2018/12/06 のログ
ナータ > 商売にはならないが、かといって損をするでもない。
老店主は「やれやれ、またか」とばかりに視線を向け、外した。

「……、……」

少女は無言で、その絵を見つめていた。
何だろう、理由は分からない。けれど何か心がざわつくような
そこから目を離してはいけないような、感覚。
自分が絵を見つめているのに、まるで絵に見つめられているかのような、感覚。

呼吸を忘れたかのように魅入った少女が、幾度目かの瞬きをした時
絵に変化が現れた。
寒々しい色合いだった山であったはずのそれが、肌の色に変わる。
空の色が赤茶に。
絵具を溶かし混ぜたのと逆になるような色彩の渦の果てにあったのはー――

少女自身の姿だった。
裸体を晒し、四肢を女神のような、聖女のような女性たちに抱えられ
その孔という孔に異形が挿し入れられている姿。
その顔は泣くような笑うような、何とも言えぬ表情だった。

「な……え?わた、し……?」

そう呟いた瞬間だった。
髪の毛のような柔らかい糸状の何かが少女に向かい、絡みつく。

「ぁ、あ、ああ、ぁ……」

異常な状況に、けれど少女は恐怖を感じなかった。
そこに、その先に、その中に連れられて行くことが定めだったかのような
安らぎに近い感情が沸く。
数秒後、引かれるように伸びた掌が絵画に触れ、フ、と少女は消えた。
始めから存在しなかったかのような。

「やれやれ、またか」

老店主はそう呟き、溜息を零した

ご案内:「王都マグメール 貧民地区/古美術商」からオプタティオさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 貧民地区/古美術商」からナータさんが去りました。