2018/09/02 のログ
■羽流禍 > 「……『理想郷 求め船漕ぎ 辿り着く 海隔てても 人は変わらず』」
すぅ、と息を吸えば、彼女が口ずさんだのはどうやら即興の歌のようであった。その音は、清らかな泉で愛を歌う妖精が口にする音のようであった。小さく儚げであるが、思いのこもった音であった。
歌い終えた彼女はブレイドの顔を見やればにこりと笑い。
「うちの居る国では、思いを歌に込めてその場で歌うのですぅ。正直ぶれいどはんのお話を聞いてがっくり来ましたが、こうして歌にしてしまえば、気持ちも晴れるというものですよぉ」
そんなことを言いながら、くるくると傘を回し続けるウルカ。
ブレイドの照れには気づいていないのか、それとも気にしていないのか、とにかく何かしら反応を見せる訳ではないようだ。
ただ時折じっと、彼の顔を見つめることが度々。
「人を救うおせっかいは、立派な善行ですよぉ。
それではぶれいどはん、よろしくお願いしますぅ……」
■ブレイド > 「ふぅん」
彼女の言葉…自分の知る歌とは違うが、どこか響きは心地よく、耳に心地よいその声も含めて
思わず感心したように彼女に視線を向ける。
「なるほどね。アンタの国ではそういうのを『歌』っていうのか。
いいじゃねーか。まぁ…意味を考えりゃいいだなんて言えねーかもしんねぇけど」
理想郷と呼ばれる国に遥々旅してやってきたというのに
荒んだ人々のやることは変わらないという感じの歌だろう。
笑って済ませられるようなものではないだろうが、この女性、結構のんびりとした性格なのだろうか?
「お、おう…えーっと、疲れてたり腹減ったりしてたら言えよな?
まぁ、適当にくいもんとか休憩できそうなとことか案内するからよ」
視線を感じて目を上げれば、たまにこちらを見つめている。
正直気恥ずかしいのだが、やめろという理由もなく。
■羽流禍 > 「そうですぅ。この国では歌一つとっても全く違うものであると聞いておりますぅ。ぶれいどはんの歌も、聞いてみたいものですねぇ」
本気なのか冗談なのか、そんなことを言いながらブレイドに合わせて歩を進めていく。
「重ねてお気遣いに感謝しますぅ。うちは大丈夫ですから、ぶれいどはんに合わせますぅ」
そう言ってにこりと笑みを浮かべながら、またもブレイドを見つめるウルカ。
そうして少し歩いた後、遂にこう口にした。
「……やっぱり。何やら、難儀な宿業を負うてはりますなぁ……ぶれいどはん?」
その声色と口調は、今までと異なるものであった。
妖しげな声質自体は変わらないが、その色は真剣そのものである。
目を細めてそのように問うウルカの表情は何処か冷たく感じるかもしれない。
■ブレイド > 「ははっ、オレはそういうもんができるほど教養ってもんがねーよ。
芸術ってのもよくわかんねーしな」
彼女の言葉に笑い返しつつ歩き出す。
雨音は重いが強くはない。
水の跳ねる音、雫の落ちる音を聞きながらの道行きに、ウルカの鈴の音のような声が交じる。
その言葉にはうなずき返すも、やはりなんだろう。
視線が気になる。なにか変なものでも顔についているのだろうか。
その疑問を口にしようとした矢先…彼女から、ふいに言葉を投げられる。
「宿業…?なんか…どうかしたのか?さっきからなんか見てたけど
その宿業ってやつのせいか?顔になんか付いてるとか…そういうんじゃ…なさそうか」
少し色を変えた彼女の声は、薄ら寒く感じるような冷たさをおびていた。
視線もまた同じように。
だが、心当たりもないせいか、首をかしげるばかり。
■羽流禍 > 首を傾げるブレイドをじっと観察し続けていたが、やがて先に見せたような笑顔に戻るウルカ。
先程まで見せていた冷たい表情が嘘であるかのようであった。
「いやぁ、失礼しましたぁ。ま、ぶれいどはんの身体に、何やら『魔』の気が混じっているのを感じましたものでねぇ。てっきり厄介な魔物の類にでも襲われてしまわれたのかと思いましてぇ」
ブレイドに合わせて富裕地区へと歩を進めながら、そのように説明するウルカ。
そうして、じろじろとお顔を見てしまったことは謝りますぅ、などと付け加えるのであった。
■ブレイド > 「……」
彼女の言葉にキョトンとする。
笑顔に戻った彼女の表情だが、底しれなさを感じる。
その『魔の気』とやらを感じて、逃げるでもない彼女は一体何ものなのか。
そもそも、それを感じ取れる事自体が普通ではない。
「鋭いんだな、アンタ。ま、内緒にしといてくれよ?
ただでさえミレーってだけでやばいのに…変な噂まで立ったらここじゃ生きていけねぇよ」
ひらひらと手を振って、こちらも肩から力を抜く。
路地は薄暗さを増しているが、方向はあっている。
人の通りはもとより殆どないあたりだ。相手がなにか仕掛けてくる気ならとっくにそうしているだろう。
変に警戒することもない。
■羽流禍 > 「鋭いといいますか……そういう類のものにだけは昔から強い縁がありましてねぇ。
ま、腐れ縁みたいなものですけどぉ」
そう言って返すウルカは依然微笑んだままである。
笑顔には戻ったが、彼女の内心はやはり濁った水底の砂の流れのように窺い知れない。
「うちは、恩を仇で返す女ではありませんよぉ。詳しい事情は知りませんけどぉ、
貴方に……少し興味が湧いてきてしまいました。それだけは言っておきますぅ」
歩を進めて。
進めて、進めて。
気がつけばそろそろ富裕地区といった所であった。
ウルカはふと足を止めて、ブレイドの方へ顔を向ける。
ここでも彼女がブレイドに向けるのは、やはり笑顔であった。
「あの辺りが富裕地区でしょう、ぶれいどはん?」
前方に指を指し、小首を傾げるウルカ。
■ブレイド > 「縁、ね。できりゃ穏便にしてもらいてーもんだがな。
アンタも大変そうだな」
底知れぬウルカの笑み。
彼女は恩を仇で返すつもりはないと言ってはいるが…。
その腐れ縁がどういうものなのか。安心はしきれないというか…。
「興味を持ってくれるこたー嬉しいぜ。
美人のそれなら特に…。できりゃ仲良くしてーもんだがな」
背筋に薄ら寒いものを感じながらも平静を装う。
ふと、彼女が歩みを止めれば、一瞬ビクリと驚いてしまう。
脅されたわけでもないのだが、空気から、少し気を張りすぎてしまっていたようだ。
彼女の指差す先を見れば、町並みの空気もずいぶんと変わっている。
「っと、ああ…そう、みてーだな。
にしたって、旅行者なのに富裕地区とか…金持ちなんだな。
宿とかは決まってんのか?」
そういえば、何のために富裕地区に行きたがっていたのか聞いていなかったような。
宿をとっているのであれば、このあたりの宿なんか、かなりの値段な気もするが。
■羽流禍 > 「美人? お世辞言っても何も出ませんよぉ? 道案内のお礼くらいは出せますけどぉ。はい、手を出して下さいねぇ」
そう言って彼女が取り出し、差し出したのは握り飯だった。
結構大きめのそれであり、「梅」と書かれた小さな紙が貼ってある。
「仲良く……ふふ、そうですねぇ。うちもそう願ってますよぉ」
珍しく声を出して笑うウルカ。
少なくとも実際のところ、現状敵意といったものは無いのかもしれない。
「富裕地区に来たのは、まぁちょっとした頼まれごとを片付ける為ですぅ。
宿は、今日だけはここでとってしまおうと思ってますけどぉ。
明日からはまた平民地区の宿に戻りますぅ」
聞かれたことにはそう答えて、ブレイドから離れて足早に歩き出すウルカ。
下駄の乾いた音を響かせながら、白い衣がふわふわと風に揺れる。
「『くれぐれも気をつけてな』、ぶれいどはん?
ほんまおおきに……っとと。ありがとうございますぅ。
また縁があれば会いましょうねぇ」
小さな手を振り振り、ブレイドへ向けながら。
何事もなければ、白の衣の女は富裕地区へと去っていくだろう。
■ブレイド > 「お世辞のつもりはあまり…ん?お?」
言われたとおりに出したてに乗っけられた握り飯。
彼女が作ったのかどうだかはわからないがなかなか食いでのありそうなサイズ。
「ああ、ありがとな。
飯までもらっちまって。今度は気をつけろよ?」
突然もらった握り飯に面食らったが、彼女が笑えば思わすこちらも気が抜けてしまう。
緊張感が失せて消えたかのようだ。
「へぇ、頼まれごとか。
ま、気をつけるのはお互い様だ。
まともな貴族もいるけど、そうじゃねーのもいる。
安請け合いしてたら腹の中ってならねーようにな」
手を振って街中へと消えていく女性に手を振り返す。
下駄の音も消え、姿をも見えなくなれば渡された握り飯を頬張る。
梅の酸っぱさに少しむせたが、彼女には見られてはいないだろう。
ご案内:「王都マグメール 貧民地区」から羽流禍さんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 貧民地区」からブレイドさんが去りました。