2018/12/05 のログ
ご案内:「王都マグメール 貧民地区/古美術商」にオプタティオさんが現れました。
オプタティオ > 盗品や、盗掘品などを扱う古びた古美術商。
その性質上、どうしようもないものを掴まされることも多いが
時には、他では手に入らない逸品に出会うこともある。
店主はどこの誰とも知らない老人。不愛想で、商売っ気のない人物。
それは、要はそんな店だった。

その壁際に一枚の絵画が飾られている。
描かれているのは、ここではないどこか、今ではないいつかの風景。
寒々しく、凍った硝子のような青い木々が立ち並ぶ山を描いた絵。
発狂している程に細密に描かれているが、どこかデッサンは狂って見える。
店主に聞いても、きっとどこで仕入れたかは覚えていないだろう。
遠い昔に、芸術のためにすべてを捧げ切った男が描いた絵。
それは、そんな絵だった。

そして、その店の一角で、誰かを待っているようにそこに、それは存在していた――。

ご案内:「王都マグメール 貧民地区/古美術商」にナータさんが現れました。
ナータ > 「はぁ、寒い寒い寒い……死んじゃう死んじゃう死んじゃう……」

冬の夜。寒空の元その軒先へと赴いたのは少女であった。
貧民地区に位置するその美術商に相応しいかどうか、少女の姿もまたみすぼらしく、決して客とは思えなかったが。

「って、ここ……?美術館?お店……?どっちにしても、お腹は膨れないなぁ……」

家出同然で故郷を出た少女は路銀も尽き、日々の食事や宿にも困窮していた。
仕事も、決まっていない。そんな少女にとって、救いの手が差し伸べられることは凡そないだろう場所。
とはいえ再び寒空をうろつくほどの体力もなかった。

「……まあ、暇つぶしに……」

見たところで作者の真意を汲み取る教養もないだろう、田舎娘。
どこかの物語では一食を削ってまで高名な画家の作品を見ようとした少年もいたらしいが、少女はそうではない。
小難しいような、怪訝な様子で奥まった場所にいる店主らしい老人―――蔑んだような目つきを向けるものの、追い出そうとする様子はない―――の機嫌を損ねないように静かに、体を温めるために展示品を見て回っていた。

「ん?これ……?」

ふと、少女の足が止まる。
視線の先には一枚の絵画。
寒々した荒涼な山の描かれたそれ。

審美眼など持たぬ少女がその視線を向けたままだったのは
苦々しい記憶の多い、それでも故郷、に似ていたからか、はたまた。

何れにしても少女は立ち止まり、ただその絵を見続けた。まるで魅入られたかのように。

オプタティオ > 老店主が顔をあげて少女をちらりと見て、すぐに視線を外した。
客でも、物取りの類でもない相手に興味を示すような人物ではない。
そうでなくてはこんな店などやっていないだろう。

兎に角、少女と絵画の邂逅を邪魔する者はその場には存在しなかった。
彼女が目を止めた一枚の絵。彼女の境遇を象徴するように寒々しい風景。
突き刺さるような木々の中から、けれども――何かが見つめているように感じるだろうか。
茶色の瞳に応えるその、視線にも似た気配。

とろり―――。

それが、笑みを浮かべた様な気配を感じると同時に、絵画がその色彩を変える。
露になったのは、絵を見つめる少女自身の肖像画――そう呼んでいいのだろうか。
裸に剥かれて、孔という孔と異形の何かに犯されている姿。
絵画の中の娘が浮かべているのは、恥じらいか、嫌悪か、それとも悦楽か。
それを知る者は見ている少女だけ。

その身体に触れていくのは、絵画から伸びた細い糸のような何か。
手足に、腰に、身体に柔らかく絡みつけば、ゆっくりと引き寄せられていくのを感じるか。
抵抗しなければその身は、するりと、まるで最初からいなかったように絵画の中へと。
それを見ていた老店主は、ただ、ひとつため息をつくだけだった――。