2017/05/31 のログ
レオノーレ > 「パンを売るほどある人の家族がどうしてお腹を空かせるの?」

途端、少女は怪訝な顔になる。
人間の社会とは実に複雑で、理解しがたいシステムのようだ。
見物人が様々にざわついて、様々な表情を作る。
それも致し方ないのだろう、という発言であったが、店主の方は少女の
頭がいかにイカれていようとその育ちが良かろうと悪かろうと、興味がない。
今、謝礼を渡しておかねば面倒なことになりそうだと察したか、
売上金の袋より手間賃程度の金額を差し出した。

「………。」

少女の視線は子供へと移る。
ここで逃げることは容易いのだが、自分だけ逃げれば
このボロ布を纏った程度の、飢えた子供にすべてが覆い被さるのだろう。
ならばとりあえずはなるようになるしかない、とおとなしくその場に留まることを選んだ。
もし男が満足しその場を去るのなら、二人の処遇は店主とその仲間が相談し、決めるはずだ。

オーリ > 少女の言葉に、肩を竦めて見せ

「売り物を家族と自分で食ってしまったらどうやって服を買うんだ?」

そんなふうに答えて返す
とはいえ、内心、なかなか面白い事を言う娘だな、と思えば、へえ…と娘をまじまじと見る
着ているものの仕立ては良さそうだが質までは自分には判りかねた
おかしな事をする割に、頭が悪い、というのでも無さそうだ
そんな事を考えていれば、店主に声を掛けられ金を渡される…通りすがりに子供を捕らえた程度の謝礼なら
こんなものであろう…
ゴネた割にあっさり引き下がれば、子供へ視線を向ける娘に再度、視線を向ける

「おい、すぐ稼ぐって言ってたな?それなら、この金を貸してやる…パンの代金を支払え」

す、と受け取った金を娘へ差し出す
法を犯したとはいえ、子供は怖い思いをして反省したであろうし、娘の方も、
腹を空かせた子供を不憫に思ってやってしまったのであろう…もう十分に反省はしたはずだ
そんな様子に、物言いたげな店主がす、と前に出れば娘と子供、店主の間に割って入り

「金を貸すのは俺の勝手…
 だいたい、アンタはパンを売るのが仕事、人を売るのは仕事じゃないだろ?」

そう告げ、それ以上、言いたいことがあるのなら腕っ節で訴えるとでも言いたげに、持っていた短槍の穂先で軽く地面を
払って見せてどうするね?と首を傾げた

レオノーレ > 「ん、ん…???」

反論というより素朴な疑問でしかなかったため、それが更に問いとなって返ってくると少女はますます困惑する。
人間が金や物を交換して暮らしていることは知っているが、その知識は本当に浅い。
そのくらい、本来の意味での人間との関わりがなかったのだろう。
――――封印されていた後遺症で記憶の何割かが眠っているので、自分ですら知らないけれど。

答えが見つからないうちに店主から男へ、そして自分へと差し出された金を見て
まばたき一度。そして男を見上げてもう一度。

「え?あ、―――…。」

男と店主のやり取りをぼんやり、眺めていた。
先ほどまでどっちもこっちも悪い人間だと思っていたので、頭の処理が追いつかない。
店主の舌打ちにハッとすると、腕を伸ばし、男の手から報酬を受け取った。
そしてそれをまた店主に渡す。一周回って戻った金を受け取る店主の顔は、苦々しい。
ほとんど投げ捨てられるようにして寄越されたパンを子供に渡すと、
孤児はつたない口調で礼を男と少女に述べ、そして他の子供に盗られぬよう、走り去っていく。

「またねー!」

手を大きく振り、やはり世間ズレしている挨拶を孤児の背に掛けていると、
一連の騒動が終結を迎えたことを察した見物人はゆるりと解散し、
店主は露店の邪魔だから去れ、と露骨に追い払ってくる。
男に寄る形で一歩、二歩と移動すれば男の顔を見上げ。

「あっ、ありがとう。結局助けてくれたんでしょ?
 でも、んー…あの、私、今はお金がまったくないの。
 稼ごうって思ったのは本当。ただ…時間が数日はかかるかも…。」

店主には明日、即日と嘯いたが、本音はこちら。
男に金を返すつもりではあるが、今すぐとはいかない。

オーリ > 店主の苦々しい顔をニヤつきながら眺める
パン1つと娘1人、ではどう考えたって釣り合いが取れない、パンだけを売っていれば良いものの要らぬ欲をかくからである
またポカンとした娘の表情も自分には傑作だった、声にこそ出さないものの表情は娘の様子にニヤついていたかもしれない

―――ともあれ、娘と店主間でのやり取りが行われれば、す、と短槍を引いて
去っていく子供を見送れば、見物人に紛れて自分もずらかろうとする
貸した金はパン1つ買える程度のものであったし、正直どうでも良い、謝礼は少ないが、まあ夜の食事の分くらいは
ありそうである
そうして歩きだそうとすれば、娘が歩み寄ってきて、その声にそちらへ視線を向ける

「気にするな…俺はほんの少しだが小遣い稼ぎが出来たし、アンタはガキにパンをくれてやっていい格好ができた
 露店のパン屋は人身売買に手を染めずに済んだ…誰も損はしてねえんだし…」

貸した金のことを聞けばへらり、と笑い

「そりゃ知ってる。金持ってりゃパン位、買えるだろうしな…
 返さなきゃ売っぱらうなんて言わないし、どうせパンの代金なんてたいしたもんじゃないから忘れてくれて構わんよ」

見るほどに貧民地区には似合わぬ風貌の娘である
どうしてこんな娘が持ち合わせもなくこの辺りをウロウロしているのかが不思議であったけれど、
聞いていしまえば、どうしたって面倒事に巻き込まれそうな気がしてならない、そんな第六感に従い
疑問を娘に追求するようなことはしなかった

レオノーレ > 表情が緩んだのを初めて見た。
気にするなという言葉はありがたいのだが、人間社会に疎いことは自覚している。
それを真に受けて良いのか迷うところである。
ふむ、と顎に手を当てて考える仕草は少々わざとらしく。

「そうなのかな。…恩を…何だっけ、仇で返す…だっけ…。
 返さなくちゃいけないって、学んだ気がするんだけど…。」

とはいえ恩を返せるような貴重なものは持ち合わせていない。
後日本当にお金を稼ぐことができれば別だが、今は甘えておくしかなさそうだ。

「んーと…今度からはヒトの前に出る時は、ちゃんとお金を調達してからにする。
 いつかパンをいっぱい買えるくらいお金貯めたら、きっと返すから。」

本日の騒動で学んだことであった。
忘れて構わないと言ってくれた男の言葉を聞いていたのやら、な宣言をし、
ととと、と建物の隙間へと駆けていく。
きっと後から気づくのだろうが、別れの挨拶をしていない。
していないが、少女は月光の当たらない場所まで来ると振り返り――
ふわっと白髪が翻って靡いたかと思えば、その姿は陽炎のように揺れて消えるのである。

まだ人間の前に出るのは早かったこと、
人間の社会は大変なこと、人間の中には良い人がいること。
それらの知識を胸に、精霊は風に溶けてどこか、へ―――。

ご案内:「王都マグメール 貧民地区」からレオノーレさんが去りました。
オーリ > 娘が何やら考えるようでいれば言葉を待つ
判りやすく、何か思い出そうとしているので急ぐ身でもないから待ってみた
先程のように何か面白いことを言い出すかもしれない、とほんの少し期待して

「…惜しい。仇はそれこそ返さなくていい
 どうせなら、恩に報いてくれ…っても、パン代だしな…まあ、稼げたならパンをたらふく食わせてくれ…」

彼女の言葉に吹き出しかけたがなんとか堪える
彼女は金を返すつもりでいるらしいが、正直、大した額でもないし、それほど期待もしてない
王都は広い、偶然、彼女の懐が温かい時に巡り合うなんて都合の良い話もないだろう

駆けていく背中を見送れば、自分もまた人混みに紛れてフードを深く被りなおす
彼女がこちらを振り返ったような気がして顔を上げたがそこに姿はなく…それきり、確かめるような事もせず、
人混みに紛れて大通りの方へと消えていった――――

ご案内:「王都マグメール 貧民地区」からオーリさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 貧民地区」にノアさんが現れました。
ご案内:「王都マグメール 貧民地区」にセイン=ディバンさんが現れました。
セイン=ディバン > マグメール貧民地区。薄暗く、光も届ききらない路地裏に、一人の少女が居た。
見た目に似合わぬ細巻きを咥えながら、路地裏で商売する露天商に声をかけ、二、三会話した後、代金を払い、商品を転送魔術で家に送る。

「ふん。こんなものにしておくか」

ある程度買い物をした少女は、壁に寄りかかり、細めた目で空を仰ぎつつ、紫煙を吐いた。
先日情報収集を重ねたものの、成果の無かった少女は、貧民地区で売っている怪しい古書などに目星をつけた。
信憑性のほどは疑わしくあるが。古い書物に記された知識にでも縋る思い、というヤツだ。

「……はぁ。こんな時、知り合いの超越者様たちなら、
 『かかかっ。愉快愉快。この程度の刺激ではちと物足りぬが……長き生のスパイス程度にはなろう』
 とか笑うんだろうかねぇ」

脳裏に、複数いる魔王様や大妖様たちの姿が思い浮かぶ。思わずため息。
しかし、少女はただの人間だ。現状の自身の姿などには、苛立ちしか湧かない。
当然、表情は険しいものになりっぱなしだ。

ノア > 酔いたいのなら、 この辺りの酒場に入って安酒を煽るのが一番手っ取り早い。そうした品もクソもない呑み方で見事、 日付も変わらぬ内にほろ酔い状態となった一人の女。すいすいと呑み進めていたものの 酔っ払い同士の喧嘩が始まれば、 店を変えようと酒場を出て

「 ............... 」

ふらり、 ふらり..... 華奢なヒールは頼りなく、 足下も覚束ないまま入り組んだ路地を歩けば

「 ── っ、 と.. ごめん、 大丈 夫.. ? 」

角を曲がった先、 壁に寄り掛かる少女に気付かず とん.. とぶつかってしまい。明らかに酔っている風な、 緩い口調で声を掛けた。

セイン=ディバン > 路地裏は暗いが、人の数は少なくない。むしろ、安い酒や娼婦を求め様々な人がこの地区へと訪れている。
そんな中、少女はイラついた様子でぷかぷかと細巻きを吹かしている。
まったく、どいつもこいつも呑気な面をしやがって。そんな気持ちが精神を尖ったものに変えていく。

「……チキショウ。あぁ、こちとら発情の影響でツライってのによぉ」

肉体に宿った呪い。発情と、自慰で達せない呪い。それのせいで最近は夜になれば悶々とした想いに苦悩しているというのに。
目の前の人間たちは幸せそうにしている。それがまた苛立ちを募らせる。
まあ、もともとは男自身にも問題はあるのだが。
そんな風に考えながら喫煙していれば、何かが少女にぶつかってきた。

「っ、気をつけろゴラァ!!」

思わず語気を荒げながら凄む少女。見た目こそ華奢な少女だが、精神は男時代のまま。粗暴な性格だ。
しかし、相手の姿を見れば、その勢いは失われ。

「……ノ……ァ……あ、えっと。はい、大丈夫です。そちらこそ大丈夫ですか?」

思わず相手の名を口にしてしまいそうになるが、少女はすぐさまうつむき、顔を隠しながら相手を心配するように言葉を続ける。
知己の女性ではあるが。今の姿を見られ、正体に気づかれるのは少女にとってはかなり避けたいことであった。

ノア > 「 .....ん、 だから ごめんって。」

見下ろした先には、 壁に凭れ細巻きを咥える生意気そうな少女の姿.. 切れ長の目がまた、 いかにも気が強そう。イメージ通り青筋立てんばかりに怒鳴り散らした少女だけれど、 どういう訳だか其の直後... 随分と大人しくなった。耳や尻尾も含め 其の容姿は、 ハッキリ言って.. なかなか愛くるしい。ミレー族..... だろうか ? こんな時間にこんな場所に一人だなんて、 ほろ酔い状態の女が言うのも何だけど.. かなり無用心。

「 そ、 なら良かった..... あたしは 大丈夫、 ありがと。てゆーか.. 」

顔を伏せる少女の目の前でしゃがみ込み、 覗き込むように ゆるりと首傾げ

「 こんな時間にこんなとこ... 危ないよ、 ほんと。ぶつかるとかじゃなくて ね、 色んな意味で..... 」

酔っているせいか、 ぶつかってしまった申し訳もあってか、 自分でも何だかお節介だと思いつつ.. 覗き込んだ容姿は、 やっぱり可愛らしかった。こんな少女がこのまま一人、 このような場所に居れば.. 拐われ、 売買されてしまいそうで。其れにしても ───

( .........何、 だろ.. )

先程から感じるこの違和感、 いや.. 既知感は何だろうと ── 黙り込み首を捻る程ではないけれど、 頭の隅っこが疼く程度に感じていた。其れは漂う紫煙の香りを何となく、 知っている気がしたからか..... きっと誰か、 知り合いが同じものを吸っていたのだろう。

セイン=ディバン > 思わず反射で凄んでしまった少女だったが、相手の姿をしっかりと見てしまえば、申し訳なさが一気に増していく。
更に相手に繰り返し謝られれば、更に俯きを強くする。見ようによっては、落ち込んでいるようにも見えるかもしれない。

「いえ、ほんと、ごめんなさい。
 あぁ、はい。ご心配ありがとうございます」

覗き込まれ、心配されると、少女は顔を勢い良く横に向け、礼を言う。
恐らく、顔を見られても少女の正体には気づけない。面影というものはほぼほぼないからだ。
それでも、少女はこの女性に顔を見られたくなかった。何か、惨めな気持ちになるからだ。

「えっと。大丈夫です。腕には自信がありますし。武器もありますし。
 その、お姉さんこそ。そんなに酔ってると危ないのでは?」

顔を隠したまま、腰のホルスターからリボルバーを取り出し、女性へとちらり、と見せる。
正直、早くどこかへ行って欲しかったが、ここでいきなり不躾な態度をとっても逆に怪しまれてしまうだろう。少女はどうしたものか、と悩み、必死に考える。

ノア > ( あぁ、 そっか..... コレ.. )

嗅覚というものは、 記憶を呼び起こすのに非常に効果的で.. 漂う紫煙の香りは、 ある人物の姿を思い浮かばせた。先程から感じていた既知感の正体はこれだったのかと、 一人満足しながらも何事もなく会話は続いて

「 .....っ、 そんなの持ってたのね。似合わないってゆーか、 意外ってゆーか.. 」

チラりと見せられたリボルバーは、 少女が手にするにはあまりに似合わなかった。こういう物が似合うのは、

( やっぱりセインみたいな.. ─── )

また、 女は同じ人物を思い浮かべ..... そして再び、 妙な感覚に襲われる。琥珀色の瞳が捉えた其れは、 其の人物の愛用品によく似ていた。考えてみればあの細巻きも、 随分と高価な品だった筈.. 少女が何者かは知らないが、 決して年端もゆかぬ少女に愛煙出来るような品ではない物で...

「 .........ぇ、 あぁ.. あたしは、 大丈夫... 」

会話が、 一瞬途切れる。視線を落とせば膝の上、 左手の薬指に光るペリドット。何かと "ある人物" を連想させる少女に、 くすりと吐息漏らして。少女からすれば、 何が可笑しいのかと思われてしまうだろうと..

「 っ、 ごめん... 知ってる人に似てたから、 何だか可笑しくて。いや.. 似ては、 いないんだけど..... 」

ある人物を感じさせるだけで、 似ても似つかない。一方は男、 一方は華奢な少女、 似ている部分などある訳がない。髪だって..

( .....黒髪、 あれ......... 目は、)

今は顔を背けてしまっているけれど、 確か... 紅だった、 気がする。黒髪紅目の人物など、 他にも居るけれど。だから何だと心の中、 自分自身に突っ込んだ。

「 よっぽど逢いたくなっちゃったのかな、 ごめん.. 意味わかんないよねっ 」

セイン=ディバン > 怪しまれたり、感づかれたりしてはいけない。だからこそ、女性に対して冷たい対応が出来ずにいる。
しかして、長々と接していればそれだけリスクは高まる。
いくら姿形が依然とはかけ離れているとはいえ、何が起こるかわからないのが人生、である。

「そう、ですかね。コレは小口径なので。私でも使いやすいんですよ」

相手に驚かれれば、少し得意げに言う少女。くるり、と手の中で一度回し、ホルスターにリボルバーを戻す。
さぁ、そろそろこの場を立ち去りたいのだが。そう思っているのと同時に、この知人であり、大事なパートナーである女性の傍に居たい、という思いも大きくなっていく。

「そうですか。……えっと。何か?
 ……っ。そう、ですか。……それは。はぁ……」

女性の言葉に、少女は言葉を切ってしまう。視線は、自然に女性の指。以前贈った指輪へと。あぁ、付けていてくれているんだな、などと思いながら。心の中は波立っていく。
気づいて欲しい。慰めて欲しい。触れて欲しい。
気づいてくれるな。離れてくれ。声を聞かせないでくれ。
少女の心が激しくバランスを崩していく。

「……いや、気持ちは。わかるっつー……。
 いえ、わかり、ますっ。私も、急に会いたくなることとか、ありますし。
 ……その、その人。大事、な、人、ですか?」

女性の言葉に。心の殻がぼろぼろ剥がれていく。叫び出したかった。正体を明かしたかった。でも、嫌われるかもしれない。
いや、気持ち悪いと言われたら? 今少女の体は両性具有なのだ。
呼吸が少しずつ乱れていく。感情が昂ぶってしまっていた。
ちら、と女性を伺うように見てしまえば、若干涙ぐんでいるのがバレてしまうだろうか?

ノア > 小口径のリボルバーを くるりと回してからホルスターにしまう仕草にさえ、 得意げな少女には申し訳けれど.. ある人物が、 頭に浮かんでしまって離れない。

「 銃には詳しくないけど.. その、 くるんって回すやつは好きよ。ふふ、 かっこいい♡ 」

少女が、 そして..... 貴方 が。酷く心を乱している事など、 微塵も気付いてあげられずに.. 其の人物について聞かれた女は、 ほんのり頬を染めながら

「 ふーん、 好きな人いるんだ ? ...そ、 いちばん大事な人。んん、 逢いたいー 」

初対面の少女..... と思い込んでいるが、 本人の前で思いっきり本心を露呈する。ほろ酔い気分に任せ、 路地裏のガールズトークを楽しんでいるつもり。しかしながら華奢なヒールでは、 ずっとしゃがみ込んでいるのも脚が疲れて。そろそろ立ち上がろうかと 膝に手を付いた、 其の時..

「 ぇ......... ねぇ、 泣いてる.. の ? 」

ちら、 と視線がぶつかり.. 潤んだ瞳が見えてしまった。やっぱりあの時何処か痛めていたのかもしれない、 それとも失恋したてで恋愛トークはNGだったのかも、 なんて... 困ったように眉を下げ、 白い指先を そっと伸ばした。叶うなら、 其の紅い瞳に滲む涙を拭いたいと ── 紅い瞳が悲しそうにしているところなんて、 何だか見たくなかったから..

セイン=ディバン > 以前仕事として無名遺跡に二人で潜ったときも。少女はこんな様子であった。得意げに銃を回し。細巻きを吹かす。
今と違うのは、ニヤリ、という不敵な笑みを絶やさなかったこと。

「……珍しいですね。女性でこの仕草をかっこいいって言うなんて」

平静を装いながら少女は言い。女性の様子を伺う。上手く会話が途切れてくれれば、そこで逃げてしまおう、と考えながら。
もう一秒だって。この女性の目に捉えていられたくなかったから。

「え……えぇっと。まあ、はい。そんな感じで。
 ……っっ!!」

尋ねられた言葉に、思わずなんと答えていいかという様子。
しかし、女性が口にしたその感情に、思わず息を飲み……。

「あっ……はっ……!! え、と、そ、の。
 ……はい、その!! とても。辛くて。悲しくて。
 その、スイマセン。急に、こんな……!!」

ぼろぼろと、一気に涙が溢れた。大事な人。もしかしたら、自身のことではないのかもしれない。
それでも、少女の感情は止まらなくなってしまった。涙を拭ってもらいながら謝り。
あぁ、でもここいらが限界だな。そろそろ帰ろう。この人に真実を知られれば、嫌われるかもしれないし、心配されるかもしれない。
そのどっちでも辛いから。そう考えていれば……。

『あれ、セインちゃんじゃん? どしたん? 今日はこっちにいたんだ。
 って、泣いてるの? そっちの女に苛められた?』

そこに。昨日出会った娼婦が現れ。

とんでもない言葉を。口にした。

ノア > 「 それね、 その人がよくするの。だから好き なのかな、 なんて..... ごめんね、 完全にのろけ。」

そんな事を嬉しそうに、 初めて逢った少女に漏らす。どうしてだろう、 この娘と居ると.. あの人の事が浮かんで仕方ない。ほろ酔いとあれば尚更、 とろんと目を細め微笑むけれど ──

「 .....っ、 なん で.. 」

見ず知らずの相手にのろけ話をしていた女に対し、 少女は全然楽しそうじゃなくて.. それどころか ぽろぽろと、 大粒の涙を溢し泣き出してしまった。

「 どうして謝るの ? 辛い とか..... 悲しい、 とか.. ねぇ、 ちょっ と... 」

白い指先で何度拭っても、 涙は溢れるばかりで.. 理由がわからず困惑しながらも、 懸命に慰め続けていた ─── が、 涙を拭い続けていた指先は.. とある娼婦の登場と、 其の一言によって ぴく.. と止まった。

「 は ?! 失礼ね、 泣かせてないわよっ.. 慰めてんの、 ねぇ セ ──── 」

( セイン、 ちゃん.. ? )

「 ............... 」

娼婦が呼んだ、 少女の名。其の名は.. 女の一番大事な人の、 名前で

「 セイ、 ン..... って ─ 」

黒い髪、 紅い瞳。器用に回したリボルバー、 細巻きの香り。其の名を口にした瞬間、 似ても似つかぬ筈の少女の姿に.. 隠された貴方を、 女は見た。

「 .........っ、 セイ ン... セイン.. ?! 」

優しく頬を拭っていた指も、 震える肩を擦っていた手も、 気付けば力強くケープを掴んでいる。ハッキリ言ってこんな話、 とても信じられないけれど..... 琥珀色の瞳は既に涙滲ませ、 女の視界を歪ませていた。

セイン=ディバン > 「そうなんですか……。一つ言っておきますけど。
 これを女性の前で得意げにやる男なんてのは、ろくでもないカッコつけのキザったらしですよ?」

どこか嬉しそうに言う女性に、少女は困ったように言う。実際、ガンスピンなど戦略上はなんの意味もない行為なのだ。

「えっ、と、あの……」

本当は、こんなつもりではなかったのだ。さっさと帰っておけばよかった。少女はそう内心毒づく。
姿は違えど、この大事な女性の前で涙を流すなど。少女自身のプライドが許さなかった。
そういえば、この身体になったあの夜も……。

「す、いません。その、ご迷惑、を」

なんとか冷静さを取り戻そうと、呼吸を深いものに変えていく。
大丈夫。なんとか、なんとか落ち着ける。さぁ笑顔で別れよう。
次に会うときには。身体を戻しておけばいいさ。
そう考えていた瞬間……。

『あれ、よく見たら【ホワイト・サーペント】じゃん。メンゴメンゴ。
 ……ん? その子あれだよ。ちんこでっかくて有名なセイン=ディバン。なんか、今女の子の身体なんだってー』

娼婦は女性の正体に気づき謝り。そして。べらべらと全てを喋ってしまった。
瞬間、少女の顔から血の気が引く。唇が震え。視線が落ち着きなく泳ぐ。
もうだめだ、と逃げようとした瞬間。ケープを掴まれ、逃げることは出来なくなってしまう。

「えっと、人違いです。そう、同姓同名。そういうヤツ。
 ってか、余計なこと言ってんじゃねぇぞクソビッチ!!」
『な、なんだよぅ!! 女遊びが過ぎてバチが当たったって自分で言ってたんじゃんっ!!』

なんとか苦しい言い訳をしていたが、少女はついつい娼婦に対して激昂してしまった。
これはもう、正直に言うしかないのかな。あぁ、色々終わったな。
そう思いつつ、少女は女性へとまっすぐ向き直る。

「あぁ、久しぶり、ノア。
 ……元気してたか?」