2020/05/25 のログ
ご案内:「王都マグメール 貧民地区」にアイリースさんが現れました。
アイリース > 「……う~ん……」

日が沈み、私は買い物袋を手に職場兼自宅へと歩いていた。
買ったものは、主に食料品。それと、日用品を少々、なのだが。

「……食材そのものはともかく。
 入手しづらいものはどうするか……」

この国に輸入されてきている、東の国の野菜や魚介類はまだ入手のしようもある。
ただ、私が欲しているもの……例えば、発酵食品などだ。
それらはどうにも入手しづらい。
いっそ個人で仕入れてくるかとも考えるのだが。コストを考えるとちょっとばかり高く付くのが目に見えてる。

「……まぁ、どうせ私の食事か、まかないに使うだけだし。
 そこまでこだわらなくてもいいんだけれども」

とはいえ、味噌、醤油が恋しい時もあるのです。
どうしたものかなぁ、と考えていれば。職場でもある娼館へとたどり着く。
荷物を厨房に置くと、私は外に出て、入り口近くで煙管を咥える。
本日も、まずはお客様を待つことから。
今宵も客入り、上々となればいいのだが……。

アイリース > 「……ふぅっ……」

基本的に、私は店の外に立っていても客引きまではしない。
そういうのは、娼婦の子たちの仕事だし。
私はあくまでも、娼婦ではなく、店の雇われ店主だ。

(……だったら立ってなくてもいいじゃないか、とか。
 事情を知らない人間に言われるかもしれないけれど)

私の仕事は二つ。一つは店の店主として、女の子たちや金銭の管理をしたり……。
というか、まぁ。要するに経営そのもの。
そしてもう一つは、この地区の用心棒としての仕事、というものである。

「……まぁ、最近は大人しい客ばかりでやりやすいけれども」

一応、私はこれでも腕には覚えがある。
少なくとも……そこいらのチンピラなどに遅れは取らない。
ウチの店だけではなく、この娼館通りの治安を守る……。
と、そこまで大それたことは口にはしないが。
ある程度、客のことを見ておいたほうが対応はしやすいのだ。

アイリース > 『店長~、休憩入ります~』
「あいあい。しっかり休みなんせ」

客を取り、仕事を終えた女の子の一人が声をかけてくるので。
静かに応対し、掌を振る。
基本的に、私としては女の子達にムチャはさせたくない。
なので、休憩はしっかりと取ってもらうようにしている。

「……穏やか穏やか」

何事も平和が一番。
なんだか最近、風の噂では国内で不穏な空気が満ちているらしいからこそそう思う。
……いや、最近じゃないな。基本この国はいっつも乱れている。

「……いらっしゃいませ~。どうぞ、中へお入りなんし」

そう考えている内に、また現れた客を店内へと案内する。
まぁ、この国の情勢だなんだなど、基本私には関係ない。
私としては、命じられたことをこなすのみ、だ。

ご案内:「王都マグメール 貧民地区」にビョルンさんが現れました。
ビョルン > 夕暮れ過ぎて、貧民地区の路地。
王国の『物騒』と貧民街の『治安』を兼ねる男が女郎屋へ向けて歩いてくる。
戸口で女の姿を見つけると肩からコートを脱ぎ落して差し出しつつ、

「今帰った。
 で、儲かってる?」

と問いかけながら上がり込む。
やはりまた、女将の部屋とされる奥座敷へ向かった。

アイリース > 「……おや」

ほどなくして、通りの向こうから雇用主が現れるのを見つける。
私は、煙管を持ったまま、相手に頭を下げ。
いつものようにコートを受け取り。

「おかえりなさいませ、若様。
 ……まぁ、それなりには。
 目玉が飛び出るほど、というほどではないですが」

受け答えをしながら、相手に同行し、部屋へと向かう。
コートをかけ、相手の隣に座り。一度息を吸い。

「……さて、いかが致しましょうか。
 何か、お飲み物でも?」

相手が求めてこない間は、私は相手の部下として相手に接する。
なので、まずどうもてなすかと考え、そうたずねてみるが。

ビョルン > ざっくりと収支報告を求め、ざっくりの報告を得ると頷く。

「そのくらいでちょうどいい。
 存続出来ているだけで何よりだ」

部屋へと入るとジャケットも脱いでネクタイを緩める。
座る場所は、猫の額ほどの裏庭に面した縁側だった。

「飯は、もう少しかかるか──…。
 そうだ、爪を切って貰おうかな」

少し白いところが見えてきた自分の指の先を見て、いかにも思い付きらしくぽつり。

アイリース > 「それは、目立つな、というご命令で?」

相手の反応に、私は確認のための質問をする。
もしも命令ではなく、単なる言葉だったのなら。
それはそれとして聞き流す。
だが、命令であるのなら……私はそれを忠実に実行しよう。

「申し訳ありません。先ほど食材を買ってきたばかりでして。
 ……は……。爪、ですか……?」

相手の言葉に、思わず戸惑ってしまう。
爪を切る。……困った。これは困った。
なぜなら……私は、そんなことはしたことがないのである。

(……そも、他人の爪を切る、など。
 親が子になすくらいしか……。
 ……ッ!? も、もしや。これは何らかの試験!?)

この目の前の若者は、少し読みにくいところがある。
もしかすると、この爪切りは私の技術を見る試験、だとしてもおかしくはない。
なので、私は一度深呼吸をし。

「……その大役、謹んでお受けいたします」

そう言い、箪笥の中をがさごそと漁る。
たしか、この辺りに丁度いい得物があったような……。

ビョルン > 「そんな深い意味では──…」

けれど言われて見れば自分の寝床としての店構えならばそうあったほうが十全とも言えた。
けれど、二言目には任務・指令・ご命令は何なりと抜かす女の前では口数が減る。

爪を切って貰いたいと頼んだこともなんだかこう、壮大なものと捉えているらしいと知れば緩く首が傾ぐ。
相手が道具を探している間に剣帯を外し、寝転がって空を見上げている。
夕焼けから夜に向かう紫の空。

女が己の傍に来たら、利き手から預けよう。

アイリース > 「かしこまりました。
 では、ほどほどに稼ぎつつ、ある程度は自由にさせていただきます」

そんな深い意味ではない、と聞いたので。
ほどほどに稼ぎつつ、機械的に、毎日同じだけ稼ぐ、ということはしないようにしよう。
恐らく、相手としても目立ちすぎは具合が悪いのだろうから。

箪笥から爪きりを見つけ、私は相手へと近づいていく。
そのまま、利き手を預けられれば、一度深呼吸し。

「……参ります」

身体を緊張が支配するのを自覚しつつ、爪きりに挑戦する。
そもそも、爪きりとは。自分の爪を切るのが普通。
他人の爪を切る場合……。向きが、反対になるのである。
そこが実にやりにくいのだが。私は、持てる技術を全て用いて。
ゆっくり、ゆっくりと相手の爪を切っていく。

(……世の中の、我が子の爪を切る親、とは。
 こういう気持ちなのだろうか)

そんなことを思いつつ。ぱちん、ぱちん、という音を響かせていく。
無事に利き手の爪を切り終えれば、相手の顔を見て、反対の手を出してもらうのを待つ。

ビョルン > 「そうだよ、だってお前はこの見世の女将だろう。
 好きにするが一番いいさ」

陽光がどろりどろりと夜の帳に溶けて溶かされていく。
闇が覆うまでの刹那の紫を茫と見上げている。

妙にしゃちほこばった気合の呼吸が聞こえる。
子供時分、爪を切り合いしようとしてどうにも互いの姿勢が決まらずそのまま関節技が決まったことがあったっけ。
誰だっけ。

空の色に昏さが増せば目を閉じ、沈黙があれば差し出す手を変える。
爪を切り立ての指先の感覚はどこかくすぐったく、縁側の床板を掻いている。

アイリース > 「……それは。まぁ、そうですね。
 では、そうさせていただきます」

相手の言葉。それは、命令ではない。
それは私にとってはほとんどはじめての経験で。
少し、戸惑ってしまう。だが、相手の信頼を得るためには。
その言葉を受け止め、成果を出すのが一番早い、と思えた。

「……」

リラックスしているのだろう。そんな相手の爪を切り。
そうしている内に、私も、緊張が解けていく。
……いつか。私に子供が出来た時。こうして爪を切ってあげるのだろうか。

「……痛くなど、ないですか?」

反対の手の爪を切りながら、そう確認する。
一応、慎重に爪きりを行っているので。
大丈夫だとは思うのだけれども。

ビョルン > 女が両手の爪を切り終えると目を開けて肉眼目視で様子を確認する。

「うん、いい塩梅だ」

厨房はまだ煮炊きの最中だろうか。
片手でちょいちょいと己の頭の横を示す。

「今暫し、近う寄れ」

女が察してくれるならば夕食までのひと時、膝を枕に微睡もう。

アイリース > 「それなら良かったです」

相手の言葉に安堵。
そのまま、私は逆の手の爪きりに集中するのだが。

「……はい。仰せのままに」

相手の言葉の意味が理解できたので。
私は、爪切りを終えると同時に、膝枕をする。
……どうやら、相手の機嫌を損ねたりはしなかったようで。
私はようやっと緊張から解き放たれて。
相手の頭を撫でつつ、共に時間を過ごすことにした。

ご案内:「王都マグメール 貧民地区」からビョルンさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 貧民地区」からアイリースさんが去りました。