2021/05/03 のログ
ご案内:「王都マグメール 王城内の一室【イベント開催中】」にジギィさんが現れました。
ジギィ > ずずーん…
ゴロゴロゴロ……

「うへぇー…」

夕刻に染まった雲と黒雲が斑に折り重なった空が、時折白く光っては窓ガラスを揺らす音が後から追いかけて来る。
中庭に面した王城の部屋からそれを見上げるエルフは、そんな『いかにも』な雰囲気を溢れさせる気候に不満一杯顔をしかめて、ひん曲げた唇から呻きを漏らした。

室内に灯りはランプが幾つかだけ。
しかしそこからは少し甘い花のような、煙たいだけのような香りが立ち昇っていて、今や部屋内に充満している。
エルフ女の使っているちょっとした『手品』と相まって、部屋に足を踏み入れる相手には、中にいるのは『灰色のローブを纏った老婆』と認識されるはずだ。

「はあーぁ……」

窓から視線を外すと、机の上の薬瓶たちをやるせなさそうに見る。
冗談で前々からコネのある貴族に頼んでいた、王城内で臨時営業。
『媚薬の類を多く持ってこい』
と言われて、いやーな予感がして何度かはぐらかしていたものの
怖いもの見たさの好奇心と
心もとなくなった先立つモノと
幾らかの自信と慢心が混じった実力を頼りにして
――――まあ今こうして、扉からやってくるはずの客を待っている。

来いと言われたからには客はひっきりなし、と思っていたのだが、意外にもかなりの閑古鳥。
店を広げてからやって来たのは、馴染みの貴族の従者がひとりだけ。

(―――すごく大量に持って行ってくれたから、もういいけど)

ひまだからといって部屋の前に看板を立て積極的に呼びたいわけでもない。
先から何度か、いわくありげな男女の声が通り過ぎたりしていることもあるし…

約束の時限までは居座らずに帰る、という考えなどは端から心に浮かぶこともなく。
意外と真面目なエルフは荷物からすり鉢を取り出すと、せっせと粉薬調合に精をだすことにする。

ジギィ > ごりごりごり…
ゴロゴロゴロ……
びりびりびり…
「…~♪―――♪」

すり鉢に乾燥した実を幾つかを投げ込んで一心不乱に粉にしていく。
その内鼻歌も零れて来るものだというもので、それが天の唸り声とそれが揺らす窓ガラスの音とで調子を取るとなると自然と不穏な歌を選ぶことになる。

――――確か、魔王が子供を攫う話だったかな?

音符は口ずさむに容易だが、歌詞を思い出すにはすこし掛る。
ほぼ無心に手を動かし不穏な響きの鼻歌をうたいながら、背後から稲光を浴びつつ作業に没頭。

ジギィ > 果たしてそんな不穏な雰囲気しか醸し出さない部屋へは、不穏な天気の中不穏な空気を孕む王城内でもあまり踏み入れたいと思うものも居なかったようで

刻限には
女エルフはほんの少し暖まった懐と大量に整理した薬類を携えて、独りほくほく顔で王城を後にしただろう。

ご案内:「王都マグメール 王城内の一室【イベント開催中】」からジギィさんが去りました。