2021/09/06 のログ
ご案内:「王都マグメール 貧民地区」にシェリルさんが現れました。
シェリル > 「はぁ~~~~……
なんたってこの私がこんなクソみたいな街で浮気捜査なんてしょぼい仕事しなきゃなんないのよー」

街灯一つもない暗い路地裏を、銀髪の少女が歩く。
この街には似つかわしくない上品な顔立ちとは裏腹に、
歩き方はとても富裕地区に住む者とは思えないほど横暴で、言葉遣いも非常に悪い。

「金を積まれなきゃ、こんな仕事二つ返事で断ってやったのに」

探偵業をやっていると、時々不倫や浮気の捜査等の依頼が入ってくることがある。
しかし、そのほとんどが金にはならない平民からの依頼。
そんなものは二流の探偵にでもやらせておけばいいと、突っ返してきたシェリルだったが。
今回は状況が少し違った。

マグメールの王城で大臣を務める男の捜査だったのだ。
依頼者は彼の伴侶……ではなく、その大臣の身近で働く若い男だった。
もしも大臣が浮気をしているのだとしたら、このまま放っておくわけにはいかない。
国民にこのことが知れれば、大問題になってしまう。

『金ならいくらでも用意する。事実かどうか、確かめてきてほしい』

頭を深々と下げられ、しかも前金として多額の依頼料を貰ってしまっては流石のシェリルも断れなかった。
内心では面倒臭いとぼやきながらも、仕事はしっかりとこなす。

物陰に隠れながら、前方でノソノソ歩く大臣を尾行する。

ご案内:「王都マグメール 貧民地区」にトーラスさんが現れました。
トーラス > 一国の大臣が、治安の悪い貧民地区に赴くのに当然、護衛を付けない筈はない。
だが、その目的が慈善活動などではなく後ろめたい事であるならば、
お忍びである事がバレないように傍らに付き従うのは必要最低限の人数に留められる。
その代わりに、要所要所にて事前に数人の護衛が事前に配置されて、
周囲の安全やら不審者やらの確認、また不慮の事態に予め備えていた。

貧民地区の路地裏にて酒瓶を抱えた浮浪者然とした様子で地べたに座り込んでいた中年男もその一人。
大臣が路地裏を通り抜ける中、その傍らの護衛と目配らせをすれば、
彼らの後を尾行する不審者の存在が潜んでいる物陰へと視線を向けて。

「ひっく。ふぃ~、呑み過ぎて酔っちまったなぁ」

手にした酒瓶を呷りながら、徐ろに立ち上がれば、千鳥足の酔っ払いを装いながら、
路地の角を曲がる大臣達を、尾行者の視界から隠すようにして、その身体で邪魔を図り。
邪魔な酔っ払いの存在に尾行者が姿を現わすならば、ふらふらと身体を左右に揺らしながら、其方へと近付こうとする。
なお、その身体に纏わり付いた酒の匂いは彼の酔っ払いの演技が100%演技ではない事を物語っていた。

シェリル > 「やっぱり護衛がいるわね。
流石にまだ私には気づいていないだろうけど……」

大臣の周りを囲むように、人の気配を感じる。
いくらお忍びだからって、国の重要人物が一人でこんな野蛮な街を歩いているわけないか。
気づかれているにしろ、いないにしろ。
ここで尾行を中断するわけにはいかない。

決定的な瞬間を捉えるまでは、絶対に。

ブレザーのポケットから魔道レンズを取り出すと、それを耳に引っ掛けるように目元へ持っていく。
そのレンズに写した映像を、水晶に録画するというカメラの様なマジックアイテムだ。
浮気の決定的な証拠を収め、大臣を問い詰める。
スキャンダルになる前に辞めるんだと説得するまでがシェリルの仕事。

魔道レンズの録画を開始。
じっと息を殺しながら、大臣が動くのを待つ。
が、とんだ邪魔者が現れた。

浮浪者と見紛えるほどの不潔な男がシェリルの視界を阻んだ。
たった一瞬だ。
その一瞬で、大臣と護衛の者たちの姿が跡形もなく消えてしまったのだ。

「は、はぁ……!?
ちょ、ちょっと……アンタ何してくれてるの!?」

シェリルは思わず怒気を孕んだ声を上げた。
既に周囲に人の気配はない。
その場に立つのは自分と、そして自分の仕事を邪魔した男。
その男を指差しながら、シェリルはキッとキツイ眼差しを向けて。

トーラス > 目星を付けた物陰から姿を現わしたのは、年端もいかない少女。
予想外の存在に双眸を瞬かせるも、彼女が怒気を孕んだ声で睥睨してくれば、
一瞬、唖然として、ぽかんと、口を開いて相手の貌を眺める。

パン一個分の貨幣で、子供が人を殺すのも珍しくはない世の中に於いて、
相手を油断させる為に少年少女を暗殺者や尾行者に仕立て上げるのは儘ある話。
だが、目立つ事を厭う筈の存在が、怒気を露わに突っ掛かってくる様子に、
半ば呆れめいた感情が脳裏を過ぎり、その生意気な居丈高な態度に片目を眇め。

「はぁ~? 何を言ってるんだ、お前? いきなり、突っ掛かってきやがって」

相手に自身が酔っ払いであると思わせて油断を誘いながら、騒々しく騒ぎ立てる。
無論、彼女の事を此の場で足止めさせて、先行する大臣が目的地まで辿り着く迄の時間稼ぎ。
酒臭い吐息を女の顔に吹き掛ける辺り、迫真の演技か、素であるのかは判断が付き難く。
だが、十分に時間稼ぎの目的を達したと判断すれば、女の片腕を取ろうと片手を伸ばして。

「餓鬼がこんな場所で夜遊びなんぞしやがって、……ちょっとこっちに来い。説教してやる」

相手の腕を捕まえる事に成功したならば、其の侭、酔っ払いが絡んでいる風を装いながら、
路地裏の更なる暗がりへと少女を引き込んでいってしまおうとして――――。

シェリル > 間近で見るとかなり屈強な男だった。
力じゃ絶対叶わない、逆らえば片腕だけで自分を殺せてしまえそうな、
なかなかいい肉体をしている男。

その時点でシェリルは気づく。
この男も大臣の護衛だと。

辺りが暗いってのもあって、数メートルも離れれば人の特徴なんて捉えることは不可能。
ましてや、身なりがいかにも貧民と思わせるような容貌をしていたためか、鼻が利くシェリルもここまで接近されなければ気づくことができなかったようで。
悔しそうに舌を打ちながら、ここは一目散に逃げてしまおうと後ずさる。

「うっさい、酔っ払い。
私の仕事の邪魔をした癖に、大人ぶってんじゃないわよ」

相手が護衛だとわかっても、生意気な口は変わらない。
足に力を込めて、逃げる準備を整えれば進行方向とは逆に走り出す──が。

「ちょっと、離してよ!
アンタ、自分が何をしてるのかわかってるの!?」

腕を簡単に掴まれてしまう。
どれだけ強く手を引っ張っても、シェリルの腕は男から離れることはなく。
バタバタ暴れてもその力が緩まることはなかった。

ぎゃあぎゃあ騒ぎ、ジタバタ暴れるシェリルの抵抗も虚しく、
少女は暗闇の向こうへと引きずり込まれていく。

ご案内:「王都マグメール 貧民地区」からトーラスさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 貧民地区」からシェリルさんが去りました。