2018/12/06 のログ
ご案内:「王都マグメール 王城2/書庫」に影時さんが現れました。
影時 > ――全く、知りたいものがあれば此処に往けばいいとは誰が言ったものか。

街中の書籍や古書を漁っても知っておきたいものがなかった。自分の欲を満たすものがなかった。
では、どうだろうか? 
国政を左右するようかの如きものはなくとも、此処であればあるかもしれない。
そう思う先に街中から視線を遣れば、見えてくるものがかの王城となれば足を運んでみるのは不可思議なことではない。
無論、見せてくださいと頼みこんで解放されるわけがあるものか。

故に昔の伝手を辿り、表立って入り込める由縁を作った上で正々堂々正面から侵入を果たす。
さる貴族お付きの薬師としての立場だ。
裏の意味では護衛の意味も兼ねるが、元々本草学の類は仕事に使う関係上覚え込んでいるものはある。
気配を隠して這入りこむことが常に通じるワケではない。確実さを期するならば、装うのもまた酔狂を愉しむための一手だ。

「……――物があるにはあるのは良いが、だ。ぐっちゃぐっちゃしてるなァ、おい」

貴族付の侍従や衛兵にも挨拶しつつ、ひょいと合間を縫って向かったのは王城の一角にある書庫である。
図書館と呼べるほど整理されておらず、ただただ体系化されることなく雑多な情報を詰め込んだと思しいものがここにある。
埃の臭いが漂う、石造りの部屋は冷たい。否、この冷たさは書籍を詰め込んだ鉄造りの書架にも由縁があるだろう。

灯と言えるのは、所々に籠る魔法仕掛けの灯火だ。
熱なく、そして揺らぎなく放たれる光を頼りに並んだ書の群れを眺める。
此の手の風景は嫌いではない。ただ、取り合えず詰め込むだけ詰め込んだという雑然さを除いて、だ。

影時 > 図書館の類もない訳ではない。だが、どうだろうか。
市井にも写本として降ろされているような類のものは拾い読んだ。

「……まあ、無いなら別にかまいやせん。
 そも、直ぐにひょいと読めそうなところに転がっているとも限らん……がー。」

嘯きつつ、並べられた書籍を確かめてゆく。
ある程度は手が入っているのだろう。埃の匂いはやはり強いにしても、決して劣悪な保管状況ではない。
薄闇に慣れた眼で背表紙を眺め遣り、薄い手袋を嵌めた手で一冊を掴んではぱらぱらと捲り、戻す。
また次を眺め遣っては、ぱたんと閉じる。その繰り返しを続けて、はたと気づく。

「……捕虜を丁寧にいぢめ抜いた記録なんざ――こんな処置いておく奴があるかッ」

そうなのだ。
年代としては其処まで古いものではないが、その手の些事として片付ける類のものがこの辺りに並んでいた。
思わず叫びたくなるのを抑えつつ、盛大な嘆息と共に戻そう。
書き手は見事に直截的な表現を押さえ、婉曲な表現を多用して何を為したのかを仔細に書き記している。
その手並みは成る程、これ等だけで編纂すれば文芸にも出来るだろう。売れるかどうかは非常に疑わしいが。

影時 > 「……この調子だと、望み薄みてェだなこりゃ」

全部を一冊ずつ改めてゆくには、時間がない。
元々の来訪の建前がある以上、此ればかりは順守しなければいけないのが立場として哀しい処である。
必要であれば、表沙汰に出来ない手段で足を運ぶのは勿論できない訳ではない。
やれやれと嘆息しつつ書籍を戻し、足元に不意に目を遣れば微かな違和感に気が付く。
纏うローブの裾を押さえつつ灯の反射に気を付けつつ、目を眇める。

「……――ははぁ」

薄く堆積した埃の具合である。
呼吸で散らさないように気を付けつつ、眼を遣って奥に行くのではなく、奇妙な方向で足跡と伺える具合が失せている様に気づく。
隠し扉の類であろうか。そう思いながら手を伸ばせば、成る程。ほんの僅か、風の流れが奇妙な具合に気づく。
しかも、遠く遠く――女の嬌声らしいものまで聞こえ来れば、苦笑せざるをえないだろう。

――やれやれ、だ。

内心で呆れつつ、此の書庫に余分な足跡を残すことなく歩法に気を付けながら後にする。
勿論、侵入前と同様になるよう痕跡を消しておくことも忘れない。
雇い主に具申して、不審者対策のために書庫の仕掛けも報告も行っておけば少なからず護衛を為した意味はあろう。

ご案内:「王都マグメール 王城2/書庫」から影時さんが去りました。