2017/03/06 のログ
ご案内:「王都マグメール 貧民地区/路地裏広場」にティエンファさんが現れました。
■ティエンファ > 乾いた音がした。
市場通りから路地裏を通り、しばらく行って水路を下り、更に入り組んだ細い道の先に、その広場はあった。
乱雑に、無計画に建てられた建物が身を寄せ合う中、ぽっかりとあいた薄汚れた空き地、そこに、少年は立っていた。
落書きのされた壁に三方を囲まれたその場所の真ん中、諸肌を脱いだ少年の姿。 薄く差す月明かりになお鮮やかな刺青。
「ふ、ぅ…っ」
肺腑から息を抜く音、地面を踏みしめる足の音は重く、対して、翻る身のこなしは軽い。
踏み込んだ脚を円に蹴り上げ、中空で更に身をひねり、真下から蹴り上げる。 連環腿、
■ティエンファ > 蹴り上げた脚を振り戻して勢いをつければ、振り返って爪先から降り立つ。
音も無いその動きは柔らかく、そのまま猫のように身をたわめて両手を地につければ、低く後ろに跳ぶ。
壁際、飛んだ勢いを足に乗せてぐっと身を縮める。 そして、踏み込み、二度。 一度は重く、二度目は乾いた軽い音。
矢の様に真っ直ぐ、少年の身体が放たれる。 全体重を伸ばした腕の先、拳に乗せる一撃。
それは、遠い帝国で練り上げられた武術の一つ。 少年ですら名を知らないが、師から伝えられた業である。
旅の間も、王都に着いてからも、こうして毎夜、欠かすことなく鍛錬を積み上げ、身体を技を、練り上げる。
拳を突き、蹴りを払い、地を踏みしめて跳ね上がる。 重く、軽やかに。 緩やかに、素早く。 大きく、しかし細やかに。
「しぃ…ぃあっ!」
蛇にも似た気勢を唇から漏らせば、強く足を地面に踏み立て、拳を突き出す。
…暫しの無音の後に構えを解き、ゆっくりと深呼吸をした。 暖かな春の夜なのに、体から上がる湯気は熱い。
■ティエンファ > 壁際の古樽の上に乗せた革袋から水を呷れば、口を腕で拭い、壁に立てかけた木の棒をとる。
両端の石突に金属で覆った異国の武器である。 剣や槍とは違う、刃の無い術技を、旅の途中で出会った冒険者に笑われた事もあった。
そんな物で戦えるのか、剣や斧なら真っ二つになって終わりだと。
しかし、少年は構いはしない。 何故なら、己の性に合うのは、これであると知っているからだ。
義父に拾われ、言葉と一緒に教えられた技。 それは、誰が嗤おうと、愚直に磨き上げる。
春の夜の路地裏に、笛のような微かな風切り音。
片手でゆるりと振るった棒は、左右、上下の間合いを確かめるように少年の周りをまわる。
手首と肩を回せば、くるりと背を回り、真下から跳ね上がる。
少年がゆっくりと振るうように見えるその棒の先端は、加速し、夜闇では霞んで見えるほどに速い。
融通無碍、天地水平。 まるで舞うように振るう少年の姿。
振るった棒をとんと地に突き立てば、軽業のようにその先端に舞い上がり、宙返り。
■ティエンファ > 垂直に立った棒の上、片手でその先端に逆立ちして、ゆっくりと脚を広げる。
雑技団よろしく水平開脚で暫し停止すれば、くるりと身を翻し、中空で棒を引き寄せて構える。
真上から地面を押し潰すような降り降ろし。 地を這うような構えから周囲を薙ぎ払い、するりと立ち上がり、お手本のような構え。
「ふぅ… あー、やっぱ身体動かすってなあ気持ち良いな」
引き締まっていた表情が緩む。 深呼吸しながら構えを解けば、ぐうっと伸びをした。
■ティエンファ > 棒の先でひょいっと革袋をすくい上げ、自分に放りよせる。 乾いた口内を水で湿らせて、ゆっくりと飲み込む。
親指で口を拭えば、棒の先で革袋を樽の上に戻し、代わりに、手拭をひっかけて頭にのせる。
手足の様に自在に棒を扱う様子は、染み着くほどに使いこなした技術の賜物。
顔の汗を拭い、身体を吹く。 さっぱりした、といった顔で息を吐けば、ぐぅ、と腹が鳴った。
「あー…そういや、夕方に食ったきりだったな 稽古も終わったし、何か買うかぁ…
水浴びして、ばっと寝ちまっても良い気もするが…悩むな」
ご案内:「王都マグメール 貧民地区/路地裏広場」にエルティさんが現れました。
■エルティ > 懐に余裕こそあるが毎日遊んで暮らす訳にもいかずに簡単な仕事を時々にする日々。
本日は貧民地区の奥に当たる場所にまでの届け物を引き受けて。
当然ながら問題は起きたがそこはオハナシでどうにか対処をして無事にと達成をした帰り道。
息とは違い道をある程度覚えれば近道も出来るものと路地を抜けるようにして。
そしていくつかの路地を抜ければ広い場所にと出ることに。
「こんな場所もあるのね」
まさかこんな場所を見つけれるとは思わずに歩けば…僅かに聞こえた声にそちらを見て。
「ティエンファ?」
それなりに知った少年を見つければ何をしているのかと歩み寄っていく。
■ティエンファ > 「うん? あれ、エルティ姉さんじゃん 何してんのこんなトコで
女の子一人じゃあ危ないぜ?」
鮮やかな刺青を隠す服も羽織らず、一汗かいた風情の少年が声に振り返り、驚いた顔をする。
エルティが訪れた場所は、ごちゃごちゃした貧民街にぽっかりと拓いた広場であった。
仄かに、少年の汗の匂いがする。 今の今まで、ここで鍛錬をしていたのだ、と簡単に話して。
「あんまり人通りはないし、窓もあんまりこっちに面してないから、人目を気にしないで良い恰好の稽古場なんだ、ここ」
■エルティ > 「それはこっちのセリフ。私は仕事の帰りよ。
ティエンファそこ危ないわよ?」
服を羽織っていない少年の刺繍に驚きを見せるが、そういう風習の出身なのだろうと思えば驚きもすぐに引っ込む。
むしろこんなごちゃごちゃとした貧民地区の一角に居る方が驚きで。
僅かにする汗の匂いの元はおそらくは少年、僅かに口元を覆うようにして。
「そうだとしてもここで鍛錬をするのは危険よ。
窓がないからこそ襲われても助けなんて……元からこの辺りはないのだけど」
ゴブリンをあしらえる少年あらば危険はないと思うのだが、年上としてつい心配をして見せる。
■ティエンファ > 「こんなトコまで配達でもあったのかな って、はは、なんか心配しあってるなあ」
お互いがお互いの独り歩きを嗜める言葉に気づいて、少年は思わず吹き出して。
それから、口元を隠す様子に、あ、と恥ずかしそうに声を漏らし。
「ごめん、汗臭いだろ いやー、まさか知り合いが通りかかるとも思ってなくてさ!
あー、まあね、とは言え、そういう荒事に巻き込まれるのも鍛錬の一つっちゃあ一つなんだけど」
そそくさといつもの長衣を羽織れば、そんな事を言って返す少年だが、
エルティが心配してくれると察せば、くすぐったそうに笑い、うなづいた。
「まあ、気を付けるよ 姐さんに心配かけるのもなんだし
…あ、そういや、この間はあの後大丈夫だったか? 朝、宿出る時にもちょっとふらついてたけど」
この間、酒をしこたま飲んで酔い倒れた次の日の朝の事を思い出して、何気なく尋ねる。
デリカシーとかそういうのはまだ足りていない田舎者なのだ。
■エルティ > 「こんな所だから冒険者に配達依頼が来るのよ。
そうね、心配し合っておかしいわね」
少年の言葉にくすくすと笑ってしまう。
汗のにおいを防ぐためだったとはいえ流石に目の前では失礼だったかと考え。
「気にしなくていいわよ。私の鼻が少しいいだけだから。鍛錬をすれば汗をかくのは当たり前なのにね。
……呆れた、それで大けがをしてもここだと助けは来ないわよ?」
こんな場所では逆に止めを刺されて身包みを剥がされると呆れて。
何度か見た長衣を羽織るのを見る。
「折角国に入るのを手伝って後輩になった少年が無残な姿になるのは嫌なだけよ。
あ、あの時のことは言わなくていいの。デリカシーがないわよ」
つい少年に対抗して深酒をしてしまった翌朝。
まさか他人の部屋、ベッドで着衣のまま休み、しかも二日酔い気味に帰ったことを思い出せば顔を赤らめて。
■ティエンファ > 「そりゃあ成程だ、配達かあ…あんまり気にしてない依頼だけど、確かに需要はあるよな」
感心したように頷いてから、エルティと顔を見合わせて笑う。
そして、呆れた顔をされれば、へら、と叱られた子供のように笑った。
親身になってこうして忠告をしてもらう事に慣れていないので、少しくすぐったくもあって嬉しい気持ちもある。
「有難う、エルティ姉さん 気を付けるよ 次はもうちょい明るい時にやる
…うん? そうかい? でもほら、俺は楽しかったし 久々にあんな風に誰かと酒飲んだからさ」
頬を染めるエルティに目を瞬かせて、それから、屈託のない笑顔を返す。
故郷で養父と酒を酌み交わす事はあったが、あんなふうに、友達と飲む、というのは初めてだったのだ。
「ましてや、相手がエルティ姉さんだったら尚更な
だからさ、また今度飲みに行こうぜ、姐さん! 今度は立ち飲みじゃなく、ゆっくりさ」
酒場でエルティにからもうとするチンピラのような、酔い潰してやろうという下卑た笑顔ではない。
純粋に、エルティと飲むのが楽しみなのだろう。 素直な目でエルティを見て笑うのだ。