2018/07/19 のログ
マイ > エマヌエル教会のことは知っている。
元より腐敗の進み、信者から金品を巻き上げ私腹を肥やす数多の教会社会の中で、エマヌエル教会はとりわけ普通な教会だと認識している。
普通な教会であることは「普通」なはずだが、このご時勢においては普通であることが珍しいほうだ。

もし彼女がさして裕福で無いにも関わらず金品を支払うなどという、その場しのぎのセリフでも吐けばどうしてやろうかなんて少しは考えていたが、彼女から出た言葉は真面目で誠実なもの。
差し出せるものは少ないと隠すことなく伝え、それでも時間を掛けて代価を支払うという言葉。
それこそその場しのぎにしか聞こえないかもしれないが、彼女の真っ直ぐな目を見れば、心からの言葉なのだと思えた。
もしかすれば少年がお人よしなだけかもしれないけれど。

「…ふぅん…ふんふん……キミは、純粋な人だね。
本気で守る気あるのかなと思って、意地悪なこと言ってごめん…お金とか要らないよ、その子連れてっちゃっていいから」

彼女の真っ直ぐで純粋な言葉を聞いて、なんだかこっちがみっともないような気分になる。
こんな時代にこんな人がいたんだなと、尊敬を含んだ視線を向けて微笑みを浮かべ、試したことへの謝罪をしよう。

「ゴルプティのことは心配しないで。
捜したけど見つかりませんでした~って言っておくし、新しい奴隷に夢中で気にしないと思うからさ」

欲深いが飽きっぽいのもその男の特徴だ。
依頼に失敗したとしても対してデメリットは無いだろう。

リータ > それなりに問答となることは覚悟していた。
こちらの言葉を信じてもらえない場合、最悪、力ずくの様な形で娘を逃がさねばならないかと思っていたところだ。
それが実際に実現出来るかはともかく、相手を傷付けるのは本意ではないし、
かといって彼女を渡してしまうことは絶対に出来ない。
―――そんな緊張した場面で、拍子抜けするほどあっさりとした返答を貰い、少女はきょとんとした。
同じく奴隷の娘も、信じられないといった様子で肩越しに少年を見る。

「…本当によろしいのですか?何も要らないと…?
 それで、貴方は咎を受けないのでしょうか。」

随分軽く言ってくれる言葉はこちらにとってみれば非常に有難い。
だが、雇い主を知らない身からしてみれば何も得ずに戻るのだろう彼が心配になってくる。
何と言っていいのか分からず、とにかく深々と礼をして。

「有難う御座います。本当に…本当に。
 私はエマヌエル教会指導者のリータ・ノルランデルと申します。
 何かお困りの際には是非いらしてください。」

それはこれから雇い主へ報告した際に、万が一問題が起きた時の為。
そして、優しい彼が今後迷うことがあった時の為。
少女は名乗り、微笑む。

―――ちょうど、生神女を探す修道女の声が遠くに聞こえた。

マイ > いろいろ覚悟していたのだろう、ともすれば殴り合いみたいなこともありえたかもしれないか。
あっさりと見逃す旨を伝えた際の二人のきょとんとした顔は、しばらく忘れられそうにない。

「んー、そしたら僕悪者になっちゃうからねぇ。
なんとかなるよ、うん」

裏の顔があるので元より悪者ではあるけれど、それとこれとは別の話。
いたいけな奴隷少女を無理矢理連れ帰るような悪者にはなりたくないのだ。
先方についても何か考えているわけではないが、なんとかなるだろうと軽く考えている程度。

「そんなに頭下げなくてもいいよ、意地悪したんだし。
僕はマイ・アマルテア、今度教会にでも遊びに行くよ、リータちゃん」

深々と頭を下げる彼女に苦笑い、こちらが意地悪なことを言わなければさくっと終わっていた話なのにと。
名の名乗る彼女だが、エマヌエル教会代表者としてすでに把握している。
彼女のような人が指導者なら、たとえ祭り上げられているだけだとしても心配はしなくてもよさそうだ。
少なくとも後ほど、様子を見に行ってみることにしようか。

「…呼ばれてるみたいだね。
依頼主には上手く言っておくよ、それじゃあ」

彼女の名を呼ぶ声が聞こえれば、こちらはさっさと撤収しよう。
奴隷少女も早く落ち着ける場所に行きたいだろうしと、軽く手を振れば少年はその場から立ち去って行った。

リータ > 聖職者の方は世間ズレしているところがあり、少年に深く感謝しながらも
何とかなるものなのだなぁと感心している。
――世間を知っている奴隷少女の方は、そうではないらしい。
よほど酷い目に遭った所為か、少年の軽い物言いに驚きと疑いを混じり合わせた視線を送っている。
それでも鋭いものではなく、むしろ少しつつけば泣きそうなほどに
不安定な表情は、追っ手である彼に感謝を感じているからなのだろう。

「はい。ヤルダバオートにお立ち寄りの際にでも、是非。」

信者でない人は、思い出した様にふらりと来てくれるだけでいい。
そんな考えの少女は頷いて、朗らかに、年齢相応に笑う。

「お気を付けて。神のご加護を。」

軽やかに去って行く少年の背に手を振り、見えなくなると胸元で手を組み、祈った。
間もなく入れ替わる様にして別の方向から来た修道女が、奴隷の娘を見て首を傾げる。

事情を説明し、もちろん少年のことも話し、聖職者達はやせ細ったミレー族の少女を連れて行く。
馬車まで、宿まで、―――最終的には教会まで。

こうして1人、大勢の奴隷の中でたった1人でも救われた少女は、新たな環境で新たな道を模索し始めるのだろう。

ご案内:「王都マグメール 貧民地区」からリータさんが去りました。
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