2020/10/05 のログ
ご案内:「王都マグメール 貧民地区の安酒場」にティエラさんが現れました。
ティエラ > 貧民地区の中にある酒場のうち一つ、其処は普段よりも客が入っていた。
荒くれ者多く、治安は良いと言えない貧民地区の酒場に、踊り子が来て、踊っていた。
その踊り子は、肌もあらわな服装で、褐色の肌をもち、男たちの手を避けるように、しかして、彼らの席の近くを順繰りにめぐるように踊る。
シャン、シャンと、金属のブレスレット、アンクレットが心地の良い音を響かせて鳴り、甘い花の香りのしている香水を身に纏う女。
フェイスヴェールで顔の下半分を隠し、葡萄の色の瞳は男を誘う様な流し目を贈る。
踊り子としての体は女性的な柔らかさを強調し、腰をくねらせ、時には足を上げて、酒場の客を誘うような扇情的な踊りをみせる。

 くるり くるり。

  くるり くるり。

酒場の全体を踊りの舞台とし、ほんのりと汗ばんで、ランプの明かりを照り返す褐色の肌。
乳房も、お尻も、彼らに見せるように突き出して、滑るように踊り、近づき、残り香残して去っていく。

今宵も、酒場の中、踊り子は己の腕を伸ばして振り、腰を揺らし、波のように、酒を飲む男達の間を縫うように、踊る。
時折、興奮と性欲を持て余し、飛び掛かる男もいるけれど、おさわり禁止、とばかりに、羽のように軽く飛び、彼をよけて、踊りを続ける。

ティエラ > 此処で踊るという事は、永遠という訳ではなく、時間が設定されている。酒場の主と相談して決定した時間。
と言っても、酒場の主からすれば女の踊りは、良い客寄せになるので、出来るだけ長く踊ってほしい、しかし、彼が出せる資金には限度がある。
故に、女の体力が許す間という事にしてある。一応冒険者などもしており、体力には自信がある。
と言っても無尽蔵ではないので、区切りをつけておく必要があるから。それに、疲れ切ってしまうと帰りが怖くなる。
此処は、貧民地区であり治安の悪い場所。疲れ切ってしまえば襲われてしまう事なんて、目に見えて判るから、時間を設定していた。

そして、その時間が尽きた。

「―――ふぃ。」

小さく女は息を吐き出して、最後、とばかりに、お尻を狙って伸びてくる手を、軽く叩いて見せる。
お辞儀をして、終了を全員に伝えてから、カウンターの方へ。
酒場のマスターに今回の場所代、儲けなど、もろもろを引いた額の賃金を貰う。
当然、此処での飲食の代金も含まれているので、其処までの大きな額ではない。
それでも、と女はこの貧民地区で踊るのだった。

踊り終わってから、女の指定席とされているカウンターへと腰を下ろして、まずは水を飲み始めよう。
誰か、知り合いが身に来ていないかしら、と言う期待を込めて、紫の視線は酒場をめぐる。

ご案内:「王都マグメール 貧民地区の安酒場」にティアフェルさんが現れました。
ティアフェル >  踊りが終わると、歓声や拍手も鳴りやんで賑やかだった酒場は少し静かになったようだ。
 踊りを観てから帰ろうと決めていた客も多いらしく、各々勘定を済ませて出て行くので――人気も薄くなった。
 だから、先ほどまでほとんど満員だった時にはガタイのいい酔漢たちに紛れてしまっていたその女も、酒場内を見回した紫瞳には見つけやすくなる筈で。

 さらに、「あー」と笑顔で一音を発して踊り子へ手とアホ毛を振るものだから、余程全力でスルーしようと思わない限りは目に映るだろう。
 軽い足取りでカウンターへ。そちらへ近づいて。

「おねーさまー」

 親し気な笑顔を振りまきながら、色っぽい踊り子がいたせいで客は男ばかりのむさい酒場には少々浮き気味かも知れないエプロンのような白衣の女子。

ティエラ > 人々が捌けていく、それはまあ仕方のない事なのだ、この場所には、女の肉体を見に来た男達ばかりなのだから。
そして、酒と料理を肴に女の踊りを見て帰る、彼らなりの癒しなのだろう事が判るし、女が来なければ此処は女気などほとんどない店なのだ。
そんな中、人が減って来たところで、見つかる物がある。茶色い物が震えている、と言うか、元気に振られている。
何か、と思えば髪の毛だアホ毛と誰かが言ったか、そんな風にぴょこんと跳ねている髪の毛、そして、その持ち主がこちらに手を振っているのが見えた。
それは知り合いで、この間、一緒に本を読んだ仲の彼女だ。
彼女は冒険者だけれども、此処に来るとは思って居なかった、良く、こういう場所で踊っていることは伝えたのだけれど。

「あら、ティアフェルちゃん。」

嬉しそうに、手を振ってくれるので、その元気な笑顔に思わず笑みを浮かべて見せて、近づく彼女を眺める。

「こないだぶり、ね。どう?あれから。」

質問は、ぼかしながら訪ねるのは、其れこそ彼女の致命的な所に触れるから。先日は彼女に伝え聞いたけれど、それを明かすべきではない。
でも、その後が気になるのは、関わったからでもあって。
おいでおいで、と手招いて、隣の椅子を、マニキュアを塗っている手で優しくポンポンと叩いて、此方に座りなさいな、と。
ちゃんと隅の席であり、その隣に無粋な誰かが座れないように。
自分で囲ってますよ、と言わんばかりの場所を示して見せる。

ティアフェル >  賑わう酒場がイヤな訳ではないのだが、酔漢がカウンターに座る踊り子の姿態をじろじろじろと四方八方から見ている隣にいるにはちょいと落ち着かなさそう。滅茶苦茶比較されそうなのも嬉しくない。
 客足が落ち着いたのは少し助かる気持ちで、彼女の踊りを観にここまで足を運んで肉感的な身体での扇情的な舞いに、直視しづらくもしっかり拝見して。
 それから、声をかけると返された笑みに笑みを深め。

「観に来ちゃったー。めっちゃキレイだったよー! なんかどきどきした!」

 そう云いながら、振っていた手とは別の方で後ろ手に持っていた、薄い紫の秋薔薇を一輪差し出して。どうぞー。と手渡そうと。

 そして、あれから、と問われると、少々浮かない顔になって困った様に笑いながら、ふるふる、と首を振った。
 隣の席を勧められるともちろんすぐにそこを陣取り。

「あ…と、先日はありがとう。それと、もらったカードも。早速使わせてもらってるし。今日会えて良かった」

 見たばかりの顔だから、相手からすれば新鮮味に欠ける相手には違いないだろうが。まずはお礼、とあと、カウンターの向こうにいる店主に果実酒を注文した。

ティエラ > 「ふふ、楽しんでもらえたのなら、幸いよ。でも、この間は一番安全な富裕地区で、今回は貧民地区。場所の移り変わりがすごいわね?」

冒険者なのだから、屹度どこにでもいるものなのだ、自分も、彼女も。とは言え、安全度でいえば一番いい所から一番低い所、そんな違いのあるところで出会えたという事が、少しばかり面白くて、女は笑って見せる。
そして、秋薔薇が目の前に。自分の瞳と同じ色の薔薇をぱちくり、と眺めて彼女と、秋薔薇を眺めて受け取って見せる。

「一本という事は……あなたしかいない……ティアちゃんの性格から見るに。尊敬してくれるってこと、ね。
アッと………ごめんなさいね?まずは、こういうべきだったわ。
素敵なプレゼント、ありがとう。」

花言葉を思い出しながら、小さくつぶやく。特に薔薇にはいろいろな意味がある、本数に、色に。魔術でも、花を触媒として使う時には花言葉などで、魔法を強化するという事もあったはずだ。
受け取りながらも、そんな風に呟いてしまうのは、魔術師としての魔女としての性格だから、か。
直ぐに我に返り、フェイスヴェールを外した、静かにお礼を。
流石に、良い物を貰ったうえで、フェイスヴェールを着けたままは、礼に失する。

浮かない顔の彼女に、横に振られた頭。そう、と溜息深く静かに声を零して見せる。酒場の歓声に掻き消えて、彼女だけに届くよう。
隣に座り、果実酒を頼む彼女、女も又、カクテルを注文して見せる。

「長引きそうなら……そうね。これの方が、良かったかしら。普段私が良く使うのだけれど。」

懐から、取り出すのは鉄の板、この間のカードと同じ位の大きさ。
それを彼女の目の前に、書いてある模様は、彼女に前に渡したカード治癒の魔法の書かれているカードと同じ物。

「紙じゃないから、燃えて消えたりしないから、魔力ある限り何度でも使えるわ。だから貸してあげる。
後で私の分は作るから、気にせずに持っていきなさいな。」

ティアフェル > 「踊りをちゃんと見たの久し振りだから興奮しちゃった。さすがプロねー。指先から違うわー。
 ……はは、仰るとおり。落差よ。だけどここに来ないと会えないでしょ?」

 うむ、その通りだと微苦笑気味に肯いた。富裕でも貧民でも実際ないのだからおかしなものだ。
 一本だけの薔薇を差し出すと紫瞳が丸くなるのが、どこかかわいらしい。へらりと笑みを向けてプレゼントすると。

「ん。んー……それも、ある…けど……ごめんなさい、花束を贈りたくはあったんだけど、お花……高くって。
 ううん、ティエラさんみたいに綺麗でいい香りの薔薇だったから」
 
 花言葉にはそんなには詳しくない。ただ、一本だけ買った時に花売りが彼女のいったのと同じことを教えてくれたので、そういうことでいこう…そう思ってはいたが。結局正直に云ってもしまった。
 ヴェールを取って、相変わらず整った顔立ちを見せてくれてのお礼ににこ、と柔らかな笑みを投げかけて返礼し。

 やはり長期戦になってしまうのか、魔法が使えなくなったままの状態。あちこち手掛かりを当たっているが、空振りの毎日。それに別の下働きを始めたのでそればかりにかかずらわってばかりもいられない。

「え? あ……」

 そして、すっと取り出されたカードに開いた目を丸め。
 薄い鉄片に刻み込まれている紋章のカードを見つめて、少し躊躇いがちにふる、と首を振った。

「ありがとう……すっごく嬉しい。
 だけど、でも……お気持ちだけ。いつでも使える、なくならないこれがあれば……これに頼ってしまっては……魔法が、戻って来なくなるような気がするの。
 だから、本当に魔法が戻って来ないことになって、違う仕事を始めたらお金を貯めて、譲ってもらうね」

 これがあれば多少の怪我の心配をしなくていい。いつでも頼ってしまえる。けれどそうしたら、魔法を本当に忘れてしまいそうな気がして。
 わたしは紙のをもらってるから今はそれで賄えてるので、と辞退した。限りある、なくなれば頼れない、使えば消えてしまう使い捨てが今はちょうどよいと踏んでいて。
 そこで、双方の注文が来ると、ちょっと空気が湿ってしまったような気がして、取りなすように梨酒のグラスを掲げ。乾杯しよーと笑みを刻み。

ティエラ > 「此処で踊るのと、乞われて貴族の前で踊るのとは、別物だから。今度は、別の所で踊って見せたいわ。
何方かと言うと、此処で踊るのは、男たちの目を楽しませるような、エッチな踊りでしかないから。」

それはそれで、技術ではあるのだけれど、貴女のおねーさまは、そんな踊りだけじゃないのよ?と、悪戯っぽく赤い舌を出して見せた。
笑う彼女の気楽さを受けて、女ももう少し、気楽な笑いを零して見せて。そうね、どうやって保存しましょうか、と。

「無理はしないで良いわ?大事なのは、気持ちだから。それに、頑張って、選んでくれたのでしょう。
後、薔薇の花束はダメよ?貰ったら、ティアちゃんを本気で口説きに行くから。と言うか……薔薇の花束は大体が愛の告白になるの。
そのままお持ち帰りしちゃうわ。

――薔薇は、恋人さんに、あげなさい?」

花屋さんが屹度色々と考えてくれたのだろう事が判る、知らない事は仕方ない事だけれども、だから、ちゃんと教えておこう。
正直に言ってくれるから、だから、ちゃんと教えることができる。それは、とても素敵な事だから。
彼女の笑顔は、本当に明るくて、此処にいてはいけない純粋さがあって。女は目を思わず眩しそうに細めてしまう。

しかし、それが直ぐに曇った。首を傾いで見せれば、彼女の言葉が、理由として納得ができた。

「―――そう……そう。ごめんなさいね。無自覚に誘惑してしまったみたい。確かに、道具は便利だけれど。便利と言うのは堕落にもつながるわね。
貴女の事を心配していたのは、裏目になってしまったわ。
ええ、ええ。では、これは戻しましょう、貴女が、自分の手で羽ばたけるように。
出ないと、協力すると言った言葉が、嘘になってしまうもの。」

彼女の決意に、心根に対して、女は詫びを。しっかりと頭を下げる。
彼女は楽がしたいのではない、自分のアイデンティティの復活を求めているのだ。善意とは言え、これは要らぬおせっかいだった。
彼女には五体満足でいて欲しい、しかし、それで彼女の大事なものを奪うわけには行かないのだ、と。

「ティアちゃんの悲願達成の願掛けにに、乾杯」

彼女の言葉に、女はグラスを持ち上げて、ちぃん、と薄く音響かせて乾杯を返す。