2023/05/25 のログ
ご案内:「王都マグメール 貧民地区」にエヴィータさんが現れました。
エヴィータ >  
その日、目立つ軍装のまま街へ出たのは、実家の父から呼びつけられたためだった。
ほとんど勘当同然の身であるとはいえ、家長たる父に呼び出されれば、
従わないわけにもいかず―――もちろん、それなりの格好で臨まざるを得ず。
どんな格好をしていようと、言葉づかいを間違えなかろうと、結局のところ、
不出来な末息子に対する父の目は冷ややかで、口を開けば小言ばかり。
少しは役に立てているのか、グラント家の名を穢すことばかりしているのだろう、
そんなお決まりの台詞を浴びせられ、握り拳をその顔へ振るう寸前で、かろうじて思い留まった後。
辞去の挨拶もそこそこに飛び出した邸宅から、暗い方、静かな方、人通りの少ない方、を無意識に選び、
ザクザクザクザク、大股に歩き続けて――――――現在。

「―――――――――― あれ?」

ふと足を止めて、俯いていた顔を上げた。
それまで足許ばかり見つめていた眼を瞬かせながら、周囲をきょろきょろと眺め回し。
え、え、と首を捻りつつ、

「や、ば……… え、ここ、どこだ………?」

呟く己の蟀谷に、冷たい汗の粒が浮かぶ。
まさか、この年で、王都生まれ王都育ちの身で。
迷子になったなんてことが、あって良いのだろうか、と。

エヴィータ >  
――――――しかし、ごちゃごちゃ考えていても仕方ない。

考えるよりも一歩踏み出す、の習慣が染みついている身、
とにかく歩いてみれば、いつかはどこかへ辿り着く、などという、
見切り発車も甚だしい結論を導き出す。

「夜道に日は暮れない、とかいうしね。
 歩いてりゃ、そのうち知ってる所も見つかるだろう、うん」

足の向くまま気ままに、てくてく歩いていけば、いつかはきっと。
思慮深い次兄あたりが聞けば、頭を抱えてしまいそうな思考のもとに、
軍靴の足音を高らかに刻み、再びザクザクと歩き出す。
無事、迷子状態から脱せたかどうかは、神のみぞ知る、といったところで――――――。

ご案内:「王都マグメール 貧民地区」からエヴィータさんが去りました。