが、きっと一番手っ取り早いと、わかってはいるけれど―――――、

自分から誘うとか、襲うとか、どう考えても無理だ。
こんな所で意識を手放しでもしようものなら、それこそ、
どんな目に遭うか知れないが、それでも―――――。

ご案内:「王都マグメール 貧民地区」にシロナさんが現れました。
シロナ > 今日の授業は、冒険者の見習いとして簡単な依頼を熟すもの。
 コクマー・ラジエル学園の授業は多岐に渡るから、騎士を目指すもの、兵士を目指すもの、魔法使いを目指すもの、冒険者を目指すもの。
 様々な授業があり、それらをいろいろ組み合わせて学んでいくというスタイルだ。
 単位の為に受けた授業で、クエストは貧民区にある教会の清掃。
 貧民区は危ないというので、他の学生と共にきらきらピカピカにしてからの、帰り掛け。

「……おやぁ?」

 シロナの感覚が、只ならぬものを認識し、ぐるぅり、と視線を向ける。
 紅の目は、木箱に隠れるようにうなだれている女性の姿を見つけたのだ。
 他の学生は、級友は気が付いていないようで、そのまま帰途についている様子だ。
 分からするり、と抜け出して、座って―――項垂れている女性の方に近づいていく。

「こんにちはー?」

 近づいてみれば、息を荒くしながら座っている女性が見える。
 彼女の近くでくん、と鼻をひくつかせてしまえば、理解できる。
 何となく、理解できた。
 彼女に、何が起きているのか、どうして、そうなっているのか。
 汗ばんだ体に、小刻みに繰り返される吐息。
 発情しているのが、判った。

 淫魔的なセンスが、彼女の状態を見破って。
 とはいえ、だ。

「大丈夫ですかー?」

 一応は、お嬢様。
 シロナの淫魔の特性―――沈静。
 むらむらしたものを無くし、性欲を抑える力を使って、彼女の様子を確認する。
 エロイことするなら、自分で口説くのが、シロナの性癖なので。
 落ち着かせつつ、彼女の目を顔を、覗き込む。

ルプラン >  
気を失うまいと思ってはいたけれど、そろそろ限界も近かった。
学生の集団が近くを通りかかる気配に、普通なら気づかないはずがなかったのだけれど。
女が少女の気配を察知したのは、間抜けにも、彼女が目の前に現れて、
声をかけてきてからのことだった。

項垂れていた頭を擡げ、熱っぽく霞む瞳で彼女を認める。
何も言う気にならず、というか腹に力を籠めればいっそう追い詰められそうで、
無為に唇を開いて閉じる、それだけの反応が精一杯―――――だった、はずだが。

「――――――――…、?
 あ、ぁ…… うん、……だい、じょー、ぶ、……かな……?」

からだの奥に澱んでいたものが、すう、と引いて行くような感覚。
自身のからだの反応に戸惑いながら、ぎこちなく微笑み返そうとする。
なんにしたって、相手は可愛らしい少女だ。
相手が何かを『した』のだとは、とても思いつかない。
純粋に、行き倒れを心配してくれた彼女に対し、平気だと告げて安心させるつもりで。

「……お、嬢ちゃ、ん……この辺の子、じゃ、ないよね……?
 ひとりで、歩いてて……そっちこそ、だい、じょーぶ……?」

まだ呼吸は乱れているけれど、頭はすっきりしつつある。
そうなると俄然、真っ当な大人としての気遣いがはたらいた。

シロナ > 自分の鎮静の能力が働いているのが見えてくる。
 彼女の目から理性の光が灯り、呼吸が収まってくるのが判った。
 矢張り、彼女の様子は淫蕩に関するものだと理解が出来たのだけども。その原因までは理解が出来ない。
 しかし、今はそれを気にするほど、シロナは彼女の事を知っているわけでは無い。

「あーと、冒険者ギルドの……受付さん、だよね?」

 とは言え、冒険者ギルドに授業で顔を出す事もあるから、一寸見た事が有る。
 その程度の認識ではあるのだけども、一応知ってる彼女を放り出すほどシロナは擦れてない。
 ただ、彼女が弱っているので。

「とりあえず、之を使って?マジックポーション。
 精神的に、今消耗、してるでしょ。」

 発情していた、それを我慢していたという事であれば、彼女は精神的に披露していると思った。
 だから、一応彼女の精神的な疲労を幾分かでも癒して置こう、と。
 ぎこちない笑みを浮かべる彼女に対して、シロナもにっか、と歯を見せる子供のような笑みをみせた。

「ん、アタシは大丈夫だよ。これでも強いから、ね?」

 自分を見上げる彼女に、鉄のハルバートを持って、持ち上げる。
 幼い容姿であろうとも、ハルバートを軽々しく振る様子を見せれば、安心できるのだろう。
 一応それなりに実力があるから、と言う事を示す。
 ウインク一つ送って見せて、ゆっくり彼女の顔の近くまで顔を寄せる。
 彼女の様子を確認する様に。
 もう少しすれば、完全にムラムラは消えてくれるはずだよね、と。

ルプラン >  
奇妙だ、とは、思っている。
呪いの発動を遣り過ごしたことは、今まで何度かあるものの、
こんな風に何の前触れもなく、すう、と鎮まってくれたことは、
一度も無かったと記憶しているので――――しかし。
その現象と目の前の少女とを結びつけるには、女は常識に囚われ過ぎていた。

「受付、……は、えっと、うーん……まぁ、
 ギルドにお世話になってる、のは、うん、そうかな。
 ―――――― ぇ、ぁ、………あ、あり、がと?」

ギルドにはちょくちょく顔を出しているから、偶然行き会ったことがあっただろうか。
身も心もぐったりしているせいか、女のほうは、すぐには思い当たらない。
ほぼ見ず知らずと言って良い相手から、しかも年下の少女から、
ポーションを恵まれてしまっても良いものかどうか。
けれどとにかく、回復するのが先だと割り切って、素直に受け取り、使わせてもらうことに。

「――――――――― ぅ、わ。
 なるほど、……強そうだね、お嬢ちゃん」

今気が付いた、彼女の得物。
なるほど、これを軽々振り回せるのなら、ひとり歩きも余裕だろう。
感心すると同時、もしかして、この子はひとではないのかも、とも思う。
だとしたら、この外見でも、年上である可能性もあるわけで―――――ほんの少し、
言葉を丁寧にするべきか、などと考えたりしたけれど、結局。

「うん、………このポーション、すごく良いやつだね、効きが良いよ。
 ありがと、えっと……名前、聞いても良い?
 あたしはルプランっていうんだけど……」

顔が近い。
せっかく鎮まってきたのだけれど、別な意味でドキドキしそうだ。
ほんのり頬を赤らめたまま、意識してソチラ方面から気を逸らすべく。
お礼、お礼しなきゃね、なんて、やや早口にもなりつつ。

シロナ > 何か不思議そうにしている様子だ、それはそうだ、今は自分が押さえつけているから。
 彼女自身は、今も未だ、何かに苛まされているのだろう。
 シロナが去れば、また再度それが発症されるのは間違いない。
 さて、如何したものかしら、と思うのだけども、その際に上手い方法を考える事にしよう。

「今は落ち着いて、ポーションをしっかりのんで、ね。」

 自分の事を知らなさそうだ、まあ、それもそうだろう。
 シロナは基本的に学生なので、ギルドに行くにしても授業で、と言う事が多い。
 彼女が綺麗だったからシロナの方が覚えていたというのもある。
 その辺りは、血と言って良いのだろう、彼女は知らないだろうけど。

「へへ、一応、学校以外で一番通ってるのは戦士ギルドさ。」

 本当の事である、戦士としての技術を手に入れるために、学校に通うようになるまではずっと戦士ギルドで訓練していた。
 それもあって、戦闘能力、戦闘技術は、学生の仲間の中では一つ頭抜けている。
 もう一つ、人間ではないという所も又後押ししているようなものだ。

「ん、ウチの店で使ってるやつだよ。
 アタシは、シロナ・トゥルネソルって言うんだ。
 お店は、トゥルネソル商会って言うの。
 ルプランさん、ね。よろしくお願いします。」

 よろしく、と言いながらも視線を逸らす彼女の視線にすすす、と顔をずらして顔を寄せる。
 早口になる彼女に、再度、口を開く。

「……何か、呪いか何か掛かってるの?
 さっきの様子、アタシ、どういう状況か、判ってるんだけど。」

 じぃ、と腰を下ろしながら、まじまじ、と、ルプランの顔を覗き込んだ。

ルプラン >  
目の前の彼女と、現状との因果関係に思い至れないまま、
差し出されたポーションを有難く頂いて、人心地ついたところで。
さて、改めて、彼女と面識はあっただろうかと―――――

「へぇ、すごいじゃん、まだ学生なのに?
 って、……… あ、あ、トゥルネソル商会って、あの、あれだよね、
 王都だけじゃなくって、ダイラスとかにも店が…… え、えぇぇ……」

どうやら学生らしいけれど、もう立派に、ひとりで依頼を受けてこなすくらいは出来そうだ。
なんとも頼もしい、とは思ったが、彼女が名乗った途端。
思わず素っ頓狂な声が零れてしまう、丸く見開いた瞳で彼女を凝視してしまう。
うわあ、本物のお嬢様だ、やっぱり言葉づかいを改めるべきでは、などと。
考えるばかりで、一向に、言葉の改まる気配は無いが。

「―――――――――― ぅ。
 ぇ、ぁ、んっ、とぉ……… ぁ、うん、まあ…… まあ、いっか……」

お嬢様だとわかってしまえば、なおのこと、あまり打ち明けたくないのだけれど、
わかってる、と言われてしまっては―――――視線を逸らし直すのも、そろそろ限界でもあるし。
ほう、と溜め息を吐いて空を振り仰ぎ、やや乱れて額に打ちかかる髪を、
両手で雑に掻きあげてから。

「ちょっとね、失敗しちゃったんだよね。
 これでも前は、遺跡の探索とか、魔物の討伐とか、
 そーゆー仕事してたんだけど…… 今は、ね」

怒れない、闘争心を湧き立たせるのもダメだとなれば、
少なくとも、戦闘要員としては役に立たない。
―――――そこで、ふと。 ようやく、思考が追いついた。
かくん、と小首を傾がせて、彼女の顔を見つめ返し。

「シロナちゃん、……ひょっとして、今、なにか、してる?」

あたしの、からだに。
ようやく、その可能性に思い至った。

シロナ > 「へへ、学生になったのが、後から、だから。
 アタシ、戦士で行くべきなのかなーとか、色々考えて、今学校で勉強してるの。
 そそ、あれ。ドラゴン急便とか、やってる。
 一応、ダイラス、王都マグメール、バフート、ヤルダバオートもあるよ。
 ご贔屓にありがとございまーす♡」

 最初に所属は戦士ギルド、色々勉強してからにしろ、と学校に。
 なので、一人で依頼を受けて攻略する事も出来るはずだ、モノによっては。
 冒険者としての経験などもあるから、全部が全部、とは言えないけれど。
 トゥルネソル商会を知っているらしい彼女に、あは、と笑顔を。
 こう、お店をよろしくお願いしまーす、なんて、宣伝もしておこう。

「――――あー……。」

 そして、言いづらそうな彼女に視線を宙に巡らせて思う。
 家のみんなは明け透けなのが多いのだけど、基本はそうでは無かったな、と。
 それに、女性にとって、そう言う告白は、とも。
 追及はやめておいた方が……と考えた所で、彼女の方から。
 少し唸っていたのだけれども、説明が。

「成程、ね。そう言う事。
 

 ―――うん、してる。
 ルプランさんの中にあるそれを、一時的に抑えてる。
 アタシの血に淫魔の血があってね、淫魔としての特殊能力が、鎮静だったの、性的な欲求を抑える力。
 アタシがこのまま離れれば、またさっきの状態に戻るよ。」

 何かしてるのか、と言う質問には、隠すことはなく、頷いて見せた。
 嘘をつく理由もないし、嘘をつきたくもなかったから。

「治すことができるかどうかは、今は判らないし。
 それに……困ってるところ助けて得点稼ごうかなって、下心もあったから。
 タイプだったんだよね。」

 純粋な救助だけでは無くて、貴女とお近づきになりたいし。
 あわよくば口説いて……とも考えていた。
 なので、素直に感謝しなくてもいいんだよ、なんてにか、と桜色の唇を吊り上げて、快活に笑う。

ルプラン >  
「ああ、うん、そっか……そーだよね、トゥルネソル商会って、それだよね。
 ―――――…なんてゆーか、カッコイイね、シロナちゃん。
 あんな大きなお店のお嬢様なのに、自分で考えて、勉強、頑張ってるんだ」

……しかも、如才なく宣伝までするとは。
見た目はこんなに可愛らしいのに、なんてしっかりしてるんだろう、と、
根無し草の身としては感心しきり。
向ける笑顔からもいつしか緊張はとけて、尊敬の色に近いものさえ滲み始めていた。

だから、ざっくりとだけれど打ち明けることにした。
同性だというのもあるし、助けてくれた恩もある。
もちろん、あまり明け透けな言い方はしたくないが―――――、

「………そっか、やっぱり、してるんだ。
 エッチなことしなくてもね、鎮められることはあったんだよね、今までも。
 でも、今はやけに、急だったからさ…… そ、っか、うん」

それでは二重の意味で、彼女には助けられた、否、今も助けられていることになる。
こんな風にゆったり呼吸が出来るのも、彼女のおかげということだ。
何度お礼を言っても足りない、と思い始めた、そんなタイミングで。
正直で率直な彼女の口から、ぽぅん、と爆弾が投下された。

「―――――――――― え?」

ぱちぱちと瞬きを繰り返し、彼女の顔をじいっと見つめる。
こちらの気を軽くするための冗談だろうか、と一瞬考えたけれど、
ここまでの彼女とのやり取りからして、そういうところで冗談を言うタイプには思えない。

一拍遅れて、女の頬が、耳許が真っ赤に染まる。

「え、あ、えっとぉ…… あの、うん、でも、うん。
 そりゃあ、やっぱり、えっと……ありがと、って、言わせてもらうね?」

見目麗しい少女に、タイプだ、と打ち明けられて、悪い気はしない。
それに、下心と言うのなら―――――

「感謝は、するよ、当然でしょ。
 だってそれなら、ほんとに下心がっていうんならさ、
 あたしがヘロヘロになってる間に、いくらでも手出し出来たじゃない?
 ……シロナちゃんは、カッコイイし、優しいよ。 だから、ありがと」

だから、お礼のしるしに。

彼女が避けたり、制止したりしないのなら、こちらからそっと顔を寄せて、
彼女の額にちゅ、と、リップノイズを響かせよう。

シロナ > 「そんな事は、ないと思うよ?
 だって、おんぶにだっこ、だしさ。
 何もしないで、唯々体だけ大きくなるなんて、ね。
 それに、自分の親見てると……さ。」

 片方は、商会の長として様々なドラゴンを指揮する竜姫
 もう片方は、高位冒険者として世界を股に掛けるドラゴンスレイヤー。
 そんな二人の元で、ぬくぬく過ごして、も。と。
 ただ、両親のようなレベルまで行けるかどうかも……まあ、首を傾いでしまう所もある。
 なので、自分と言う物をしっかりと定義したいので、子供なりにと言う事なのだ。

 話を戻す事にしよう。

「ま、ね。
 本当に辛そうだし、お話も出来なさそうだからと。
 因みに、時間で収まるタイプなら、その時間に合わせて今日は止める事にするよ。」

 彼女の呪いは、時間で収まる物なのだろうか。
 それとも致すまでは終わらない物なのだろうか。
 時間で収まる物ならば、収まるまで一緒に居るのも良いのだろう、と。
 急と言うし色々と大変だと思う。

「―――えへ♡」

 彼女の驚いた顔を見返して、笑みを作り上げて見せる。
 そして、もう一度、ぱちり、と右目を閉じてウインクして見せた。
 真っ赤になっている顔、目を見開いて、此方を見ている彼女。
 耳まで赤くなる彼女、本当に、可愛らしくて、可愛らしくて愛おしくて。

「これでも、淫魔、だしさ。
 ヘロヘロになっている、ヒトを無理やりやるの、面白くないんだ。
 イケナイ事だと判ってて、口説いて堕ちていき、交わり合っていくのが、好きなんだ。アタシ
 アタシに狂って、堕ちてくれるのが……ね?」

 そんな変態さんだから、と言いながら頬にキスを受けて。
 目を細める。
 もう、と言いを一つ。

「酷いなあ♡お礼貰っちゃったら、手を出しにくいじゃない。」

 頬に当たる唇の感触、柔らかくて、心地よかった。
 それでも、お礼はお礼なのだから、と。

「でも、今度見たら、口説きに行くから、ね♡」

 覚悟してくださいな、なんて、此方からも。
 彼女が嫌がらないのであれば、親愛のキスを、頬に一つ。
 ちゅ、と同じようなリップノイズを。

ルプラン >  
「いやいや、それはシロナちゃん、自分に厳し過ぎ。
 親がお金持ってるのも、親譲りの能力に恵まれてるのも、
 それだけじゃ、ただ、生まれつき金髪だとか、目の色が青だとか、
 そーゆーのと変わんないんだから。
 与えられたものが大きければ大きいほど、活かすための努力もたくさん必要、
 ……だから、ね、……頑張ってるシロナちゃんは、カッコイイの。 信じなさい」

彼女の両親のことは良く知らないから、あくまでも一般論だけれども。
一応は年長者であることを、突然思い出したかのような物言いは、
少しばかり説教臭かったかも知れないが―――――どうしても、いま、言っておきたかったので。

「時間で……っていうより、あたしが、気持ち、落ち着かせられれば、ってとこかな。
 今は、だから、うん、深呼吸も出来てるし……あたしの部屋、この近くだから。
 そこまで戻れれば、もう平気、だと思う」

そう、多分、心乱すようなことが新たに起こらなければ。
―――――そういう意味では、今、彼女が投じた爆弾は、ちょっと、いや、かなり危険ではある。
けれど何故だろう、彼女に対しては、そう言って怒る気にはなれないのだ。
助けてくれた恩もある、しかしそれだけではなくて―――――

女がもし深窓のご令嬢だったら、ちょっと引きそうな発言をしれっとしてのける、
それなのに相変わらず愛くるしい、少女の顔を見つめていると。
なんだかもう、とてもこそばゆいような気持ちになって、くふっ♡と笑ってしまうのだ。

「もう……、かなわないなぁ、シロナちゃんってば。
 そんな可愛い顔して、そぉんな、えっちなこと言うし……、
 ――――――――…んん、もぉ……!」

ほっぺたにお返しのように触れる、柔らかい唇。
可愛くてカッコ良くてえっちでって、本当にこの子ってばもう―――――

よし。
決めた。
決めました。

今日の女は、ワルイ大人を見習うことにする。
するり、彼女の方へ、片手を差し伸べて、にっこり。

「そこまで言うなら、シロナちゃんにひとつ、愛の試練をあげよう。
 騎士様みたいにカッコよく、あたしの部屋まで、エスコートしてくれる?
 最後まで送り狼にならなかったら、……今度はおくちで、ちゅ、しよう」

そんな、悪辣な提案を。
受けるも、はねつけるも、彼女次第ではある。

シロナ > 「そう、なのかな?
 アタシは、それでも、それに胡坐をかくのは全く違うと思うのよ?
 一応、アタシはトゥルネソルの中でも、お姉ちゃん、だからさ。
 でも、有難う。
 アタシは、アタシの思う通りに頑張っていくよ。
 ルプランさんに胸張って言える……ね。」

 確かに、彼女の言う通りなのかもしれない、年相応に振る舞ってもいいのかもしれない。
 長女に関しては奔放すぎるし、家に居ないしあまり見ないし、居てもエッチな事ばかりだし。
 それでも、ちゃんと言う事を聞いて学んで頑張ります、とニッカ、と笑う。

「じゃあ、もう、安心、なのかな。
 と言って、もう少し念の為に抑えておこ。」

 呪いなのだか、病気なのだか、判らないのだけども、落ち着けば大丈夫と言う言葉であれば、同意できる。
 ただ、深呼吸が出来ている、とかだと思う、と言う所、ちょっと不安を感じる。
 折角手を差し伸べたのだ、関わるなら、最期まで関わっていこうと思うのだ。

 それに、今の格好は深層の令嬢と言うには似合わない。
 レザージャケットにレザーパンツ、軽装の冒険者的な、防御力重視の服装だった。
 其れもあるから、周囲のチンピラたちが襲ってこないのだ、さっきのハルバートもあるから、だ。
 安全を確保している冒険者系お嬢様は、可愛らしく笑ってくれる彼女に、合わせるように、笑って見せる。

「それに関しては、ごめんねー。
 お家の環境と言うべきか。
 お家のみんながそうだというか、アタシも淫魔だから、と言うか。」

 近くにある顔、真っ赤にしている顔。
 自分を見る目がを、青灰色の綺麗な瞳が、深紅の瞳を見据えた。

「ぇ。」

 試練を与えます。
 目を丸くして、彼女の言葉を聞いていたから、脳みそに入り、理解に届くまで数秒。
 差し出された手に対して。紅い瞳をじっと、見つめる。

「はい、お姫様。
 シロナ・トゥルネソルは全霊を持って、ルプランお姫様を騎士のように、お守り、お送りいたしますわ。」

 では、と手を差し出して。
 彼女の手を優しく握って、立たせましょう。
 ご案内、お願いします、お守りいたしますから、と。
 ただ、頬が少し赤くなるのは、綺麗な人を守るという遣り甲斐に、燃えるから。

ルプラン >  
「ん、ふ。
 シロナちゃん、きっとそう言うと思ってた」

そっかそうだよねアタシ頑張ってるよね、なんてあっさり力を抜くタイプの子なら、
こんなこと、わざわざ言おうと思わない。
頑張り屋さんだと思うからこその、ちょっと力抜いてこ、のお誘いである。

しかし、それはそれとして。
今現在は彼女に『力』を使ってもらっているからこそ、
まともな会話が出来ている、というのは、厳然たる事実。
彼女が見た目よりずっと大人びて、頼りがいのある『お姉さん』であるとしても、
本当はこんな風に、甘えて、頼ってはいけないのかも知れない。
けれど、―――――差し伸べた手を取ってくれる、ちいさな掌の頼もしさ。
誓いの言葉も心地良く、女の鼓膜を擽る、から。

「ありがとう、あたしのナイト、シロナ様。
 頼りにしてます♡」

彼女の力のおかげか、ポーションのおかげか、身軽に立ち上がると、
片手を預けたそのままに、軽く膝を折り、淑女の礼の真似事をした。
彼女の頬っぺたの赤みには、気づいたけれども指摘はしない。
代わりに彼女の学校でのこと、きっと大切にしているだろう家族のこと、
他愛ない話題を持ちかけて、ひととき、エスコート付きのひとときを楽しむことに。

借り受けている部屋まで無事に帰り着けば、約束通り、
騎士様への『報酬』を捧げるつもりだ。
今日のところは、ひとまず、そこまで。
その先に進むのは、また次の機会のお楽しみ、としておきたい―――――。

シロナ > 「もう。
 そんな所に試練を組み込まないでほしいな。」

 少しの間の会話だけなのに、自分の事をシロナの事を沢山知ってくれたようだ。
 だからこその彼女の言葉、流石ルプランさんは、ギルドの受付をしてくれている実力者だ。
 潰れない程度に頑張ります、と、にこやかに返答して見せる。

「大丈夫、ドラゴンの名に懸けて、手を取ったお姫様は、全力でお守りしますわ。」

 淫魔でドラゴンで、なんか色々と属性てんこ盛りなのだけど。
 使えるものは使う。
 今は。暴力装置として、彼女を守る盾として。
 ドラゴンの力を使って、護る事を誓う。

 そこまで離れていないからこそ、護衛任務はちゃんと行う事が出来るはずだ。
 優しいルプランお姉さんの話を聞きながら。
 シロナは彼女の家まで送り届ける。

 二人の後姿は、この場所から遠ざかっていくのだった―――

ご案内:「王都マグメール 貧民地区」からルプランさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 貧民地区」からシロナさんが去りました。