2015/10/20 のログ
■フィーナ > (月明かりだけが差し込む貧民街の路地裏。
治安の悪い怒号から逃れるように褐色の少女は積み上げられた木箱の上に腰掛け、空を仰いでいた。
凛とした赤い瞳に映った真っ白な月光に眩しそうに目を細める。血の匂いを残す少女、フィーナは人を殺したばかりだった。
まだ鼻腔の中を血の匂いが支配し、殺した感触は掌にしっかりと残っている。まだ年端もいかない少女を殺した。
どうやら何処ぞの貴族の娘らしい。詳細は知らない、ただ、与えられた仕事を、こなしただけ。
物心がついた頃から、何かを殺し続けてきた彼女にとって、それは当たり前のことで。
ーーけれど何時になっても払拭できない心残りがあった。それが何かを教えてくれる相手も、今はいない)
今日はいつになく、月が眩しいな……
(透き通った静かな声で一人ぼやいた。木箱の横に頬っておいた革袋には幼い少女の腕。明日になってこれと引き換えに報酬を貰う手はずになっている。
今は追手とやりあって、余計な体力を消耗する訳にはいかない。ただ静かに、フィーナは時間が過ぎるのを待ち続ける)
■フィーナ > (珍しく疲弊を身体で感じていた。今更、人の生き死にに対して特別な感情を抱いたわけではない。
無防備な少女を暗殺すること事態簡単な仕事だったし、特別身体の無理もしていないはずだ。
目覚めの悪さのようなものを覚えて、遠い彼方にある月へと手を伸ばす。届かぬ月を求めたわけではない。
ただ身体だけ大人になった少女にとって、この感情が何であるかという理由をただ知りたくて、気まぐれにそうしただけ。
指の間から覗く月を見て、ふと、思い出したように口を開く)
ーーそういえば。あんな幼い子を殺したのは初めてだったな
(違和感の正体。それに気づけば、何だその程度かと力なく腕を落とし、壁沿いに身体を預けた。まだ朝日が昇るまで時間がかかる。)
■フィーナ > ………。
(ーー時間が流れるのが妙に遅く感じてしまう。
結局違和感の正体に気づいたとしても、どうして自分が疲弊を覚えているのかが、理解できないまま、壁に凭れたまま刻々と時間が過ぎるのを待つばかり。
戦いの中を生きる少女の心臓は、常人のそれよりも重く、時間を長く感じさせた。ただぼんやりと、訪れぬ眠気に歯痒そうに眉根を寄せる。
ああ、こんなことなら誰かに会いに行けばよかっただろうかと、その退屈さに子供のような不満。)
■フィーナ > どうせ…退屈なんだ。ここにるより…もう少しまともな空気でも、浴びようかな
(気怠げに身体を起こせば、地面に放おった袋を担ぐ。死臭を漂わせたそこは、あまりにも軽く、それで得られる資金はそれ以上の厚み。世の中というのは、そういう仕組だ。
私はずっとそうやって生きていたのだから。
さあ、まだ夜は長い。こんなところで燻っているよりも、もっと退屈しない別の場所を求めて、少女は雑踏の中へ消えていくーー)
ご案内:「王都マグメール 貧民地区」からフィーナさんが去りました。
ご案内:「貧民地区 歓楽街」にリーシャさんが現れました。
■リーシャ > (今日は店で使われている備品のお使い。普段は食器とかを買いに出るのだが、今夜はどうも勝手が違って。渡されたメモに書いてあるのは媚薬やら張型やらというたぐい。どうしてそんなものを女の子に買わせるかなぁ、なんてぶつくさ言いながら少女は歓楽街を歩く。左手の包帯は巻く面積も少なくなって、服の上からは怪我がわからないほどになっていた)
「――で、どこをどう行けばどこに出るのさ」
(流石に貧民地区の道まではわからないものだから、若干困り顔でふらりと細い路地を進んでいく。怪しげな老婆やら痩せぎすな娼婦やら、色んな人がいるのだなぁと他人事のように思いながら)
ご案内:「貧民地区 歓楽街」にフィーナさんが現れました。
■フィーナ > (薄暗い貧民地区の隘路。生憎というべきか、今日は仕事の一つもない。
たまたま弾みのいい報酬を受け取ったばかりで金銭的な猶予はあったが、暫くは追手を巻く算段が欲しかった。
それを求めて通い慣れた道を歩くと、ふと見慣れない少女の姿があった。まだ若い少女の姿。艶のある長い黒髪に同色の猫を思わせる耳。ミレー族だった。
首輪を巻いているところからこの界隈では決して珍しくもない奴隷の少女だろうと察しをつけた赤い視線は、本来でなければ目に求めなかっただろうけれど、見かけたことがないというのは、重要だった。)
「ねぇ、何か探しもの、してるの?」
(打算的に計算した結果、薄い褐色肌のフィーナは少女へ声をかける。
奴隷という立場の人間であれど、この界隈で見たことないと確信するなら、おそらく他所の何処かからか買い物にでも頼まれたのだろうと、彼女の挙動不審さと無垢な手に握られた小さな紙切れから当たりをつけた。
亜麻色の前髪の間にある鋭い赤い瞳とは裏腹に、鷹揚な静かな声色で声をかける。
それは死にきったような貧民街の住人の目ではなく、子供のように澄んだ瞳をしていた。)
■リーシャ > 「……で、どこだよこれ。エロい道具屋なんか知るかーっ!」
(じたじたと地図に八つ当たりしながらの道中。何故か今日はいつもより人に見られている気がするのは気のせいだろうか。何か顔にでも付いているか?とは思うけれども、そんなことは今はどうでもいいことで。結局店への行き方はよくわからないけれど、そのうち着くだろうと言う気概で進む。その最中、かかる涼やかな声には――)
「んぅ?――あぁ、えーと、この辺りにあるお店を探してるんだけど……」
(声の方に振り向くと、そこには可愛らしい少女が1人、無垢な瞳をこちらに向けていた。綺麗な亜麻色の髪が揺れ、その奥には赤い瞳が見える。肌はチョコレートのような綺麗な褐色。そんな彼女に思わず一瞬目を奪われる。刹那の沈黙。その先にふと、彼女の視線が自分の頭の上のあたりに注がれているのに気付く。――え、あれ、もしかして)
「……ぇ、ぁ……つ、つかぬことを聞くんだけど、耳、見えてる?」
(――道理で人の目線が集まる訳だと納得する。ミレー族の証である耳と尻尾を惜しげも無く見せて歩いているのだから。物珍しいものではないかもしれないが、基本的に賤民として虐げられる立場にある存在だ。目で追うのも無理は無い。久方ぶりのしくじりにどうしたものかと少し悩んで、そして指を一つ弾く。ぱきん、という音と共に耳と尻尾が揺らいで消えて、普通の女の子のような姿に変わり)
「――あ、はは。今の見なかったコトにしてくれると嬉しいなぁ、なんて……だめ、かな?」
(ダメだって言われたらどうしようかなぁ、とすこしばかり困り気味に、彼女の前に両手を合わせてお願いしてみるのである)
■フィーナ > 「……? ーーああ。なんでもない。気のせいだ」
(不自然なことを聞くな、と首を傾げた。確かに、身分を隠すミレー族は多いと聞くけれど、奴隷であるにもかかわらず身分を隠すだなんていうのは珍しかった。まるで何もかもが新鮮な存在のようにフィーナの瞳は一層色を深くする。子供のような好奇心でフィーナは彼女に興味を持った。凭れかかった壁から身体を離し、遠慮や躊躇もなく彼女へ近づいて、手にしたメモと地図を覗き込んだ)
「お店、探してるんだ。いいよ、この辺のことなら、少し詳しいし。…それに」
(覗き込んでいた顔を上げ、フィーナは先ほどと一変して、ミレー族である特徴を消した少女に、少し驚いた様子で、目を丸くした。なるほど、色々と芸達者らしい。それならば、自分が求めているものも手に入るだろうと、短い間で、思案を巡らせ幼い少女へ提案する。)
「ーー私からのお願いも聞いてくれたら、見なかったことにするし。教えるよ」
(鋭利な目つきと口元を緩め、柔和な表情を浮かべる。物静かな声色でまずは、そのお願いを軽く説明する。数日間だけ寝泊まりさせて欲しいと。勿論奴隷の立場である少女に願うのは難しいことだろうとは承知しているが。反応は、どうだろうか)
ご案内:「貧民地区 歓楽街」にフォルさんが現れました。
■リーシャ > 「……話が早くて助かるね。うん、お礼に後で飲み物くらいはご馳走するよ」
(ミレー族、とは言え自分の生まれに誇りを持っている少女であるから、本来は隠す必要なんてないと思っている。それでも魔法で耳と尻尾を消すのは余計な面倒を増やさないため。身の程を知らない奴隷商人などが結構多いものだから困るのだ。まさか彼らも、みじん切りにされたいわけではあるまいし。
――彼女はどうやら自分に興味を持った様子。こちらに近づく動きは躊躇いなく、ついでに隙も見当たらない。道理でこのような場所でも目が死んでいないものだ。などと1人納得しながら、手元の地図を覗き込まれるがままに見せる。知っているなら案内してもらいたいのはやまやまだが)
「ぁー……本当に?それならお願いしたいけどー……この御店に女の子二人で行くのか……まじかー……」
(所謂エッチなものの店であるから、彼女を連れて行って良いのかどうか悩んでしまう。とはいえこうしていても仕方がない。それならば、と案内を頼みかけた所に、追加の提案。其れには少し悩んでから)
「……ベッド1つしかないし、部屋が死ぬほど狭いけど其れでいいなら、かなぁ……ついでに言えば同居人もいるから3人仲良くって感じになるけどね。其れでいいなら、君の理由は聞かずに部屋を貸してもいいよ。――事情有りげだろうし?」
(このような場所にいる少女、立ち居振る舞いの隙の無さ、泊めてくれというお願い。それでいて身なりはボロを纏っているわけでもなく、整っている。ともすると、想像できるのは追われているか、路銀が尽きたか、である。ともあれどちらにしろ、止めてあげるのも悪くはない。――不埒な輩はただ、斬り伏せればいいだけなのだから)
■フォル > 思った以上に怪我の治りが早いらしく、心配ないと彼女は言うが結局気になってしまい出かけていくリーシャの後をつけてきてしまった。
とはいえ距離を取り過ぎて何度か見失いようやくその姿を見つけたところなのだが。
「…誰、あの女。」
リーシャが知らない女と親しそうにしていた。
実際には近づいて地図を見ていただけなのだが、少なくともフォルには親しそうにしていたように見えていた。
「なんだろう、あいつ…。ナンパ、かな…。」
呪怨の篭った瞳で相手の女の姿を凝視する。
とはいえそれ以上何をするでもなく、ただ離れて様子を伺っているだけなのだが。
「リーシャに、変なことをしたら…。ぜったい許さない…。」
許さなかったからといって特に何が出来るわけでもないが、ブツブツと呟きながら二人の様子を見張る事にした。
■フィーナ > 「ん…いいよ。その見かけからすると、持ち合わせは、少なそうだし」
(追っ手もまさか、奴隷のミレー族が寝泊まりしている場所にいるとは思いもしないだろう。それに、今追われている相手と彼女を結びつける要素は、とても薄い。お世辞にも自分の仕事が褒められたものではないのは承知の上だ。もし関わっていたとするなら、その時に導き出す結果は単純だ。一通り彼女の話を聞き終えれば、その慧眼にフィーナは関心した。なるほど、やはりただの奴隷というには何処か違うな、と。フィーナは興味に惹かれた無邪気な子供のような笑顔を浮かべた。)
「ーーそっちも、話が早い。いいよ、私あまりそう言うの気にしないし、さ。 狭いのにも慣れてるよ。同居人にも話をつけてくれると、嬉しい。アタシはフィーナ。貴方は…?」
(それじゃあいこっか、と手を差し伸べるわけでもなく、気ままな子供のようにフィーナは彼女の手を掴もうとする。善は急げというし、それに記憶が違わなければあそこの店は店主の気まぐれで店仕舞いが早かったりするのをよく見かける。些細な事でも記憶力はいいほうだ。彼女の手を掴もうとしたその矢先、ピクリと手が止まる。視線と殺気。けれどそれは追手が持つようなそれと違う、明らかに私へ対する恨みのようなものが籠もった視線。恨みを持たれるようなことが多いのは自覚している。彼女を巻き込むまいと、考えた選択は、止めた手を手早く掴んでしまうこと)
「ちょっと走るよ」
(そう、彼女に告げて)
■フォル > 「あ、あいつ、リーシャの手を…!」
知らない女がリーシャの手を握ると、フォルの嫉妬と怒りの炎が更に燃え上がる。
さっき以上の憎悪の瞳で凝視していると、そのまま二人で駆け出していくのが見えた。
「っ!?ど、どこに、連れてくつもり…!」
刹那の間に様々な想像が脳裡を巡る。
主に悪い方、エロい方へ。
そうはさせてたまるかと、もう見つかってもいいと急いで二人の後を追いかけていく。
■リーシャ > 「ぁー……うん、一応誤解されているなら言っとくけど、ボクは奴隷じゃなく冒険者なんだよー」
(実を言えば持ち合わせはそれなり。少なくとも財布の中身だけでこの街の10日を生きられるほどはある。剣の腕っだって少なくとも、そこいらの魔物には負けないし、死ぬほどひどい目に合いながらであれば竜だって殺せる。――その間に何度死んで復活するかは想像もしたくないのでやめておくけれど。ともあれ、クスクスと笑いながら彼女に自分の身分を伝える。――無論、首輪に魔力と意思を込められてしまうと、強制的に奴隷に落とされてしまうのだけれど)
「っと、其れなら喜んで部屋を貸すよ。ま、3人で川の字だから窮屈なのだけは勘弁ね?」
(にこやかに言いながら、手を掴もうとする彼女の意図を察して、そっと手を差し出した。手を引いてくれるのであれば最もわかりやすい。――刹那、何やら感じる視線は彼女へと向けられている様子。ついでに自分の方にもちらちら来るのだが、どうにも覚えがある感覚な気がする。はて、誰だろうかと疑問に思ったのもつかの間、走るよという声とともに勢い良く引かれていく)
「わ、わわっ、は、走るのっ!?わ、わかったっ!」
(何を感じ取ったかはしらないけど、彼女にとっては悪いことだったのかもしれない。其れならばと付き合うことにする。――まさか視線の相手が結婚相手だなんてつゆにも思っていなかった)
■フィーナ > (さっきよりも、追いかけてくる思念が強くなる。やはり恨まれている相手からだろうかと、薄暗い隘路の中を駆けていく。幼い手を握るフィーナの手は、長年人を殺めてきた殺人者の手。戦争で勝利を収める英雄でも、困っている人間へ差し伸べる善人なものでもない。ただ彼女の気まぐれ、興味が湧いたからという子供のような理由。駈け出したもののこうして誰かと走るというペース配分はなかなか難しい。然し、その遠慮も彼女の身分が分かるなら、へぇっと一層口元が楽しげに緩むだろうか。)
「なるほど…通りで、魔術にも精通してるわけだ。ごめんね。どうも妙な視線を感じたものだから、さ。 じゃあもっとペース、上げるよ」
(追いかけてくる相手を振り切ろうと、通い慣れた入り組んだ細い道を掻き分ける。彼女がそれなりの実力者と分かるなら、走りだした脚は距離を開けるために一層力が入った。常人なら簡単に振りきれるような瞬発力。重い甲冑をつけた兵士とかであるなら、尚更。果たして、追いかけてくる相手はどういう手段を、取るだろうか)
■フォル > 「ぐっ…、ま、まてぇ…!ごほっ…!」
遠ざかるリーシャの影を追いただがむしゃらに走るが、遅い。
逃げる二人と比べてはもちろん、逃げ隠れする時に短時間走る程度はともかく人を追跡しながら走り続けるように身体は鍛えられていない。
息も乱れ咳き込みながら走るが、差は開く一方。
ついには完全に姿を見失ってしまった。
「ゼェ…、ハァ…!くっ、くそっ…!あ、あの、痴女、リーシャにいやらしいこと、するつもりに、違いない…!」
肩で息をしながら毒づく。
完全に想像というか妄想で酷い言いがかりをつけると、それならばと頭を働かせて。
「た、たしか、この方向で、そういう通りは…。」
娼婦として仕事をする事もあり、ある程度その手合の店は目星がつく。
ある程度当たりをつけると呼吸を整え。
「ふぅ…。よ、よし…!先回り、して、やる…!」
二人が走っていった方向から逸れ、少々行儀が悪いが色々な店を突っ切りながらの近道を血走った目をしながら駆けていく。
■リーシャ > 「え、ちょ、はやっ――ったく、もう!」
(足をもつれさせながら走る。戦闘時の身体強化を得た状態ならば彼女の速さにも追いつけるが、今はただの平常時。ましてや神刀を佩いていないのだから、身体能力は普通の少女よりちょっと丈夫な程度である。ただそれでも、手の中にある幼くて小さな掌を離すつもりはなかった。なんとなく、離してはいけないような気がしたのだ。――所謂直感である)
「っとと、どうしたのさっ――ってやっぱり追われてる系な感じ!?……っとと、この速度で店に突っ込むのは色々まずい気がするんだけど――!」
(まるで転がるように、路地を駆け抜ける。それでもきっと彼女の全速力はもっと速いのだろう。なにせ今は少女という重りがあるのだ。それでも疾く、少女の体は引かれるままに入り組んだ道を駆け抜けていく――)
■フィーナ > (追いかけてくる殺気はだんだんと遠のいてくる。幼い彼女の掌離すつもりはなかった。ただ内心、先日殺めた相手も彼女くらいの歳だったな、なんていうのが少し心に過る。ーーそれだから、なのだろうか。自分でもわからず、掴んだ彼女の掌を離さないとする力は少しばかり強さを増す。離してはいけないという、これもまた直感に似たものだった。完全に殺気が消えたと思った頃、運良く、少女が求めていた店の近くだった。奔りだした脚を徐々に緩めていき、漸く落ち着いて、話せる頃合い。フィーナは息を切らした様子も、額に汗を流しているわけでもなく、ふぅ。と短くため息を付いて、手を握った彼女へ、視線を戻す。)
「ん、もう大丈夫みたい。ーーまぁ、ちょっとそういう仕事もしたりするものだからさ。もうすぐこの近くだよ……えっと」
(ここに来て漸く相手の名前を聞いていないことを思い出す。少し難しそうに眉根を寄せ、軽く首を傾げながら赤い視線がじっと少女を見つめようか。ーー追いかけてくるもう一人が諦めていないことを悟れなかったのは、多分、気づかぬうちに彼女に対する関心が高まっていたのだろう。自分よりも歳の差は離れているだろうに、こうしてついてきたのだから。)
■フォル > 「ハァ…、ハァ…。ど、どこ…リーシャ…。」
半ば当てずっぽうでここまでやってきたが、二人の目的地がこの辺りとは限らない。
今更ながら不安になってくるが予想が正しかった事を信じてキョロキョロと辺りを伺いながらリーシャの姿を探していると、それらしい姿が横切ったのが見えた気がした。
「あっ…、リーシャ…!」
ちらっと見えただけで完全には自信がないが、とにかくその姿を追いかけて残った力を振り絞りまた駆けて行く。
■リーシャ > 「は、ふ……ぁぅ……加護なしで、これは、きっつい……」
(如何に普段の生活を神刀の加護に頼っているかが分かる疲労感。これだけの全力疾走でも息が切れて、なんだかへとへとになってしまった気分。それでもどうにか目当てのお店にはついていた。あからさまに怪しい桃色の光が漏れている入り口。その奥には淫具の類が溢れかえっていることだろう。奥には試し用のプレイスペースなんかもあるらしいが、それはまた別の話。ともあれ入るか、と気軽に足を踏み入れられる店ではないため、若干尻込みしてしまって)
「ぁー、その、ここで待っててくれればいいよ?買い物してきちゃうから。――それとも、その、中見てみたいって言うなら止めはしないけど、その……エッチな店だから、庵米フィーナのような可愛い子にはおすすめしないかなって」
(流石に彼女の腕っ節までは知らないものだから、彼女を普通の女の子のように扱うと、苦笑しながら首を傾げてみせる。ふと自分を呼ぶ声が聞こえたような気がするが、きょろりと周囲を見回すと、また彼女へと視線を戻す。――フォルに気がつくまでは、まだもう少しかかってしまうのだった)
■フォル > 「リーシャ…!リーシャ…!」
既に歩くよりはマシという程度のペースだが、リーシャの姿を確認すると必死で駆け寄ろうとする。
予想は的中していたようで、やはりその手のいやらしい店に連れ込もうとされているところであった。
……実際には違うのであるがフォルはそう思っていた。
「こ…この、痴女めぇ…!リーシャから、は、はなれろぉ…!」
何とか二人の近くへたどり着くと、フィーナへと拳を振り上げて突っ込んでいくがそのままつんのめって二人の前へ腹ばいで倒れこんだ。
■フィーナ > (どうやら追いかけてくる相手には自分への殺気が薄れていたらしい。追いかけてこなかった相手への油断もあるが、何よりも目の前に居る相手、手を握ったリーシャへ注がれた興味で、未だ近づく相手の正体に気づけずに居た。ーー待機を促す彼女の言葉に少し不満気にフィーナは少し眉をひそめる。幼さの残す顔つき故か、それは少しふてくされた子供のようにも見えるかもしれない。)
「ーー……アタシ詳しくないから。でも、うん。ちょっと興味はある。それに、一人で置いていくほうが、危なっかしい、かなって。アタシより若いでしょ…えっと」
(名前を聞こうと、そう思った時聞き覚えのない名前が聞こえた。それと同時に蘇る殺気。いや、ここまで近づいてしまうのなら殺気というよりも、もっと矮小なものにフィーナは感じたのかもしれない。鋭い赤い視線が声のする方へ振り返るとーーそこにいたのは、更に年端もいかない相手だった。)
「おっと……」
(緊張感の弛緩もあったせいか、相手への油断もあったが、振り上げた拳から覗いた痩せた細い腕を少女は見逃さなかった。凶器のたぐいも見受けられない、力を加えてしまえば折れてしまいそうな華奢な腕。それが倒れこむのなら咄嗟にもう一つの腕が、倒れそうになる相手を庇った。女性らしいフィーナの細い腕。しかし、その奥には鍛えられた筋肉がしっかりと詰まっており、一人受け止めるには十分すぎるほど。ちらりと、伺うように受け止めた相手と、そして手を握った少女を交互に見つめ)
「……知り合い?」
(そう問いかけた。)
■フォル > 「ゼァ…、カハァ…、リーシャ、の…、嫁っ、ですけどっ!?」
殴りかかろうとした相手の腕に受け止められたまま、何とか顔だけ上げて精一杯凄んでみる。
嫁という表現で適切なのかは定かではないがこの際それは置いておこう。
次にリーシャの方を見て言葉を続ける。
「だ、だめだよ、リーシャ、こんな、怪しいやつ、ついていったら…。きっと、ここでいやらしいこと…、するつもり…!」
■リーシャ > 「……興味あるのかー、うーん……ま、それなら君に任せるよ。――あぁ、自己紹介してなかったね。ボクはリーシャ。よろしく」
(幼いでしょ?と言われると自分とだいたい同じくらいじゃないか、なんて思いながらも、口には出さない。沈黙は金というやつだ。名前を素直に告げると同時、何やら自分の名前を呼ぶ声。さっきのは錯覚じゃなかったか、とか思いながら、聞き覚えある声に振り向くと)
「――ぁー、フォル、落ち着いて……って、ちょ、この子はそんなのじゃないって!と言うか……ぁー、うん、心配かけちゃったか」
(彼女がここにいる理由を推測する。多分自分がフォルに怪我したところを見られたくなくて、出かけ気味だったから心配をかけてしまったのだろう。故にあまり起こることも出来ず、内心で反省しながら)
「ぁー、うん、この子がほら、同居人。で、ボクのお嫁さん――フォル、この子はボクを道案内してくれただけだから、安心して。落ち着いて、ほら、ボクは無事でしょ?」
(矢継ぎ早に言葉を作るフォルにはゆっくりと諭すように言葉を紡ぐと、フィーナの方にも苦笑を向けて)
「えーと、フォルは君に危害を加えたりしないから安心していいよ?」
(などと間をとりもつのである)
■フォル > 息切れのまま無理に喋って、そのまま暫く肩で息をしながらリーシャの言葉を聞いていた。
「……本当、に?」
リーシャがそう言うのならととりあえずは納得して、フィーナの腕から逃れるとよろめきながら自分の足で立ち。
「リーシャの、嫁の、フォル…、です…。」
明確な敵意こそないが、怪訝そうにフィーナを見ながらも一応自己紹介をする。
■フィーナ > 「……嫁?」
(凄んだ顔には余り凄んだ迫力を感じさせない。それに受け止めた軽さからおそらく少年のそれではないだろう。幼いソプラノの声も少女のそれに近い。それに問題なのは、彼女、リーシャも、このフォルという少女も揃って同じことを言い出すからだ。難しそうに首を傾げつつ、矢継ぎ早に聞こえた内容にやはり難しそうに眉を顰めた。その手のことに疎いフィーナにとって二人の関係性がどうにもよくわからない、が概ね理解できた。女の子同士が、好きになることもある。そういうこともあるのだろうと。ただそれを理解した時、少し不満気にフィーナの顔が変わるのは、まるで玩具を取られた子供のようでもあった。)
「君、じゃない。フィーナ。 なるほど、この子が同居人なんだ…。うん、アタシは…いやらしいこととか、よくわからないし、リーシャの言う通り、危害を加えるつもりは、ないよ」
(いよいよ、彼女が言う部屋というものの狭さが想像できた。幼い二人であるからこそ、きっと相当過酷な環境なのかもしれない。本来ならそんなことで情には流されないけれど、今日は不思議とそういうわけでもなかった。自己紹介するフォルを一瞥する視線は同じく怪訝そうではあるけれど、何処か澄んだ無垢な紅い瞳。それがじぃっと、フォルを見つめた)
「アタシは、フィーナ。約束、でね。ちょっと数日お世話になると思う」
(何の遠慮もなく、不躾に、自分のワガママを押し付けるように、フィーナはそう言った。身体だけ、歳だけ重ねた子供の暗殺者は、約束したことを反故にされないために、先手を打った。)