2021/04/24 のログ
ご案内:「王都マグメール 貧民地区」にティアフェルさんが現れました。
■ティアフェル > 治安、なんて科白口にしようものならば鼻で嗤われるような、そんな地区なのだから女が一人で歩いているとそりゃ質の悪い輩に絡まれることもある――そんなことは百も承知ではあったけれ、ど。
「ひいふうみい……なな…っ、7人がかりっていうのは……ちょーっと多いんじゃないかな……?!
そもそもなんでそんな徒党を組んでるんですか?! 全員お知り合いですか?! 絶対関係ない奴とかシレっと混じってるでしょ…?!」
今日は、絡んでくる連中が……何故か大漁だった。うっかり大漁旗など揚げそうになるほど。入れ食いなのは魚だけで充分です……そんなことを現実逃避混じりに頭に過らせつつ、貧民地区でもそのまた裏通りに追い詰められ、7人のならず者に取り囲まれるという、なかなか絶対絶命度高い状況。
ぽっかりと浮かぶ下弦の月が夜の底を静かに照らし出し、街灯の少ない界隈にも分け隔てなく光を零し荒んだ街並みをほの蒼く浮かび上がらせていた。
夜にも静まり返ることはない――というよりも暗がりに乗じる輩も多い地区では夜こそ掻き入れ時とばかりに賑わい、裏道とは云え、ぽつぽつと人通りはあるのだが――無論、女が一人多勢に無勢状態で囲まれていたとて積極的に関り合いになろうなんて物好きは、まあいない。
いたところでそれは、混ぜろ、とならず者方面に肩入れして余計な人数を増やしてくるお呼びでない者が関の山。
「乙女のピンチを訴えたところでな……分かってる、期待してない、でも……! でもちょっと、ちょーっとくらい夢はみたい――ので、いくよー……」
ぶつぶつと独白する女は、不意にすぅぅーと力いっぱい息を吸い込んで、高らかに悲壮な声を上げた。
「きゃあぁぁぁあぁー!! 助けてぇー!!」
19歳ヒーラー♀としては、一応抑えておきたい、と妙な主観でもってそれらしい悲鳴を路地裏に響かせた。
■ティアフェル > ここで素敵な人が颯爽と救い出してくれれば、お姫様ごっこに興じるようなノリでうっかり惚れてまう。
そんなちょろい女にたまにはなってみたいものです――と、そんな明後日な期待は……やはりするものでもない。
「はい、しーん」
叫んだ後にはもちろん挙手する者など現れず、辺りは静まり返り。その沈黙こそが導火線になったかのように、どっと沸くような爆笑がならず者計7名の間に沸き起こる。
バカか、とか、助けてとか笑える、だの、何期待しちゃってんの、と……一様に嘲り笑う声が反響し谺する。
まるで7人よりももっと大勢から笑われているかのような錯覚。
「分かってるわよ、知ってるわよ、現実ってものくらい――……だから!
全員自力で不能にしてやるー!! 萎えたい奴から前に出なさいよ!」
嘆息ののち、啖呵を切るように息巻いて取り囲む連中に向けて片っ端から貞操保護奥儀、男性器機能不全を繰り出した。
どういう仕組みなのかは割愛するが、状態異常を回復させるヒーラーの技とは真逆の手法を用いてしばらくの間は男性を不能にするという、そんな使いどころがピンポイントな技能。
それをきっちり7人分も炸裂させれば――気力も相当ダウンする。意思に反して一様に萎えた男たちに囲まれた後は――速やかに腹癒せに移行し、カゴメ……つまり袋叩きの発生。
顔は腫れるまで打たれたし、肋骨はヒビが入るまで蹴られた。大人しくマワされた方がマシだったのでは、という惨状で――打ち棄てられるという、ある程度読めていたオチ。
「……………………」
ボコボコで気絶し路上に放置という、珍しくもないコース。静かでうらぶれた路上にはボロ雑巾状態の女が一見死んだようにぴくりともせず転がっていた。
ご案内:「王都マグメール 貧民地区」にシルニアさんが現れました。
■シルニア > 「ティアフェルさんっ!」
路上に転がる少女の姿を見て、とてつもない後悔の念に駆られた。
女性の切羽詰まった叫び声は遠く、遠くから聞こえていた。
だけれど、ミレーの聴力をもってしても微かに聞こえる程遠くから聞こえた声に颯爽と駆け付けようとは思わなかった。
とはいえ、気になる事柄ゆえに声のもとへと立ち寄ってみれば。
まさか、誰にも救助して貰えず、そして声の主が知り合いだったなんて。
後悔に押し潰されている場合ではない、と彼女へと小走りに駆け寄って、その耳元に声を掛ける。
「息は...ある。よかった。
ティアさん、聞こえるですか?」
怪我人の介抱の経験は殆どない。治療師の元へと運ぶべきか迷うが、怪我の状態も分からないのに下手に動かすのは危険かも──
何から手をつけるべきか、どうするべきか考え、取り敢えずはローブのポケットから、複数のポーション、包帯を取り出して、彼女の反応があるかどうか、うかがってみることに。
■ティアフェル > 「………? ………、」
汚れた路上にポイ棄てされ、ぐったりと気を失っているさなか、それこそどこか遠い場所から響いているように朧気にその声は名前を呼んだような気がした――…。
けれどすぐに反応できるほどでもなく、瞼が重くて全身に奔る痛みに苛まれ動けない、声も思うように出て来ない。
「…………ん……?」
ようやく微かに反応したのは二回目に、彼女がその高い声で呼びかけてくれた時。
ズタボロにされた身体はずっしりと鉛でも抱えているように重たかったけれど……ぴくり、と小さく睫毛が震え腫れた瞼が僅かに持ち上がった。
「ん、ぅ……ぁ……?」
小さく動いた唇は何かを発しようとしたが、そこも切れていて血で赤く汚れ上手く言葉にならず、霞んだ視界で薄っすらと見える少女の小柄な輪郭に、誰か……と記憶の琴線を手繰り寄せつつ、ほとんど無意識に零していた。
「しー……ちゃん……?」
■シルニア > 「っ!!はいですっ、しーちゃんですっ!」
微かながら発せられた言葉をしっかりと聞き取り、しかし大慌てで私が紡いだ言葉はぎこちなく、自身をあだ名で呼ぶ始末。
安堵からか僅かに瞳を潤ませて。
でも、きっと、泣きたい状況なのは彼女のほうだろう。
「何処が痛いですか?簡単なものですが鎮痛程度なら出来るです。」
と、たずねつつ。彼女の顔、胸元へと魔法陣を展開。
腫れている顔、衣服がボロボロの胸元。そこが特に痛い場所だと判断し、気休め程度ではあるものの鎮痛効果のある魔法を発動させる。
「嚥下が出来そうなら、ポーションも──」
と言いかけ、口を噤む。意識朦朧とした彼女に矢継ぎ早に質問しても答えられないだろう、と。ひとまず他に治療すべき場所の返事を聞こう。
■ティアフェル > 「………っふは……」
慌てふためきながら力強く頷く声に思わず、咳き込み交じりの笑声が零れた。気づかわし気な眼差しが見てとれると一瞬怪我を忘れてほっこりしてしまい。
腫れて歪んだ顔ながら微笑みかけて……いてて、と傷に響いて小さく呻き。
それから、意識が覚醒するに従ってぼやけた視界が徐々にクリアになってゆくと、潤んだ緑色の瞳に気づいて、そっと掌を伸ばしながら、泣かないで、と掠れた声で囁き。
「へーき……このっくら、い……ぜーんぜん……」
と、大分見た目の悪くなった腫れた顔で笑って見せようとするが歪むばかりで上手くいかない。展開される魔方陣と発動する術式の気配に、無意識に安堵めいた心地で、
「あり、がとぅ……ごめん、ね……だいじょぶ、だよ……」
彼女の魔法が効果を発揮してくると痛みが薄れてくる。苛む痛みを和らげてもらうと、ほっと息を吐き出して先ほどより明瞭になった声、掌を彼女の帽子の上に伸ばすと、ぽん、と柔く弾ませようとしながら。
「――大分、好くなった、みたい……後は、自分で――……」
と虚勢めいた声を発すると起き上がろうとしてよろめき。