2022/04/23 のログ
ご案内:「王都マグメール 王城内礼拝堂」にマーシュさんが現れました。
マーシュ > 夜の礼拝堂、ともされた灯りを絶やさぬように蝋燭に火を移してゆくのは僧衣に身を包んだ女の人影。
訪れるものも今はない。大きな祭事があれば複数の修道女や司祭によって行われるその行為も今はただ持ち回りで行われている日々の祈りの仕草にすぎない。

それでも信仰に身を置くものにとっては大切な祈りの行為だった。
腰に届く髪をきっちりと白布で包み、面白みのない紺色の修道服に身を包んだ修道女は祈りの言葉を紡ぎながら、灯火を絶やさぬように礼拝堂の中を巡っていた。

女は神聖都市から王都へと出向を告げられた人員の一人で、特に後ろ盾があるわけでもない存在だ。

孤児院からそのまま信仰の道に進んだ女は、ある意味捨て駒としては使いやすかったこともあるのだろう。
そのこと自体を気に病むふうもなく、どこにいても祈る行為には変わりがないと異動自体を受け入れ、そうして神聖都市から王都へと身を移すことになったのだが……育った修道院とは違う壮麗な礼拝堂の様子には、少々気後れめいたものは感じていた。

ご案内:「王都マグメール 王城内礼拝堂」にファビオさんが現れました。
ファビオ > ギィィ―――と、不意にその静寂を破るように開かれた礼拝堂の大扉。
其れから少しの間を置いて、コツ、コツと響き渡る靴音と共に足を踏み入れたのは。
灰髪に痩躯の男が一人、誰かの姿を探し求めるかのように礼拝堂の中を見回そうか。

「――おや……いつもの修道女様は、今宵は不在でしょうか?
 それは困りました……っと……嗚呼、此れは失礼。」

誰に投げ掛けるでも無く、独白のように零した言葉から少し遅れて、その場に女性の姿を認めると。
数瞬その姿を見詰めて、既知の人物では無いと判断すると同時、男はゆっくりとした所作で彼女の方へと恭しく一礼をして見せた。

マーシュ > 「─────………」

歌う様な抑揚で祈りの言葉を紡ぎながら、火の潰えた蝋燭に火をともしなおし、尽きた蝋燭を入れ替えて。
日々の祈りを重ねているさなかに扉の開く音に顔を上げた。

「………ぇ」

夜も更けた時間に訪れる誰かがいることを女は聞いていなかった。
少しだけ訝しむような眼差しを向けたが、改めて頭を下げる。

「申し訳ございません、今宵は私がここの火の守を任せていただいておりまして──」

恭しく首を垂れてくれる相手に、こちらこそ、と低頭することになる。
女の姿は一般的な修道女のそれ、装束なども清貧を旨とする僧院のそれで面白みなどは何もなく、貴族出身といった雰囲気もないだろう。

「それで……あの、何か御用でしたでしょうか…?」

どう口火を切っていいのかもわからないためか、ややあってから正面から問う言葉を向け。

ファビオ > 少しの間を置いてから、男は矢張りゆっくりとした所作で頭を上げ。
己に対して訝しむような視線に気付いてか気付かずか、人当たりの良さそうな笑みを浮かべて見せる。

王族のように着飾った気配こそ無いものの、王城という場に不相応さを感じさせぬ程度の装いで、
投げ掛けられた女性の問い掛けに対し、男は答えを返そうか。

「失礼致しました。実は或る御仁の要望で、礼拝堂の修道女様の御手をお借りしたい事が御座いまして。
 普段であれば此方の―――様にお手伝いいただいていたのですが、生憎今宵は不在の御様子。」

目の前の彼女がこの礼拝堂の事情にどれ程明るいか男にとっては知る由も無いが、
その口から出た名前は確かにこの礼拝堂に頻繁に出入りしている修道女のもの。
そう答えてから、男の視線は目の前の修道女の爪先から頭の天辺までを観察するかのように一瞥するだろうか。

マーシュ > 男の仕草は、その一つ一つが貴族然とした洗練されているものだ。
──所詮平民の己には少々落ち着かなさを与えてくれるのだが、ここに出向してからはそのようなことは日常茶飯事で少々慣れてきたころでもあった。

一回の修道女である己に対しての態度からして、高位貴族というわけではないのかもしれないが、それでも己が対応することが失礼になる…ということも政治的にはあるのだと学習はしている。

耳に入ったのは、古くからここで勤めている修道女の名前だ。
元は貴族だった、と耳にしたことがあったような気もするが…確かに今宵は不在だった。

──改めて向けられる視線に、こちらはそっと目を伏せる。
ここにきてから値踏みのような視線を向けられるのには多少慣れたとはいえ、やはりそれを直接受けとめるのには戸惑いがあった。

ファビオ > 男の視線を受けてそっと目を伏せる女性の仕草に、男はクスリ――とその表情に浮かべた笑みの色を人知れず濃くする。
そうして彼女の一挙手一投足を眺めるような一瞥をくれてから、ふむ……と小さな呟きをひとつ零してから。

「それでは……もし差し支えなければ、今晩の所は貴女様にお手伝いをお願いしたいのですが、如何で御座いましょうか?
 ―――なに、決して難しい事を要求するつもりはありませんし、
 仮に此処で断ったとて、貴女や此処の皆様に不利益が及ぶ事は無いとお約束致しましょう。」

人当たりの良さそうな笑みを貼り付けて見せながら、男は目の前の女性へとそう提案を投げ掛ける。
それから彼女の返事を待つより早く、元来た礼拝堂の大扉の方へと踵を返し。

「―――もしお手伝いいただけるのでしたら、どうぞ此方へ。ご案内致しましょう。」

そう告げて、再びギィィ―――と音を立てて開いた大扉の向こう、
ぽっかりと穴の開いたような宵闇の向こう側へと、彼女を手招きしようとするだろうか―――

マーシュ > 物腰の丁寧な男の言葉に少々惑う。たしかに今宵の───、礼拝堂の蝋燭の火はあらかた移し終えてしまった。後はもう、早朝の祈りの時間までは休息の時間で、男の言葉を拒む理由はないのだがはっきりと答えを口にできないのは、何をしてほしいか、という具体的な言葉は彼から告げられていないからだ。

簡単なこと、と示されても、己には難しいことかもしれない。
そうはっきりと口にするのはさすがにまだ、はばかられるのだが──。

「……かしこまりました。お話を聞かずに断るのは……私には難しいので」

提案に修道女は、修道女らしく応じることになる。
こちらの返事がどうであれ、礼拝堂でのようを終えたらしい相手の行動ははっきりしていた。
礼拝堂の扉前まで移動して、開く扉の音がやけに耳にこびりついたように感じたのは────気のせいだと思いたいのだが。

火の始末をすると修道女もまた、開かれた扉の向こうへと足を踏み出すことになるのだろう。

ご案内:「王都マグメール 王城内礼拝堂」からファビオさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 王城内礼拝堂」からマーシュさんが去りました。