2021/04/03 のログ
ご案内:「王都マグメール 貧民地区 公園」にエインセルさんが現れました。
エインセル > 空気も冷えなくなってきた、春めく季節の夜のこと。
月と星の明かりが指す貧民地区の公園後で、少女は今日も一人で野宿をしていた。
そこいらに転がっている石を使って、地面の上に簡単な風除けを作って、焚き火を灯す。
ぱちぱちと爆ぜる火の音を楽しみながら、遅めの夕飯の用意でもぞもぞ。

「ふふ、今日はちょっぴり豪華なお夕飯。楽しみ」

今夜のメインは、馴染みのお店がうっかり焦がした肉を安く買い取って作ったサンドイッチ。
どうせ捨ててしまうから、と端金の二束三文で分けてもらったが、貧乏舌には支障ない。
オマケでパンも付けてもらったから、格安でまともな食事にありつけるという僥倖だ。
――しかし、今夜はそれだけではない。ごそごそ、懐から紙の包みを取り出すと。

「……マシュマロ、焼いて食べると美味しいやつ」

むふー。誰も居ないのに少し自慢げ。それ程に、甘味は得難い代物である。
冒険者として熟した依頼を報告した時、偶然もらった一品。これを、木串に挿して焼く。
仄かに焦げたら食べ頃だ。サンドイッチとマシュマロ。それだけで今日の少女は幸せだった。

ご案内:「王都マグメール 貧民地区 公園」にリンさんが現れました。
リン > ふらついた足取りで公園に入ってくる、バイオリンを提げた人影がひとつ。
灯りを見つけるとふらふらと引き寄せられるようにそこへと近づく。
火の近くで食事をしていたのが以前目にした人物だとわかると、
軽く手を挙げて挨拶をして、その近くに腰を下ろしてしまう。

「久しぶり~。元気?」

火に照らされれば、その少年はいささかその相貌に精細を欠いていることがわかる。

「こっちは近所の賭場で遊んだら財布の中身が全部なくなったところ」

訊かれても訊かれなくても状態を説明するだろう。

エインセル > マシュマロが出来上がるまでの間、齧るのはボリュームたっぷりのサンドイッチ。
はぷっと齧り付けば、甘辛風味の素敵な味わいが口いっぱいに広がってくれる。
わずかにこんがり焦げが苦いのは、値段を考えれば許容範囲ということで。
もきゅ、もきゅ、ごくん。もったいないから少しずつ、子栗鼠の様に頬張る。
あえて一個のサンドイッチに結構な時間をかけて食べつつ、とろけたマシュマロを回収。
代わりのマシュマロを火の近くへと差し出す。その繰り返しの中に、来訪者がやってくる。

まずは、焚き火の揺らめきに人影が写ったのが最初。それから、ふらりと現れるその主。
以前に出会った顔見知りだと分かると、少女もまた手を上げて挨拶を返した。

「お久しぶりですねぇ。えぇ、私はまぁ、ぼちぼちと言った感じですが
 ――そちらは、なんだかお疲れ?だったら、近くで温まって休んでいくといい」

ちょいちょい、と手招きして、近くを薦める。焚き火が減るわけでもないし。
それから、マシュマロを少し多めに炙ることにする。幸運は分け合えば巡るのだ。
話を聞くに、彼は賭博で素寒貧らしい。なるほど、それなら仕方ない。

「んー、よし。マシュマロ、食べる?甘いもの、元気出ると思うけど」

ほい、と差し出す木の枝に刺した炙りマシュマロ。少女に出来る精一杯の饗しだ。

リン > 「おお……きみは慈母かな? エインセルママ…」

こんなところで野宿しているぐらいだから金銭的に余裕があるわけでもなかろうに、
ためらいもなく施しをしてくれるとは。
もちろんもらえるものはもらう。
ためらいなく差し出されるマシュマロに口を開いてかぶりつく。
熱いのをあわてて口に入れて火傷しそうになって、ちょっとずつかじる。

「おいしい~~~~。涙出てきちゃうね。
 そう、お金もないし今夜寝るところもないってわけ。
 どうしようかな……ハハハ」

流れるような所作でエインセルの隣に座る。
遠慮というものがどうやらないらしい。

エインセル > 「こんなに大きな子供を持ったつもりはないけど、袖振り合うも多生の縁、みたいな」

たしかそんな諺があったような気もする。どこの国のかは知らないけれど。
何れにせよ、幸運を独り占めにしようとしても、少女は元々が不運の星の下にある。
零れ落ちてしまうくらいなら、分け与えた方が得だ。見返り狙いもあるが、それ以前に気分が良い。
ぱちり、ぱちり。ときおり爆ぜる薪の音を楽しみながら、隣に来る彼を見る。

「ん、空腹には効くよね、甘いもの。ちょっとでも元気の源だし。
 ……お金無いなら、野宿すると良いかも。生憎、お風呂とか豪華なものはないけど。
 この焚火の周りなら多少は暖かいから、空いてる場所を使えば良いんじゃないかしら。
 私は近くに人が居ても眠れるし、近くの異性を気にするほど育ちが良いわけでもないし」

元より冒険者は野営に慣れるのが常。身包み剥がれなければ、見た目以上にタフなのだ。
彼が野宿を共にするなら、一夜の面倒は見るつもり。とは言え、シュラフを貸すぐらいではあるが。

リン > 「ははは。小さいときもあったような気がするけど…」

へらへらと笑う。
押しのけられないのをいいことに、焚き火で暖を取る彼女にべたべたとまとわりつく。
放っておけば長い髪を手で漉いては、すんすんと匂いを嗅いだりしはじめる。
どことなく大きな犬が甘えてくるような雰囲気だ。
それを愛らしいと思うかただ鬱陶しいと感じるかは人それぞれだが。

「ぼくはきみと眠りたいな~。一人じゃ心細いよ~ 凍死しちゃうかも~」

耳元からそんなふうにねだってくる。

エインセル > 「いやいや、私が生んだ訳じゃないし――ほむ、距離が近すぎるような。
 気にはしないけど……うぅん、まぁ、いいや。それで満足するなら」

纏わり付いてくるなら、嘆息しながらも拒絶はしない。
髪を手に取られようが、匂いを嗅がれようが、である。
少女からすれば、マシュマロを平らげる方に忙しいのだ。

「……んー、添い寝?お店だったら、結構な額を取られるやつだね。
 素寒貧なのに、そんな注文しちゃっていいの?貸しにしちゃうよ?」

強請られるなら、しれっと返す。面倒は見るが、慈善事業ではないのだ。
お望みならば応えはするが、お返しはあるよね。そんな含みを込めてみる。
それで貰い損ねたならば、きっとそれが手切れ金。少女は案外、ドライでシビアだ。

リン > 「なんとか過去を改変してきみから生まれたってことにならないかな……
 ならないか……

 ちぇ~~っ、しっかりしてるなあ。
 じゃあまあそれでいいや……」

条件付きの承諾に眉をハの字にして笑う。
嬉しいことは嬉しいらしく、後ろから腕を回して抱きついてゆらゆら揺れる。
リンの長い青髪も揺れた。

「今は文無しだけど次は勝てるし、まあ大丈夫だよ」

何も大丈夫ではない。

エインセル > 「いや、むしろこんなに小さい母親欲しいの?こう、母親っぽさゼロの貧乏娘なのに。
 ――ふふ、サービスには当然の対価が発生する。世の中は思った以上に世知辛いもの」

抱きしめられても身動ぎはせず、マシュマロをひょいぱく。
こんがりと良い香りのそれをたっぷりと楽しむと、少し背中に体重を預けて。

「ん、別にお金が欲しい訳じゃなくて、ご飯とかでも良い。
 むしろ、お腹いっぱい食べられる、とかの方が金子より嬉しい」

少女の運命では、常に小さな不運が訪れる。それ故、金より食事の約束のほうが良いのだ。
金はうっかり財布がどこかに消えたりするが、他者との約束は消えないのだから。
つまりは、勝った時にごちそうしろ。その程度の話だ。見た目だけは、そこいらの娼館より安い。
だが、実はこの少女、健啖家である。酒場のメニューを網羅しても問題ない程度の底なしだ。
大抵の男達が油断して、この条件で少女を楽しんで、後で真っ青になる。それも、いつも通りだ。

リン > 「いやいや。ただの貧乏娘って一言で片付けるにはきみってば大物すぎない?
 ぼくの母にふさわしい人物だよ……!」

にへら~と笑む。
何を言っているのかわからないかもしれないが、わからなくていいだろう。

「オッケ~オッケ~、お安い御用だよ」

体重を預けてくる彼女に頬ずりをして、何も知らぬまま安請け合いしてしまう。
その後日リンは泣くことになるかもしれないが、またそれは別の物語になるだろう──