2021/04/13 のログ
ご案内:「王都マグメール 貧民地区」にゲーゲン・アングリフさんが現れました。
ゲーゲン・アングリフ > 貧民地区の裏路地にある、流行らない店。
男は、相も変わらず静かなその酒場の中で、静かに読書をしていた。

「……」

客が来たのなら接客モードに入るつもりもあるが。
閑古鳥が鳴いているのなら、時間は自由に使う。
ある意味、とても手抜きな営業方針を揺るがすこともなく。
男は、カウンター内に持ち込んだイスに深く腰掛け。

「……ふ、む」

時折、小さく声を上げては書物のページをめくっていく。
店内に音楽などはなく。ただただ、その読書の音だけが響いていた。

ご案内:「王都マグメール 貧民地区」にビョルンさんが現れました。
ビョルン > 歌も花もなく。そして華もない。
この通りの酒場は概ねそういった雰囲気が大多数なのだろう。

埃っぽい路地を通り、そんな一軒の酒場のドアに手を掛ける。
今宵、供ないない。

「邪魔、すンぜ──…」

ドアベルを鳴らしながら静かにドアを潜り、一直線に相手の対面へ向かう。

「よう、久方ぶり。探したぜ」

スツールの一脚に腰を下ろしながら軽めの口調で話し掛ける。

ゲーゲン・アングリフ > 「ん……いらっしゃいませ」

そうして読書をしていれば、店のドアが開き、客が訪れる。
男は本を静かに閉じ、入り口に視線を向けながら口を開くが。
そこにいたのは、以前会ったことのある若者であり。

「……」

実に慣れた様子で、目の前まで来る若者に。
男は、言葉を失い、あんぐりと口を開く。
が、すぐに接客をする必要性を感じ取り。

「えぇ、っと。はい。お久しぶりです。
 探した、とはまた。なんといいますか……」

何用でしょうか、ということは。まず問わず。
男は、相手に冷たい水の入ったグラスを差し出す。
何せ、出会った状況が状況だったので……。
正直、男は内心ビビっているのだが。それは表情には出さない。

ビョルン > 「酒は要らない、軽く何か食べさせてくれ」

水だけで粘るような無粋者ではないことの証拠に素っ気なくそう告げてカウンターの席に身を落ち着けさせる。
好みを聞かれれば、「任せる」とだけ答えるだろうか。

「先日の話じゃ、ボスがいるって話だったっけ」

店内をぐるりと見渡す。
他に客はいないようだ。
ならば、今日の話はゆっくり続けようか。

ゲーゲン・アングリフ > 「かしこまりました。では……」

軽食を注文されれば。男は笑顔で頷き。
慣れた手つきで調理を開始する。
その最中、話しかけられれば。
その内容に、一瞬動きを止めるも。

「えぇっと……それなんですが」

表情は、明らかに曇った様子。
というか、笑顔ではあるものの、困った雰囲気がにじみ出てしまっている。
そのまま、男は相手に、料理を差し出す。
皿に載った料理は、白パンの背を割り、ハムとチーズを挟んだ物だ。

「実は、以前お会いしたとき、ウチの店の荷物を回収させていただいたじゃないですか。
 ……アレ、どうにも。スパイスとかじゃなくって。
 違法な薬物の原料だったようで……。
 店長、憲兵にしょっぴかれまして」

アハハ~……などと力無く笑いながら言う男。
形だけは笑顔なのだが。相手が相手。事が事のため。
男の気配の中で、怯えと緊張が一気に増大していく。

ビョルン > 料理が出されると皿を自分の前に引き寄せる。
相手が続ける話を聞きながら「いただきます」と呟きパンに手を伸ばそうとしたところで耳に言葉が立ち込む。

「薬ィ?」

ほんの一瞬眉がアシンメトリーに吊り上がる表情の変化を見せる。
そしてそれを誤魔化すように小さく咳払い。

「詳しく聞きたい、お茶も一杯」

そう所望しながら考える。
あのときのスパイス・ソースの瓶。己も嗅いだりはしなかっただろうか。
もしそうだとして、気が付かなかったということか。

パンと睨めっこしながら思索を巡らす。

ゲーゲン・アングリフ > 「……ハイ……」

料理を差し出してしまえば、会話に集中せざるを得ない状況である。
なにせ他の客はいないのだから。目の前の相手の追及などから逃げることはできない。
男は、ややうな垂れながら、相手を見る。

「かしこまりました……」

注文されれば、すぐに応える男。
暖かい茶を提供し、男も一度咳払いをし。

「どうにもあのスパイス……いや、正確に言えば。
 外国からの『香辛料』なんですが。
 それ単体なら、確かに何の変哲も無い香辛料だったらしいんです」

意を決した男は、相手をまっすぐに見つめながら。
ことのあらましを説明し始める。

「ですが……アレを材料に、薬物を作ることができたらしいんですよ。
 で……実際、店長はそうやって金を稼いでいたらしくて」

それが明るみに出て、憲兵に捕らわれ。
未だに帰ってきておりません、と。
男は、そう説明し、重いため息を吐く。

ビョルン > 「嗚呼、そォ」

視線を一点、パンから上げて腕を組む。
酒場の天井あたりに描くイメージに頷く。
そうして口を開くには。

「あるかも知れないな──…」

過去には使用者の気力を抜くという成分不明な薬物もあった。
見た目も匂いもただのスパイスソースであったとしても濃縮なり希釈なりすればそういったものの成分となり得るのかもしれない。

「ならば、朗報かも知れないな。
 今日ここへ参じた訳、これを伝えに。
 ──結論から言えば、あんたのボスが取引していた商会は"潰れた"。
 だからこれ、代替になる商店、商会、商社のリストだ──怪しい荷を扱うような店は挙げていない」

コートのポッケから1枚の便箋を出してカウンターへ広げる。そこにはびっしりと屋号と住所が連なっている。

「この近くがいいなら名刺も預かっている」

近隣の商会の営業の名刺もぱらりとテーブルに並べる。
ティーカップを手にして口へと運び。

ゲーゲン・アングリフ > 「……」

目の前の相手の持つ気配というか、迫力と言うか。
それに、男は思わず黙り込んでしまう。
男も、長く生きているのでそれなりに色々と経験はしているのだが。
それでも、相手の凄みに少し押されてしまうほどで。

「詳しいことは、憲兵さんから教えてもらえませんでしたけれども」

これに関しては当然である。
当たり前の話だが、その違法薬物の製造方法をわざわざ広める憲兵などいるわけも無い。

「と、いいますと……。
 ……なんと。それはそれは……。
 わざわざ、それを伝えに……?」

そうして、次に相手がどんなことを口にするか、と怯えていた男だが。
聞かされた言葉は、予想外のもので。
男は、相手が取り出した便箋を見て、驚愕の表情を浮かべる。

「……ありがとうございます。
 とても……とても助かります」

更に、準備万端名刺まで、となれば。
男は相手に向かって、深々と頭を下げる。

「正直、いきなり店長がいなくなって。
 右も左もわからずに、なし崩しで店の経営をすることになって。
 困っていたんです。
 ……ビョルンさんは、優しい方なんですね」

はぁぁぁぁ、と。自分を取り巻く現状から脱出できそうだと思い。
男は、息を吐きつつ相手に感謝を伝える。
そのまま、便箋と名刺に目を通し始め。

ビョルン > 「概ね、」

茶を飲んでカップを置いて言葉を切る。

「憲兵だって詳しくはないものさ。
 殊に、この王都では」

上流の者だって冤罪からの不当逮捕やら私掠に使える駒は使い回したいものだから。
驚いたげな男の言葉には頷いて。

「優良な店舗と優良な商会は利を分配すべきだと思ってね──そういう建前で。
 で、この店舗に変わりはないか──そのボスと『ケーキを分ける』筈だった相手は、一緒にしょっ引かれたんだろうか」

薬物となると、その製法が特殊であれば尚更単独で取り扱うのは難しかろうか。
考えた矢先、相手の口から『優しい方』という言葉が出れば、肩を竦める。

「やめろよ、気色悪い」

フス、と笑うように息を抜いて漸くパンへと手を伸ばす。

ゲーゲン・アングリフ > 「……そう、ですね。
 確かにそういう部分はあります」

静かに語られたその言葉に、男もまた静かに言葉を返す。
この国、この街では。知らずに踏み入れば命を落としかねない闇がある。
男もそれを知っているからこそ、言葉を濁したような部分があった。

「……恐れ入ります。
 それについても、私は何も……。
 ただ、店の営業を続けることについては咎められなかったので」

食うために。生きていく為に、とりあえずは。
仮の店主として、店を切り盛りするしかなかった、と。
男は、そう言いつつ、相手を見る。

「気色悪い、ですか?
 ……しかし、こうも良くしてもらいますと……。
 ……そういえば。ビョルンさんは。
 一体、何のお仕事をしてらっしゃる方なのですか?」

以前出会った時の状況を思い返し、男はふと、そう尋ねる。
自警団か、傭兵団。そういった仕事なのだろうか? と。

ビョルン > ふぅん、と声を上げて唸る。

「ちなみに、引っ立てられていったのはどのくらい前のことだい?」

実際には流通はしなかったものの、利を分けるはずだった相手はまだ泳がされているのかもしれない。

「もし、ボスを訪ねてきたり金品を要求するような輩が現れたら、追い返せるか?」

己に対しては終始弱腰のこの相手だが、この地区で暮らそうというのならそれなりに腕が立つのだろうか。
カウンター越しに無遠慮な視線を投げつける。

「思わないか? 優しい奴には下心とか、裏がある。
 字が書けて算盤が弾ければ、王城の図書館で経営の初歩の本でも読んでみな──知ってるだろうけど、出る金と入る金を別個に計算するところからだな」

そして、職を聞かれればふつと表情が緩む。
チーズとハムの挟まったパンを食べながら思い返すに、初対面は港での差し押さえだったか。

「金貸しで、地回りで、女衒で、女郎屋とキャバレーとダイニングバーを持ってて、時折蛇蝎の如く嫌われる街のダニだよ」

どこまで言えば察するだろうか。前回は己の事務所の屋号も告げていたはずで。

ゲーゲン・アングリフ > 「そう、ですね……。
 もう10日以上前になりますか」

質問を重ねられれば、男は記憶を掘り起こし、答える。
改めて言葉にしてみれば、ずいぶんと時間が経ったものだ、と。
そこで、男はようやっとそれを実感した。

「そう、ですね……。
 それくらいなら、なんとかなるとは思います」

相手の真っ直ぐな問いに対し、男は表情を変えぬままそう言った。
それは、この男にしては珍しい、ある種の傲慢さのある言葉でもあった。

「それはもちろん、思うのですが。
 ……助言、感謝いたします。
 確かに。こうなったら、真剣に勉強したほうがいいですね」

今のところ、そもそも客が少ないので。
店の営業に関しては、なんとかなっていた……。
いや、なんとかもなにも、という状況であったのだ。
男は、その助言をしっかりと心に刻み込んでいく。

「……は、ぁ。
 えぇっと、つまり。
 何でもやる、顔役さんですか?」

あまりにも手広くやっている相手。
こうなってくると、男の頭脳では、結局相手の本職がなんなのかがわからない。
なので、そういうことなのかな? と。
男は、一応懸命に思考した結果、そんな風に逆に問うてしまった。

ビョルン > 10日以上何もないなら、前の店主が戻ってこない限りは穏やかなものかもしれない。
ふむ、と頷いてお茶を飲む。

「徒党を組んで来られてなんともならんかったら、手を貸そう。
 そっちは本業だ」

此処も縄張りの外れの一角で、麻薬の流通を企んだ者が居るならば五体満足では帰さないつもりだ。
こちらは締まった表情で告げて。

「真面目に続ける気があれば、きっとすぐに慣れるさ。
 助けてあげたいけど、うちは冒険者関係の仕事にはお触りしない決まりなんだ」

今まで互いに交流が交わることがなかったのもその点が原因だろう。
そうして再び聞かれれば説明に困る。
困った挙句に中指につけた指輪を指し示す。

「並びの店にこの指輪を嵌めた『一家』について聞いてみな。
 俺はどうやら、そこの跡継ぎ息子らしい──拾われっ子だけどね」

ゲーゲン・アングリフ > 「本当ですか!? 助かります!
 ……正直、不安が無いと言えば、ウソになるので……」

更なる助力を約束されれば。
男は、喜色満面の笑みを浮かべる。
どうやら、本気で嬉しいと思っているようである。

「そうだといいのですが……。
 そうだったのですか……。
 あれ、そうだとすると、こうして助言するのは、大丈夫なのですか?」

相手のハッキリとした言葉に、男は疑問を浮かべる。
その辺の線引きとして、アドバイスまでは大丈夫なのか、と。
広く見れば、男の店は酒場兼冒険者の宿。
なので、干渉していることになってしまい、後々、相手が拙い立場になるのでは、と心配してしまう。

「……ふむ……わかりました。
 覚えておきます。
 ……お仕事のお話ばかりもなんですので。
 どうぞ、リラックスなさってください」

気づけば、仕事の話が長くなっていた。
男は、相手に『客』として息を抜いてほしい、と思い。
笑顔でそう言い、追加の注文などが無いかをたずねる。

ビョルン > 己が事務所に使っている建物の位置を簡単に説明する。

「案外とここから近いから、やばかったら駆け込んできな。
 常時、誰かしら腕が立つのはいるから──力になれと、伝えとく。
 嗚呼、そのことついて遠慮はいらない」

縄張りで悪事を働こうという輩からこってり搾れるのであれば。
そうして向けられた疑問については頷いて。

「全く問題ない。
 むしろこっちは少しでも贔屓にして欲しい店のリストなんて押し付けている訳だし御の字だ」

冒険者と商売はしないというのはいつからの掟かは知らない。
ただ先人がそう決めた物には理由があり、そう定めた決断には敬意を払うべきであるという考えだ。

「もうね、本当に俺のことなんて覚えておいたらでいいよ。
 ──ああ、果物があれば剥いてもらおうかなぁ」

少しはきな臭くなったが、先日の商品とそれにまつわるこもごもの話は終わり。
時間に余裕があれば、そんな追加注文をするだろう。帰り際には無論、代金に十分なチップを乗せるはず。

ゲーゲン・アングリフ > 「……何から何まで、ありがとうございます。
 本当に、どうお礼をしたらいいか……」

至れり尽くせり、というレベルの助力に。
男は、何度も深く頭を下げる。

「なるほど……そういうことでしたら。
 こちらも、過干渉にならない範囲で。
 お力になれることがございましたら、仰ってください」

相手がハッキリと言えば。これ以上は口を挟むまい、と。
男は、微笑んだまま一度頷く。
相手にも立場があり、考えてのことなのだと。男なりに理解してのことであった。

「そんな。大事なお客様ですし……。
 かしこまりました。少々お待ちください」

どこか、ゆるゆるとした追加注文に。
男はくすりと笑みを漏らし、果物を相手に提供する。
そうして、相手が店を出たのであれば。
料金よりも多いその支払いに、またも恐縮することになったとか……。

ご案内:「王都マグメール 貧民地区」からビョルンさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 貧民地区」からゲーゲン・アングリフさんが去りました。