2019/11/01 のログ
ご案内:「王都マグメール 貧民地区」にジェイさんが現れました。
■ジェイ > 貧民地区の路地。裏路地の類だ。
人気がなくなってしまう程奥ではなく、さりとて人通りがあるといえば嘘になる。
つまるところ、隠れて如何わしい行為をするにはちょうどいい場所。
そこに、喧騒が響いていた――ほとんどはどうでもいい。人の声というよりは鳴き声に近いものだ。
わかりやすくいえば――喧嘩だ。
相手は四人。内一人は気にしないでいいだろう。砕かれた顎を抑えて呻き声をあげるのに忙しそうだ。
此方は一人――と、背後に四人に襲われていた女性。これは数に入らないから実際四対一だ。
「そのまま何も見なかったことにして帰った方がいい。」
――聞き入れられた例がない忠告をひとつ。
実際、説得効果は怪しいだろう。
此方も、相手方の台詞のほとんどは聞いていなかったから。
右手を帽子に添えながら、ひとつ、ふたつ、みっつと内心で数える。
恐らく、痺れを切らして襲い掛かって来るまであと数秒。
■ジェイ > ――よっつ、いつつ、むっつ。
そこで、予想通りに相手方が動き始める。
一人目、大振りに殴り掛かって来るのを半歩引いて交わす。
残した左手で、そのまま相手の横面に触れて、身体を反転。
殴り掛かる勢いと、回転する勢いで――必然、相手の顔は路地の壁と口付ける羽目になる。
けれど、まだ離れてもらっては困る。
「――お前、刃物を出すのはやめておいたほうがいい」
仲間に刺さるから――。
という後半の台詞を告げる前に、手に持った侭の男の足を引っかける。
言葉に躊躇した二人目にぶつけるのには、ちょうどいい、鈍器だ。
擬音にしたくない音が響いて、もつれるように二人が絡み合って倒れる。
三人目――には、手を出すこともないだろう。
戦意を失っているし、叩きのめされた仲間を連れて帰る人間は必要だ。
「……行って構わない。」
吐息と共に吐き出す言葉。
静かで、息さえ乱さないそれと、帽子の影から見つめる金色の視線。
それが些細な喧騒にピリオドを打つ。
使い古されて手垢の染み付いた言葉をぶつけながら逃げていく男達。
それに重なるもうひとつの、足音。逃げていくのは自分の背後にいた女性だろう。
――抜け目ない、と思いつつもうひとつ、吐息を吐き出して。
■ジェイ > かくて――喧騒は去って、残ったのは深夜の静寂。
一人残された男の右手に持った煙草入れ
――先ほどの一人目、の持ち物だ。投げる時に懐にあったのをいただいた。
革製のそれから、紙巻きの煙草のようなものを一本抜き出す。
軽く見て、質に問題がないのを確認すれば、銜える。
――ふわり、と灯る赤黒い焔。
極小に散るそれで火をつければ、そのささやかな報酬を吸い込んで、吐き出す。
紫煙が、月明かりを淡く燻らせながら芳香を伴って登っていく。
「思ったより、悪くないな。」
細かい成分分析までは必要ないだろうと判断する。
ほんの、立ち寄り程度の気紛れの代償としては悪くない。
細く長いそれが、じりじり…と微かな音を立てて燃える様を見ながら
また一口、息を吸い込んで、薄っすらと煙を吐き出す。
■ジェイ > それからほどなく時間が過ぎた後
路地裏に残されたのは燃え尽きた煙草と煙草入れの灰だけだった。
それも、いつの間にか風に巻かれて消えていくのだろう―――。
ご案内:「王都マグメール 貧民地区」からジェイさんが去りました。