2022/10/01 のログ
ご案内:「王都マグメール 貧民地区」にマーシュさんが現れました。
マーシュ > 随分と、陽が落ちるのが早くなった。
貧民地区の各戸を巡り、帰路に就く道すがらは、夏に比べるとずいぶんと薄暗い。

貧民地区と言えども当然街灯はあるのだが、その整備はあまり行き渡っていないのだろう。

多少歩きなれた街路と言えども、状況が変われば変わって見えるものだなと改めて感じ入る。
立ち止まっていたところで意味はないためゆる、と歩き出す。

賑やかな目抜き通りとは違う静けさと、けれど、路地の奥の喧騒を耳にしながら静かな靴音が響く。

ご案内:「王都マグメール 貧民地区」にホガインさんが現れました。
ホガイン > 貧民地区の不揃いな街灯。消えている物もあれば破損した物もある。その疎らな光源の向こう側、修道女の歩く先より一人の中年を通り越し、壮年に近付いた男が歩いて来ていた。
手には紙袋、中には恐らく食材と思われる物が多数詰め込まれている。

その重みに少し足元をふらつかせながら、男は静かな靴音で歩む修道女に目を向けた。
――何度かヤルダバオートに足を運んだ際に、目を合わせた事はあるかもしれないくらい。
孤児院を営み、神への寄付を少額ながら怠らず、孤児を育む表向きは善良な人物としての顔の持ち主。

「――おや?貴女はヤルダバオートで拝見したような?」

重い荷物でふらついた足を但しつつ、それでもなんとか会釈をすべく腰を曲げる。
そうすると紙袋の中から、芋が一つ二つ、零れ落ちそうに顔を見せてくるだろう。
相手が此方の人物像をどう把握しているか、認識しているかは知らない事だが。
見目良い修道女に対してだけ記憶は確かなのだ。――面識までいかなくとも、記憶の片隅に引っかかっていれば重畳。

マーシュ > 「────」

己が向かう先から、まばらな街灯に浮かび、陰に沈む白いローブ姿に少し目を取られた。荷物を抱えた相手のために道端に身を寄せる。

残念ながら、ヤルダバオートでも特に目立つ修道院に属しているわけではない女は、そう表向きの場に姿を見せるわけではない。
ゆえに、女を認めたことがあるというのなら、それはかなりまれなことなのだが───相手にはそれがあったのかもしれない。

その当時から紺のお仕着せに、ウィンプルといった姿は変わっていないため、見覚えがあるといわれたら、それを否定することもない。

腰をかがめた相手の紙袋から、零れ落ちそうな食材に失礼、と一声を挟んで手で押さえてから。

「───申し訳ございません、確かに私は聖都からの出向の身ですが、兄弟のお名前を存じ上げません」

躊躇いと戸惑いを帯びながら応じ、かすかに首を垂れたのは、目上の立場である相手を慮ってのことだろう。

ホガイン > 零れ落ちそうになっていた芋は彼女の手で押さえられた。
手にしたのはやや痩せた不揃いの芋であり、貧民地区らしい安物。見た目の割に軽量なのは中身が詰まっていない事も伺わせる物だった。

「兄弟等と畏れ多い。それに面と向かって会話をしたことはないのです。
名前を知らない事を重く受け止める必要はございませんとも。
……それと、芋を抑えてくれて助かりました。ありがとうございます。」

支えられた際にそっと紙袋を抱え直し、中の芋を整え直す様に軽く揺する。
一つ一つは軽い芋でも、他に食材も入っている為に重いのだろう。
ふぅ、と目の前の男は額に汗――やや冷え込みが始まろうとする季節には珍しい物を光らせていた。
名前を知っていてはかえって不審を煽る事に繋がりかねないと判断して面識がない事とした。

「私はホガイン。ホガインディフィート。この先にある『天の羊飼い』で院長をしております。
ヤルダバオートには時折ですが支援の御礼や祈りを捧げに足を運んでおります。
特定の派閥や組織とは距離を置くようにしておりますので……。」

先に名前を名乗り、立場と素性を明かす。相手の首を垂れた辺りは人として善良な部分が見え隠れする。
相手が名乗れば何かの縁として孤児院に招く――つまりは毒牙に掛けるのも面白いかもしれない。

マーシュ > 食材、ややごつりとした感触は芋のそれ。
見た目からしてそれほどいい出来ではないが、そういったものでも貴重な食材であることには変わりはないだろう。

「───いいえ、傷んで使えなくならずによかったです」

袋が抱えなおされ、おさまりがよい様にとゆすりなおされるのを見守って。
吐息と、額の汗が、それなりな重量を感じさせるのを、かといって荷を分けて受け持つことも難しそうで、とわずかに視線を彷徨わせた。

「………ホガイン様、ですね。私はマーシュと申します。今は王城の礼拝堂に所属しております。………孤児院の院長様……、なるほど」

主教の信徒のようだが、聖職というわけではないらしいとその言葉から咀嚼し、理解した。
組織から距離を置いていることについては、何とも言い難く、あいまいな笑みを浮かべるのみにとどめたのは、組織に属している以上は是非を述べる資格はないがゆえに。

ホガイン > 「――もしも差し支えなければですが、近くの孤児院まで荷運びのお手伝い――あぁ、持っていただくのではなく、落してしまったり落としそうになったらまた手伝っていただけると大変ありがたいのですが。
……可能ならば子供達に、王城周りの様子や道徳的なお話をしてもらえたりすれば、と。勝手なお願いになってしまいますが。」

話を振ったのは相手が逃げようとはしない点と曖昧な笑みを浮かべた事による立場の違いへの敵視が無い。あるいは薄いと感じたのが大きい。
食材が無駄にならなかった事への気配り等、優しさ。悪く言えば甘さに付けこめると判断したからだった。
王城に礼拝堂に所属している以上立場は相手の方が上だ。今、この場では。
だから力任せではなく、善意に付けこみ。孤児院の中に連れ込むべく彼女の甘さを見せた点を衝いていく。
表情こそ温和な笑顔だが、その内面には黒い感情が渦巻き修道女を見据えて。
是、と言えばこの国の現状を身をもって知る事になる可能性は高くなる。
否、と答えれば少なくともこの場は無事に帰路に付けるだろう。

マーシュ > 「………その程度であれば、構いません」
重そうで、紙袋の耐久を考えると少々不安があったために、だが。

けれどそれに続く言葉には首を横に振ることになるだろう。

主な理由としては───
己が若輩であることと、王都の状況を正しく理解しているとはいいがたいということがあげられる。


どちらが上位、等という認識自体は修道女にはない。
むしろ孤児院の長という身分にありながら、腰の低い態度の相手について印象が悪いということはないのだが。

王都というよりはこの世界にあって修道女のみせるそれは、甘さというほかないのかもしれないが、かといってただ諾々と従うわけでもないのがその返答からは感じられるだろう。

ホガイン > 「ありがとうございます、マーシュ様。
それでは、こちらになります。……しかしヤルダバオートとこちらでは勝手が違って大変ではないですか?」

誘いに乗った相手に感謝の笑みと、つい行う会釈によって折角整えた紙袋の中身の重心がずれる一幕を見せながら、向かう先は孤児院。
モノクルの魔力はまだ解放しておらず、楽しみは後に取っておこうと言うのだろう。
途中足元がおぼつかなくなったり、時折紙袋の中身が落ちそうになるといった事も交え。

甘さがあるが一本芯の通った相手にも見える。
やがて見えてくる孤児院。門に入るか否かは相手次第。

マーシュ > 「───、そうですね、少し。街並みの違いなど、大変興味深く思います」

聖都の街の成り立ちは、やはり宗教が基礎で。
そこから商業も広がっているように感じる。
目立つ歓楽街はあまりないし───そもそも行き交う人の種類も違う。

そんなことを応じながら、時折お辞儀でこぼれそうになる食材を受け止めたり、抑えたり、を繰り返しながら。
それでも穏やかな道のりだったことは確かだ。

孤児院の前まで来ると修道女は誘いを断ると、その門をくぐることはなく。

「どうぞ皆様によろしくお伝えください」

丁寧に頭を下げると、本来の帰路を辿るようにその場から立ち去ってゆくのだった──。

ご案内:「王都マグメール 貧民地区」からマーシュさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 貧民地区」からホガインさんが去りました。