2022/03/18 のログ
ご案内:「王都マグメール 貧民地区」にバティスタさんが現れました。
■バティスタ >
厳かな装飾の為された、そして双頭の竜の紋章が目立つ幌の馬車が連なり、貧民地区へと到着する
ある者は驚きの声を
ある者は安堵の声を
そしてまたある者は、心服するように頭を垂れる
広場へと馬を止め、先頭の馬車から降り立った少女はゆっくりと辺りへと慈愛の視線を巡らせる
「──日々の糧とは参りませんが、僅かばかりの食糧をお持ちしました。争わず、皆で分かち合ってください」
広場にもよく通る、鈴の音のような声
その声を合図に、他の馬車からも騎士らしき装備の者が降り立ち、幌から積荷を下ろすと中身の食糧を次々に運び出してゆく
家の在る者にはその家に、ない者には直接手渡して
決して奪い合いの争いの起こらぬよう、監視なども行いながら──
「それから、怪我、病気の方は私の下へ…動けない者がいたならば、教えてください。その者の下へと向かい治癒の奇跡を施しましょう」
■バティスタ >
町の形を為しているとはいえ、富裕層と比べれば衛生状態など比べるべくもなく
怪我はなかなか治らず、病に倒れれば日銭を稼ぐのも難しい
最初に少女の下を訪れたのは、傭兵をやっているという男だった
傭兵といっても名は売れず、勝ち戦にも恵まれない、綱渡りの生活
そんな中で負った怪我は男にとっては人生を終える楔に等しかったのだろう
うだつもあがらぬとはいえ戦場で生きる男、奇跡など本来信じもしない男だったが──
「──ヤルダバオートの神名の下に」
少女が翳す左手の甲に、淡い蒼光と共に浮かび上がる刻印
それは"聖痕"と少女が称するもの
翳された手から薄く光が男の身体を包み、やがて幹部である右足へと光が集まって───男は歓喜の声をあげる
「…痛みは和らぎましたね…? でも、すぐに完治は致しません。
十分…とは難しいかもしれませんが、栄養をとって…しばしの休みを己の身体に与えることです」
男の声に周囲はにわかに活気づき、少女の下へと訪れる貧民地区の住人はしばし、後を絶たなかった
■バティスタ >
主神ヤルダバオートの祝福であるとか、加護であるとか
ノーシス主教の教えによる恵みであるとか、支援・施しの行いであるとか
実に耳触りのよい、聞こえのよい言葉
日々の生活にすら疲弊する貧民地区の住人達にはあまりにも甘く、美味なるもの
「──これで大丈夫ですね。
我らが神、ヤルダバオートへの感謝と祈りをお忘れなきよう……」
聖母のような笑みで最後の住人、小さな子どもの病を癒した頃には日は傾き、今回の慈善遠征も終わりに近づいていた
………
……
…
「…どう?十分に捌けたかしら」
住人も閑散となった広場、荷馬車に腰を下ろす少女は側に控える騎士へと問いかける
「そう。上々ね…。
次に来る時は、もう少し備蓄を減らしても良さそうだわ。
人は与えすぎると、信仰を失ってしまうものだから」
■バティスタ >
「飢え過ぎず、決して足りないというくらいで丁度いいわ」
飢餓は救いを求め、
施しは依存を生む、
多くの信仰は死への恐怖から生まれる
貧しく、夢すらなくとも死は恐れるのは人であるならば
これほど信仰の集めやすい町もないという道理だ
「小休止を挟んだら王城に向かいましょう。
…積荷の監視と確認だけは、怠らないように」
少しだけ語気を強め、騎士へと言伝る
側に控えていた騎士達も立ち上がり、他の荷馬車のほうへと向かって歩いてゆく
「ふぅ…」
「──汚ったない町」
一人になった少女は、吐き捨てるようにそう零していた
■バティスタ >
ゆったり腕と足を組み、貧民街を撫でる乾いた風に身を晒す
先程までの聖母のような表情とは打って変わって、射抜くような鋭い視線を作業中の騎士達へと投げかけて
──少しでも作業が遅れるようならば厳しい叱咤が飛ぶのだろう
とっとと王城に挨拶を済ませて富裕地区の宿に部屋と取りたいものだが、
馬車数台に渡る積荷の量は、貧民街への施しの食糧を降ろした後でもまだまだ、多い
漸く確認が終わる頃には日は沈む間際で
「ほら、とっとと馬車を出しなさい、
いつまで私を寒空の下に置いておくつもりなの」
それぞれが乗り込み、ゆっくりと馬車は動き出す
目的地はマグメール王城
儀礼的な祝福と、"神の塩粒"と呼ばれる麻薬を届けるため──
ご案内:「王都マグメール 貧民地区」からバティスタさんが去りました。