2017/08/25 のログ
ご案内:「王都マグメール 貧民地区」にグレイさんが現れました。
グレイ > 貧相な子供が襤褸を揺らして通り過ぎた。
貧民街の雑居の合間。暗がりとも為れば灯なぞ無きに等しい全くの闇。
周囲に漂う澱んだ酒の匂いと濡れた空気は闇の色を更に濡らし、
ふたつ。其処に蠢く影を溶かす。

「……ん、――」

この一角に性別なぞを判別する理性があるのかも怪しいが、
あえかに唇を割る声は女の物であるのが知れるだろう。
女と云うには少し若い、少女との中間。

声を上げる方を押さえ付けていたのは、体格から見れば男。
元が同意であれ強制であれ、今は折り曲げられた首許に腕を差し伸べ、
絡み付かせ――程無くして、より深く。


否、違った。
『深く』では無く重量を無防備に娘に掛ける、男の方は昏睡に堕ちていた。
ずるりと凭れ掛る体躯は重く、押し返す事よりも、其の腕の中から身を反転させて抜け出る方を選択した身体は
圧し掛かる影から解き放たれて、漸く差し込む細い月の灯を受ける。


かろり。開いた唇から覗く桃色の舌。


其の上に小振りの飴玉が淡く光った。

グレイ > 「御免ね、好みじゃないの」

口付けはせめてもの餞別――等、随分と一方的な言い様か。
冷たい地面へと転がる相手の懐から、財布を抜き出すと中身の半分だけ
目分量で自分の懐に納めて、残りと財布は元の場所へと戻した。

この場所で目立たない襤褸切れに至極近しいマントに身を包み、
つい今迄絡ませていた腕を翻すと数歩歩いて男から距離を取りつつ、
咥内に仕舞った飴玉を歯の合間滑らせて奥歯で噛み締める。
ぷん――と匂い立つ中で目立つのは、安眠用として良く知られた薬草。
甘く、草の香りのする飴玉は気休め程度に。或いは呪い程度に、
人々の日常の中に普通に利用されている物だ。
其れと一緒に混ぜ込んだ、あくまで安眠の効果を持つハーブ達。

に、酒を共にした時にグラスに忍ばせた薬草の粉末。

其れから、其れから、会話の中に紛れこませた幾つかの、断片的な言葉。
以上が今の一幕の仕掛け。駄目押しで眠りの魔法も導入に与えはしたけれど、
何処かを切り取る程度じゃ屹度、読み解くものは居まい。

グレイ > 崩れた煉瓦肌の壁に片手を添え、月の傾きを見て思案する。
そろそろ――塒の家賃の取立ての期日。
仮住まいとは云え、契約は契約。踏み倒せば自身の首を絞めるだけ。
一人目から取り上げた金額では足りず、蓄えを幾等か廻す事になる。
蓄えを切り崩す――その日暮らしの身には焦りを覚えざるを得ない響きに、
夜深く更けて尚塒に足が向かず敢えて選ぶ遠回りの道。

もう一人。
欲を出すべきか迷いながら、暗がりを出れば
様々な色の暗い視線の中を慣れた様子で歩いて過ぎながら、
双眸は力なく歩く浮浪者の男を其の儘通り過ぎて、夜道を泳ぐ。

グレイ > ――とはいえ、この貧しい一角に目ぼしい相手なぞ
簡単に見付かる訳がなかった。

前髪に指を絡めてくしゃりと潰すと、
諦めた様に吐息を漏らして爪先を新しい場所へと向けた。
行方は塒か違う地区か。一先ず、其の場所から消えた事は確か。

ご案内:「王都マグメール 貧民地区」からグレイさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 貧民地区」にジュリエットさんが現れました。
ジュリエット > 「――要するに、お前が巧い事してやられたってだけの話だろ。」

騒がしい路地。
薄汚れた壁に其の身を凭れて、紫煙を燻らす金糸頭。
向かい合って何やら愚痴を喚き散らしている男を見遣って苦笑顔だ。
行き交う人々に背をぶつけられるのもあってか、勢い増して喋る男が段々と距離を詰めてくるのを、近い、と押し戻して。

「半分残してくれるなんざ優しいじゃねぇか。いい勉強代になったろ。」

気付いたら既に朝、路地に転がっていたんだぞと男は金糸頭に突っかかって。
当人は笑い事じゃないと真剣其の物だが、何しろ相談相手が不真面目過ぎるのだ。
其の様子を見て、一層シアンの片目に笑いの色を濃くするばかりで。

「此の界隈で次の日の朝日が拝めただけでも感謝しろよ。…まぁ、精々美女には気を付けるんだな。」

押し退けた手を其の儘に、背で壁を押すと金糸頭は歩き出す。
未だ何か後ろで男が喚いていた気もするが、既に振り向きもしない。

ご案内:「」にジュリエットさんが現れました。
ジュリエット > やれ盗難にあっただの、捕り物で屈強な男共の目を擦り抜けて賊が消えただの、相変わらず此の辺りは騒がしい。
さて、と歩みの速度を僅かに緩めたのは目的の場所が、近い所為だ。
人の流れに逆らって立ち止まれば、あからさまに迷惑顔をした人々が、川の小石を避ける様に擦れ違って行く。
そんな雑踏の向こう――見えるのは、質素な建物。
入り口に十字架を設えた、凡そ此の男に縁の無い場所――教会だ。

「――やっぱりな。」

先日、路地で不意に切り付けて来た相手。
刹那しか拝めなかった顔が、今雑踏の中に在る。
間違いない。あの顔だ。
娼婦達や、赤子を抱えた町女に囲まれた――歳若い牧師。
平民達の住まう街中の教会では祝福を受けられぬ者達が、こぞって其の優しげな牧師の元に集っている。
何か困り事は無いですか。話だけでもお聞きしましょう。宜しかったら教会へ。
そんな風に発せられる言葉――道行く人々に平等に掛けられていそうな其れも、暫く見眺めていれば教会へ、と誘っているのは女性にばかり。
此の界隈、忙しない刻限だ。未だ足を止める者は居ないようだが――暫し、様子を見遣らんと。

ご案内:「王都マグメール 貧民地区」にグレイさんが現れました。
グレイ > 物腰の柔らかな牧師は人気がある様で、貧民街には珍しい品を見て
憧れを芽生えさせるのかもしれない。本来は憧れや、ときめき。
其れに付随するほんの少しの自己主張であった筈だが、
競争相手――所謂普段は貧しい乍らに助け合う、街の女性陣達が、
互いに張り合う物だから大分姦しい。

其の女性達の群れの中に、一見母親らしき、年配の女性に
付き添っている様に見える位置に、埋没する娘が一人居る。
梳られた「黒髪」を結わえる形は少し離れた土地柄特有の、未婚の少女にされるもの。
従順げな素振り。楽しげな母を見守るといった態でありつつも、
不意と退屈げに逸れる「紫」の眸は其の集団の中にあっては気付かれないかもしれない。

「――……」

つと、視線は他者の視線を感じた様に泳ぐ。
その視線の主を捕らえられるか、如何か。