2022/09/03 のログ
マーシュ > 「────っ、あ、はい。ああ、ええ───と」

扉の開く音にびくりと背筋を慄かせ背後を振り返る。
王都において知り合いは多くはないが、やはり知らぬ顔だ。

愛想の良い笑みに応じるのはややぎこちない修道女の表情だった。
その出で立ちは間違えようもないほどに修道女のそれで、ややあってから腕の中に隠れるようにして埋もれていた小さな存在をゆっくりと示した。

「………こちらの子でしょうか?」

逃げ出して、怪我などしないようにしっかり抱えたまま。
それが彼が探している存在であるかどうかを伺うように、毛並みが見える様に腕を傾けて姿をさらし。

ジュリアーノ > 「あ、驚かせてごめんなさい。教会ってノックして入るべきだったのかな。
 俺、そういうのは詳しくないんだ。」

クスクスと喉を震わせながら取り出された子猫と手配書を交互に見て。

「うん……多分、この子だと思う」

そっと手を伸ばし、警戒する小さな頭を指先で撫でながら。

「平民街のギルドで迷い猫の依頼があったんです。
 探してる内に貧民街の方に逃げてるって聞いて、とって食われたんじゃないかなって不安だったんだ。
 よかったな。オマエ。優しいシスターに保護されて」

マーシュ > 「───いえ、どなたにも開かれている場所ですので特にそういったことは。……ここはあまり人もいらっしゃらないようですし」

己もたまたま立ち寄っただけという事実を告げたのち、彼が手にしている紙面と子猫を見比べる間を姿勢を同じくしたまま待っていた。

やがて確認の言葉が告げられると、少しほっとした表情を浮かべたのは、この小さな命の行く先があることへの安堵だった。

「そうですね、怪我もしていないようですから、運がよかったのではないかと思います。とはいえ、このように小さいと数日もったかは怪しいですが」

どんな生き物も、赤子のうちは弱いものだ。
己を優しい、と評されると少々困惑はするものの、むきになって否定することでもない。

「少々お待ちください……」

一度その場を離れると、己が手にしていたかごの中から布を取り出し。子猫を保定するようにくるんでやった。
よほどのやんちゃでなければそこから飛び出るということもないだろう。
抱えやすくしたその子を、であれば正当に依頼を受けている彼に差し出して。

「帰るべきところに戻して差し上げてください」

ジュリアーノ > 「貧民街の人は忙しいからね。お祈りしたくてもする時間がないのさ。
 猫は来たけれどね」

狭い額から小さな顎を撫でていくと次第次第慣れてきたのか喉を慣らす子猫に口角があがっていく。

「いいよ。」

その指をゆっくりと離して見守る。あやすのか、それとも別れを忍ぶのか。
手配書を四つ折りに畳んで肩がけの鞄に放り込み呑気に見守った。
やがて赤ん坊のように包まれた子猫に喉を震わせて。

「あはは。赤ちゃんみたい。
 でもいいの?シスターも随分この子気に入っていたと思うのに渡しちゃって。
 依頼主に新しい飼い主が見つかったって話してもイイよ?」

マーシュ > 「忙しくとも、手は入れてくださっているようですので……」

毎日、至聖所に通うだけが信仰の在り方ではないでしょう、と先ほどまで祈りを捧げていた祭壇へと視線を流し。

猫が逃げないよう、運びやすいように保定した姿を見せると
喉を鳴らして笑うのに、おかしいでしょうか、と訝しそうに首を傾けた。

「……いいえ、いるべき場所があるのであれば、私のようなもののもとにいる必要はないのです。それに、私の元では世話はできませんので」

気に入っていた、というよりは、その行く末を案じていただけ。
案じずとも好い場所があるのならば、それで十分です、と静かに言葉を重ねた。

ジュリアーノ > 「そうだね。俺もこれを機会に一ヶ月に一回くらいは掃除に来ようかな」

日は落ち鬱蒼とする闇を燭台が明々と照らしだす空間に視線を彷徨わせ。

「そう。それならいいや。飼い主も驚くと思うよ。
 こんな風に大切に布で包んでくれたなんて」

包まれて微睡む子猫の小さな手を握ってシスターに向かって振り。

「それじゃお邪魔しました」

自分も深々と頭を下げてから礼拝堂を後にしていった。

ご案内:「王都マグメール 貧民地区『礼拝堂』」からジュリアーノさんが去りました。
マーシュ > 「……無理のない範囲でしていただけると嬉しく思います」
己は別にここの管理者ではないが、そういった行為は無理強いするものでもない。
だからそう思ってくれる気持ちに感謝を、と告げる声音。

子猫の手を握って軽く振り、別れの挨拶を告げてくれるのに目を細め。

「ええ、では。───どうかお気をつけて」

別れの言葉を手向けられると、静かに首を垂れ。
彼が扉をくぐり、おそらくは依頼主の元に向かうのを暫し見送っていた。

マーシュ > 見送りを終えると踵を返す。
己が灯した蝋燭の明かりをスナッファーで消すと、陰った陽の分、仄暗さが礼拝堂内を包み込んだ。

「─────」

もう一度無言のまま、火の落ちた礼拝堂内を見渡してから、今度こそ籠を手にして修道女はその場を後にするのだった。

ご案内:「王都マグメール 貧民地区『礼拝堂』」からマーシュさんが去りました。