2020/01/03 のログ
ご案内:「王都マグメール 貧民地区/路地」にレクスさんが現れました。
■レクス > 急激に冷え込んだ風が路地裏を駆け抜けていく。
切々と――曇天を舞うのは白い花弁のような雪の薄片。
廃屋や、みすぼらしい店に囲まれた路地へと淡く舞い落ちる。
複雑に入り組んだ其処は、平民地区に向かう近道ではあるが、今現在通る者はいない。
夜ほどではないにせよ、決して治安の良い場所とは言えないのだから。
「ぁ―――雪、か――………」
ぽつり、声が響く。
声色がそうだと言う訳ではない。ただ、何にも残らないという意味で舞う雪に似たそれ。
吐き出す白い吐息に混じって零れ落ち、流れ、消えていく。
路地に丸まるように膝を抱え座る姿。
襤褸布に包まれた死体、にも見えるし、実際大きな違いは無いだろう。
手入れされていない白い髪の毛は、雪に濡れてじっとりと湿っている。
痩せこけて、何日も食べていないような褐色の肌は、体温を喪ったように血色が悪い。
冷たい気温を映し込んだように鎖で幾重にも巻かれた剣の鞘。
指先には防寒のためか襤褸布が巻き付いた指が鎖に触れて、鞘を腕に抱いている。
そうして、鉛色の空を薄い紫の眼差しが見詰める。見上げる。数刻ぶりの挙動。
茫洋とした目だ。瞳孔が完全に散大し切って、薄っすらと膜の張ったような、何の色もない眼差し。
もうどれくらいこうしていたのか、どれくらいこうしているのか。
誰かを待っているのか。何かを待っているのか――その答えを持つ者は誰もいないだろう。
ただ、其処に腰を下ろす男に、切々と――雪の薄片が降り注いでいた。
■レクス > がぎ――ぎり――。
鎖の鳴る音が響く。手錠が食い込んで、乾燥で水分を失った左手首と擦れる。
地面に微かに散った雪に、点々と赤い痕跡が刻まれる。
剣の切っ先を杖にするように、路地に背中を預けながら立ち上がる。
緩慢で、ゆっくりとした挙動。錆びて軋んだ機械が、漸く騙し騙し動くような挙動。
ミシ…ミシ――と軋むのは、その身体か、剣か、鎖か。
白く濁った息を吐き出しながら、路地裏に立ち上がって――唇を開く。
「……―――美、しい、な。」
ぽつ、ぽつ、と曇天を見上げながら呟く。
薄く膜が張ったような瞳の中で、瞳孔が一瞬収縮し、また散大する。
左手指が、絡みつくように触れていた黒鋼の剣の鞘を握りしめる。
その指を伝って、決して抜くことができないように幾重にも巻かれた鎖に鮮血が滴る。
もし、この場を通るものがいれば――白く降り注ぐ雪に混じるものがあるのに気付くだろう。
ひとつ、ふたつ、みっつ、よっつ、白の中に混じるのは灰。
低温で形作られる結晶とは対極の、焼滅の果てに残った残骸の色。
見上げる紫色の中に映る、白と、灰の薄片の舞い。
乱舞というほどの量はなく、ただ、粛々とその場をひと時だけ彩るようなそれ。
■レクス > そうして、数刻。
ずる…り――と混じった路地を足音が去っていく。
地面に残る白と灰の上に刻まれる痕跡。
きっと、まるで夢のように消えていってしまうのだろうけれど
しばし、その場に名残として残っていて。
ご案内:「王都マグメール 貧民地区/路地」からレクスさんが去りました。