2022/12/06 のログ
プラセル > 「―――……そう言ってくれて、うれしい。」

彼の言葉には、和らぐ空気の儘に言葉を紡ぐ。
この店の主に買われて――引き取られて、そこそこの年月が経った今、賛辞の言葉は素直に嬉しく感じる。
店主も、従業員も、皆良い人達ばかりだ。

案内する短い道すがら、そんな風に言葉を重ねては、席へと腰を降ろす相手を確認。
そうして返される言葉に、「わかったわ。」なんて頷いたのも束の間の事。
続けられる台詞に、きょとり、仄かに瞳が開く。

「……いいの?」

迷子では無かった相手だ、この宿がどう言った類の宿かも察しているのだろう。
その宿の従業員を、同じ席で食事――となれば、大抵の店は飲食代は席の主持ちになる。
余計な出費ではなかろうか、と、要らぬ心配に頭を傾げ。

クチナシ > 「――活気があり、従業員が愛想がよく、料理が上手いと太鼓判を押す。褒めぬ理由は無いよ。
 それに、従業員のことも大事に思っているようだし、な?」

何せ、獣人というカテゴリだからこそ。そう言った少年、少女たちの迫害や、奴隷としての状況も理解している。
そんな中で、貧民地区だというのに"そういった場所"があれば、ということ。
――そうなれば、宿前の門番の理由も理解できたというもの。
入り口の方へ視線を送り、其処にいる彼らを示すようにして。

腰を落ち着かせれば、改めて袖の中から取り出すのは――呪符。
炎熱の文字を描いたそれは、掌に挟み込むだけでカイロのような役割を果たす。
外では流石に飛んでしまうので使えなかったが――ほっと一息つこうとしたところで、
自分の言葉に驚いたような素振りを見せる相手。

「ばかもの。――此処まで付き添って貰った従業員を……ここではい、さよなら。なんてする薄情者じゃあないよ。
 こう見えて中級程度の冒険者故、な。懐事情は問題はない。
 ……それに、儚くも可愛らしい女子との夜。雄としては有り難いものさ。くははっ!」

冗談か本気かいまいちわからない――どこか老成した言葉の真意ははてさて。
けれど、その目には嘘はない。此処に居て、共に時間を過ごしてほしいというのは、事実。

プラセル > 彼の言う通り、自分ら従業員は大事にして貰っている。
それこそ、真実の意味で分け隔てなく。
ここに来る前だって、ある意味平等ではあったのだろうけれど、心穏やかな時など無かった。
それを思えばこそ、この場所を好意的に受け止めてくれる相手にだって、嬉しく感じるのも当然だろう。

一度柔いだ空気はそれを保って、相手の応えに、その物言いに、ほんのりと開かれた儘の瞳が幾度か瞬いて――――緩んだ。
微か、笑みに崩した貌と、吐息に笑みの音を混じらせ逃がしては、

「あなたが、いいひとで良かった、わ。
 ……とびきり美味しいの、お願いしてくるわね。」

待ってて、そんな言葉を口にして、一度テーブル席から離れ行き、向かうのはカウンターの方。
調理を担当している従業員へと、頼まれていた食材を渡し、耳打ちを一つ。
そうしている間に、テーブル席へはウェイターの少女が水と、飲み物の注文を聞きに来る。

クチナシ > これがまた、普通の人間だったりしたら、捉え方もまた違ったかもしれないが――。
其処に居るのは一見、同種と勘違いするような獣人故に、その言葉の説得力も増すというもの。……元より、本音だが。
会話の最中も、酒場内の様子を伺う。――門番のお陰か、そう言った客は居ないようで、やはり居心地が良い。

言い終われば、楽しげに机に肘を付き、彼女の様子を伺う。
自分の誘いを受け取ってくれるか否か。
――返事に関しては、緩んだ表情と、其処から溢れた淡い笑みを混ぜ込んだ吐息と、声が。

「――何。思った事を言ったまでよ。
 ……助かる。では、暫し待っている事にするよ。」

――そう告げて、彼女の背中を見送る。
料理に関してもどうやら従業員の少女が行っているようで、きっと何か色々と準備をしてくれているのだろう。楽しみに待つ事にする。

と、此処で彼女とは別のウェイターの少女がお冷と、飲み物の注文を聞きに来たのなら。

「ああ、自分は……そうさな。今日は寒い。熱燗の一つでもあれば。
 無ければ、普通にエールかラガーを頼むよ。それと……あそこの。プラセルの好きな飲み物も一緒に持ってきてくれると有り難い。」

――注文を聞いている彼女の方を指差し、彼女の分の飲み物も指示して。
その後、掌が温まったところで。対面に在る彼女が座るだろう椅子。其処に手の中にあった呪符をそっと置いた。
――暫くして、彼女が其処に腰掛ける頃には、椅子も暖かくなり、臀部を冷やす事はないだろう、と。

プラセル > 見送る言葉を背に、一度カウンター中の厨房へと引っ込む。
羽織っていた上着は脱いで、近場のテーブルの上へ。
それから、邪魔にならないよう、髪を一纏めにしてしまう。
今日は厨房を預かっている同僚から、役目を変わって貰い―――。

己の代わりに飲み物の注文を取りに来た少女は、相手の台詞を聞けば朗らかな笑顔と声音で承ってくれただろう。
但し、熱燗に関しては取り扱いがなかったものだから、謝罪の言葉を告げてエールに代える事を伝えたはず。
然程待たせず、飲み物は運ばれ――ーそれから暫し、湯気の立つ器とパンと、葉物が添えられた大振りのソーセージが乗った皿をトレイに乗せて戻ってきた金糸の身。

「―――……お待たせ。」

紡いで、食器をそれぞれの場所へと置いていく。
柔らかな白パンに、ゴロゴロとした具材が入ったポトフ。
それから、肉感の強い大振りの粗挽きソーセージが3本。
然程量の入らぬ己の分は、彼の方へと置いた皿より量が少なくはあるけれど、お言葉に甘えて同じものを準備させてもらった。

クチナシ > 耳打ちの後、厨房へと消えた少女の姿を見送れば。もしかして、彼女が作ってくれるのだろうか。と淡い期待をするのは、男の性。と言ったところか。
何せ、彼女は自分で料理も美味しいと言っていた。――なら、良い物が出てくると信じている。

その期待は、和装から顔を出すみっつの尾にも見え隠れ。ウェイターの少女の眼下には、期待に僅かに揺れるそれらが見えたかもしれず。
――熱燗に関しては仕方がない。東の方の酒が必要故、「気にしないで良いよ。」と苦笑いを。

運ばれてきたエールには未だ口をつけず。彼女の事を待つ。
もう少しして、彼女が作り立ての料理を持って戻ってくれば、笑みと共に迎えよう。

「お疲れ様、かな。――実に美味しそうだ。」

ふかふかとした白パン。黒パンではない辺り、料理が美味しいというのは間違いないようで。
それ以外にも、体の芯まで温めそうな具だくさんのポトフ。そして、大ぶりのソーセージが3本。ごきげんな夕食だ。
彼女が着席する、その瞬間――その椅子に配置していた保温の札を此方に引き寄せ、何事もなかったかのようにすれば。

「さ、プラセルも腰掛けると良い。――飲み物も頼んでおいたから、な。」

着席を促し、エールの入ったジョッキを掲げる。
さぁ、共に食事を楽しもう。と言わんばかり。

プラセル > 迎えの言葉に、双眸が和らぐ。言外に籠める礼の気持ち。
配膳が終われば、丁度通りかかったウェイターへとトレイを預け、それから対面の席へと腰を降ろした。
瞬間、ふんわりと伝わる温もり。
驚いたよに、小さく見開かれた眼が瞬きを繰り返して、不思議そうに椅子を見て――それから相手へと視線が向く。

何か、してくれたのだろうか。
伺うような視線を沿わせるものの、掲げられたそのジョッキに、短く吐息を逃がした。

「……乾杯、?」

緩く頭を傾ぎながら、相手のジョッキへと桃の果実酒が入ったグラスを軽く当ててやる。

――――そうして、始める食事に、他愛のない話を紡ぎながら食べ進める。
口数は少ないながらも、彼の言葉に耳を傾け、時折言葉を重ねたことだろう。
その後は、宿のみとなるか、はたまた従業員の娘のいずれかを伴うのかもしれないが、今はまだ知る由もなく―――。

ご案内:「王都マグメール 貧民地区」からプラセルさんが去りました。
クチナシ > ――椅子に腰を掛けた彼女の驚きの表情。そう、それが見たかった。
視線を彷徨わせれば、その視線の先。楽しげに咲う男の姿。
それが何かをした。ということは伝わっただろうが――何をしたかは、伝わらない。
冒険者としての飯の種、というやつである。

「うむ――。 乾杯! ……いただきます、と。」

グラスとジョッキが触れ合う小さな音。次いで、ジョッキを口元に運び、ぐびっ―― 一口。
喉を通る冷ややかさ。爽快感。エールも店によっては質が悪いものがある。ここのは、白パンと同じで品質もよく、喉越しが良い。

これなら、料理に関しても期待が膨れるというもの。
――肉汁溢れるソーセージや、熱々のポトフやパン。それらをつまみながらの歓談が、始まるのだ。
口数が少なくても、彼女はコミュニケーションが下手。というわけではない。時折返ってくる言葉に、男は楽しげに笑い、ちょっかいを向け――。

その後――。互いに腹も膨れ、酔いが回り。酒場に娼婦の女性が相手を探す頃――。
もしかしたら、目の前の彼女に誘いの一つでも向けたかもしれないが。

……それはまた、別の話であり―――。

ご案内:「王都マグメール 貧民地区」からクチナシさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 貧民地区」にイグナスさんが現れました。
イグナス > 夕刻、そろそろ陽が落ちていこうという頃合い。
静かに落ちていく夕日が、もう差さないような場所。
貧民地区の奥、あまり人が知ることのない書庫――薄暗く、しかし案外広い。
建物の一部は崩れかけの古めかしい…というよりは、ボロい店だった。

「なァ。……なンでこの店は、こんな本が揃ってンだ。」

店の棚を眺めながら、大きな男がぼやいた。それこそ、小さな店の天井に背が届きそうな体躯
どこか呆れたような声音で店主に声を掛けるが、返事は返ってこない。
稀覯本…というだけではない。禁書や魔書の類が、ちらほら見掛ける。
最近の週刊誌もなぜか、陳列されてていたが。

結局店主からの返事はなかった。やれやれと肩を竦めて、本を眺めた
一部の好事家からは、どうも重宝されそうな店だ。