2017/08/19 のログ
ご案内:「王都マグメール 貧民地区 教会」にリーノさんが現れました。
リーノ > 普段は人の出入りのほとんどない貧民地区の教会でも、賑やかになるときもある。
今日は午前中に、貧民地区に住む子供たちに衣服や本などの無償配布が行われていたからだった。

その中心となって動いていた己にとっては充実した時間であり、
貴族の偽善、と陰口をたたかれることも多く、施しを受けた子どもたちは、その足で転売をする、なんてことも多い中、
それでもなお続けているのは、やはり偽善かもしれなかったが、少なくとも辞めるという結論には至らなかった。

「…はい、お疲れ様でした。また来月、よろしくお願い致します」

正午を過ぎ、教会へと運びこんできた品々はすべて子どもたちの手に渡った。
手伝いをしてくれた平民地区の教会の修道女は、護衛と共に平民地区へと戻るというから、
穏やかな表情と声とで彼女と護衛を見送った。

一人になると、片付けの終わった礼拝堂の掃除である。
ひと月に一度使用させてもらうが、その間に誰も掃除などしていないのだろう、1か月分の埃が積もった祭壇へと足を向け、
ひとまず、今日、ここを使わせてもらったことを神へ感謝するつもりで、祭壇前にて祈りを捧げ。

リーノ > 果たしてどこまで本気で祈ったのか、自分もよくはわからないが、一通りの所作を行って祈りを終える。
古ぼけた礼拝堂には、富裕地区のそれのように煌びやかなステンドグラスがあるわけでもないし、神々しい絵画があるわけでもない。
ただ、風雨を凌げる場所、という役割しか果たしていないようなその場所でも、神の御座である。

恭しく一礼をしたのち、掃除のためにおいていた、水の入った小さな木桶に、綿布を浸し、硬く絞ってから祭壇の拭き掃除である。
この施しをするまで、そもそも掃除などしたこともなかったし、
今も屋敷の使用人に比べれば、まだまだ非効率ではあったが、
自分の手で綺麗になっていくというのは清々しい気持ちもあったからやりがいもある。

おそらく、礼拝堂が出来た時には何か装飾が施されていたのであろうが、今は剥ぎ取られ、
ただ木製の台となっている祭壇の隅々を綺麗にふき取っていけば、
古びてはいるがそれなりに美しさを取り戻していく。

リーノ > これも自己満足だと言われればそれまでであるが、一通り拭き掃除を終えると、
木桶を抱え、古ぼけた木製の、立てつけが悪く蝶番が一つ外れた扉から外へと出て。
使われているであろう井戸の傍で、木桶の水を流し、新しく井戸水を組んで、綿布を洗って、一息つく。
流した水が、未舗装の地面を伝い流れて行くのを、少しぼんやりと眺めてから、ゆっくりと腰を上げた。

再び礼拝堂へと戻ると、邪魔にならないように、木桶を端に置き、もう一度祭壇の前へ立つ。
神の姿を刻むモノは何もなく、ただ祈りの象徴としての彫刻が一つあるだけのそれへと視線を走らせたあと、
ゆっくりと踵を返して、礼拝堂を横切り。
そして、待たせていた御者を呼び、礼拝堂を、そして貧民地区を後にして………。

ご案内:「王都マグメール 貧民地区 教会」からリーノさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 貧民地区」にジュリエットさんが現れました。
ジュリエット > 遠雷。ささやかな稲光は、道行く人の目を僅かに持ち上げさせただけ。
其れ位に、此の界隈の人々は己の事で精一杯だ。

「…降って来んのかね。」

其の中の一人――雑踏から金糸頭を一つ飛び出して、空を仰いだ背高の男。
独りごちは誰に拾われるでなく霧散して、男も止めた足を再び動かした。
道端の酔客。
客引きの娼婦。
家紋を隠した貴族の馬車。
財布を抜け目無く狙うストリートキッズ達。
此れが此処では日常だ。
人の波を縫う様に歩けば、見知りの浮浪者と顔を合わせる。

「よう、おっさん。…良い酒?分かった、後で行けたら顔出すわ。」

すっかり黄色くなった歯を見せて笑う浮浪者に一本煙草を差し出して、其の儘擦れ違う。

ジュリエット > 浮浪者へ肩の上でひらりと振った手が下ろし切らぬ所で、シャツの裾をついと引かれた。
何だとシアンの視線を巡らせば、既知の娼婦と目が合って。
袖引いたのが見知りの男だと娼婦の方も承知すれば、
其の双眸からさっと色気が波引いて、何だ、あんたかいと鼻の上に皺を寄せられる。

「何だ、とは随分とご挨拶だなァ、おい。ちっとは愛想良くしろよ。」

あんたに売る愛想は無いよ、と素っ気無く返されれば、くっと喉を鳴らす様に笑って。

「そんなんじゃ今日も独りで寝床を温める事になるぜ。可愛くしてりゃ、俺が連れて帰ってやんのに。」

あんたに売る物は無いってのが分かんないのかい、と鼻先でつんとあしらわれれば、如何にも機嫌が良さそうに男は笑う。
男の冗句めいた言葉では、何処まで本心か分かった物では無いと。

「可愛くねぇの。」

馬鹿馬鹿しい、ととうとう娼婦は強く巻いた赤毛を翻して雑踏に紛れて仕舞った。
男の方も其の後姿が確りと消える前に踵を返せば――不意に、前方の雑踏から、わっと声が上がる。

「…何か、あったかね。」

ジュリエット > 酔客同士の喧嘩か、娼婦同士のトラブルか、其れとも万引き小僧が捕まったか。
商人が荷を引っ繰り返して、浮浪者達が持ち逃げをしたのかも知れない。
何れにせよ、スラムで起こった面倒事だ。
…雷が少し近付いて来ている気がする。
いよいよ降り出すのかも知れないが、周囲の者達は誰も夜空を仰ごうとはせず、騒ぎの中心を熱心に見遣っていて。

「すまねぇな、ちょっと通してくれ。…ッと、悪い、通るぜ。はいはい、悪ィな。」

こう言う時、小さい身体は便利だろうと思うのは、スリの子供達が野次馬の懐をくすねて回っているのを目にするからで。
デコイの財布を態と尻ポケットの上から叩いてやって、再び雑踏の中心を目指す。

ジュリエット > 騒動の中心ではどうやら男が喚いている。
雑踏を擦り抜ければ、声の主は未だ歳若い様子。
そして地味な身形を装ってはいる物の、仕立ての上等さから見て、明らかに貴族だろう。
お忍びで遊びに来た貴族家嫡男、と言った所だろうか。
育ちの良さそうな白い頬に赤みが差しているのは、怒りだけでなく、やや酒気を帯びているのかも知れない。
少々間が抜けているのは、其の傍でおろおろとしている従者風貌が居る所為だ。
あれで身分を隠しているつもりなのだろうか。

「何だってんだ、ありゃ。」

どうやら言いがかりを付けているとか、いいや、肩がぶつかっての喧嘩だったとか。
野次馬の情報は不確かだ。
此処できゃあっと高い声が上がったのは、育ちの良い指先が揉め事相手の髪を引っ張ったらしい。
地面に引き摺り倒すつもりだろうか。

「おいおい…随分と大人気無い事してるじゃねぇか、旦那。」

好い加減様子見は無しだと、雑踏から抜け出して。

ご案内:「王都マグメール 貧民地区」にチルユキさんが現れました。
チルユキ > ――――血が、足りない。寝起きも相俟って霞がかる思考を振り切れずに茫洋と歩いていたら、赤ら顔をした身なりの良い男に肩が触れた、かもしれない。
気にも留めずにふらりと行こうとすれば、後ろからギャンギャンと喚く声が聞こえ。頭に強い痛み、が走った瞬間地面に引き倒されていた。人だかり、だ。

人が多い、けれど。それよりも。―――男の首筋に白い手指が絡むように伸び、唇から牙を覗かせた、瞬間。掛かる声に仰向けに視線が転じる。黒眸に僅かに赤が混じる。じっと其方を眺め、

――――身分不相応なふるまいで馬乗りになった男が、己より大分背丈のある男に声を掛けられた瞬間振り上げた拳が止まる。振り下ろされも、下ろされもしない拳を握り締めては弛めを繰り返しながら、こいつからぶつかってきただの、無礼だの。喚き散らすが―――声を掛けた男には拳を振るおうとしない。気圧されたのか 本来は小心者、なのか。

ジュリエット > 嵐を連れて来るだろう、夜灯りの所為だろうか。
地面へと無体に引き倒された娘の黒水晶に、ちらりと赤の色が混じった気がする。
怯えより、何処か浮世から離れた様に霞掛かる様子を不思議に思ったか、男は瞬きの間、貴族の青年よりも娘へと視線を留めて。

「無礼、だなんてお上品な言葉を使うじゃねぇか。こんな場所で不注意はお互い様の筈だぜ。
…何にせよ、此の界隈では花は枯らすもんじゃねぇ。愛でるってのが常識だ。」

振り下ろし先のタイミングを損なった拳を、甲でゆるりと払って下げさせんとすれば、

「良いから退けよ、大将。」

獣の様な低音が呻って。見眺める片割れの青の色は、到底青年が見た事の無い様な、下卑た凶暴さを備えている事だろう。
青年が大人しく退けば良し、退かぬのなら、其の肩口を緩慢な、其れで居て有無を言わさぬ強さで押し遣って、娘の上から退かさんとする。

「無事か、お嬢ちゃん。」