2022/08/17 のログ
■セリアス > 明らかに、祈り終えたのではなく。
此方への対応のために中断されたそれにばつが悪そうに顎を撫でながら。
ウィンプルから覗く銀糸から伝うよう視線を移動させ、彼女の藍色の瞳に向ける。
碌に信仰ごとに興味のない自分でも、模範のようだと感じる修道女の姿にわずかに感心したように息を吐いて。
「感謝。……感謝ですか。感謝の為に祈る」
男からすれば祈りは何かを願ったりといったものという考えがあったのだろう。
彼女から返った答えを、意外そうに。そしてどこか面白そうに繰り返す。
「……ああ、いえ、いえ。この近くを通りましたら、美しい声が聞こえたものですから。
祈りなど、作法も知らなければ貴女の諳んじたような句も知りません」
問いかけには、大仰に手を体の前で振って見せ、偶さかに立ち寄っただけと告げる。
頬を緩ませ笑みを浮かべ、祈りについては無知であると。
■マーシュ > 己の祈りの中断については特に気にした風もない。常、そうしたことはあるものだし。本来の祈りの時間ではない。
ただ、ばつが悪そうにする相手の態度に僅かに眦を緩め。
「どうかお気になさいませんよう、本来ここを使用される方のために場所を開けるのは当然のことですから」
己の髪がのぞいているのなら、それこそを恥じる様にそれとわからぬ仕草で白布で覆い隠す。
ゆら、と揺れる無数のろうそくの明かりが、室内をほの明るく、互いの姿を照らしている。
己の答えが意外だったのか鸚鵡返しに紡がれる言葉に、何かおかしなことでもありましょうか、と軽く首を傾けた。
「作法など、特には。皆様の心のままに、祈っていただければよいのです」
細かな儀礼はあるが、日常の祈りにおいてまでそれらは気にする必要はないと、それこそ宗教者らしい言葉を返すことになるだろう。
聖句については、と修道服の隠しから書を取り出して。
栞の挟まれた詩歌のページを開いて向けた。
何時もそうやって訪れている人に向けているのだろう言葉や仕草は慣れたもので、だが無理強いするつもりはございませんよ、とやんわり告げる。
彼の装いから、王城を訪れた客人であることは明白で、時間的都合もあることを加味しての言葉だった。
■セリアス > 修道女は気分を害した様子もなく、此方を気遣うような言葉をかけてくれる。
宗教関係者であること以上に、彼女自身のその態度に何処か安心したよう、瞳を細めて。
けれど布地で密やかに髪を隠す様子には、それを見咎めたようになったものかと。
自身の修道女への応対への無知さに口元をわずかに歪めた。
「心のままに、ですか。祈りというモノは何かを願う行為だと思っておりましたよ。
……私は日々の商機への巡り合わせに感謝して祈る、というところですかねぇ」
彼女が首を傾げる様子も可愛らしく思えば笑みを深めつつ。
先程自身が何故、感謝、と繰り返したのかを迂遠に説明するようにしながら。
自分であればやはり商売関係でと、感謝の対象を口にする。
「また今度、ゆっくりと教えていただければ。……これまで、教団関係の方とのやり取りと
修道院関係の方との日用品の取引や――寄付のお声かけくらいですからねぇ」
けれども書物まで向けられては、それを見て読み上げるほどの興味は、今現在は無かったのだろう。
彼女の言葉に甘え、僅かに掌を向ける仕草をして、不要であることを伝える。
同時に、自身の教団との関りを漏らすが。
嫌味というわけでなく、事実関係を口にしただけ。
ただそれが、彼女にどのように聞こえるかは分からないが。
■マーシュ > 「………」
相手の言葉にしばし耳を傾ける。
己は、誰かに教えを説き、導くほどの何かは持っていない。それができるのは高位聖職者であり。司祭から上の者たちだろう。
あくまでも己個人の見解であることを静かに伝えてから。
「……ですので、私の言葉はどうかお気になさらず。ご興味があれば、ミサの時にでもご参列ください。私の言葉などよりも納得のいく答えを戴けると思います」
彼の、唯物的な思考については何かを言うつもりはない。
自分たちもまた、経済活動から一歩引いてはいるものの、関係ないとは言い切れないことを、物資の調達と配給を行っている身からすれば自覚せざるを得ない。
ゆえにその考えもまた、否定するものなどではなく、こちらに阿った様に言葉を発してくれる相手には黙したまま頭を下げた。
「───篤志家でいらっしゃるのですね、いつも感謝しております」
彼の意思表示に対して何も言うことはないようで、そのまま静かに書を閉じると元のように修道服の隠しへとしまい込む。
その後続いた言葉に対しては、ごく一般的な反応を見せ、女が澱みを知らぬこともまた伝えうることだろう。
■セリアス > 何処までも話に聞いたような聖職者然とした応対をする相手は、男からすれば珍しかったのか。
僅かに眼を開いて見せるも、直ぐに元の笑みの形に戻して。
此方の言葉に、篤志家であると言われれば。
彼女が意図したわけではないだろうが、普段己の商会のものからも言われる自身の行動を指摘されたようで。
笑みをかたどる頬が僅かに引きつり、額にかかる金糸を掻き揚げてその表情を誤魔化しながら。
「溜めるだけが財貨の価値ではありませんのでねぇ」
使ってこそ富という考えである故に、価値あると思ったものには対価を。
ノーシス主教への喜捨が価値があるかと言えば、やはり男の趣味の延長上でもある。
彼女が意図して隠しているわけではなければ。
腐敗も多い、主教の振る舞いを知らないのだろうか。
修道女がその身体を売ることすら、珍しくない実態を。
ゆっくりと、彼女の方に歩み寄れば。
「……シスターも、お困りでしたらストリングス商会にどぅぞお頼りを。
今日のご縁もありますし――貴女の、美しい声にでしたら、幾らでも篤志の援助をいたしましょう」
その唇をじっと見つめながら告げる。
――ヤルダバオートの一部であれば、修道女売春を暗に仄めかす言葉と取られるような台詞でもある。
どのような反応が返るのか、じぃ、と。赤い瞳を、彼女に向けたまま、観察して。
■マーシュ > 得に相手を貶したつもりもない。
大なり小なり喜捨として財を投じてもらわなければ運営は立ち行かない修道院の多いことを己は身をもって知っている。
だから感じたままを告げると、どこか笑みが強張ったのに気づいて不思議そうに目を細めたが、それをあえて指摘することはなく。ただ見ないふりをした。
「蓄財は大切なことでもございましょう?」
その財を手にしているものが、それをどう使うのかはやはり彼らの才覚によるものが大きいのだろうとは思う。
神聖都市よりも、殊に王宮勤めになってから、その絢爛さを知れば己には縁のないこと、とも思うのだが。
彼の奇特な趣味を知らない、ひいて言えば彼の正体も知らない女は、一般的な見解を述べるにとどめ、ただ、近づく距離に僅かに双眸を瞬かせた。
「え…?」
困惑気味な小さな声音。
声、と言われても己は聖歌隊に属しているわけでもないので困ったように。
「過分なほどのものを今戴いておりますし、困るなどといったことはございませんが……」
そこにある含みには気づかない。
真実女がその暗部を知らないままだということを示す態度と声音が、その観察する眼差しに返される。
「ですが、ありがたいお言葉として頂戴しておきます」
眼差しに戸惑い、視線を伏せることで視線を交わさぬように気をつけながらの返答だった。
■セリアス > 「個人的には、備え程度があれば、と。まぁ、何事も程度の問題ということで」
財貨がひとところに集まりすぎるのも宜しくはないと。
半ば経験則から言っていれば、それを彼女に説くのは彼女が己に宗教を説くよりも野暮かと思い直し。
誤魔化すように話題を終える。
――傍に寄れば瞬く藍色。
唇に視線を向けていても、困惑の音を漏らす形にしかならなければ。
続けられる言葉も、やはり腐臭を纏う聖職者の反応ではなく。
つまりは、そのような言葉をかけられれば『務めるように』と教育されているわけでもないらしい。
どこまでも、話に聞くような修道女、である彼女を、珍しくも思いながら。
「……ええ、ええ。何かあれば、遠慮なく。篤志は、財貨とも限りませんのでねぇ」
視線を伏せてしまった彼女に、そのように返せば。
彼女の口唇に向けた赤色を離し――そのまま、背を向ける。
近付いた時と変わらぬ速度で、彼女の傍から離れていけば。
「お邪魔を致しました、シスター。良い祈りを」
そう言って、礼拝堂の扉をくぐり抜けていく。
真に敬虔な修道女の邪魔をしても申し訳ないというところと。
偶然の縁としてはそれなりであろうというところと。
彼女がいつまでその在り方でいられるのか、というところと。
綯い交ぜにしながら、浮かべる楽し気な笑みを背中越し、ちらりと修道女に向けながら。
最後に一つ、手を振って、その場を後にしていく……。
ご案内:「王都マグメール 王城 『小礼拝堂』」からセリアスさんが去りました。
■マーシュ > 何事かを量るような───赤い色。
無知なるものがそれを受け止めることは能わず。
向けられる言葉もまた額面通りに受け止めて首を垂れた。
「……そのお気持ちをありがたく頂戴いたします」
辞去の意を態度で示す相手の背中が遠ざかり、扉の面前迄ついたところで告げられる言葉を耳にしながらも頭は垂れたまま。
扉の閉じる音を耳にしてようやく面を上げ────
はたして彼の興を得たのか、削いだのか、それは修道女が知りうることではないが。
再び静まり返った礼拝堂内の空気に、ほ、と呼気を揺らした。
再び、潰えた火を灯しなおし、祭壇前に跪いて。
「────」
祈りの言葉を静かに紡ぎ続けるのだった
ご案内:「王都マグメール 王城 『小礼拝堂』」からマーシュさんが去りました。