2021/02/20 のログ
ご案内:「王都マグメール 貧民地区」にティアフェルさんが現れました。
ティアフェル > 治安は王都の中でも特に悪く、毎日多くの事件が起きている。

――その通りだなー。本当にその通りだなー。
 この地域を語る場合に注釈として必ず添えられるその一文は一歩進めば即座に実感できる。
 碌すっぽ舗装もされていない舗道の両脇にはゴミ、人、動物の死骸。若い女が通りすがろうものなら――。

「ハイ来たー。お馴染みィー」

 どこからともなく湧いて出る、行く手を阻んで『ちょっと付き合えよ』とこちらの意思を完全に無視して絡んでくるゴロツキ。そして、近くにいたところでまったく頼りにならないどころか、下手したら無法者に加勢しだす勢いの衛兵――。毎度お馴染み過ぎるけれど。

「……うんざりはしてくるわよね……。
 ――なんて暢気にぼやいてる場合でもないか……っ、ちょっと! 行かないに決まってるでしょ! 付き合う訳あるか! いやいや、普通に路地に連れ込むなー!!」
 
 ぎゃんぎゃん喚きながら、二人のゴロツキプラス便乗犯、巡回中の筈の衛兵に取り囲まれて、腕を掴まれずるずる引っ張られていきながら、

「ちょおぉぉー、乙女のピンチですけどぉぉー?!
 ですよねー! ガン無視ですよねー!!」

 一応繁華街付近の為それなりにいる通行人に無駄を承知で訴えてはみるが、目線を反らすのはまだいい方か。
 いっそ参加しようかなって迷っているヤツ、笑って見物に混じろうとするヤツ、とそんなラインナップでお送りされていた。
 そんなことは判り切っていたが、やっぱりな、期待できねえ、と思わず肩が落ちる。

ご案内:「王都マグメール 貧民地区」にティエラさんが現れました。
ティエラ > 「見かけるたびに、何かしらに襲われているような、気がするわね。」

この区域に住んでいる身としては、治安の程は良く知っているのだけど、見かけるたびに何かしらの問題に捕まっている人を見ると、軽く呆れに近い吐息を零す。
ごろつきに、不良衛視、碌でもない男たちに確りがっつり捕まっている女性。
久しぶりには見るけれど、確かに知り合いであれば、見過ごすわけにもいかなくて、裏路地に連れ込まれる様子、騒がしく大きく騒いでいる彼女を見やる。

「私の連れに、何か御用でも?」

之でも、こう見えても―――女は、この周囲にそれなりに影響力ある組織のメンバーである。
こんな所にあるという事は、当然のごとく碌なものではないのだけれども、それは重要なことでは無い。
今大事なことは、此処で、ごろつきたちに対して、衛視達に対して、強気に、上から出ることが出来るという事だ。
それに、別に威を借りているわけではない。女自身、組織の幹部であるのだから。
目の前の彼女の知ることでは無い―――筈だ、彼女が知っていたとしてもまあ、それはそれで、構わないと思う程度だが。

「貴方は、誰の許しを得て、このような、事を?」

ごろつきに、フェイスヴェールの上から、微笑みを零して見せる。冷たく冷えた笑みは、切り裂くような害意。
手を離さないというならば、相応の目に会ってもらう事になる。
ゆるり、ゆるり、と足を滑る様しつつに歩き、女を捕まえる男性たちの方に近づく。
懐から取り出すのは、数枚の符。
否定をし、襲い掛かるならば、魔法で、迎撃をする気は、満々だ。

―――むしろ、攻撃してくれた方が半殺しにできるので、嬉しいかしら、とか。

ティアフェル >  特に衛兵に関してはお前は一体何の巡視をやってんだよ、と心底罵倒したい気分で、もうヘルプなんて求めてる場合でもないな、と決し、

「―――いーわよ、相手してやろーじゃない。萎えたい奴から前に……って、え?」

 ふうっ、と嘆息を吐き捨てると腕まくりをしてスタッフを構えた――ところで。
 諦めかけていた横槍が登場した。地獄に仏とかいうやつかと、そちらを振り返ると、

「やー、おねーさまー! わーい、元気ー?」

 お、見知った顔、と剣呑な表情をぱっと明るませて非常に能天気にひらひらと手を振り始めた。

 そして形勢逆転。相手が女性一人だということにも関わらず分が悪い、ということはさすが、スラムの住人。速やかに察したらしく。表情を引き攣らせ、舌打ち交じりに、捕まえていた女の手を離し。
 別にからかっていただけだ、とか、ちょっとふざけただけだ、とかなんやかんや言葉を濁して、そそくさとフェードアウトの構え。衛兵はいつの間にかいち早く姿が見えなくなっていた。フットワークの軽さだけは一流だ。

 かくしてあっさり解放された訳で、掴まれていた腕をぱっぱと払って、たた、と軽く駆け足で彼女の方へ寄ってくと、

「お久しぶりー、お変わりなーいー?」

 にこにこしながら、もうゴロツキ連中には目もくれず愛想よく尋ねかけていた。

ティエラ > 「―――少し、フラストレーションがたまっていたのに。」

大の男が情けない、女に少し凄まれた程度で、逃げ去る軟弱さに、今度は男性の態度に呆れの吐息を零す。
スタッフを持ち上げて、きしゃーとか、そんな風に威嚇をしている彼女。自分に気が付いて振り返るのが見えた。

「お久しぶりね、ティアちゃん、元気、していた?」

ひらひらと手を振る彼女に、やっほーと、褐色の手を持ち上げて手を振り返して見せた。
ごろつきたちの顔は覚えた、後で組織の組員に始末をして貰うことにしよう、衛兵の方も同じく、だ。
フットワークの速いサルたちはまあ、良いや、と思いながら、ローブの中に符をしまい込むことにする。

「変わりはないけれど、ダメよティアちゃん?可愛い女の子が来ると、基本的にエロ猿が暴れてくるのだから。」

にっこにっこしている彼女に女も近づいて、やっほ、と軽く挨拶。
彼女はこの周囲に何の用があるのかどうかは判らないが、よくこの辺りに来る事は知っている。
だから、一寸軽く注意をしておくことにした。

「いつでも私が、いる訳でもないし、ティアちゃんを守れるとは限らないのよ?」

ねえ?と、怪我が無いだろうか、と彼女の腕とか、足など、色々確認を、と、視線を動かしてみる。

ティアフェル > 「おねーさま、本音、本音。
 駄目だよー? ゴロツキ相手に発散させたろって。解るけど」

 本音駄々洩れですよと思わず突っ込み入れてしまう。
 ともかくも、ヘタレ連中で穏便に片が付いた。面倒なことはさっと終わるに限る。一件落着してほーっと安堵。後は別の女性に飛び火しなければいいが……これ以上のことはどうしようもない。

「うん、元気元気ー。今日も仕事だよー。
 なんせこんな所まで遠征してくるヒーラーってそんな多くないもんだから」

 後衛職はひ弱な場合が多い。大体は比較的安全な地域で施術を行っている場合が多数。けれど、呼ばれればどこへでもやって来るゴリラ習性なものだから、今日もゴロツキのたんまり湧いているこんな所にまで。
 微苦笑しながら頬を掻いて。

「まー。仕事だから仕方ないわよ。絡まれてもどつき返すヒーラーって存外少ないものねえ」

 一応冒険者の端くれ。相手が悪いとボコボコにされてしまうこともあるが、それにもめげずに今日も所かまわずよく働いた。よく、助けに入ってくれる友人等には云われるものだ。いつも助けられる訳ではないのだから、と。
 でももとより助けが来なくてもどうにか対処はできると、無傷な様子で視認の瞳にぐっとガッツポーズしてみせ、へらっと相好を崩し。

「まー、そんなことより今日はお暇? せっかくだし遊び行こー?」

ティエラ > 「あら、思わず零れちゃっていたかしら?ふふ、危ない危ない。」

久しぶりの突込みに、女は、フェイスヴェールの前に手を、口元に持ち上げてコロコロ笑って見せる。
安堵している様子を見れば、良かった、と素直に思えるのである。

「私も、元気よ。
 ―――あら、この辺でお仕事なの?……確かに、仕事であれば来るのは自然ね。
 それなら、せめて、誰か護衛でも……ね?心配よ?」

彼女は仕事を受けて此方に来ているようだ、冒険者というのは様々な依頼を受けるものだ、だから、彼女はこの仕事を自分から受けたのだろう。
危険度や、こうなる事、等もやはり彼女は織り込んでいると思われるのだけれども、友人としては、彼女のおねーさまとしては、心配になってしまう物だ。
頬を掻く様子に、目を細めて、眉根をひそめて。

「そもそも、此方に来る仕事を受ける冒険者自体が、少ないものね。」

彼女は、自分以上に良く知っているのだろう、ヒーラーという後衛職は、下手をすれば一般の成人男性に後れを取る事さえある。
現に、冒険者として現役の彼女も、複数人のごろつきに捕まったりしていた。
彼女が納得ずくでも、気をもむ方としては止めて欲しいと思うが言えないのが歯がゆい。
元気なガッツポーズに安どのため息と、呆れのため息が混じってしまいつつ。

「ええ、私も帰って来たばかりで、少しお腹ペコペコなの、遊びましょうか、ご飯も一緒に。」

良いお店、現役の冒険者の目線で教えてくれないかしら?
と、ウインク一つ、して見せる。

ティアフェル > 「え、うん、なかなかザルでしたけど?」

 むしろ隠す気の方があったのかしら、などと思っていたが。鷹揚に笑っているので、そういうおねーさまだよなということは判ってたと再認識。

「それは何よりー。
 そうそう、どこの地域でも傷病患者は出るものだけど、皆なかなか来たがらないから。
 護衛ねー。そうすると分け前が減ってしまう……」

 ただでさえここら辺はリスクの割に支払われる額も低めなのだ。それでも、誰かがやらなければ患者の状態は悪化してしまう。
 ご心配はありがたいが死にやしない、とひらひら手を振る。
 ある程度はこの地域にも慣れっこだ。日参状態の割にはトラブルに巻き込まれる確率も低い方だろう。

「まーねー。仕事に飢えた新人には荷が重いし。それ以上となると割に合わないってことになるから」

 最悪の場合、襲われた場合貞操は死守できる。相手を不能にできるという裏技を持っているからだ。暴行を受けたところで死なないように回復も使える。だからと云って厄介ごとは勘弁してほしいには違いないが。

「やった。じゃ、行こう行こう。んーと、少し歩くけど平民地区に近い方が落ち着いた店は多いかな。ごはん…となるとガッツリ系?
 今日はお魚がいいかな、わたし。パエリアとかどう?」

 うぃうぃ、とお勧めをとの指令に了承して、取り敢えず自分の食べたいものが思い浮かんでしまう。
 この先に魚介類がおいしい店があった筈だと歩きながら。

ティエラ > 「だって、見せないと判ってくれないんですもの、頭の悪いごろつきとかそう言うのは特に。」

隠す気があれば、隠す。誰にも知られないように心の奥に秘する。でも、ごろつきなど頭の悪い人はそう言うの察する能力が決定的に低いのだ。
だから、平然と傷を付けたりして来るものなのだと、女は考えている。
そう言った輩には、判りやすくしなければ、判らない、笊になるのは仕方のない事なのよ?なんて、首を傾いでみせる。
酒場のエロおやじたちが、半裸の女が踊るところを見てむらむらするのと同じような感じよね、と、そんな追加。

「此処は、マグメールでも、危険な所、に分類される場所だからね。来たがらないのは仕方ないわ。
 それに……、分け前。分け前よりも身の安全と言いたい所だけど、此処に来る依頼と考えれば、報酬も低いだろうし。
 ティアちゃんの生活費も考えると、か。」

彼女の言葉に、大体は判った。そもそも、此処にいて、ヒーラーが必要というのは、治療院などに掛かる金すらない。
生活に困って、平民地区から転がり落ちた人等、金に困っているものが大半なのだ。
此処にいて、金に困っていない物は、自分と同じくやくざ者、盗賊など後ろ暗い者ぐらいだろう。
心配は出来れども、彼女の生活を脅かすほどのことは出来ないわね、と、長く息を吐き出す。

「あぁ、そういう理由も。
 ―――聖女様よね、貴女。」

追加で言われる言葉、賃金低いなら、冒険者のランクが低い物が受けるべきだが―――ここに来るには実力が足りない。
負の連鎖という物なのだろうある程度実力があって、安い値段でも動ける冒険者。
条件が積み重なって限られてしまえば、彼女が受けるのも納得が出来る。
だから、それらを統合し、彼女の行動を鑑みた感想を一つ。
普通の冒険者なら、見向きもしない依頼を、人を救うという事で受ける、自分の身も顧みない。
控えめに言っても、聖女間違いなしだ。自称ゴリラだが。

「そうね、しばらく山の方に居たから、野菜とかお肉は気分じゃないし、パエリア、良いわね。
 其処にしましょうか。
 久しぶりのご飯だし……おねーさん、奢っちゃうわ。得点稼がないとっ。」

ふふ、と笑いながら、彼女の提案に乗ることにする。
先程の話を聞いていると、割り勘とかそう言うのは、おねーさまとして両省は出来ないわね。
お金を持っているものだから、と。ティアフェルの後を追う。

ティアフェル > 「そもそも理解を得ようと思っていた素振りがあまり……」

 身受けられなかったと遠い目。しかし、ああいう連中に何を分からせようとしても無駄というのはよく解る。
 今回は無駄な労力を要しなかった辺り、まだ頭のいい方だったかも知れない。

「わたしもねー……受けなくても回るならパスするしなー。でもそうもいかないから、半分ボランティアよね」

 この地区の仕事しかない訳でもないけれど、やはり手が足りないのはこの周辺だ。患者の状態を聞いて、誰かやるだろうと放っておけたらそもそもこんな職種は選ばない。
 たまに護衛を雇ってまでやってくるようなボランティアバリバリのヒーラーや神官もいるにはいるが、そこまで献身的にはなれない。稼げなきゃ困るという中途半端な結果。

「いやいや、聖女から苦情来るって。
 わたしはただの自己満足だよ。偽善だって云われても否定する気もないし」

 本当に他者を思い遣る自己犠牲精神でもない。ただ出来るし、ほっとくのも後味が悪いからできる範囲でやってるだけ。そもそも仕事じゃないとこないのだから、完全ボランティアで動いている聖人君子とはまったく違いますと、微苦笑して首をゆるゆる振った。

「そうなんだ? じゃあ海鮮しよー。今日はなんか海老食べたい海老ー。
 えー? 前もご馳走してもらっちゃったし立て続けに悪いよー…?
 むしろ今日はわたしがって思ってたのになー」

 またご馳走になるにはさすがに悪いと少し眉が下がる。むーと悩まし気にアホ毛を揺らめかせた。例え一件一件の報酬は低めでも数をこなしているので一時期のようにひっ迫はしていないし。
 ともあれ、こっちこっち、と平民地区に近い飲食店街へと案内する。通りの片隅に少し目立ちにくい小さな鉄看板の下がった内装は漆喰壁に白木のテーブル、暖色の少し抑えめの照明という食堂へ着くと、客足も落ち着いてきたところで、カウンターはなくいくつかあるテーブル席が二つ埋まっている程度。
 窓際に案内されて落ち着くと、海鮮系の目立つメニューを給仕が渡してくれる。

ティエラ > 「……えへ?」

何やら色々察している様子、バレてるので、此処はあざとく胡麻化すことにした。
ああいう●●●●の様な男達と相互理解が出来るとは思ってないし、出来てしまったら同類でしかない、そんなのは嫌だ。
追い払うのに、一番手早い方法なのでしました、と白状しなくても判ってくれるのだろう、だからそこで終わりにしておきたい。
そんな、女でした。

「ふふ。その優しさでも十分よ。」

パスをしたい、と言いつつも、結局は受けている、冒険者の依頼というのは、基本的に自分が受注しなければ良いだけの話だ。
それを、敢えて受けている時点で、彼女は十分に優しい人だと判る。
お金だって、採算度外視になる事も、多いのだろうから、と。

「自己満足結構。
 行わない善より、行う偽善―――貴女は、偽善であろうとも、誰かを助けているし。
 助けられたその患者からすれば、貴女は正しく聖女でしょうに。
 それに、私の事を、女神さまにした事、覚えてるんだから……じゃあ、私の聖女様で通してしまいましょうねー。」

女から見れば、彼女の行動は、考え方は、十分聖女といって良い。本人は金の為と言っているが。
その根底には、命を尊んでいると思えるのだ、お金を貰う事を理由にしつつ、全力で人を助けている。
彼女は、お金が無いから、と人を見捨てることはしないだろう、絶対に。よしんば、無かったとしても、出来うる限りのことをする、そんな人物だと視ている。
正直に言えば、彼女との会話などは、いつも心が洗われて嬉しい。
男達の不躾な視線とか、人には言えないお仕事とかの跡とかは、彼女の高潔な魂に触れたいと思うのである。

「エービ。エービ。ふふ、楽しくなってきちゃったわ。
 わるくなーい、わるくなーい。だって、私がしたいのだもの。
 奢ってもらっちゃったりしたら。うれしくなって、キュンキュンしちゃって、思わず襲っちゃうかもー?」

眉根を下げて、アホ毛がしんなりするので、そんなしょぼんとした背中にギュッと抱き着いて、頭をかいぐりかいぐり。
アホ毛ちゃんもお久しぶりね―と優しく、梳いて見せる。
あと、寒い日はこういう風にくっつくと温かいわね、なんて耳元に囁きながら付いていく。
到着したお店は、とても静かで雰囲気のあるお店、お仕事―――踊り子の方で考えるなら、肌を隠して、しっとりした踊りが良さそうとか、職業病が。
案内されるままに、向かいに腰を掛けて、先にメニューをティアフェルに差し出そう。

「とてもいいお店、ね。
 取り合えず、ティアちゃんのおすすめを聞きたいな。エビのパエリア、ともう一つ頼んで、シェアしあいましょう?
 そうすれば、二人でいっぱい美味しく食べられるし。」

ティアフェル > 「うふ」

 笑って誤魔化すという古典的な技に――乗ってみた。
 何なら口元に小さく握った拳をかざしてブッたポーズを極めてきっちり乗っかった。
 そんな終了が妥当だとわたしの中の計算機が弾き出したのだ。

「うーむ。なんというわたしに甘い意見。
 とはいえ、褒められるのは悪くにゃい。ありがたくちょうだいいたします。
 聖女だなんてそんな。明日からいっちょマドンナと主張してみよう。……見える、激しいツッコミの嵐が見える……」

 偽善的だと溜息をつかれそうな性質だと自認していたが。そんな風に受け止めてくれる人もいるらしい。それでは、余り卑屈にならないで、そのありがたい意見を受容しておく――までは良いかも知れないが増長するのはまた違うだろう。
 けれど、褒めてもらって少し照れもあるのか、大きくでてえっへんと胸を張る。勘違いだ、自惚れだと人は云いそうなものだけど。
 実際は貧乏くじ何てひきたかないと思って生きてる普通の俗人だが、なるたけ聖女ぶってみようかとその気になっていた。

「海老と貝が好きー。海の幸たっぷりのパエリアにーパスタ、アクアパッツァもいーなー。
 え、何それ脅し……? ぅっわ……」

 奢り連続何て若干お困り気味だったが、不意に背中に柔らかくてあったかい感触といい匂い。『乳でか』と内心での感想。
 頭を撫でられてなんだかペット状態で。小さく驚いた声を上げたが、アホ毛を撫でられて擽ったそうに震え。耳元で囁かれると一層くすぐったくなって、確かに暖かい、と面映ゆそうに笑った。
 
 そして、落ち着いた先の店でメニューをあれこれ思案。色々美味しい物はあるけど、と考えて小首を傾げてざっと目を通したメニューでいくつか辺りを付けてそちらに見えるように広げて示し、

「んーと、じゃあ、分けっこするなら、アクアパッツァとか、ブイヤベース、クラムチャウダーもおいしいよ。
 パスタもおいしいけどパエリアにするからなー。
 あ、オイスターもまだ時期だからアリかな。苦手じゃなければ」

 どれがいい? とお勧めを並べて。

ティエラ > 「わ、可愛い。」

笑って誤魔化す、彼女も乗ってくれた。あざとい迄のぶりっ子なポーズに、彼女の可愛らしさに、ふふ、と目を細める。
いいものを見れたわぁ、と、大満足にこの話題は終わったのだ、さらば……何の話をしていたかしら。
●●●●は、記憶から、あっさりと消去された模様。

「流石に、マドンナは、突っ込もうかしら?
 私としては、何方かと言えば、ティアちゃんは、可愛い方が強いのよ。
 美人ではあるのだけれど……セクシーというには、活発過ぎるわ?
 目指すなら、手伝うのだけども?」

心意気は聖女、本質はヒーラー、職業は冒険者の彼女、マドンナというのは、流石に突込みがあると思われる、というか、今速攻で突っ込んだ。
というか、寧ろ、自分の職業、踊り子の様な存在が良く言われるものであるし、こっちに来るなら、全力でマドンナに仕立て上げても良いわよ、と。手招き手招き。
卑屈にならずに。えへんと胸を張る、そんな姿には、それで良いわ、と。自分への評価を正しく胸に刻み込んでくれるのは成長するわよ、と。
彼女の場合は、意識せずに、その行動が聖女なのだわ、と、思ってる。

「蟹も食べたくなるわねー。海の幸は、此処は新鮮なものが取れるから、ホント良いわね。
 脅し……うん、脅し。がおー。
 ほら、私は薄着が多いから、人肌が恋しくなりがちなのよ。」

魔法の力で、寒さなど感じないローブを身に纏っている女は、それでも、薄着と嘯こう。
背中から抱きしめて頭を優しく撫でて、震えるアホ毛ちゃんをこしょこしょ擽って遊んでいく。
当然、店に付けば離れて、歩くのだけども。

「そうね……パエリアがメインとして、私はクラムチャウダーにしましょう。
 折角お勧め頂いたし、オイスターのクラムチャウダーに。
 あとは……白ワインを。」

オイスターが時期ならば、それを入れたクラムチャウダーがメニューに有ったので、其れにすることにした。
彼女がパエリアを選んでくれるのだろうし、其処でシェアをすればいいわね、なんて。
そして、海鮮物と言えば、白ワインである。グラスを二つ注文する。