2017/05/21 のログ
スヴェン > 密造酒を飲んでいる内に結局、情報を仕入れに来たことも忘れてしまい
他に客もいなかったから明け方近くまで主人と話にすらなっていないような、会話を楽しむのだった

ご案内:「王都マグメール 貧民地区」からスヴェンさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 貧民地区/賭場」にティエンファさんが現れました。
ティエンファ > 喧噪、野次、下品な笑い声。 熱狂の渦の只中に少年は居た。
杭に縄を張っただけの粗末なリング、殴りかかる巨漢を見る。
腕の太さはマルタに似て、膨れ上がった筋肉は少年の倍はあろう壮年の男は、血走った目でその拳を振るう。
少年は半歩身をかわし、拳に合わせて腕を絡め、受け流す。

「ふ、ぅっ」

息を抜く声、片足爪先を軸に翻る身体。
体勢が泳いだ巨漢の四角い顎を的確にとらえた、後ろまわしの踵。
巨漢の一瞬の硬直。 そして、そのまま膝から崩れ落ちた。

その瞬間、リングの周りで歓声と怒声が飛び交う。
少年は何も言わず、顎に滴った汗を拭った。

ティエンファ > すぐに巨漢は引きずり出され、賭場の隅に転がされる。
それを横目に見送りながらも、呼吸を整えるために深呼吸をした。
諸肌脱いだ少年の身体は、岩を削り出したように精悍で、左胸から腕に刻まれた刺青は、上気した肌に尚鮮やか。
この国には無い髪の色と肌の色、戦い方。 それは、ならず者達を沸き上がらせる。

次の挑戦者は痩せぎすの、蛇に似た男。 不健康にこけた頬に薄暗い笑みを張り付けた男。
その右手にはナイフが握られていて、リングを垂らす薄暗い灯りをヌラリと照り返す。

少年はそれを一瞥し、鼻の下を親指で軽く腰ってから構える。
異論はない、そう言う場所だ。 そう言うルールだ。
そんな戦いを、既に5連勝。 賭けのオッズは上がっていく。
戦い疲れが出て来ただろう少年の振りを声高に叫び、値を吊り上げる胴元。
少年に負けろと罵声を浴びせる声。 それを鼻で笑い、少年は戦いを開始する。

ティエンファ > ナイフ使いは血の色の無い薄い唇を舐めながら、手の中でくるくると器用にナイフをもてあそぶ。
軽薄な表情と裏腹に、その細い眼は油断なく少年の動きを見ている。
…強いな、と少年はナイフ使いの実力を見た。 刃物に高揚して安易に切り付けてこない相手と、間合いを計る…。

先に動いたのは、少年だ。 長身のナイフ使いと比べ、恵まれてるとは言いにくい背丈の少年は、先制を期す。
しかし、ナイフ使いは油断なく身を翻して、リングの杭に飛び上がり、少年の間合いの外。

ナイフ使いから視線を外さなかった少年は、視界にちらついた光に反射的に手を払った。
ぱし、と軽い音と共に、少年の手の中に受け止められるナイフ。
飛びのきながら投げたナイフを取られ、驚いたように口笛を吹くナイフ使い。

ティエンファ > そのナイフの寒々した刃を眺めた少年は、ナイフ使いに山なりにそれを投げて返す。
警戒しながら受け止めたナイフ使いは、悠々とロープに寄りかかっている少年を怪訝そうに見る。
少年はナイフ使いに視線を返しながらロープから背を離し、手を差し伸べるように伸ばせば…

ちょいちょい、と指先だけを曲げる仕草。 口の端を上げる意地の悪い笑み。
安い挑発だ。 しかし、ナイフ使いよりも先に観客の一部が、不敵な餓鬼に苛立ち、罵声を浴びせる。
その声はナイフ男に、少年をぶちのめせ、殺せ、と狂乱したように向けられる。
それを聞き、にやりと笑う少年は、

「…どうしたぁ蛇男、刃物握ってんのに、素手の餓鬼が怖いのかぁ!」

一喝する声。 ナイフ男は、してやられた、と一瞬細い眉を寄せた。
賭け闘技は、客を盛り上げなくてはいけない。
つまらない試合をしたり、臆病な戦いを見せた者は、二度と呼ばれなくなる。
ナイフ使いは少年との間合いを計り、安全な場所を保っていたけれど、
客が叫べば、動かざるを得ない。 少年の挑発に乗らざるを得ない。

ティエンファ > まるで草叢を滑るような動きでナイフ使いが少年に接近する。
手練れの動き、陰が揺れるように幻惑する動き。 …奇襲や陽動をしたなら、脅威だったろう動き。
しかし、正面からかからなくてはならなくなったナイフ使いの動きは、少年の目には容易に掴めた。

軽く腰を落とした大陸の拳法の構え。 するりと前に出れば、攻撃は同時。
ナイフ使いが振るった短剣を、その持ち手を払う事で受け流し、同時に足を払うように下段を蹴る。
それを小さく飛び上がる事で避けた男が、受け流された手を鋭く翻し、少年の首筋を狙う。

咄嗟、蹴り足を踏み込みに変えて更に前に進んだ少年は、身を捻ってナイフを交わす。
首の薄皮を切り裂いたナイフ、小さく咲く血華。 ナイフ使いの片手が跳ね上がり、
少年の顔を真下の死角から切り上げれば、ナイフ使いに賭けた男たちが歓声を上げる。
一瞬の後に盛大に首から血を吹き出す少年の姿と、自分が握る勝利の賭け金を幻視したのだろう。

ティエンファ > 確かに、血華は咲いた。 少年の胴を腹から片口まで切りつけたナイフは、血の糸を宙に伸ばす。
…しかし、浅い。 ナイフ使いが思わず「気違いめ!」と毒づく相手は、口付けできるほどに近い、少年。

少年は、男が切り付ける寸前に、更に大きく踏み込んだのだ。
ナイフ使いは、少年がナイフを恐れ身を引くと思っての間合いで攻撃したが、
予想に反して間合いを潰された精で、満足に腕を振り切れなかった。

「痛ぇぞ、腹に力入れろよ、オッサン」

少年の声。 ひたりとナイフ使いの薄い腹に当てられる掌。
殴りつけるでもなく、ただ当てただけの手は、しかし、ナイフ使いの勝負勘を凍りつかせる。
制止の声をあげようとしたナイフ使いは、しかしそれを言う前に、自分の腹で膨れ上がった力に吹き飛ばされた。
細い身体がロープに叩き付けられ、そのまま、杭を傾けながら地面に倒れる。

予備動作も無く、身体の捻りと練り上げた体内の力を対象に叩き付ける、発勁。
荒くれと言っても一般人な観客は、少年が何をしたかもわからず、言葉をなくす。

異様な静寂の後、斜めに傷を走らせた少年は、血を拭う事も無くその拳を突き上げた。
我に返った胴元が、少年の勝利を告げる。 大穴を狙って少年に賭けた男たちの歓声が地下室に響いた。

ティエンファ > ナイフ使いに大金でも賭けていたのだろうか、気絶した男に向けて罵声を浴びせる男達。
賭場の関係者が男を運び出す前に、身動きもできない相手に向けて、持っていたグラスを投げつける。
ナイフ使いの頭に当たって砕けるグラス、男の頭から流れる血。
それでも動かない闘技者に、暴徒と化した男達が鬱憤を晴らそうと掴みかかる。
やっと意識を取り戻したナイフ使いが、自分の身に襲い掛かる暴力に、観念したように目を閉じる。
賭場では、負けた者は胴元に気に入られでもしていない限りは、酷い末路をたどるのだ。
後ろ暗いならず者の集まりの、その末路。 ナイフ使いの男も諦観の念と共に、迫る死を覚悟した。

…が、殴打音。 ナイフ使いが目を開ければ、龍の刺青を淹れた少年の背。
少年は辺りをねめつけ、苛立ったように舌打ちをして、怒鳴りつける。

「だーっ! もう我慢できねえ!! 手前等! 自分で戦いもしねえで偉っそうに騒ぎやがって!!
 俺が勝ったが、このオッサンは手前等よかずっと強ぇし怖いんだぞ!
 何より、気絶してる間にぶち殺そうって性根が気に入らねえ!!」

勝者が敗者にかける情けなんて高尚なものではなかった。
ただただ、観客の性根に憤り、文句を言いかけた中年の顔面に蹴りを叩きこむ。
そう然とする地下室、胴元が少年をなだめるように声をかけるが、それを強い眼で真っ直ぐ睨み返す少年。

ご案内:「王都マグメール 貧民地区/賭場」にリンさんが現れました。
ティエンファ > 「辞めだぁ辞め辞め!! ちょいと裏町の情報が欲しかったから黙って戦ってやってたが、もう勘弁ならねえ!!
 手前等みたいな奴等から情報なんて貰ってやるもんか! こっちから願い下げだぁ!!」

言葉の途中で殴り掛かった胴元の一人を躊躇いもせずに殴り倒せば、
言葉を失って細い目を丸くしてるナイフ使いの背を叩く少年。

「どうせこのままだとアンタもぶっ殺されるんだろ、オッサン?
 ちょいと手伝え、ぶっ潰して一緒に逃げよう」

そんな提案をしながら、さっきぶちのめした筋肉だるまが襲い掛かってくる方に顔を向ける。
ナイフ使いは、いっそこの無防備な背中にナイフを突き立ててこの場を治めれば、自分は助かるかもしれない、なんて思う。
ナイフを握る手に力を込め、少年の刺青背中に切っ先を向けた、振り上げる!

…が、しかし、振り返る少年は、真っ直ぐナイフ使いを見る。
自分を狙ってナイフを構えた男に、しかし、にぃ、と笑って見せる。

「ヤっちまおうぜ、オッサン あとで酒でも飲もう!」

そして、またナイフ使いに背を向けて、男を一撃で殴り飛ばす。

リン > 薄汚れた賭場にはそぐわない、上品で悲しげな旋律が響き渡る。
呪力の含まれた音を耳にしたものは、一瞬の間正常な意識を失い、前後不覚に陥る。
奇妙なことに、囲まれる少年、ティエンファにその影響はない。ナイフ使いのほうはどうかはわからない。

音源は賭場の隅に積まれた木箱の影。
そこから飛び出した提琴を抱えた少年は疲労か緊張か、脂汗を滲ませていた。
演奏していた楽器を振り上げると、今まさにティエンファを狙っていた男の一人の頭に振り下ろして叩き割る。

「これ、ぼくの出した賭け金戻ってくるの?」

ティエンファを見やって、そう気だるげに口にする。

ティエンファ > 不意に生まれる音色は、怒号渦巻く地下室の色を塗りかえる。
悲しげな戦慄、その音色は男達の正気を惑わせ、混沌させる。次、と殴り倒そうとした拳を止め、飛び出した影を見て目を丸くする。

「リ…っ …んんっ、げほんっ! 魔法か!? 助かったぜ!」

名前を呼びそうになって慌てて咳払いをすれば、リンに親指を立てて見せる。
突然の混乱に男達の大半は戸惑っている中、男を殴り倒したリンに駆け寄って。

「…ごめん、今日は諦めてくれ!!」

不意に、その身体を抱き上げる。 上着も羽織らぬままに軽々とリンを抱き上げた少年は、
演奏の余波を受けてくらくらしてるナイフ使いの男に声をかけ、地下室の出口に駆け出すのだ。

「いつからこんなトコに!? 全然気づかなかったぜ!」

ふらついて襲い掛かるならず者を、リンを抱いたまま蹴り倒す。
そんな事をしながら問いかける声。

リン > しまったなぁ。
知った顔が窮地にある姿を見てついついらしくもなく飛び出してしまったが、
よく考えてみたらそれ以上自衛の手段などなかった。
おとなしく隠れて演奏を続け、全員眠らせてしまえばよかったかもしれない。

「だよなァ、ってうわっ何! じ、自分で走れるよ!?」

断りもなく抱き上げられて困惑の声を上げる。
とは言うものの足手まといを抱えるぐらいならこれのほうがマシかもしれない。

「そりゃあ、試合が始まってからずっと物陰で目立たなくしてたからね……
 よく存在感のない男って言われる」

膝を曲げ、身体を丸めた体勢で、器用に弓を動かすと即興の音楽が産まれ、
ティエンファたちに追いすがるものの動きを泥に浸かっているかのように鈍くする。

ティエンファ > 「何?じゃない、逃げるンだよォ~~~!!
 って、ちゃんと食ってるか? 随分軽いぜ?」

黄金の精神と共に全力脱兎。 リンをからかう余裕すらある。
身体を丸める楽師を抱える腕は太く逞しく、走っているが、意外と安定している。
軽くお姫様抱っこみたいな姿勢で抱きなおしつつ、演奏するリンに、肝が太いな、と呆れと感心混じりの顔。

「おお、すげえ…皆ぶっ倒れてくな…俺より強いんじゃないかリン
 って、試合が始まってから、ずっと隅っこで!? …マジ何してたんだ!?
 あれか、試合を盛り上げる演奏楽師として?
 あとついでに、どっちに賭けてたんだ、リンは」

十分にまいたと思えば、リンの名前を呼び、それでもまだ走る脚は緩めず、
貧民街を駆けながら会話を続ける。ナイフ使いは途中で別の道に行った。

リン > 「逃げるのはわかるけどさあこの体勢はなくない!?
 めちゃくちゃ怖いしちびりそう。口じゃなくて脚を動かして早く」

芸人の端くれだからか、こんな鉄火場でも舌が回る。
愛され美少年を維持するには脂肪も筋肉も不要なんです、と自称美少年はうそぶく。

「効かないやつもいるし状況を選ぶし、その説にはうなずき難いなぁ。
 ……いやあ普通に通りすがりの客さ。応援でもしようかと思ったけど、ほら、
 知り合いが観客席に居たら、気が散っちゃうんじゃないかと思って」

そう口にするリンの表情にはどこか後ろめたそうなものが宿る。
……本当は、知り合いが生々しい殴り合いをしているのを目の当たりにして
おっかなくなってしまっただけだが、そんなことは本人の前では言いづらい。

「さあー、どっちでしょうねえ。
 っていうか、そろそろ降ろしてくれない? 自分で歩けるからさァ……」

激しい戦闘に晒された身体の熱を感じ取り、思わず心拍数が上がる。
いつもは澄ましている白い顔が、今日は赤みが差している。

ティエンファ > 「この方が、重心前になるから走りやすいんだよ! やって見りゃ分かる!
 …いや、リンがやると持ち上げられなくて潰れそうだな、やっぱやんないで良いや…
 あと俺の腕の中でチビんなよ!? 絶対だぞ!? 絶対だかんな!?」

愛され系少年(自称)を小便垂れ扱いする失礼な同世代、ぎゃあぎゃあ言いながらも安全圏まで駆け抜けて。
人気は無い分折ってくる足音や気配があればわかる裏町の路地裏、流石に息が上がった様子で歩調を緩める。
抱いたリンの服に、ナイフで切られた傷から流れる血が浅く染み込む。

「通りすがりの客ねえ…リンみたいな細っこいのがあんなところに居たら、
 賭博ついでに捕まってうっぱらわれるぞ? 気を付けないとな
 あと、それ位じゃあ気は散らんし、応援があると気合が入る現金な性格なんでな」

今度は応援してくれよ?なんて、抱いたまま間近な顔に笑って見せる少年。
下ろせと文句を言ったリンを見れば、この辺りなら大丈夫か、と頷いて足を止める。
リンを抱く鍛えられた腕、戦いで練り上げられた分厚い胸板、男の汗の匂い…。
同じ男だが、リンとは違う、猛々しい感覚を密着したリンに伝える。
少年を下せば、しかし、連戦の後に走った顔に疲労も見せず、明るく笑う。

「改めて、有難うなリン 本当に助かったぜ
 あそこでリンが居なかったら、マジであそこの奴ら全員とやりあわなけりゃあならんかった
 流石に、それだと死んでたかもなあ…ははは」

リン > 「あーもうだから要らんことばっかしゃべらないで!!」

つい相手の胸板にチョップでツッコミを入れたくなったが状況が状況故にやめた。
敵の気配が薄れ、考え事をするだけの余裕が生まれると、
自分と大して歳も違わない相手の、はるかに逞しい身体と自分を比較されられて余計に顔が熱くなる。
降ろしてもらって助かった。もう少し恥ずかしくなっていたら、“呪い”に苛まれていたかもしれない。

「まったく、もったいないことしちゃったよ。
 恩を着せられたと思うなら、今度でいいからきみに賭けた分の配当金立て替えてちょうだい」

ぶっきらぼうに言うと、まっすぐこちらを向いて笑うティエンファから視線を外し、俯く。
怪我をしているであろう相手の身体を、案じたように眺める。

ティエンファ > 「だーってリンが漏らすとか言うからさ!?
 まあ、荒事はリンには向いてなさそうだったしなあ…
 …ん、それなのに、あそこで飛び出してくれてありがとうな」

下ろしたリンに、改めてその目を見て微笑む。
抱いては知った時に感じた身体の軽さ、細さ。
喧嘩なんて得意だとは思えない楽師なのに、あそこで演奏し、助けてくれたのだ。

「俺が荒事に飛び込む勇気よりも、ずっとでっかい勇気がある証拠だぜ、リン」

素直に、そう言って感謝を伝えた。
続いた、立て替えてとの言葉に目を瞬かせれば、思わず吹き出して、頷いた。

「次の収入が入ったら、金を返すついでに飯も奢らせてもらうよ
 そんだけの事を、リンはしてくれたんだからさ

 …っと、ああ、これか? …痛くないったら嘘になるけど、大丈夫だって
 怪我の内に入らないし、飯食ってしっかり休めば、すぐ塞がるしな」

斜めに走る新しい傷。 リンが武芸家の身体を眺めれば、
刺青を掘った身体には、様々な古傷があるのが見て取れた。
きっと、このナイフ傷も、その中の一つになるのだろう。