2019/01/28 のログ
ご案内:「王都マグメール 貧民地区」にリタさんが現れました。
■リタ > ここは貧民区に存在するバー、名前はマスカレード。カウンター席は6、テーブル席は1という、大層こぢんまりとした店だ。
料理の味はそこそこ、酒の質もそこそこ、お勧めはシチュー、カッテージチーズのサラダと一般大衆向け。
誰も居ない店内、カウンター席に突っ伏してぼやいている店員が一人。
結構な気合を入れて作ったシチューはまだ一度も皿に乗っておらず、
店の暖かい空気に乗って香りが店の外へと流れている。
「…なんで今日はお客さん、来ないんだろ…」
通りを歩く人々の中には、そのシチューの香りにそそられる者も何人か居た。
しかし店の扉を開けようとすれば、ノブにぶら下げられた“準備中”を知らせるプレート。
――うん、来る訳が無い。
常連客であれば訝しみ、中を覗き、店員に告げるのだろうが…不幸にも本日、そんな常連客は未だ訪れていない。
「…なんで今日はお客さん、来ないんだろ…」
二度言った。いや、多分これから先、放って置けば際限なく言うだろう。
ご案内:「王都マグメール 貧民地区」にセイン=ディバンさんが現れました。
■セイン=ディバン > 「……」
男には。すべきことをしなくてはならないときがある。
命に代えても守るべきものを護る、とか。
なんか、そういうのに代表されるようなこととかである。
男は、その店の前で数分間、立ち尽くしていたが。
周囲の通行人が、男を怪しむ頃、決意を固めた表情になり。
「……よし……」
意を決し、店内へと入っていた。
幸いなのか、あるいは不幸にも、なのか。
店内に他の客はおらず。しかして、実に美味そうなシチューの臭いに気づいた男は、そこでおかしいぞ? と気付く。
一瞬、後ずさりし、ノブを確認。準備中の札。
男は、これを好機と見た。そう、会話を切り出すきっかけになるぞ、と。
「……表の札。準備中になってるよ」
ぼそ、っと言いつつも、店員たる女性から視線を逸らす男。
本日の男の目標……。
とりあえず、この店員さんに謝罪すること、である。
■リタ > 「なんで今日は…」
残念ながら店員のぼやきは六回に終わった。
扉が開き、お客様がいらっしゃったからである。店員は最高の笑顔と元気な声でその客を迎え…
「いらっしゃ… … い … …」
られなかった。恥ずかしそうに目を逸らし、消え入りそうな声で“ませ”を付け加える。
そしてその声はそのボリュームのまま独り言へと変わっていく。
「…どうしようセインさんだどんな顔すればいいの気まずいってうわぁほんとなんでセインさんなの…
――え?」
今度は一転、素っ頓狂な吃驚声。
店員は顔を真っ赤に染めて、ずかずかと彼の方に向かい…通り過ぎ、店を出て、プレートを外して…
何事も無かったかのようにカウンターの内側へと入っていった。
そしてにっこりと営業スマイル。
■セイン=ディバン > 「……気付いてなかったのね」
視線を逸らしたままにしたかったのだが。
相手がプレートを直したのを見て、小さく突っ込んでしまう。
可愛らしいことだ、と。内心だけで呟く。
そんな、からかうようなことは今日は言えないのであるからして。
「……シチュー。美味そうな匂いしてるね。
なんか、適当に酒と。シチュー、もらえるかな」
視線を再度逸らしたままそう言い。カウンター席へと座る男。
そのまま、頭を掻いたり、太尾頃から細巻を取り出し、吸おうとしてやめたり。
そんなことを繰り返したものの。男は一度深く呼吸し……。
「リタさん! この間はすまなかった!
店、汚しちまったし、その、なんていうか……。
み、見苦しいところを見せた!」
カウンターに、ゴヅンッ! と頭をぶつけながら謝罪する男。
そりゃあもう、平身低頭、とはこのことか、という勢いであった。
■リタ > 店員は営業スマイルのまま注文を受け、営業スマイルのまま皿を用意し、営業スマイルのままシチューを皿に注ぐ。
そして準備する酒はウィスキー。当然の様に保冷庫から氷を取り出し、グラスの中に2つ、転がした。
それらを彼の目の前に配膳しようとした時、カウンターに何かがぶつけられる。彼の頭だ。
「…えっと…いや…元々汚い店だし気にしなくていいし、
見苦しいといえば見苦しかったけど気にしなくていいし、
驚いたけど…まあ、ああいうのもアリかな、なんて。」
片手にシチュー皿、片手にグラスを持ったまま、店員は彼に告げる。
が、全くフォローになってない。寧ろ思い出させてフォークで傷口を抉っている感じすら。
「…それよりも今、その頭を上げてくれないと、シチュー、置けない。うん。」
店員は彼が頭を上げるのを待っている。
が、流石に恥ずかしく目を合わせられない。
彼が頭を上げれば、料理を手にする店員の赤い顔が横を向いているのが分かるだろう。
■セイン=ディバン > 相手の見事な営業スマイルと違い、男の表情はめまぐるしく変化していた。
申し訳ないというもの、焦りの浮かぶもの、困った顔。とにかく、表情が落ち着かないで居たのだが。
「いや、そんなことは……!
この店ぁ、オレは気に入ってたのに、あんなコトを……!」
頭を下げたまま、相手にそう言う男だが。
相手が頭を上げなければ料理が置けぬ、といえば。
ゆるゆる、と頭をゆっくりと上げる男。
目の前で、相手の横顔が赤く染まっているのを見れば。
男もまた、気まずそうに顔を横に向け。
「……いや、普段はマジで。あんなんじゃねぇ~んす。
もっと、こう。女を手玉にとって。
紳士的、かつ、部屋を汚したりしないんです」
ぼそぼそっ、と言うものの。
つまるところ、スケベで、経験豊富だ、と自分で語っているに過ぎず。
しかもそれを謝罪すべき女性相手に語るなど、全く持って無作法というものであるが、男も混乱しているのだろう。
そこにどうしても気付けないで居る。
■リタ > 「あ、うん、ホント、気にしなくて良いから。取りあえず食べて。うん。」
上げられた頭が在った箇所にシチュー皿、その脇に氷の入ったグラス。
追加で匙と瓶のままのウィスキーを脇に置く。
店員の臙脂の眼はあっちこっちに泳いでいて、よくカウンターに置けたものだ、と思えるほど。
そこで彼の、言い訳にも似た告白が。
それを聞けば。ふう、とため息にも似た息を吐き、店員は言葉を続ける。
「私にしたみたいに、そっと優しく手を取って…甘い言葉で誘惑して…手玉に取って?ふぅん、へぇ~。
――ホント、気にしないで。別に私が何されたって訳でもないし、
寧ろこっちが…その…アレ、見ちゃった訳だし。」
ほら、グラス差し出せ、といわんばかりにウィスキーを注ごうとする店員。
普段手酌が当たり前の店、なんと高待遇な事だ。
■セイン=ディバン > 「……す、すまねぇ。いただきます」
どれだけ謝罪しても謝罪しきれぬ、という気持ちではあるのだが。
目の前のシチューは見ただけで暖かいのが分かるし、香りも食欲をそそる。
男好みのウィスキーまで置かれては、我慢などできず。
男は、シチューを一口、酒を一口、と味わう。
美味かった。寒さに冷え切った体に、シチューと酒が染みた。
「い、いやっ! そういうイミじゃ……!」
男は相手の指摘に慌てるが。
酒を差し出されれば、黙って注いでもらい、一気に呷る。
そのまま、無言であった男だが。相手をまっすぐ見て。
「……以前、リタさんを口説いたのは。あれはそういうんじゃなくて。
本心から、抱きたい、って思った。魅力的だって。
明るい店員さんなのに、凄腕。そんな噂聞いて、会いに来て。
んで、話をしてるうちに、惹かれてる自分がいた」
視線同様、まっすぐな言葉。男にしては珍しいことである。
■リタ > しかし流石にあんな事があった後、話をするのもくすぐったい。
もてあました店員は、彼が料理を口にすると同時に、
徐にナイフで塩漬けのニシンを刻み始めた。
「なんとなくだけど、良くも悪くもセインさんがどういう人か分かった。
それでも…追い出しもしなくて、料理出して、
――あまつさえサラダまでサービスしようとしてる女の気持ち、汲んでくれると嬉しいな。」
穏やかな声で紡ぎながら
刻まれたニシンをカッテージチーズに和え、湯通しした青菜に乗せ…程なくしてサラダが完成。
「普段おじさんから口説かれてるから、ちょっとやそっとの口説き文句じゃ…ね?
あー、あの時のあの姿だったら分からないかも…なーんて。」
にしし、と悪戯っぽく笑いながらサラダを置く。その唇にはタバコが咥えられていた。
既に目の前の彼を客と見なしていない店員。
■セイン=ディバン > ゆっくりと食事をしつつも、相手を覗う男。
空腹に暖かなシチューは、正に効果抜群と言うもので。
男は、あっさりシチューを平らげてしまう。
「……女性の気持ちってのは。
オレぁ察せないタイプでねぇ……。
嫌われたりはしてはいない、と考えていいのかな?」
そう言う風に直接的に聞くのがダメな所だ、と。
誰もが思うだろうが。この男の場合、我慢できずに尋ねてしまう訳で。
「……ぐっ。アレは、その。
すっげぇ、イテぇし、その、トラウマが……」
相手の微笑と言葉に、苦悶の表情を浮かべる男。
肉体変化の魔術は、まだ完璧にマスターできていない。
どうしても痛みを伴うし、それにこの店で姿を変えるのは。
男にとってはクリティカルに激痛、であるが。
しかし男は。ぽそぽそと。
「……いや、その。見たい、っていうならやぶさかでは……」
などと呟くあたり、本当にダメ人間である。
男もまた、細巻を取り出し、喫煙開始、だ。
■リタ > 「だって、どうしてあんな事になったのかわかんないし、
一方的に嫌いになる理由なんて…あーそのー…少ししか無いし。」
ちょっとあるらしい。
それでも営業スマイルが消え、普通の笑顔を晒している店員。
ぴこぴこと揺れる口元のタバコがそれを否定している。
「痛いって…しかもトラウマ?アレってそんな辛いの?
――どしてそんな辛い事してたんだか…
あー、あの人、可愛い女性も好きだしね。リクエストでもされたの?なんて。」
抉る抉る。からかうと楽しい、の評価は正しいのだ、と思い切り納得してしまう店員。
続けられるやぶさかでない、の言葉には正直呆れるが、それもまた彼なんだろうと微笑ましく思える自分も居る。
「別にセインさんはセインさんだし、どんな姿してようがセインさんでしょ?
結果は変わらないと思うけど…」
煙草に火を点す彼に向かって、灰皿はご自分でどうぞとカウンター脇に目をやった。
■セイン=ディバン > 「少しはあるのか……」
ショックだ、という表情になる男だが。
男は、どう説明したものか、と悩む。
正直に言ったら、バカにされそうな気もするが……。
「あー、うん。あの魔術、ちゃんと習熟してれば痛くないし。
集中もそんなに必要ないんだけども。まだオレ、覚えたてでね。
……いや、流れで、というか。リクエスト、に近いというか……」
やはり口ごもる男。まさか、あの女性を抱く為に、妥協案として女になった、とは言えない。
しかも抱くどころか、逆に襲われていたのだから。
はっきりいって、大間抜けの大馬鹿野郎である。
「……いや、そうなんだけども。
結果、っていうか。オレとしてはあんにゃろうをヒィヒィ言わせる計画だったんだ……」
それがいつしか相手のペースだったんだよぉ……と泣き言を言う男。
口から、かの女性に対しての文句が出そうになるが。
結果いわゆる負けということになっているので。
男は黙って灰皿に手を伸ばす。
■リタ > 「やっぱりほら、え、セインさんって実はそういう趣味?みたいに。
――あ、シチュー美味しかった?」
くすくすと笑いながら空になった皿を下げ、洗い始める。
泡を両手に包ませながら、店員は彼の言葉を耳にしていた。
「ふぅん…慣れてないだけ、なんだ…歯切れ悪い所をみると、
――なーんか怪しい…
結果的にヒィヒィ言ってたのって…どっちだったんだか…」
彼の言葉はもはや言い訳でしかない。それが楽しい。
でも彼の一泡吹かせたいと考える彼の気持ちも分からないでもない。
「…あー、結構悔しい思い、させられたんだろうね、分かるな。
でも、少なくとも今のセインさん、ぜんっぜん紳士的じゃない…そこが面白い…」
噴出した店員の息が手に乗った泡を空へ漂わせる。
慰めとからかいを交互に使い分けながら、
「で、良かったの?」
なんて聞いてみる。
■セイン=ディバン > 「ぶはっ! そ、そんな訳あるかぁ!
……うぐっ……お、美味しかったです」
凄い角度から責めてきた相手の言葉に、男は叫ぶが。
シチューについては、素直に感想を口にする男。
美味いものはすばらしいので、怒りなどよりも尊重すべき、である。
「ん。その気になればすげぇ応用できるらしいんだよね。
骨を弾丸にして、指から発射したり。
敵の攻撃を、肉体を分離したりして回避したり、とか。
……ぐぐぐっ、そ、それはぁ……」
覚えたての呪文の効果について話していれば、痛いところを突かれ。
思わず俯く男。どこからどう見ても、男の方がいいようにされていたのは事実。
なので、反論もできない。
「……まぁ、それは。っていうか……。
そもそも、アイツのことは信用しちゃいけない、って分かってたハズなんだけどなぁ……。
……そりゃあ。普段のオレはこんなんだもん。
この店で、リタさんの前では紳士的にしてたかもしれないけどさ」
そっちの方が演技みたいなもんだから、と言う男。
王城への侵入とかを繰り返しているうちに、ある程度そつの無い振る舞いができるようになっただけで。
男は、紳士とは程遠い性質の存在だ。
「……ぶふぉっ!
な、なんでんなこと聞くのさ」
酒を飲もうとしたところで、またもやとんでもないことを聞かれ。
思わず噴出す男。まだ酒を口に入れていなくて正解だった、と思いつつ。
相手にそう聞き返しつつ、残っていたウィスキーを一気に空にする。