2017/04/16 のログ
オーリ > 地下に篭った熱がじっとりと身体に纏わりつくようである
賭け試合に没頭する観客の熱気もまたそれを助長するような、そんな雰囲気
対角線上に立つ男の顔より太い首、皮下にあって今に弾けそうな筋肉。瞳に自信を湛えたたまらぬ男ぶりであるが
口元に浮かぶ下卑た笑いがそれら全てを台無しにしているように思えた

賭けの締め切りを胴元が伝え、観客の視線がリングに向けられる
中央で軽く拳を合わせてから一歩、二歩、と互いに下がり距離を取る
先手を取ったのは大男。体躯に似合わぬ細かく牽制するような正拳を刻む

「(うっ…重い…っ)」

細かく重い。それでいて早い
此方も手を出して捌いていくが次第に勢いに押されていく…がリズムに癖がある
その癖に慣れてくれば幾らか余裕が生まれたのだが…突然、そのリズムが代わり、さらに重い一撃が振り下ろされた
咄嗟に腕を上げるが、有り余る体重差。早く重い一撃がガードごと、己の身体をねじ伏せた

「(……った…)」

床に突っ伏しながら遠くカウントの声を聞く
ぐらり、と立ち上がってみせるとあからさまにがっかりした声が観客から上がった
ビリビリと痛む腕をなんとか、ガード位置へ上げて再び大男と対峙する

オーリ > 腕は折れてこそいないがビリビリと痛む
あの一撃を喰らい立ち上がることが出来る丈夫な身体に生まれた事に感謝しつつ、
間合いを測りながら再び近づいていく
当然、リーチ差があるから大男の攻撃が先んじる。先程と同じ、大男は細かく刻み、パターンに慣れた
所で攻撃のパターンを切り替え、驚いた隙を突いて倒しに来るだろう

「(…乗っかってやるか…)」

大男の繰り出す電光のような一撃をいなし、躱し、捌く
先程のダメージを見越しているのか、じわじわ、と此方の体力を削るように大男は中々、決めに来ない
恐らく存分にいたぶってから此方を倒しに来るつもりなのだろう

「(サディスト…)」

長く続く攻防に観客を興奮し始める
罵声や怒声が飛び交い、熱気も最高潮である
長い攻撃に流石にうんざりすれば、す、と僅かに痛めたほうの腕のガードを下げた
それを見逃すこと無く大男は必殺の一撃を振り下ろす、そのタイミングに確りと合わせるように一歩、
大男へ踏み懐へ飛び込めば、胸の中心へ折りたたんだ肘を強い踏み込みと同時に捻じ込む

「(…肋取ったぁっ!)」

確かに感触があった…が
―――その瞬間、逆から大男の拳が自分の頬を捉え、地面に伏す
カウントの声が続き、観客の歓声が響いた所でぐらり、と立ち上がった
頬が熱い…というか、顔の形が変わっているんではなかろうかとさえ、思えた

オーリ > 「いてて…ったく、口の中、切れてやがる」

ぶっ、と吐き出す唾液には血が交じる
観客には掛け金の払い戻しが行われ、敗者の自分はすげすげ、とリングを降りて後にする
勝った大男は両腕を上げて歓喜の雄叫びを上げていた。性格は悪かろうが、男ですら惚れ惚れするような体格である
喜んではいるようだが、笑顔が引きつっているのは恐らく自分の一撃は確かにあの男の肋骨をへし折っていたのだろう

「…割に合わねえ…二度とやるものか、こんな事…」

広い酒場の端、椅子に座ればシャツに袖を通し、外套や何かを身に着けていく
衣服を身に着けていれば賭け試合の胴元の一味がこっそりと近づいてきて、
何も言わずに此方へ金貨の詰まった革袋を押し付けてくる

「…毎度あり…上手く負けられた気はしねえが、受け取っておく…」

にやり、と男が笑えば手を振りながら酒場の奥へ去っていった

オーリ > 「もらうもん貰ったし帰るか…」

懐へ革袋をしまえば立ち上がる
未だにダメージが残っている所為か、ぐらり、と身体が揺れた
ふるふる、と軽く頭を二度ほど左右に振れば酒場の出入り口へと向かって歩いていくのだった

ご案内:「王都マグメール 貧民地区/地下酒場」からオーリさんが去りました。