2021/03/17 のログ
ご案内:「王都マグメール 貧民地区」にゲーゲン・アングリフさんが現れました。
ゲーゲン・アングリフ > 「……」

まだまだ夜の寒さが厳しい王都。貧民地区のとある店。
あまり客の入っていない中で、中年男がせかせかと動き回っていた。

「さて、とりあえず忙しさは過ぎ去りましたかね」

つい先刻まで、ある程度賑わっていた店内は今では静かになっている。
元々、食堂然とした店ではない、冒険者の宿兼酒場。
ましてや貧民地区の店なので、次に忙しくなるのはもう少し後。
夜が更けてから、となる。
それを理解している男だからこそ、今まさに、片付けにいそしんでいるわけだが。

「それにしても……せめてもう少し従業員を増やせばいいと思うんですがねぇ」

姿見せぬ店主に対して、少しだけボヤきつつ。
男はじゃぶじゃぶと食器を洗い、テーブルを拭く。
店のある地区の問題もあるのだが。
やはり、こういった店に来る酔客は、なかなかタチが悪い者も多い。
こまめに清掃を行わなければ、店内は凄惨な有様となってしまうわけで。

「……今の内に、料理の仕込みもしておきますか」

いざ忙しくなれば、ゆっくりと料理を作る暇もない、と。
男はため息を吐きつつ、スープを仕込んだり、野菜を切っておいたりと働く。
男のくたびれた風貌のせいもあるだろうが、何と言うか。
雰囲気は『妻子に逃げられた中年男』そのものであった。

ご案内:「王都マグメール 貧民地区」にタピオカさんが現れました。
タピオカ > おなかすいた。
冬将軍の帰り支度が進む王都の春前夜。
風の冷たさにマントの襟をかき集める片手と、もう片手はお腹のぺたんこを触る。

別の依頼を受け終えて夕食中、王都のすぐ外に魔物化したハイイロオオカミが現れたと急ぎで討伐願いがあり、今しがたそれを終えて帰ってきたところだった。
夕食を食べ終える前だったのもあるし、剣を振るったことで身体が栄養を欲していた。
通りかかる貧民区。いつも通う平民区の酒場まで歩いてもいいけれども――。

「こんばんは!
ふーっ!寒かった!
……ええと。注文、良いですかー?
ツナとオリーブの野菜スープと、アスパラベーコンクリームパスタ、くださいな」

――目についた店に、迷う前から足を踏み入れていた。
時間が外れているせいか客の姿は落ち着いていて、掃除の行き届いた小綺麗なお店だと思った。カウンターの席につくと、店内の暖気にほっと表情緩め。マントを背もたれにかけ、料理の仕込みをしている相手の背中に声投げかけ。

ゲーゲン・アングリフ > 一通り、清掃が終わり、料理も準備できた頃。
新たな客の入店の気配を感じ、男は入り口に顔を向けた。

「いらっしゃいませ」

軽く声をかけると同時に、手早くグラスに水を注ぎ。
相手の着席した席へとそれを差し出す男。
同時に、相手が注文をしてくるので、それを笑顔で受け止める。

「かしこまりました。少々お待ちくださいね」

そう言った男は、これまた手早く料理を準備していく。
他の客たちは、目の前の少女の声に目を覚ましたり。
外の寒さが厳しいことを知り、次々に店を出て行く。
気付けば、男と少女だけが店内に残される形になる頃。

「はい、どうぞ。
 それと、コレはサービスです」

男はスープとパスタを差し出し、同時に。
更にグラスを二つ差し出した。
一つは、ほどよく暖められたミルク。
そしてもう一つは、淡い緑色の液体……カクテルであった。

「大分体が冷えてらっしゃるようですから。
 どうぞ温まっていってください」

そして、他の客には内緒ですよ、と目配せし。
人差し指を口元に添える男。
もちろん、いまや他の客はいないのだから、その心配もないのではあるが。

タピオカ > 治安の悪い場所の宿兼酒場で働く男の人と言えば柄の悪さがどうしても先に立ってしまうものだけれど。
注文を受ける彼の柔和な態度と声音に思わずつられて笑みを浮かべてしまうもの。
自分の背で席を立っていく客たちを横目に、それぞれ一瞬ずつ開いた店の扉から店内にわずかな冷気が吹き込み。
それもまもなく、相手がスープを煮込む音やパスタをお湯にくぐらせる仕草を背景に店内はぬくもり取り戻す。
それらを肌に感じながら、頬杖をついて居心地良さそうに待ち。

「美味しそう!いただきまーす。
……わあ!サービスまで!嬉しいな、ありがと!」

湯気立つ野菜スープに、食欲そそるパスタの匂い。
胸元に軽く手を合わせながらスプーンとフォークを手にし。
淡い緑もあざやかな飲み物を進呈されると笑顔綻ばせてお礼を告げる。

「さっきまで城壁の外で剣を振ってたんだー。
指の先まで冷えちゃってた。だから、助かる!
……ふふ。大丈夫、誰にも言わないよ」

相手の言葉からすれば、きっと酒精の類なのだろう。
サービスで出してくれるにしては、かなりの大盤振る舞いの。
来客への気遣いも嬉しい彼の茶目っ気の人差し指、
真似て自分も口元へ指を立て。
すっ、とカクテルを傾ける。
とたん、頬がほわんと赤らんだ。酒精には弱い様子ながら、身体の芯から暖かくなる。ふにゃりと笑いかけ。

ゲーゲン・アングリフ > およそ、貧民地区の店に来るようなタイプには見えない少女。
その姿や雰囲気にも、特に男は怪訝そうな顔することなく。
ただ、静かに注文を受け、料理を準備していった。

「はは、いただきます、と言っていただけるのは久しぶりですね。
 どうぞ、ごゆっくりと」

当然、でもないが。この店の常連客は血気盛んであり。
注文した料理や酒を、いきなり口に運ぶのも珍しくは無い。
なので、少女がいただきます、と言ったことに。
男は、更に笑みを強くした。

「おや、そうなのですか。それはお疲れ様です。
 ……剣を、ということは。冒険者か、傭兵……。
 もしくは旅人か、兵士さんですか?」

相手の言葉に、男は軽く頭を下げ、カウンターを出る。
そのまま、客の残した皿を片付けつつ、何とはなしにそうたずねる男。
相手の見た目がかなり若いので、ちょっと興味が湧いたらしいが。
質問しつつも、回収した皿などを片付ける手は止まらない。

タピオカ > 「マスターがあたたかいご飯を作ってくれたからね。
うん!……ちょうど他のお客さんも帰ったみたいだし、のんびりさせてもらうねー」

彼の物腰や調理の手早さから、この店の主だろうかと見当をつけた。相手が雇われ何でも屋とまでは推し量れず、雰囲気からマスターと気軽く呼び。
くつろいだ気持ちで、カウンターの下で足を緩くぶらつかせ。

「うん。僕は冒険者なんだ。
ついさっき、急に魔物の狼が出てきたって依頼が入って終わらせたところ。きっとあの白い狼、春が来そうだから慌てて故郷の冬の森に帰ろうとして王都に迷い込んだんじゃないかなー。
――んっ……。えへへ。このカクテル、果物ジュースみたいで美味しいね。マスター、もしかしてバーテンダーとかしてたの?」

客席側に来てくれた彼へ、腰の鞘にはいった曲刀の柄を叩いて身分を示し。簡単に顛末伝えつつ、飲みやすさにくいっと傾ける淡い緑色。次第にとろんと目尻がゆるみ、ふわふわとした口調になりながら語尾を上げ。

ゲーゲン・アングリフ > 「恐縮ですが、店主ではないんですよ。
 ただの雇われでして……。えぇ、どうぞ。
 ごゆるりと休まれていってください」

相手の言葉には、苦笑し、顔を横に振る男。
実際のところ、店主はほとんど店には来ないので。
事実上の『雇われ』店主、ともいえるかもしれないが。

「そうなんですか。それはそれは……。
 なるほど。季節柄、そういった依頼も増えてくる傾向がありますね。
 まぁ、多少ですが。歳が歳なものですから。
 色々と、経験しているんですよ」

皿を回収し、カウンターに置き。空いたビンはまとめて適当な箱に捨てる男。
若くして冒険者とは、と。驚き半分、尊敬半分の目線を相手に向けつつ。
カウンターに戻り、洗い物をしながら困ったような笑みを浮かべる。

「お客様のように、若いうちから冒険者なんかになれていれば。
 もう少し、人生に張りがあったのかもしれないんですがね」

くすくすと笑いつつ、相手に向かいそう語る男。
そこで、しまった、と言うように舌を出しつつ。
老いた男の話など、面白くないでしょう、と頭を下げたり。

タピオカ > 「そうなんだ?
じゃあ……何て呼べばいいかな。
人生の先輩だから、……せんぱい!とか。あは!
やっぱり名前呼びが良いかな。……僕はタピオカ。名前、教えてよ?」

今の所唯一の店員であっても、経営者では無い様子。
初対面のお店の人を呼ぶのに気軽で都合の良い声かけを探しつつ、冗談めいた事を言って。結局は名を求め。

「年をとったら、魔法でカクテルが作れちゃうの?
素敵だな!
僕には長く生きるってよくわからないけど……。小さな時によく聞かされたよ。年寄りの白髪は栄光、重ねた年月は美しい木の年輪だって」

自分よりひとまわりふたまわりと雨の日風の日、人生の日々を知っていそうな相手へ。戯れ混じりに雑談はずませ。
遊牧民の出自でもある冒険者は幼い頃から年長に聞いた話をお披露目し。

「そうかなー。人生の張りって何かな。
とりあえず僕はー。おかげさまであったかくて美味しいご飯、美味しいカクテル、初対面の人とのお話を楽しんでるよ!」

頭を下げる必要は無いとばかりに首を揺らし。彼の言う、張り、には及ばないかもしれないが、彼の存在でこんなに良い思いをしてる客が居るとばかりに笑いかけ。

ゲーゲン・アングリフ > 「そうですね、その辺りはお好きなように。
 ……と、言いたいのですが。先輩というのは、少し面映いですね。
 えぇ、もちろん。ゲーゲンです。ゲーゲン・アングリフ」

よろしくお願いいたします、と頭を下げつつ、名乗る男。
相手の名前をしっかり覚えつつ、その名前を、口の中だけで何度も反芻し。

「ははははは、魔法で作れれば簡単ですが、味気ないですね。
 それは、シェイクを必要としないものなので、こっそり作るのに最適なんですよ。
 ……それはそれは。その言葉を貴女に授けた人は。
 さながら賢者のようなお人なんですね」

ほぅ、と。相手の口にした言葉の深さと重さに、男が感心したように目を見開く。
恐らくは、そういうことを教えてくれる人に恵まれたのだな、と。
少しのうらやましさと、出所の分からない嬉しさにまたほほ笑みつつ。

「そうですねぇ……。将来の目標や、自身の成長とか……。
 ははははは、そう言っていただけると。
 何よりも嬉しいですね」

明るくまっすぐな言葉に、男はかすかに照れながらも。
素直に感謝し、再度頭を下げる。
照れてはいるものの、やはり嬉しいのか。
今まで以上に目が細まっていた。

タピオカ > 「ゲーゲン。よろしくね!
アングリフ……。魔導書の名前みたいなファミリーネームだね。1ページ目に詩が載ってて、2ページ目に魔法陣が載ってるの」

名前を受け取れて嬉しそうに声音はずませ。
年上であっても呼び捨てる気安さ。
相手の名字の響きが気に入ったのか、その響きだけで連想させられる本を食事片手間、スプーンとフォークを置いては、指で四角い本の形を空中でかたどったりして身振り手振り。

「ふふ!……よく本を読む人だったよ。手はしわしわなのに、どんな魔物でも剣を片手に蹴散らしちゃう、背の高い僕の親戚のおじいちゃん。……たぶん今は大きなフェルトのテントの中でリュートでも弾いてるんじゃないかなー」

相手に伝えた言葉を発した人を思い出すように宙を眺め。
その人となりを告げると、軽く頬杖ついて。

「うーん。ゲーゲンの目標だったり成長なら、今からでも設定できるんじゃないかな?
そうしたら、今から人生が張る!
……ねえねえ、何か無い?この店の支店をだしてやるー、とか。可愛い街の女の子と年の差デートする!とか」

目標も成長も、相手の過去でなく今と未来にあるとばかり。
酒精の勢いもあるのか、相手の顔を覗き込むようにあれこれお節介。思いついた先から言葉にし、ぴ、と人差し指立ててみせ。

ゲーゲン・アングリフ > 「魔導書、ですか……?
 私は見たことはないですが、そういう感じなんですか」

相手の例えに、男はへぇ、と興味深そうに問う。
相手は冒険者ということもあり。男は魔導書について。
そういうものなのか、と感想を抱く。

「そうなんですね。……なるほど。
 タピオカさんにとっては、大事な親戚の方なんですね」

楽しそうに語る相手のことを見ながら。
男は、洗い物を終え、軽く手をぬぐう。
そのまま、他の客がいないのをいいことに。
目の前の少女との会話を楽しむことにしていく。

「どうでしょうねぇ……さすがに、歳が歳ですので。
 ……ぷっ。あはははは!
 なるほどなるほど、それはいいかもしれないですね」

そうして、いきなり相手が口にした言葉に。
男は思わず声を上げて笑ってしまうが。
そこで、今までとは違う。歳相応とも言える、ややくすんだ笑みを浮かべ。

「例えば、タピオカさんがデートに付き合ってくれる、とかですか?」

などと、わざわざ言い。軽くウインクなどしてみせる。

タピオカ > 「歳歳言っちゃだめー!そんなに歳のことばっかり言ってたら、ゲーゲンは歳に食べられちゃう。逆に歳のほうを食べてやるの!」

再び食事の手を止めて相手に向き直ると、両腕で胸の前でバツ印をつくってやり。そのまま身体ごと首を振りながら、相当な無茶振りと勢いまかせの冗句をこめた事を言って。加齢を、なにか食用可能な魔物のように扱って戯れ。

上がった笑い声に、自分も一緒に笑って。

「でしょうでしょう?もうすぐ春だし、お出かけする場所はいっぱいあるよー?
――って、僕!?」

得意げに手をひらひら揺らして、柔い陽射しの中にてゲーゲンとその相手が連れそう様子を想像するように店の天井見上げ。――ていると、ウインクが送られて目を丸くし。

「えへ。じゃあ、お付き合いしちゃう!
――ねえ、ゲーゲン。……今日は、どこに連れて行ってくれる……?」

そのまま楽しげに笑みかけると、椅子から降りて。
まるでデートで待ち合わせして、腕を組んで歩き始めるカップルのように。近づいて、するりと相手の片腕をとって自分の腕と絡ませる。肩に頭を預けながら、上目遣いでデート先を尋ねてみせ。

ゲーゲン・アングリフ > 「はぁ……。そ、そんなものですかねぇ……」

相手の勢いと言葉に、男はたじろぎつつ。
苦笑を浮かべてみせ、なんともいえぬ歯切れの悪い返答。
さすがに、歳には勝てない、という思いはそう簡単には払拭できないようで。

「そうですね。もう少ししたら暖かくなってくるでしょうし。
 ……おや、ご迷惑でしたか?」

うんうん、と頷きつつも。相手が驚けば、男は申し訳なさそうに問う。
当然、男としても冗談半分だったので。ここで話は終わりか、と考えていたのだが。
思わぬ返答に、男は軽く驚き、一度咳払いをする。

「付き合っていただけるとは、光栄ですね。
 ……う~ん。そうですねぇ。とりあえずは。
 今日はもう夜ですし、デートは日を改めるほうがいいかもしれませんね」

相手が腕を絡めてくるのであれば、男は、わざとらしく天井を見ながらそんなことを言う。
しかし、相手が更に体を密着させてくれば。
男は、やや真剣な面持ちになり。

「……タピオカさん。よろしければ。
 今日はウチの店に泊まっていかれませんか?
 外は……寒いですし」

そのまま、男はそう言って、相手の額に軽くキスをする。
もちろん、この提案は下心ばかりのものでもない。
もとよりそこまで流行っている店でもないし。
寒空の下、少女をお見送り、などというのは。
少しばかり、男の良心が痛むからこその提案であった。

タピオカ > 「ふふ。もちろん付き合うよー!
……あ。もしかして今照れた?……照れてくれた?……なんてー。
――うーん残念。一緒のお出かけはお預けだねー」

ぎうぎう。絡めた腕を楽しげに自分の身体にくっつけながら、白い八重歯を見せて笑い。咳払いの様子を見れば、自分のような彼からすればまだまだ女子供とのデートに何かしらを感じてくれたような気がして。嬉しそうに煽りつつも、ちろりと小さな舌先を出して。
如何にも残念そうに、ごろごろと肩に預けたままの首を転がし。

「ん……っ。
……へへ。嬉しいな。それじゃあ、お言葉に甘えて泊まっていくよ。
部屋に……。案内してもらっても、いい?」

額への口づけの後は、先までの冗談めいた雰囲気は霧散して。どこか淑やかな、はにかむような笑顔になる。親愛のキスと申し出に嬉しそうに。彼の肘を胸元へ寄せながら。小首を傾げるようにして見つめ。

ゲーゲン・アングリフ > 「まぁ、そうですね。
 タピオカさんみたいに可愛くて、しかも若い子に……。
 こうまでも親しく接してもらうなんて、なかなか無い経験ですので」

これだけ近くては、誤魔化してもバレるであろう、と。
男は即座にそう判断し、素直に照れたことを告白する。
一緒のお出かけ、に関しては。どうせなら、ちゃんと計画を立ててからだろうか、と思うのだが。
実際そうなった場合、どこに連れて行っていいのか。
その知識はまったくない男なので、内心かなり困ってはいる。

「えぇ、もちろん。料金はいりませんので。
 どうせ、ほぼほぼ店主の道楽みたいな営業ですしね。
 では、こちらへどうぞ」

提案は自分からしたことなので、料金に関しては気にしないでくれ、と。
そう言いつつ、男はカウンターから、部屋の鍵を手に取り、相手を連れて二階へと向かう。
短い階段を登れば、すぐに扉が並ぶ廊下があり。
男は、その一番奥の部屋の扉を開ける。
そこには、貧民地区の店らしい、狭い寝室があったが。
あまり宿泊で利用する客はいないのだろう。
部屋は清掃が行き届いており、微かに、甘い匂いが漂っている。

「シーツは今日、昼間天気が良かったので。
 干したてですから。大分寝心地がいいと思いますよ」

自分の仕事に自信があるのか。
男はそう宣言し、得意げに胸を張った。

タピオカ > 「よーし。ゲーゲンの気を引くことに成功!
あはっ!……可愛いなんて言ってもらえて嬉しいな。
また今度、楽しいデート、しよ?」

空いてる片手で、ぎゅ、なんて拳握ってひとり喜び。
おでこへの口づけのお返しとばかり、背伸びして頬に口づけ。それはデートの約束みたいに、柔い唇が触れ。

「ありがと!
……わ、きれいにしてるんだね……!
いい仕事してる……!」

彼の厚意も嬉しく、その喜色も隠さずに弾む声でお礼告げて。2階の奥にある寝室へ。貧民地区にある宿とは思えない小綺麗さに睫毛を弾ませる。
言われるまま、しゃがんでシーツに手を伸ばし。
その清潔な色と、昼間の太陽の名残熱がどこか感じられるような布地の触れ心地に瞳を細めて。

――マントを壁際にかけると、ベッドのシーツの上にぽふ、と腰を降ろし。気持ちよさそうに伸びをする。

「ここならよく眠れて、明日の朝気持ちよく目が覚ませそう……!
でも……眠る前に。
……ね。ゲーゲン。デートの前の前夜祭、僕としてみない?ゲーゲンから見たら、僕はまだまだ、子供だろうけど……。
それでも、付き合う男の人を喜ばせることなら、できると思うから……」

足を組んで、ぐっと背中を弓なりに。
そのままシーツに身体を沈め……ることはせず。
一度立ち上がると、そばに居る彼の口元へと、淡くキスを触れさせ。甘い声で囁きかけつつ、その場にしゃがみこむ。その顔の高さはちょうど、相手の股間の部分。ほの赤い顔で相手を見上げ。叶うのなら、口淫奉仕をはじめようと。

ゲーゲン・アングリフ > 「ははは。タピオカさんは元気ですね。
 えぇ、そうですね。その時は色々とご指導をよろしくお願いいたしますね」

どこまでも明るい相手の振る舞いに、男は絆されてしまい。
相手の頬へのキスには、きょとん、とした表情。
さすがに予想外だったのか、少し赤面してしまう男であった。

「ウチの店だと、泊まるお客さんは少ないので。
 気を抜くと、すぐに部屋が汚れるんですよね……。
 いつ、どんなお客さんが来てもいいように。
 清掃は念入りにしておきませんと」

仕事を褒められれば、どこか嬉しそうな男。
そのまま、相手がベッドに座れば。
さて、と。部屋の状況を再度確認しはじめるのだが。

「……お、っと。その……。
 いや、それは……実に嬉しい申し出なのですが……」

次の瞬間、相手からの大胆な申し出に。男の動きが止まるが。
ひょい、と相手のことを持ち上げ、ベッドに運ぶと。
そのまま、軽く口付けをし。

「……それは、また次にお会いした時の楽しみに取っておきましょう。
 正直、私もタピオカさんのような可愛らしい少女に、というのは。
 魅力的なご提案だとは思うのですが。まだ、一応勤務中でございますしね」

当然、下心が無かったわけでもない男ではあるが。
ここまで話が順調だと、なにやら、相手の優しさに付け込んでいる気がしてしまったらしく。
しかして、微妙に未練があるのか、表情には口惜しさも見え隠れ。

「……明日の朝食は、なにがよろしいでしょうか?」

とはいえ、そこは勤務時間内という事実で理性を奮い立たせる男は。
相手の頭を軽く撫でながら、そう問いかけるのであった。