2021/09/20 のログ
ご案内:「王都マグメール 貧民地区」にステラさんが現れました。
ステラ > 薄暗い路地裏に規則正しいブーツの音が響く。
僅かな月明かりの中現れたのは場違いな程に整った服装の少女が一人。
片手に取り戻したばかりの小物入れを弄びながら周囲を見回しながら行ったり来たり。

「……たしか、こっちだったはず……だけど。
早く小物入れを返してあげたいのに……どうして似た道ばかりなのよ!」

平民地区で少女がスリを見つけたのは数刻前の事だ。
正義感から下手人が逃げ込んだ路地裏へ飛び込み、逃走劇の末に盗まれた物を取り返したのはつい先ほどの事。
盗人を追うことに必死で道順を覚えていなかった自身の浅はかさに苛立ち髪をかき上げる。

「誰か商店までの道のりを教えてくれれば……はぁ」

住人に案内でも頼めればいいが、先ほどの捕り物から警戒されたのか人の気配もない。
少女は朧げな記憶を頼りに辻を1つ曲がり……

ご案内:「王都マグメール 貧民地区」にコルボさんが現れました。
コルボ > 「うわっ痛!」

 辻を曲がったところで出合い頭にぶつかった男がたたらを踏む。

「あー、びっくりした。……んだ? おい姉ちゃん大丈夫か? つか迷子かよ」

 頭を掻きながら言葉を投げかけてきたのはバンダナを巻いた平民というには少し薄汚れたいでたちの男。
 なんというかごろつきくさいというか、ナイフを半身に構えずちらつかせそうというか、
 騎士に【ごろつきといえばどんなイメージ?】と意見を募ったら七割くらいこんな感じに収まりそうな風体の男。

……逆を張れば、あまりにもイメージに合致し過ぎて不自然ともいえるのだが。

「んな身なりでここいらの路地裏に入るもんじゃねえぞ。
 それだけでここいらの奴等隙あらばくいもんにするからな」

 めちゃくちゃ食い物にしそうな奴が心配そうな面で忠告してくる。

ステラ > 「ひゃっ!」

出会い頭の不意の接触を受けて衝撃を逃せるはずもなく数歩よろめいてしまう。

「ええ、大丈夫です。 こちらこそすみません
 なっ!迷子ではありませんっ!子供扱いはやめていただきたい!」

相手の声を聞けばこちらもすぐさま謝り、相手の無事を確かめるため視線を上げる。
そこにはいかにもといったごろつき風の男。
そんな男に迷子などと言われれば怒りの沸点はすぐに上昇して。
つり目をさらにつり上げて、半目になって睨みつけながら抗議の言葉を口に出す。

「どこにいようと私の勝手で。ですがご忠告ありがとうございます
生憎、私は有象無象程度に後れを取るほどやわではありませんので」

ツンとすました顔でそう言葉を返す。
相手はどう見てもごろつき、直情的な少女はそれだけで相手の力量に当たりを付けて対応する。
もちろんそれが見当違いなことは間違いないが……。

「そうでした、ですが少しお店を探しているのです
案内してくれるならば多少のお礼もしますよ」

そう言い、スリに出会った平民区の商店の名前を上げて、ポケットに入っている貨幣を軽く叩き音を鳴らす。

コルボ > 「子供でなくてもこんなボロ屋まみれの掃きだめなんざ、初見で迷わない方がおかしいんだよ。」

 抗議に噛みつくことなく頭を掻きながら、しかし目線は貴女の瞳を捉えて。

「有象無象ねえ。……まあいいや。礼は要らねえよ。たかが道教えんのに恵んでもらうほど素寒貧でもねえしな。」

 ついてきな、と指で促しつつ歩きだす。
 ここまで舐められるのも久しぶりだし、みんなこうだと仕事しやすいんだけどなぁと思いつつ、
 色々忠告したいけどぐっと我慢。指摘するとどこに走っていくかわからなくて段々不安になってきた。

「つーか、なんだってこっちに来たんだ? 縛につけないといけないような
 大物とか最近いねえぞ」

 ……世間知らずの貴族ではなく、実戦経験の浅い騎士ぐらいだろうと踏んで
 話題を振りつつ。

ステラ > 「迷っているわけではないですが……
ええ、そうですねボロ屋まみれの掃きだめというのはその通りだと思います」

視線がぶつかれば負けず嫌いの血が騒ぐのか、逸らさずに相手の瞳に視線を集中させる。
指で促されればそちらにへと視線が動く。
それこそ簡単な視線誘導に引っかかってしまいそうな視野の狭さ、経験が足りない新兵の動きだ。

「あら、意外です。 失礼ですけど裕福そうではなかったので
ではご厚意に甘えてお願いします。 貴方の優しさに感謝を」

その態度に意外とばかりに目を丸くして、ポロリと余計な一言までも呟きながら。
歩き出す男を小走りで追いかけて少し後ろに並ぼうとして。

「私も大捕り物は願ったり叶ったりなのですが、今回は違います
スリに遭われた方がいたので、盗人を追ってきたのです
後はこの小物入れを持ち主に返してあげるだけですね」

話題を振られるとどこか自慢げに小物入れを懐から取り出し手の平に乗せる。
なんてことはない安物の雑貨入れ、中身も大したことは無さそうだが少女にとっては危険を冒すには十分だと思っているようで。
どこか誇らしげに事細かに追いかけっこから捕り物にまで話始めて。

コルボ > 「社交辞令を、……ごろつきに使うのも変か」

 歯に布着せないならまだしも自覚ナシは、いつか火傷しそうな危うさを感じていたが、
 それでも余計なことを言わずにいたのは、あるはずのない一抹の期待。

「裕福かどうかと金を受け取るかどうかは別モンだよ。
 それにお前さんが変なのに目をつけられて要らん騒動が起きてもな。
 ……こんな掃きだめでも、みんな出来るだけ静かなのが好きなのさ。」

 余計な一言に肩を竦めて受け流していたが、大方興味本位の迷い人だろうと思っていた少女……、
 ぽろりと、大捕り物に関わるもの、騎士か役人だと身分にまつわる情報を口にしながら、
 出てきたのは今や王都では珍しい正義感で。

「……ぷっ。はは、はははっ!」

 貴女が誇らしげに語るのを聞いていて、やがて堪えきれずに噴き出し、笑い始める。

「ヒ、ヒヒ! ヒィー……、ハハ、ハァ……。なあお前さん、それ、本気で言ってるのか?」

 ひとしきり小馬鹿にしたように笑っていたしがないごろつきの瞳が、一瞬鋭く貴女を射貫いて。

「そんなちっぽけな小物入れのために、女のお前が、なんの危険を顧みず、
 こんな掃きだめに一人で諦めずに、追いかけて来たってのか。
 自分を清く飾るにしたって、出来た話じゃねえか?」

ステラ > 「……? そういうものなのですか?
確かにここは異様に静かですね」

無自覚な失言に気づかない少女は相手のぼやくような言葉に不思議そうに眉を上げる。
静かなのが好きだと言われれば、確かに自分を避けるように影にへと消えていく薦被りたちを思い出し。
男の言う通りなのかと心の中で頷く。

「なッ~~~~!!!
笑うことはないではないですか!」

小馬鹿にしたように笑われれば顔を赤くして怒りをあらわにする。

「確かにちっぽけな小物入れかもしれませんが、盗まれた物の価値で悪事を見逃すなんて許されるはずがないでしょう!
私は力ある者として、ネーデル家に恥じない行動を取っているだけです
それに、何度も言いますがこのステラ・ネーデルがたかがゴロツキ程度に遅れなんて取るはずはあり得ません!
私の誇りを笑った事、謝罪してください」

頭に血が上り、もはや詩歌に残る程度の絶えた義侠の文句を口走る。
そして同時に自ら名前や家名をも零してしまい。
それも相手への油断が生んだ失態なのだろう。
少女は男に向き直り睨みつけて謝罪を要求などして。

コルボ > 「お前さんの言うことが本心なら、謝罪はいくらでもするさ。
 でもな、ネーデル家のお嬢さん。この王都の裕福な金持ちにそんな奴はほとんどいない。いやしないんだ。

 そんな奴等がまっとうな頭数いるなら、こんな掃きだめはここまで大きくなりゃしねえんだよ。」

 この国を、王都を本当に高貴なる義務とやらで支える者が多くいるのなら、
 貧する者がここまで身を寄せ合い膨れ上がることはない。
 それを、目の前の少女に言ってもしょうがない。
 しょうがないのだが……。

「なんで笑ったかって、誰でも最初は笑うからさ。
 ここで騎士が一人、そんな”建前”を言うのは大体寸劇、小芝居の類だ。
 お前さんが囮で誰かを捕まえに影に兵士や騎士が潜んでる、とかな。

 ……だから、この国では笑われるような、そんなことを大真面目に言える奴が、
 まだ残ってたなんて思わなかったのさ。
 悪かったな。」

 礼儀はなっていないが”縄張りの道理”を説いた上で貴女へ謝罪してから、

「でも俺がまっとうなごろつきだったら、お前さんの名前聞いた時点で仲間でかこってお前さんを捉えて家に身代金要求するぞ?」

 あと名乗る時は騎士ならちゃんと作法に基けよ、と言いつつ歩きだして

ステラ > 「ええ、疑いようもなく本心です
それなら……いえ、すみません」

先ほどの言葉が紛うことなき本心だと主張し、当然とばかりに謝罪を要求しようとして―――
最後の言葉に口を噤む。
この国の不平等や腐敗は箱入りで合った少女にも理解できるもので。

「私こそ申し訳ありません。 ……貴方の不満はもっともです」

認めたくはないが説かれた道理はこの暗雲の世では反論できない程に正しくて。
やるせない思いに地面にへと視線を下げる。

「ふふ、確かにそうですね。 もしそんなことをしていれば今頃は仲間ごと気絶していたでしょうけどね
……え? あ……ッ!……気を付けます」

ごろつきとして至極まっとうな行動を説かれれば、くすりと笑いその後の結末を予想して言う。
先ほどまでの刺々しさは一連の会話で緩み始めていても、やはりまだ相手の実力は過少に評価しているようで……。

最後に、名乗りの事を言われれば足を止めて自身の発言を振り返る。
迂闊な名乗りをしたことに羞恥から頬を赤くし、先へ進む男の後を小走りに追いかけて。

コルボ > 「まー、振舞い見てれば、疑いようがねえわな。
 ……お前さんの見下し方は分かってる奴のそれとは違うしな。

 つーか、お前さんが謝ることじゃねえよ。
 でも、そういうポリシー掲げてる限りは、ここにいる奴等からはそれだけで絡まれるぜ。
 ……単純に頭お花畑ってより、憂いて自分じゃどうしようもできないの、
 分かってるっぽいしな。

 それに、さっきから勝てる勝てるって言うが、ごろつきに勝つ必要があるのか?」

 勝ち負けにこだわる貴女の心理に潜む焦りなどを見透かすように提示して。

「まー、気をつけな。……俺ぁコルボだ。名乗られた以上には名乗るが、
 しがないごろつき、一応冒険者か。まあそんなとこだ。」

 そう言って平民地区への境に近づいてくると、顎で指して。

「店はここから出て左に歩いてきゃ、右手側にあるよ。
 と、そうだ。帰るならこれ、渡しといてくれないか?」

 そう言うと、とある騎士団の団長宛に名が記された封書を取り出して。

 ……封書の右隅には数字と文字の羅列、一見すれば落書きのようなものが記されていて。
 ……もし本当に団長に届けるなら、誘拐され貧民地区に捕らえられた貴族の子息の行方を突き止めた功績が”貴女に”贈られるだろう。

ステラ > 「む、そういうものですか……善処します
なッ! ま、負けるよりはいい事だと思いますけど!」

ごろつきと思っている相手からの忠告に対して、不満そうな顔をしながらも頷いて受け入れる。
自身の心理を的確に言い当てられた気がして焦りとも苛立ちとも取れる表情を見せながら反論をして。

「冒険者のコルボさんですか、覚えました。あっ……!
ありがとうございました 借りができてしまいましたね……いつか返せていただきますので
騎士団にですか? 分かりました」

久方ぶりの明るい通りに目を細める。
そして貴方にへと向き直り頭を下げお礼述べる。
手紙を渡されるなら不可思議に思いながらも手紙を受け取り懐にへと大切に収めて。

そのまま大通りにへと向かって歩いていくだろう。

後日、功績の褒章を片手ににやけ面のバンダナを巻いた男を探す少女の姿が貧民街にて目撃されるだろうがそれはまた別の話。

コルボ > 「礼とかいーよ。それ届けてもらえるだけでも手間省けるしな。じゃーなー。」

 歩いていく背中に言葉を投げかけると、貧民地区へと踵を返して。

「……若いうちは、まだいるんだよなああいうの。
 いつまで持つかね。……ずっと持つなら、奉り上げるのも手か。」

 初々しさ、まだ希望を持つ目がいつまでもつのか。

「……澱んだら、食っちまうのもいいなあ」

 堕ちかけの騎士を食うのも悪くないな、と、ほくそ笑んで曲がり角へ消えていく

ご案内:「王都マグメール 貧民地区」からステラさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 貧民地区」からコルボさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 貧民地区」にアルスさんが現れました。
アルス > 「ん、ん゛、ん」

夕方になり陽が傾く中、貧民地区の市場から少し離れた路地で軽く咳き込む少年。
露店で買った果物を食べていたところ、喉につまらせて咽込んだせいだ。
とんとん、と胸を叩く仕草。
どうにか落ち着いて、ほっと甘ったるい息を吐き出す。

「あー……ちくしょ。何も味わえなかった…」

折角お金を払って買ったものなのに、ともう一つ嘆息する。
そういえば。辺りを見渡すと、人通りも疎らになっており…一緒に来ていた筈の団員の姿も見当たらない。
もう宿に戻ったか、あるいは娼館にでも繰り出したか…

まぁ複数人よりは一人の方が楽なので、やれやれと呆れながらも気持ちは幾らか軽くなった。

ご案内:「王都マグメール 貧民地区」にリンさんが現れました。
リン > 「やあそこの君~、大丈夫かい?」

全身をゆったりとしたローブで包んだ人影が近づいてくる。
背中には幼児のような小さな体躯にはあまり合っていない青い大きな楽器のケース。
性別が今ひとつ判然としない。

「具合でも悪くした?」

咳き込んでいた背中がそう見えたのだろう。
案じるように近づいてくる。

アルス > 「……ん?」

まだ少しつかえているのか胸を擦っていると、近づいてくる小さな人影に目が向いた。
ローブで全身を覆い、背には大きな楽器のケースが見える。
楽団員か、それとも流れの音楽家のようなものか。

「別に。ちょっと食ったもんを喉に詰まらせただけだ」

心配いらねぇよ、と片手を振る。
道端で咳き込む男を心配して近寄ってくるとは奇特な奴だ…なんて思ってもいた。

「…気になって声かけたのか?変な奴だな」

言葉にも出して、そのローブの何者かを見下ろす。

リン > 「なんだぁ。大したことないのか。
 具合悪かったんなら、うまいこと恩を着せられないかな~って思ってたんだけど。
 こうして近づいてみると、結構いい男だし」

半笑いであまり性格のよくないことを言う。
小さい青髪の人物は頭二つ分ぐらいは小さい。
8才児程度の背丈に相当するが、その割に言葉遣いは利発だ。

「ていうか、きみどっかで見たことある!
 ひょっとしてときどきマグメールで公演やってる軽業師の人じゃない?
 こんなところで何やってるの~? ファンなんだよね、サインくれない?」

調子のいいことを言い出した。

アルス > 「はぁ?」

ローブの下には青い髪がちらりと見えた。
自分よりもそれなりに小さい人物の言葉遣いと内容に、此方も失笑めいて声が漏れる。

「よしんば恩を着せられたとしても、お前みたいなちんちくりんとどうこうすることはねぇよ。
せめて俺と同じくらいか、それ以上の背になってから出直してきな」

此方も子どもの癖して粗雑な口ぶりであしらいながらも、ファンと聞けば目を瞬かせる。

「暇だったし、この辺ぶらぶらしてただけだ。
サインは……まぁいいけどよ。ただ、紙とか持ち合わせは今なくて…」

ぶつぶつ言いながら懐を漁る。財布やら何やらしか出てこない。

リン > 「え~っ、そんなぁ~~~」

大げさに泣き真似をした。
こんなふうに適当にあしらわれることは慣れっこなのだろう。

「あ、ほんとにサインしてくれるの? 言ってみるもんだな~。
 じゃあこのローブのどこかにでもいいよ!」

若干困った様子の相手に、こちらは手でぴろぴろと裾を持ち上げる。
しかしローブにしたって、暗い色なのであんまりサインするには向いていない。

アルス > 「……ったく、面倒くせぇな…」

泣き真似だということは傍で見ていれば分かる。
唇を尖らせ、頬を掻いた。こんなところを他団員に見られでもしたらことだ。

「ローブかよ……でもその色じゃ、書いたってあまり見えないだろ。
…ま、それでもいいってんなら」

どうにかペンだけは見つかったので、それを片手に少し膝を折る。
相手のローブを摘み、適当な場所にペンを走らせていくつもりで。

リン > 「わ~~い」

ぱあっと笑顔。
途中までは大人しく、ペンを走らせていくのを見守っていたが……
最初からそのつもりだったのか、魔が差したのか。

「……えいっ」

サインするために膝を折って不安定な姿勢になった相手の肩を掴み、体重をかけて押し倒そうとする。
体格差的にかなり無理があるのだが、もし油断でもしていれば一瞬組み伏せられてしまうかもしれない。

アルス > さらさらとペンを走らせている間は、当然意識も其方に集中する。
おまけに膝を折った不安定な体勢のため、だいぶ無防備だった。

「え? ……お、わぁ!?」

肩を掴まれたことに疑問を抱く間もなく、そのまま押し倒される。
組み伏せられ、困惑を露わに相手を見上げた。

「な、……なんだってんだよお前…」

リン > 「へへへ……
 なんか、できるなって思ったから、やった」

後先考えない、本物の子供じみた動機。
にや~と笑みを浮かべる。髪同様に青い瞳をらんらんと輝かせている。
困惑している相手の唇を、強引に奪い、小さな舌をねじ入れる。

のしかかられているとはいえ、見た目通りに体重は軽く、力もさほどのものではない。
押しのけることは充分に可能なはずだ。

アルス > 「はぁ?……悪戯好きなガキが、っ、!?」

せっかくサインしてやろうと思ったのに、と言いかけたが、
その言い分は唇を奪われたことにより中断した。
舌をねじ入れられる感触に瞳を細め、るも圧し掛かっている体の軽さにすぐ気づく。

腕に力を入れ、その小さな体躯を押し退けようとした。
成功すれば上体を起こし、相手をじろりと舐めるように見遣って。

「……ったく、色気付きやがって…。
もう少し大きくなれば、相手してやってもいいけどよ」

そもそも相手の性別すら判然としていないのだが、
軽口のつもりでそんなことを言ってのけた。

リン > 「うわあ」

あっさりと押しのけられ、睨みつけてくる視線と目が遭えばテヘヘ~と苦笑いする。
それで許してもらえると思っているのだろうか。

「……えー、本当に~?」

相手の言葉……正確には『もう少し大きくなれ』の部分に、背負っていた青いケースがぼんやりと淡く光って反応。
その次の瞬間には、ローブに包まれた体躯が、一回り大きくなる。
まだちょっと相手よりも小さいぐらいだろうか。

「ほら、大きくなったよ。もうちょっと大きくなったほうがいい?」

ヘラヘラと笑いながら一回り小さくなったローブを脱ぐ。
その下はだぶついたシャツとロングパンツ姿だ。

アルス > 悪びれず苦笑いする姿に、呆れたような視線を向ける。
どうやら怒る気も失せたようだ。
そもそもこういったことは嫌いではない、のだが。

「………は?」

青いケースが薄らと光ったのに視線を引かれた次の瞬間、
一回り大きくなった相手の体躯に目を丸くする。

「…え、お前。……なに、それ魔法か?」

魔法ならば自分も心得がある。が、背丈を調整するものは初めて見た。
ローブを脱ぎ捨てる様を見ながら、少し考える。
別に今のままでもいいのだが…

「…じゃ、俺と同じくらいになってみろよ。
つか、お前って女?男? パっと見じゃどっちかわかんねぇんだけど」

リン > 問いかけられて、後ろに背負っているものを視線で示す。

「魔法……というか、呪い。
 自分の意思じゃ調節はできないんだよね、これ……
 人に命じてもらわないと」

『同じぐらいになってみろ』と言われた次の瞬間、
再び身体の輪郭が膨れ、ほぼ同等の体格となる。
だぶついていた着衣は、ピッタリ合う大きさになった。
これが本来の背丈だと察せるかもしれない。

「ね、面白いでしょ~? ぼくに興味湧いてきた?
 どっちか確かめてみる? まあ、男なんだけど。
 ちなみに名前はリンです。18歳。ガキじゃないよ~。よろしくね」

深刻さのかけらのない笑みのまま、上体を起こした姿勢の相手の腕を
ぐいっと引っ張って、顔を寄せる。

アルス > 「呪い……」

呪いの源は、その背にある楽器らしき何かだろうか。
体の輪郭が膨れ、また一回り大きくなった相手を見る。
服装がぴったりになった為、それが本来の背丈であると簡単に察することができた。

「ふぅん……面白ぇじゃん。
いいぜ、付き合ってやるよ。俺の名前はアルス。…知ってたか?」

以前、公演を見に来たことがあるのなら演者の一人として名は何処かで見たことがあるかもしれない。
腕を引っ張られれば顔が近づく。
ふん、と鼻で笑うと今度は此方から、唇を奪いに行った。