2022/10/22 のログ
ご案内:「王都マグメール 王城/書庫」にマーシュさんが現れました。
マーシュ > 王城、地下の一室。
重い扉を開けば、かすかに冷気と、僅かに鼻につくインクの匂い。
いくつか存在する地下施設のうちの一つらしいそこは、数ある図書のうちでも主に宗教書がまとめられている区画。

「────……」

手にしている簡易の燭台の焔がちろりと揺れるのに視線を一度向ける。
頼りない灯りではあるが、場所的にカバーを外すわけにもいかない。静かに歩を寄せると、扉の締まる重い音。
一度背後を振り返ってから、さして迷う様子はなく、書架の間を歩んでゆく。

初めて訪れた場所ではない。
今までも何度か訪れてはいる。

闇の中を、ゆらゆらと灯りだけが揺れるようにも見える。
浮かび上がるのは、ウィンプルの白がほのかに。
目的の書籍の在処を探るように時折立ち止まって、書籍の背表紙を灯りが舐めてゆく。

ほかにだれがいるわけでもないのなら、暗闇に蠢く影は修道女一人だけのはずだった。

ご案内:「王都マグメール 王城/書庫」にルーウェンさんが現れました。
ルーウェン > 誰も居ない筈の地下書庫の中、書架の合間の片隅の空間に収まるようにそれは居た。
もぞりと、暗闇の中で音も無く何かが蠢く気配がしたのと同時、修道女の手にした燭台の灯りを受けて爛々と輝く大きな金色の瞳がふたつ、彼女の方をじっと見据え―――

少しの間を置いた後それは、なぁ―――と鳴き声を上げた。

もし彼女が燭台を翳してその正体を確かめようとしたならば揺らめく灯りの下にそれは姿形を晒すことになるだろう。
暗闇に溶けるような黒い毛並みと、爛々と輝く金色の瞳を持った一匹の黒猫が、書庫に現れた来訪者の姿をただじっと見つめていた。

「おぉーい、何処に行ったんだよ………。」

遅れて、少し遠くから聞こえるのは間延びした男の声。

マーシュ > 「──────」

それが見えたとしても女はとくに声を上げることはなかった。
せいぜい藍色の双眸をわずかに瞠る程度の挙措。

そもそも可燃物の周りで、火を手にしている女が狼狽えることはしてはならない。

何故、と当然のように浮かぶ疑問。
その闖入者が、忍び込めるタイミングはそうそうないはずのこの場所。
ということであれば、己が入室した際に紛れ込んだのだろうか、聞こえる鳴き声を耳にしながらしばし考えこんでいた。

どちらにせよ、ここから出してやらなければ、獲物も何もないこの場所では力尽きるのだけが予想にたやすい。
人間に慣れているのか、目が合っても逃げ出そうともしない黒猫に対して、そっと手を差し出した。

ややくぐもった声音耳に届くと同時に、黒猫の耳が跳ねたのを見咎めると飼い主か何か、かと視線を彷徨わせたが。
其方に対応するよりは、こちらの猫を確保するほうが先か、と視線を戻し。
中途半端に差し伸べた手指の先をかすかにゆらして気を引いた。

「ご主人様のところへ連れて行ってあげますから、いい子にしてください……?」

片手で抱えるのは難しいだろうか。けれど灯りを置いておくわけにもいかない。
可能なら抱き上げ、それ以上奥へと逃げこまない様にだけを心掛け。

ルーウェン > 黒猫はじっと、金色の瞳を修道女の方へと向けたまま微動だにしない。
その様子は警戒心が半分、好奇心がもう半分といった雰囲気で、しかしながら逃げ出そうとする気配は無く、彼女がそっと手を差し出したならばひくひくとヒゲを蠢かせながらそちらへと顔を近付けた。

遠くから響いた声にはぴくりと三角耳を跳ねさせるだけで、今の興味は差し伸べられた修道女の繊手の方へと向けられたままだ。
そうして、その小さな体を抱き寄せるように回された腕に驚いたように暴れようとしたのはほんの一瞬、相手に害意が無いことを感じ取ったのか、その腕の中の柔らかさと温かさに身を落ち着けるようにすぐさま大人しくなっていく。

大層人に慣れた様子と、間近で見たならば整えられた黒い毛並みと首許に嵌められた首輪は、ただの野良猫で無いことを如実に物語っていただろうか。

「えっと………こっちか?失礼しますよー………。」

そうしていると、今しがた修道女の潜った扉が開き、先程遠くで聞こえたものと同じ声が近付いて来る。
入ってすぐに目に留まった光の方へと誘われるように姿を現わしたのは、白シャツに黒ズボンという簡素な出で立ちの、如何見ても貴族や王族には似つかわしくない男のもの。
燭台の灯りの元に先客と思しき修道女と、その腕に収まった黒猫の姿を見つけると、すぐさま其方へ歩み寄ろうとするのだが。
修道女の腕の中の黒猫がピクリと三角耳を跳ねさせてその存在を認めると、先程彼女に向けたものよりも遥かに警戒の色合いの強い視線で其方を見据えて居た。

マーシュ > 此処は書庫ではあるが、王城で迷い猫というのも珍しいものだ。
触れて分かったことといえば、毛艶の良さと、首輪の存在。誰かの飼い猫だという証左なのだが───。

しかし、捕まえられたのはいいのだけれど、両手がふさがってしまった。
これでは己の仕事は続けられない。
どうするべきかとあまり焦りもせずに思考するのは飼い主らしい人物の声がすることと、焦ってもしょうがないというか、猫に暴れられても困るのだ。

此処は不要なものを納めている場所ではなく、むしろその逆で。
小さいとはいえその爪が振るわれた場合の損失はあまり考えたくはない。

「─────…………」

訪いを告げるのは知らない声音。
王城で己が知っているのごく少数にすぎないゆえに、それはある意味当然なのだが。

カバー付きの手持ち燭台を片手に、もう片腕で黒猫を抱えて片膝をついた修道女の姿が、相手の目には映るだろう。
明かりもなく地下に足を踏み入れているのならば灯りは一つきりで頼りないものだけれど。

姿を見せたのはやや小柄な青年、だが貴族のようには見えない出で立ち。
かといって騎士にも見えなかったが。

飼い主、かと思っていたのだが──、猫が腕の中で体を固くしたのに気が付いて僅かに戸惑う。

「…………失礼ですが、飼い主の方、ですか?」

訝しそうに首を傾けた。

ルーウェン > 重く閉ざされた扉の向こう側、いくら何でもこんな場所に入り込む筈無いか―――と半ば諦め気味であったのだが、明かりも持たずに駄目元で歩み寄った光の元に修道女と黒猫の姿を認めると、男は一瞬予想外といった様子で黒目を丸くする。
しかしながら、片手に燭台、もう片方の腕に黒猫を抱いた侭立ち往生してしまっている修道女の様子に気が付くと、すぐさまその腕から黒猫の身柄を受け取ろうとするのだが。

「………いや、そんなに嫌がらなくても………。
 頼むよー、俺みたいな野郎より美人のシスターの腕の中が良いのは分かるけどさぁ………。」

警戒を通り越して今にも威嚇に入らんばかりの視線をこちらに向けた侭、彼女の腕の中から一向に離れようとしない黒猫に困ったように頬を掻きながらそんな軽口を漏らす。
とはいえ場所は書庫で周囲を見渡せば何やら貴重そうな書物の数々。無理に引き剥がそうとして暴れられては困るのは、男の方も同意見の様子。

「あー………うん、判る。その疑問はごもっとも。
 その子はこの城に出入りしているとあるご令嬢の飼い猫で、
 俺は数日前にそのご令嬢からはぐれた飼い猫を捜して欲しいって依頼を受けた冒険者。
 決して怪しい者じゃないから、どうか安心して欲しい。」

そうしていると、終には目の前の修道女にさえ訝しむような視線を投げ掛けられていることに気が付くと、慌てた風に半歩距離を置き、両手を振って敵意が無いことを必死に示しながらそう訴えた。

マーシュ > 「…………」

此方も渡せるものならば早く渡してしまいたいのだが、手を差し伸べようとしている男に猫が警戒を露わにしているのだからどうしようもできない。
逃げ出してより狭い場所に入りこまれても困る。
男の弱り切った声音に、とはいえ、己も王城を自由に歩ける身分などではない。

飼い猫を連れ込める身分のものなど限られているのだ。わずかに目を伏せて相手の説明に耳を傾けていた。
王宮の侍従ではなく冒険者に依頼を出すあたりに疑問を感じなくはないが、それは令嬢の自由だし、修道女が詮索するようなことでもない。

「………いえ、貴方がどう、ということを疑っているわけではなく。………ここは古書も多いので、部外者の方をあまり長時間留め置くわけにもいきません」

こうしていても話は進まない。半歩距離を置いた相手に、手持ちの燭台の方を差し出した。

「灯りを持っていただけますか。そうすれば私も身動きが取れますので」

己の言葉に従ってくれるなら、猫を抱えなおしてとりあえず共に書庫からの退室を促すことだろう。

ルーウェン > その間にもじりじりと、修道女の腕の中の黒猫と男との間で密かな攻防戦が繰り広げられる。
如何にかしてその身を受け取ろうとする男と、それを嫌がる黒猫。そんなやり取りの果て、終にはシャァッ!という一喝と共に差し出した手の甲を引っ掻かれてしまうと、弱り切った様子ですごすごと引き下がる。

すると、修道女から差し出されたのはもう片方の手に持った燭台の方。
彼女の言う通り、身分ある令嬢の飼い猫とはいえいつ何をしでかすか判らない猫と、自分のような得体の知れない冒険者が長時間このような場所に居座るという状況は、決して良しとされないだろう。
そう考えを巡らせると、その言葉に従い彼女の手から燭台を受け取って。

「その………すまない。仕事の邪魔をしてしまったみたいで………。」

少なくとも、目の前の修道女がこの書庫に足を踏み入れたのは、猫捜しの為に入り込んだ自分とは違いきちんとした目的があって故だろう。
どう見てもその目的の妨げとなってしまった今の状況に気が付けば、男は心底申し訳なさそうに頭を下げて謝罪を述べた。

マーシュ > 「……………」

男と猫はずいぶんと相性が悪いようだ。とはいえ、攻防は己を介さないところでやってほしいところだったけれど。
己の申し出に燭台を受け取ってもらったなら、猫を両手で抱えなおすことができたので、猫も己もずいぶんと楽になる。
中腰の姿勢から立ち上がると、小さく吐息して。

「───それではひとまずは外へ向かっていただけますか?」

階段はすぐそことはいえ灯りを持っている彼に先導してもらいたい、と言葉を向ける。
相手の謝罪に対しては、静かに首肯した。
邪魔、とまではいわないが、己が予定していた作業ができていないのは見ればわかることだろう。

「お気になさらずに。………ですが、ここは普段締め切られていますので、おそらくは私と一緒に迷い込んだのではないかと思います」

数日此処に潜むことは難しいことを伝えながら、謝罪については静かに受け入れ。

「私は、貴族の方の出入りする居館に立ち入ることはできませんので───、蓋つきのバスケット等ございますか?」

地下に降りてきた際は手ぶらのようだった。
だが猫をずっと抱き上げて運ぶというのは現実的ではない。猫の負担を和らげるためにも、と言葉を重ねた。

ルーウェン > 受け取った燭台を修道女から遠ざけぬよう手に持ちながら、両腕で猫を抱き直し立ち上がる彼女の様子を無言で見守る。
改めてその両腕に抱えられた黒猫は先程までの攻防など嘘のように落ち着いた様子で、腕の中からはみ出した黒い尻尾をゆらゆらと揺らしていた。
そんな光景を見て羨ましい―――などとつい漏れそうになった軽口を噤み、修道女の言葉に頷くと先導するように書庫の入口を、地上へと伸びる階段を目指して歩みを進め始めた。

「いや、でも迷い込んだ先にシスターが居てくれて助かったよ。
 たぶん俺一人じゃ、日が暮れても捕まえられなかっただろうし………。
 バスケット………あー、うん。依頼を受けた時に預かったのを、この先に置いた侭だった。」

修道女の指摘に、今更気が付いたといった様子でばつが悪そうに頬を掻いて見せ。

「―――本当に、何から何まで申し訳ない。
 もし迷惑でなければ、今度改めてお礼とお詫びをさせて欲しいのだけど………どうかな?
 ………いやその、決してナンパとかそういうつもりじゃなくて。」

両手が塞がった侭の修道女に合わせるように地上への階段を昇る道中、そんな言葉を投げ掛けるものの、すぐさま己の言葉選びの拙さに気が付けばしどろもどろで弁解の句を告いで見せる様は、酷く滑稽に映ったやも知れない。

マーシュ > 腕の中の黒猫は───飼い主が女性だからだろうか。己の腕の中ではおとなしく過ごしてくれている。
男が特別動物に嫌われるたちなのか、この猫の性格なのかはわからないが。

足元を照らしてもらいつつ、地下の書庫を一度は後にして。

二人分の足音が響く薄暗い中、この後のことを考える。
ひとまずは書庫の扉を閉じて、予定の変更を伝えるのが先か、等。

「……先ほどもお伝えしましたが、普段締め切られておりますので。私がここに入らなければ迷い込むこともなかったかと。………気づけたのは僥倖ですが」

でなければ───あまりその先は口にしたくはない。
普段使っているバスケットであれば、この子も落ち着くでしょうね、と言葉を返した。

「───お気になさらず。この程度のことでお礼やお詫びなどむしろ恐縮いたします」

相手の言葉に静かに首を横に振った。
己は単に迷い込んだ猫を捕まえただけのことだと、淡々と言葉を紡ぐ。
しどろもどろに言葉が継がれたのには不思議そうに目を細めて。

ルーウェン > 修道女の腕の中の黒猫は至って大人しいもので、男が無闇に近付く様子さえ見せなければ大きなトラブルも無く、地下の書庫を後にすることとなるだろう。

「あー………うん。それに関しても本当に感謝してる。
 そいつの飼い主にも代わってお礼を言わせて欲しい。どうもありがとう。」

修道女の方へと向き直り、深く頭を下げる。
お前もちゃんとお礼を言うんだぞ、と冗談混じりに彼女の腕の中で寛ぐ猫に告げると、その意図を汲み取ってか否かは定かではないけれど、腕の中の黒猫がなー、とひとつ声を上げて。

やがて書庫を出てから少し歩いた辺りで、テーブルの上に無造作に置かれた侭のバスケットを、其処へ置いた燭台の代わりに手に取ると、蓋を開いた口を修道女の方へと差し出しながら。

「とはいえ、このままだと俺が一方的に迷惑を掛けただけだし………。
 ―――そう言えば、まだ名乗ってなかったな。俺はルーウェン………さっきも言った通り冒険者をやってる。
 君のようなシスターが冒険者に頼るようなことは………まぁ、そんなに無いかも知れないけれど、
 もし何か困ったことがあったら冒険者ギルドで俺の名前を出してくれれば、すぐに駆け付けるよ。」

その日が来るかどうかは分からないし、来ないに越したことは無いのだけれども。せめてそれくらいはさせて欲しいと、目の前の修道女に対してニッと子供のような笑みを浮かべてそう告げた。

マーシュ > 「………堂々巡りになってしまいますので」

困ったように猫を抱いた女はそう返した。
頭を下げられると、少し眉尻を下げつつ、礼を受け入れ、目礼で返礼し。
腕の中では本当におとなしくしている猫に視線を向けて、何度目か抱きなおした。
小さく上がる鳴き声に、穏やかに口許を笑ませ。

書庫の出口に辿り着き、扉をくぐった先。地下とは違う光量に僅かに目を細め。
しばらく行った先でテーブルに置かれたバスケットは、いかにも可愛らしい女性的な形状をしていた。
そのふたが開かれ、くちを向けられると腕の中の猫を促す。
先ほどまでの抵抗が嘘のようにその中に納まったのは、きっと懐かしい主の匂いもしていたからだろう。

ふたを閉めるまでを確認してから。

「───私はマーシュと申します。迷惑というほどのことでもないので、気にされないのが一番かと思いますが…お言葉はありがたく」

名乗り返す。職についてはあえて言わずとも知れる出で立ちなのでそこまで言及することはなく。
ごく簡単に王城の礼拝堂に出向中であることを告げ。

手持ちの燭台を取り上げると、相手の挨拶に頭を下げ。

「そろそろ夕の勤めの時間ですので、失礼いたします。」

暇乞いの言葉を告げると、おそらくは書庫にもう一度立ち寄り、内部の確認を終えてから司祭なりへと報告をしに戻ってゆくのだろう──。

ご案内:「王都マグメール 王城/書庫」からマーシュさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 王城/書庫」からルーウェンさんが去りました。