2019/01/29 のログ
■リタ > 「お粗末さまでした」の声が届けられる頃には皿は水気を拭き取られていて。
「うわ、ホント結構凄い…で、そんな凄い事ができるのに、
――あんな事に使っちゃうワケなんだぁ…ふぅん…へぇえぇぇぇえ…」
大げさにあげられる声が更に彼を抉る抉る抉る。
多分、彼が何を言っても墓穴を掘る行為にしかならないだろう。
それでもきちんとフォローはする。
「…普段のセインさんの方がずっと素敵だよ。面白いし。可愛いし。」
一呼吸の後に告げられる言葉は、きっと本心なのだろう。
楽しそうに微笑みながら、身を乗り出してウィスキーのグラスに氷をひとつ、コロンと追加する。そして…
「――あの後ね、私とさせる気だったらしいよ?
それを眺めながら飲むつもり、だったって…」
身を乗り出したまま。彼の耳元へこっそりとそんな事を囁いた。
■セイン=ディバン > 相手の手早い片付けに、ほぅ、と息を吐いていた男だが。
「……ちがーう。違うんだー。
本当に、潜入とか戦闘に使う為に習得したんだよ。
ただ、魔が差したんだぁ……」
鋭い突っ込みに、男が俯き、ぐりぐりとカウンターに頭をこすり付ける。
事実、そういったことにも使える、と考えたのは割りと早い段階なので。
もはや何を言っても惨め惨めである。
「……うわぁ、複雑だ。オレとしては、紳士的な方がモテるかと思ったのに」
的を外してたってことか、と苦笑する男。
もちろん、これは冗談だ。男自身、紳士的なだけの男など魅力が無いと思っている。
というか、経験上は、紳士的であった時ほど色事から離れていたので。
その辺なんとなく察してはいた。
「……ぶぅぅぅっふぉぉぉ!
……げほ、がほっ。
そりゃあ、もったいないことしたなぁ。もうちょっと、気絶するのが遅ければ、だったわけだ」
次の相手の告白には、更に盛大に噴く男。
幸い、酒は飲み終えた直後だったが、まだ喉にいたアルコールが、気管への旅に出てしまった。
咽ながら、男はそう言うものの、涙目である。そうとう苦しかったらしい。
■リタ > 「…今まで何回魔が差した事、あるのか聞いても良い?」
ぼそりと一言。
それでも彼の気持ちも分からなくも無い。
男性に間違えられる事もある店員としては、
自分がもし、そういう事が出来たのなら、性的欲求を解消するために使う可能性もあるだろうから。
「普段のセインさん、知っちゃったもの。もう無理かな。
――ん、でもそのギャップも良い?…要は使い所、なのかも。頑張れセインさん。」
何を頑張れと言っているのか定かでは無いが、店員はそれはもうニッコニコ。
今他の客が店を訪れても、気づかないかもしれないと思えるほどに会話に没頭していた。
「ちょ、大丈夫?反応、凄すぎ…
――正直、雰囲気からして凄くやらしかったし。私も流されちゃってたし…気絶してくれて良かったかも、なんて。残念だったね、セインさん?」
手を伸ばし、彼の背中を摩りながらの続けられる声は、色気を含んだ意地悪さだった。
■セイン=ディバン > 「……あ、お酒お代わりいただけます?」
露骨な会話逸らしであった。
流石にそれは、口にしたら相手もドン引きであろうから。
なんとか誤魔化したいらしいが。
「そっかー。残念だなぁ。
……でも、ま。こっちのオレの方が色男だろ?」
相手の笑顔に、男はニヤリ、と笑って返す。
男自身、自分がモテるタイプだとは思っていない。
いや……モテたいと思っていないのだが。
それでも、表面上は軟派なフリをするのは、自己防衛の一種みたいなものだ。
「そりゃあ、当人からそんなん聞いたら、咽るわ……。
……何ソレ。この間、指舐めてどきどきさせた意趣返し?」
だとしたら趣味悪いぞー、と笑いながらも。男は相手の腕に軽く触れる。
「……決めた。俺、リタさんを本気で口説き落とすわ。
やっぱアンタ、魅力的だもん」
真剣な声色。表情は笑顔のまま。
しかして頭痛の種は、この女性に手を出せば天敵がそりゃあもう凄まじく愉快そうに出てきそうな点だが。
■リタ > 「はい、畏まりました、お客様。」
彼の口調に察した店員は、冷ややかな視線を丁寧な口調と共に送り届ける。
お客様の心情を瞬時に察する店員の鑑。
一転、今の彼を肯定する彼の言葉には
「うん。」
と一言。お客様の心情を瞬時に察する店員の鑑。
「ん、あの時は…正直ドキドキしたかな。うん。
でも同時に、セインさんのやらしさが滲み出てたから、防衛本能が、ね?」
店員の手に触れてくる彼。続けられる言葉に、びく、と体を揺れさせる店員。
「――っと…アハハ、今までで一番ドキドキしちゃった…
もうちょっと…かな…」
潤む店員の瞳は彼の瞳を捕らえたまま。触れられた彼の手を振り解きもせず、じっと、じっと…
――その時、店の扉が開いた。
『お、やってる?』
常連の通称、お尻おじさんがご来店。
慌てて彼の手を振り解き、営業スマイルを向ける店員。
■セイン=ディバン > 「……ふぅっ」
一度思考切り替え。
こうして、相手と会話しているのは楽しいが。
弱みを見せたくないと思うのは、男の安いプライドのせいか。
「だろ? だろ?」
相手の間を置かぬ肯定に、男は得意げに笑うが。
当然コレも演技のようなものだ。
地を見せたら女性がなびく? そんなことあるわけない。
そう理解はしているのだ。だが、そんな斜に構えた部分を見せても、相手にとっては愉快でもあるまい。
「ありゃ。そうだったか。
イカンなぁ。気配を曝けてるようじゃ、二流だわ」
続く相手の言葉に、横を向いて舌を出す男。
シーフとしてそれなりに鍛えていたと自負している男だが。
そういったことに関して気配を曝け出してしまうということは。
自己の律し方が未熟な証拠だな、と考える。
「……ははっ。そのもうちょっと、が遠いんだよね。
男と女ってのは」
視線を交錯させたまま。しかして、男は相手が手を振りほどかないのに気付き。
自分から手を解く。その理由は、正しく。
店に入ってくる客の気配に気付いたからこそ。
「……さて。オレはそろそろお暇しようかな」
他の客が来た以上、魅力的な店員さんを口説くのはマナー違反だろう。
そう考え、男は宣言して立ち上がる。
懐から代金を取り出し、カウンターへ置くと。相手に向かって微笑み。
「シチュー。美味かったよ。
ありがとう」
そう言って、肩をぐるぐる回し、関節を鳴らす男。
ここから先は、また今度だな、と。無言で語るようであった。
■リタ > 新たな客と他愛の無い会話をしながら注文を受け始める店員。
準備中のままにしておけば良かった、なんて口が裂けても言えない。
そうしながらも意識は彼を向いていて、空になっている彼のグラスが気にかかっている様子。
しかしそれは満たされる事が無かった。代金を置き去ろうとする彼…
少なくとも今夜、店員の彼に対する嫌悪感は増してはいないだろう。
お尻おじさんと彼、その両方に向けられる笑顔は、明らかに違っていたのだから。
「あ、あの姿で来ない方がいいよ、あのおじさん、すぐお尻触ってくるから。
――触られたいのならそれはそれで。」
暗に“また来てね。”
この言葉を残して、今夜も嫌々、店員はお尻を触られに行く。
ご案内:「王都マグメール 貧民地区」からセイン=ディバンさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 貧民地区」からリタさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 貧民地区」にイグナスさんが現れました。
■イグナス > 夜の貧民地区、その路地裏――。ひんやりとした空気と月明かりの中で、男のぼやく声が、響いた。
「ありゃあ、——こりゃ、こっちは間違いだったかねェ。」
大きな大きな男が、ぽりぽりと頭をかいて路地の出口にたたずんでいた。
遠くでは、喧騒。
今宵の大騒ぎはどうやら、王都にて死霊術の軍団を使い、大暴動を起こそうとした大魔術師がいた――という触れ込み。
当然のように事前に察知されたらば、冒険者やら騎士団にぼこぼこにされて、
今は這う這うの体で逃げ回っているんだとか、なんだとか。
捕まえれば懸賞金が出る――酒場で聞いた与太話を片手にお祭り参加で探し回ってみたものの、だ。
「やれ、まあ、そーうまくいくもんでもねェわな。」
ふんす、と息を吐いて軽く肩を落とした。
さあて、こうなったらば仕方ない、飲みなおすかと路地を出たところで――
「んあ、おう、…悪い、だいじょうぶか。」
どすん、出頭に何かにぶつかった。大体こういうやつではじかれるのは、相手の方。
はんぶん反射的に言葉を出して。