2018/08/26 のログ
ご案内:「王都マグメール 王城内談話室」にディールさんが現れました。
■ディール > 白い豪奢な素材で作られた女神増が四方に置かれる談話室。
女神像の結界効果か中の物音は外に漏れず、秘匿したい会話を行なうには向いている一室。
部屋の片隅で焚かれている香は、肺の中に入ると暫し甘い香りに陶酔出来るアルコールの様な成分に近い物が混ざり合う。
稀に軍儀にも使われるが、今使われている談話室は広いわけではない。
10人も中に入れば手狭さを感じるだろう室内。
今は自分ともう1人、賄賂や腐敗に携わる貴族が一つの机を隔て、笑顔を見せながら『取引』の話を続けていた。
「―――いえ、貴方はお得意様だ。それに貴方のお陰で助かっている事も多い。これは私の気持ちですとも。」
白に染められた机の上。手渡されるのは一つの布包み。
ゴルドが入っているには相当に小さく、違う何かが入っているのだろうなと言うのは推測が出来るだろう。
己も、相手も。笑みこそ見せているが決して其処には、相手に心を許したような気配はない。
取引があるからこそ、相手がどういった存在なのかは知っている。
お互いに、自分が助かる為なら笑顔で相手を切り捨てるだろう事も。
だからこそ、相手は信用が出来る。――この辺りは性根が腐った存在同士だからこそか。
蛇の道は蛇ならぬ、邪の道は蛇とでも言う場面。
■ディール > 焚かれている香は意識して嗅ぎ分ければ、違法な薬物ではない。
但し――混ぜ合わせれば特殊な効能を得られる類の薬草と香木。植物から精製されていた。
お互いにこの香に対する抵抗剤を事前に呑み合わせている。
これがあれば前述の香りの、アルコールの様な成分を受けずに済む。
服用せずに踏み込むなら、入り込むなら――意識には靄が掛かるように。
思考力が減退していく様に作られてはいる。
―――取引の現場を見られたとしても、だ。速やかに相手を無力化させるか、逃げ出す為の小細工でもあった。
包みを渡した後で相手から出されるゴルドを丁重に断る――。
が、相手側がそれで良しとしないだろう事は知っている。
悪人は、タダよりも高くつく物が無い事を知っているのだから。
代わりになるような物を差し出したい、そういう言葉を出す事は、相手も此方も察している話。
儀礼的に遣り取りした言葉の末に、差し出されたのは黒い真珠大の粒。
黒い所か光その物を飲み込みそうなほど、周囲に黒い陰を落すモノ。
それが普通の黒真珠に見えるなら、余程平和な世界に生きてきたか見る目が無いか。
その真珠を受け取ると自分の懐に入れる。これが目的でもある。
相手に手渡す包みの中には――複数の薬物が入っている。
彼のオーダーではあるが、これを精製する為に必要な素材やゴルドは決して安い物ではなく。
……更に言えば非合法な物を調達して、手渡したのが自分である証拠と責任をこちらが一方的に追う。
相手からすれば、そんなものとは知らなかった。この一語でシラを切れる安全を購入したような物。
■ディール > ――しばし続く歓談の時間。
お互いに暗を抱えている身。茶を出す給仕すら断り、二人での会話を楽しむ――訳ではなく取引についての話は続く。
不幸にも足を踏み込む存在さえ居なければ、此の侭何事も無く終わるのだろう。
時折、こちらが包みを取り出し――それを試す様に一粒口に入れる貴族。
逆に貴族が葉巻を取り出し此方に進め。火をつければ香の代わりに己の肺腑には苦い煙が満たされる実感が得られる物。
「――取締りは上手く撒けているようで。此方も今は自由に動けております。これも――貴方の手腕と配慮のお陰ですとも。」
自分の医院が、自分の身分が脅かされない権力の傘は貴重。
清流の貴族ではなく、濁り腐る沼の様な目の前の相手だからこそ、その傘下に入り。
彼の欲望を満たす薬物を調達して取り入った。
――彼の欲望を満たす事が出来れば世の中には不幸な人間も増える。
不幸を、禍根を撒いて楽しむ今の己にとっては彼は都合が良い取引相手でもあるのだから。
■ディール > ―――そうして夜は更けて行く。
密約、取り決め。取引――安全な場所が無い事を知らしめる密室の談義。
王城であろうと汚職、腐敗が進行していくのは悪くは無い。
――今の汚職貴族や王族には最大限活躍してもらわねばならない――。
その目的は伏せたままで。
談義が終わる頃、其処には何の痕跡も残らず――僅かに甘い香りが残されていたくらい、か。
ご案内:「王都マグメール 王城内談話室」からディールさんが去りました。