2020/11/13 のログ
ご案内:「貧民地区の冒険者ギルド」にティカさんが現れました。
■ティカ > 命からがら山賊のアジトから逃げ出して、ヘビやらカエル、場合によっては蟲さえ食して歩き続け、ようやくたどり着いた王都マグ・メール。検問にて変に止められたりしないように予め最低限の身なりを整えたのだが、この時期の水浴びは凍え死ぬかと思うくらいに過酷だった。
そんな努力の甲斐あって問題無く王都に入る事の出来たティカは、かつての朗らかで屈託のない物とは異なる少し引き攣った愛想笑いを浮かべながら道を尋ねて冒険者ギルドを目指し、貧民街の入り口付近に建てられた石造りの頑丈そうな建物にたどり着く。
山賊から奪った貨幣を用いて冒険者登録を行い、今日くらいは馬小屋などではなくちゃんとした寝床で身体を休めようと宿の利用料を聞いて酷く迷う。
「………少し、考えてみる」
力なくカウンターを離れ、壁際のベンチに座り込む。
溜息一つ吐き出してから、改めて考える。ティカの希望は一人部屋。しかし、これは稼ぎの安定してきた中堅冒険者が主客という事もあってそれなりの値段がする。今の所持金で泊まれない事もないが、数日泊ればそれだけで素寒貧になってしまう。
となれば、誰とも知れぬ相手との二人部屋、四人部屋の共同利用が選択肢として上がるが、それであるなら駆け出し冒険者御用達の雑魚寝部屋に飛び込んだ方が金銭的には良いに決まっている。
とはいえ、軽く視線を巡らせただけでもゴロツキみたいな男ばかりが目につく貧民街のギルドでの雑魚寝は、冒険者生活を始めたばかりのティカにでも危険極まりない物だと想像がついてしまう。
ご案内:「貧民地区の冒険者ギルド」にセイン=ディバンさんが現れました。
■セイン=ディバン > 「あ~、疲れた疲れた」
貧民地区のギルドに向かいながら、そうボヤく男。
本日、久々に冒険者の仕事をして。
ギルドに報告に向かっているところ。
しかし、そこで男は気になる物……というか。
気になる人影を見つけ。
「……えっと、お嬢ちゃん?
んなところで何してんの?」
ベンチに座っているだけの人間、ということなら。
男も別段気にしないのだが。
その人影から感じる気配。明らかに、駆け出し冒険者という匂い。
更に、なんとも明るくない表情。
さすがに、それに感づけば。無視も出来ず。
男は、自然に声をかけてしまっていた。
■ティカ > 「――――こんな事でビビッてられるか。あたしは冒険者として生きていくんだ。こんなの、平気にならなきゃいけないんだ……!」
眉間の皴を深くして、両目をぎゅっと瞑って竦みそうになる小躯を叱咤して立ち上が――――ったところで、不意に声を掛けられた。
ビクゥウッ! とおもしろい程に肩を跳ねさせた小躯が、声を掛けてきた男に睨みつけるかの猫目を向けた。
「―――……るさい。お前には関係ないだろ」
いきなり激昂しそうになる声をどうにか抑え、ムスッとした表情で相手を睨みつけながら言葉を返す。片手は腰帯に差したショートソードの柄を、指先が白くなる程の強さで握りしめている。
肩にも足にも力が入り過ぎてプルプルしていて、素人丸出しの態である。
■セイン=ディバン > 「……その、なんだ。
関係あるなし、ってのは確かにあるんだが。
そんな様子で座り込んでたら、周りの人も気になると思うんだが」
ずいぶんと敵意に近いものを感じる男だが。
目の前の少女の脅威度というものを、経験から判断する。
……とりあえずは、男にとっては、そこまで危険では無いか、という判断にいきつき。
「一応、オレも冒険者なんだが。
そのぉ、なんだ。よかったら、オレに相談してみないか?
困りごと、悩み事、その他もろもろ。
先輩として、アドバイスできると思うが」
こんなところにいるんだし。っていうか、さっき冒険者とか聞こえたし。
男は、かがみこんで、相手と目線の高さを合わせてそう言う。
一応、敵意は見せず。笑顔で相手の警戒を解こうとするのだが。
この男の笑顔は、どうにも胡散臭いのが問題点である。
■ティカ > 「……………」
男に指摘され、警戒しつつも紅瞳を左右に滑らせた。
確かに多くの視線がこちらに向けられていた。
とはいえ『周りの人も気になる』なんて善意に溢れた表現とはかけ離れた、ニヤニヤ笑いを伴う下卑た視線ばかりではあったけれども。
(――――……なんだコイツ。何が狙いだ? お金なんてどう見たって持ってないって分かるだろうし、や、やっぱりあたしの身体目当てか……っ!)
短時間の思考でそんな結論へと至ったティカは、震えそうな声をどうにか抑えて
「ハ。そんな言葉に騙される奴がいんのかよ。バカにすんなよ、おっさ―――ひぅっ! な、なななななんのつもりだっ! あ、あっちいけよっ!!」
無造作にかがみ込む動きに不意を突かれて、思わず後ずさった所でベンチに足を取られてへたり込む事になった。反射的にジャッと引き抜いてしまったショートソードの切っ先を、震える手で眼前の男に向けて警告する。
いきなり白刃を閃かせたというのに、周りの冒険者達の反応は酷く軽い『おぉ、抜きやがったぜ』『ははっ、まともに振れんのかよ』『いいぞチビスケ、そのまま刺しちまえ』なんて声音がゲラゲラと品の無い笑い声と共に野次を飛ばしてくる。
■セイン=ディバン > 「……」
相手が無言なら、男も無言であったが。
相手の目を見ながら、男はクス、と笑い。
「お揃いだな。眼の色」
などと、わざわざそんなことを言う。
そうして、相手の考え事など無視して。
視線の高さを合わせれば。
なんとも、めちゃくちゃ警戒されてしまったようで。
男は、目の前で構えられた刃を見ながら、ん~、と頭を掻くのだが。
「……。
黙れ三下ども」
次の瞬間。周囲の野次に対して男が吐き出したのは、とてつもなく暗い声色での、短い言葉であった。
瞬間、周囲の空気が数度は下がるような気配。
周りの冒険者たちは、慌てて視線をそらしたりするのだが。
「あ~、一応、ほれ。
これ、オレの冒険者免許。
セイン=ディバン。それがオレの名前。
もしもオレがキミを騙したなら、キミはオレの名前を吹聴しまくっていい。
……これで、オレの善意の証明にならんかね?」
声にあわせ、自然と凄む表情になっていたそれを、笑顔に戻し。
男は、少女にそう言う。
ん? と首をかしげる様子には、嘘や偽りはないのだが。
「まぁ、下心が無い、とは言わないが。
キミみたいに可愛らしい子はキライじゃないんだ」
と。いらぬことまで言う男。
■ティカ > 一瞬きょとんとした。
不意に薄笑みを浮かべた男に同種の瞳色を指摘され、ガチガチに固めていたはずの心の隙にするりと入り込まれてしまった。その直後に男がいきなり動いたものだから、ティカの動きも大仰な物になり、その結果、ギルド内で剣を抜くといういくらなんでもまずい状況を招いてしまった。
案の定囃し立てる山賊紛いの冒険者達。
俄かに始まるお祭り騒ぎが、中年男の一声でぴたりと収まった。
「……………っ!?」
ベンチの上にすっ転がったままの小躯が真ん丸に見開いた猫目で改めて男の細身を見上げた。
周りの冒険者のパンプアップされた体躯に比べて頼りがいの感じられない身体つき。にもかかわらず、この中年男の一声で彼らの野次が消え、不服そうな気配は残しつつも日常の空気へと戻っていく。受付の娘すらももう安心とばかりに業務を再開しているのを見れば、この男はこのギルドにおいて結構な顔役なのかもしれない。
「………………」
無言のまま、警戒心も剥き出しのまま、それでも突き出した小剣の先を降ろして彼の取り出したギルド章に目を向けた。『善意の証明』この店にはまるで似合わぬ言葉は、荒くれ共には嘲笑の対象でしかないだろうに、新たな野次は飛んでこなかった。
「――――ンだよ、善意の証明って。バッカじゃねぇの」
舌打ちを一つ零して小剣を鞘に納め、にこりともせずに吐き捨て
「――――やっぱりあたしの身体が目的なんじゃねーかっ!!」
ツッコミの右ストレートが意外な鋭さで男の鼻先に突き出された。
■セイン=ディバン > 男にしてみれば、単純に思いついたことを口にしただけの話。
ただ、それがなんだか効果的だったのは、狙い通り、というわけでもないのだが。
「……あっ」
しまった、と。男が思うのも遅い。
凄んでしまったのは、当然相手にも気配が伝わる。
あぁ、と。何かを言おうとするのだが。
とにかく、男は笑顔を慌てて作るのだが。
「……ははは」
警戒は解けず、男、困った笑み。
しかし、相手が口を開き、剣を納めてくれたのなら。
「はは、よく言われるよ。
……ぎゃふっ!?」
はっはっは、と。声上げて笑ったのもつかの間。
相手が放ったストレートは。男の鼻に見事にヒットし。
男は、大きく仰け反ることになる。
「い、いふぇえ……。
で、でも。下心は明らかにするのも誠意だと思う……」
鼻を押さえて、そういう男。
涙目。ついでに、微妙に鼻血が出ていた。
■ティカ > 「うっせぇ馬鹿っ! 変態オヤジっ! 死ねっ! 死ねっ! 死んじまえっ!!」
続く蹴りは男の長い脚を刈り、倒れ込んだ細身にストンピングの雨を降らせる。右ストレートからのローキックは奇跡的に上手く行ったが、喧嘩など子供の頃、近所のガキ大将とやり合ったのが最後という小娘の攻撃である。
鼻血の代償に拳を痛めたのか、片手で押さえてかばっているし、ストンピングも力いっぱい蹴りつけてはいるが体重が軽く、急所も狙えていないので、彼にとっては童女がぽふぽふと殴りつけて来ている程度の物でしかないだろう。
それでも油断していると、たまにクリティカルヒットが鳩尾だとか金的を狙ってくるので完全に身を任せるのは危ないかも知れないけれど。
ともあれ、男に対して不満を抱く周囲のゴロツキは大喜び。受付嬢も再びおろおろし始めるかもしれない。
まぁ、彼が本気を出せば、正式に格闘技を習ったわけでもない少女の蹴りなどどのようにでもいなせるだろうが。
■セイン=ディバン > 「いた、いたた、イタッ!」
相手に何度も踏みつけられ、男は悲鳴をあげるが。
決して反撃などはせず。
男は、そのままごろごろと一度転がり。
相手と距離を取る。
「しゃ、しゃーないだろぉ!?
と、とにかく! 困ってることあるなら。
まずは言ってみなよ!」
まずは落ち着け、と。相手に対して両手を広げて見せ。
交渉を開始しよう、と言う男。
周囲の冒険者たちは、この男に恨みや妬みもあるのか。
ボコられてるのを見て、酒盛りが盛り上がる始末であった。
■ティカ > 「ふー…っ、ふー…っ、ふー……っ、ふぅぅぅう………っ」
彼が反撃もせず、しばらくの間少女の癇癪を受け止め続けてくれたおかげで、ここに来たばかりの危なっかしいまでの張り詰めた気配は随分薄れていた。周囲のゴロツキ達も日頃鬱憤を溜めている中年男への小気味よい攻撃に痛快さを覚えたのか、好きに転がせる獲物を見る目がいくらか好意的な物に変わっている。
朱色の前髪もろとも額に浮いた汗を手の甲で拭い、小躯の割に見事な発育ぶりを見せる双丘を上下させる呼吸を整え、見様見真似のファイティングスタイルを解いた。
それでも俯き気味の小さな頭部は、未だに警戒の覗く紅瞳でちらちらと彼を観察した後
「――――――………金がねぇ」
不貞腐れた様に尖らせた唇がポツリと告げた。
更に言えばツテもないし、腕もない。駆け出し冒険者の中でも特に準備不足の、早々に姿を見かけなくなる典型のような状況に少女はいた。
■セイン=ディバン > 「あだ、あだ、あだだだだ……」
そこまでの致命的なダメージは受けていないのに。
男は、わざとらしく痛がってみせる。
いつしか、ギルドの中の空気も弛緩したものに変わっていた。
男は、その空気に満足しつつも。
そんなことはおくびにも見せず、相手の言葉を待ち。
「……あぁ、なるほど。
要するに、宿代もないし、メシもロクに食えない状況だ」
分かりやすい相手の問題に、男はふむ、と頷いてみせる。
そのまま、少し考え込む様子を見せる男であったが。
「だったら、オレが宿とメシを面倒みてやってもいいぜ?」
そこで、男は実に気楽にそう言って見せる。
もちろん、その裏に下心がある、というのあ。
相手にも既に宣言済みではあるわけだが。
■ティカ > 「バっ、バカにすんなっ! 宿代くらいあるし、飯だって食えるっ! ………すぐに無くなっちまいそうだけど」
すかさずフシャーッ!と毛を逆立てた猫の様に威嚇するが、語尾に消えた言葉が少女の窮状を示していた。
そんな折にぽんっと放り投げられた救いの提案に、思わずパッと少女の表情が綻ぶも、すぐに警戒心を取り戻した小顔がジト目を向けた。
「代わりに抱かせろってンだろ。本当に男ってそればっかだよな。くだらねぇ」
吐き捨てる様に言いつつも、踵を返すでもなく少女はぐずぐずとその場に立ち尽くしたまま。ささくれた床板を見つめる紅瞳は、その内心であれこれと考えを巡らせているのだろう。
そうしてしばしの沈黙の後に、そっぽ向いたまま
「――――………一週間分。一週間分の一人部屋の代金と、飯代。それだけくれンなら……まぁ、………だ、抱かれて、やってもいい」
ムスーッと不機嫌そうな顔が、薄く日に焼けた頬にかぁぁぁ…っと羞恥の色を広げた。
交渉ごとの基本、最初は少し吹っ掛ける事さえ知らぬ純朴さ丸出しの提案。
■セイン=ディバン > 「それは、ある、とは言い切れないんじゃねぇかなぁ」
う~ん、と。相手の言葉に。
やや呆れたような声色で言う男。
だが、続いての相手の言葉には頭を振り。
「別に、そういう提案だけとも限らないけれども。
まぁただ。それが一番分かりやすい、ってのはあるわな」
一生子飼いにされるよりはマシだと思うけどなぁ、と。
男は苦笑したまま、ならば別の対価を、と考えるのだが。
「……一週間でいいのか?
キミが仕事を見つけて、こなせるようになるまで。
まぁ、少なく見積もっても一月は必要かと思うんだが」
この男の発言に、悪意だの侮りだのは欠片も無い。
男なりに、色々と計算しての発言なのだが。
男は、そのまま相手に向かって、金貨の入った袋を差し出す。
正真正銘。一月分の部屋代と、食事代。
さらには、装備を整えるための資金も入っている。
■ティカ > 「じゃあ一か月分寄越せっつったらくれンのかよ?」
ティカに目を付けた他の冒険者が考えた様に、力づくで押さえつけてしまえば金など使うことなくいくらでも楽しめてしまう程度の身体だ。たった一晩それを与えるだけで、一月分もの生活費が稼げると考える程楽天的ではない。
一週間分だって厳しいだろうし、精々2、3日分。最悪今夜の宿と夕飯代だけに値切られたとておかしくないと思っている。
だからこそ、バカにするような調子で放った言葉に対して彼が懐から取り出し、差しだしてみせた小袋のずしりとした重さと、解いたがま口から覗く煌びやかな光にはギョッと猫目を剥く事になってしまった。
「んなっ、なっ、にゃぁぁあッ!? な、なんっ、なんのつもりだっ!? も、もしかしてこれで一生あたしの事奴隷にしようとか考えてンじゃねぇだろうなっ!?」
思わず取り落としそうになった金貨袋を慌てて胸元に掻き抱き、後退りながら問いかける。ふざけんなっ、バカにすんなっと言いながら、しかし金貨袋はたわわな膨らみに押し付けたまま。
とはいえ、これと引き換えに奴隷になるという選択肢は流石にない。
山賊の肉便器として使われ続けるよりはマシだろうし、今の自分の価値などこの金貨で十分に買えてしまう程度なのかも知れないけれど、それでも冒険者登録をしたその夜に生涯の自由を、名前すら先程目にした登録証で知ったばかりの中年男に差し出すつもりはないのだ。
■セイン=ディバン > 「あぁ、いいよ?」
相手の言葉に、男は実に気楽に言う。
虚勢でもなんでもなく。
ほしいなら、くれてやろう、と。
見下すでも、哀れむでもなく。
ただ、男は交渉の結果として、相手にその金貨を渡したのである。
「誰がそんなこと考えるか。
たかだか一月ぶんの生活費で人一人自由にしようだなんて。
オレぁそこまで外道じゃねぇぞ?」
悪党ではあるがな、と。男はクハハ、と笑ってみせる。
そのまま、男は後ずさる相手に近づき、その鼻先に指を突きつけてみせ。
「俺ら冒険者稼業ってのは。まぁ、損耗率の凄まじい業界だ。
昨日生きてたやつが、明日にはくたばるかもしれねぇ。
キミみたいな新人には、長生きしてもらいてぇのよ」
じゃないと、世代交代が進まねぇんだ、と。
男は冗談のように言いつつ、相手に視線向け。
「それと。キミの体の価値は、最低でもそれくらいはあると思う。
ま、一晩分での計算で、だが」
どうかな? と。男は首をかしげて見せる。
その様子は、もしかして、相手にとっては、苛立ちを呼び起こすようなものかもしれない。
■ティカ > 「――――はぁ……?」
金貨袋を抱いたまま、思わずぽかんと間の抜けた顔をしてしまった。
眉間に刻んだ皴も消え、引き結んだ唇も半開きで、この時ばかりは成人したばかりの素朴で未成熟な風情が覗いただろうか。
そんな鼻先に突き付けられた人差し指に、思わずギョッと小躯をのけ反らせたティカは、彼と同じ紅色の瞳をぱちぱちと数度瞬かせた後
「………おっさんみたいなのもいるんだな。ちょっとびっくりした。……っくふ。善意の証明ってやつか」
くくくっと漏れ出る笑いに小さな背筋を震わせながら、金貨袋を腰帯に、これ以上ないくらいにしっかりと括りつける。そうして改めて彼を見上げた小躯が言う。
「わかった。いいぜ。あたしの身体、一晩の間好きにしていい」
自分の身体にたった一晩でこれだけの金をぽんと与えるだけの価値があると告げられて、ちょっと照れくさそうに笑いながらも、距離を狭めた小躯がぎゅっと彼の腕に抱き着いた。
エスコートされ慣れていない、それこそ少女が父親に甘える様な所作。
しかし彼を見上げる紅瞳は少しだけ悪戯っぽい笑みを浮かべて
「怪我するようなヤツじゃなかったら、普通の娼婦にできねぇような変態的な事だって許してやらぁ」
そんな強気な発言さえ付け足してみせた。
ニカッと笑う口端に、健康そうな白色の八重歯が光る。
■セイン=ディバン > 「お、おっさん……。
ま、冒険者だから、ってわけでもないが。
それこそ、人それぞれさ。善人も悪人も、な?」
おっさん、と言われれば。男は鼻白むが。
すぐに、相手の笑みに、笑みを送り返す。
「お、話が分かるねぇ。
じゃあ交渉成立、って訳だ」
相手の宣言に、男も快活に笑う。
相手が抱きついてくれば、その腰を抱きよせ。
見上げてくる相手の頭を、軽くなでて見せたりもする。
「あのなぁ……。
ホント、オレをなんだと思ってるんだ?
あぁ、そうだ。キミの名前は?」
変態的なことなどしない、と言いつつ。
その数秒後には、視線を宙にさまよわせる男。
そこで、相手の名を聞いていないことに気づき。
男は、そう尋ねる。
■ティカ > 「ひひっ、ンだよ、おっさんって呼ばれて傷ついたのかよ? だったらお兄ちゃんって呼んでやろっか?」
あれだけ殴る蹴るしたのに反撃するどころか、過剰なまでの金貨を新人冒険者の支援などという理由でぽんと渡すこの男は、ゴロツキばかりがひしめくこのギルドにおいて異端者の様に物珍しい本物の善人なのだろう。
もちろん、心から彼を信じ切ったわけではないが、それでもこれから彼に身をひさぐことになる緊張を和らげるために、そんな軽口を叩ける程度には気を許せた様に思う。
「あっ、そっか。まだあたしの名前は教えてなかったよな。あたしの名前は……っと、ほれ」
そのまま口頭にて伝えようとした唇が一旦閉ざされ、ニッと笑みを刻んだかと思えば先程作ってもらったばかりのギルド章を、先程の彼の様に突き出してみせた。
安っぽい鈍色に輝くそのプレートに刻まれているのは『ティカ』というシンプルな名前。
それを改めて貫頭衣に押し込められた双乳の谷間に戻したティカは
「今日の宿代はこれとは別におごってくれンだよな? ここの上ですンの? それとももっと上等なトコつれてってくれンの? あ、ヤる前にメシもおごってよ。あたし、肉食いたい。ちゃんとしたやつ」
折角なので、この善人からもう少しせびる事にする。
金も無く、腕もなく、ツテもない新入りなれど、それなりにしたたかさも持っているらしい。
■セイン=ディバン > 「冗談だろ。そんな風に呼ばせてるの見られたら。
それこそ、憲兵か騎士が飛んでくるっつー」
うへ、と。男は首を竦めて見せる。
幼い少女に、明らかに兄、という歳でも無いのに兄呼ばわりさせてるとか。
悪評が広まる、どころではない。
明日の朝には、街を歩けなくなることだろう。
「ん、どれどれ……?
ティカちゃんか。覚えたぜ」
相手の見せるギルド章を見て、名を覚える男。
願わくば、この名が広まればいいな、と。
そう内心で思いつつ。相手の更なる要求に、苦笑し。
「現金だなぁ、オイ……。
そうだな。部屋はここの部屋でいいだろ。
最初っから贅沢覚えると、冒険者として成長できないからな。
ま、メシくらいは、いいのを食わせてやるさ」
やれやれ、と言いつつも。その辺り、ある程度甘い男。
空いている席に座れば、店員に、肉中心でメニューを注文する。
あとは、相手には食べたいものがあれば好きに頼め、と言いつつ。
■ティカ > 「ははっ、冒険者がンなこと気にしてんじゃねぇよ。本当、変わってンな、あんたは」
あっさりと餌付けされてしまった野良猫の如く、彼の軽口に表裏のない笑い声を返し、ここよりもちょっとお高い宿での一夜と、ここに来るまでティカの胃袋を散々に泣かせた露店の串焼きくらいには上等な食事への対価と言わんばかりに発育の良い双乳を男の二の腕に押し付ける。
ごわごわとした麻布の奥、ぱゆんっと瑞々しく弾む柔肉の感触が男の二の腕を痛撃する。晩秋の寒さを堪えて強行した水浴びによって汗と垢の臭いを落した少女の体躯が、甘酸っぱい爽香で男の鼻腔を擽る。
とはいえ彼も一廉の冒険者。そう甘くはないらしい。
少女の攻撃をあっさりといなして宿代を節約してきた。
とはいえティカとて、ずっとすきっ腹を抱えっぱなし。
ギルド酒場の食事でも、極貧少女がここ数日の間に食べた物に比べれば何百倍もマシな物を出してくれるだろう。何よりすぐに食べられそうなのがいい。
「―――ッチ、しゃーねぇ。それで勘弁してやるよ。よぉ、そこの姉さん、肉汁たっぷりのでけぇ肉頼む。後、ポトのサラダとパン。エールもジョッキで持ってきてくれよ」
冒険者ならエール。そんな偏見にまみれた思考が、別に好きでもない酒を、これから出会ったばかりの男に抱かれるための勢いつけも兼ねて注文した。
―――――そしてそれから半刻ほど後。
「っぷはぁ、食った食ったぁ。エールってやつも慣れると結構うまいンだな」
二人の姿はギルドの3階に位置する一人部屋―――給仕と共に娼婦も兼ねる酒場娘との一夜を過ごすための部屋でもあるのだろう少し広めのベッドを有する部屋へと移動していた。
ぼふっと無防備に寝台に倒れ込んだ小躯が貫頭衣の胸元をぽゆんっと揺らし、捲れた裾がむっちりとした太腿と、下帯の食い込む小股をチラリと覗かせる。