2018/05/20 のログ
ご案内:「王城内 装備研究室」にバルベリトさんが現れました。
バルベリト > 王城内に幾つかある研究区画。
魔術や戦術といった一般的な物と肩を並べる重要な研究ともいえる一般的な騎士への支給装備品。
装備品にも複数あるが、精鋭向けの高品質かつ高性能な装備品ではなく、この研究室は主に一般騎士向けの廉価で大量生産に適した装備品の研究が行なわれていた。

「はぁん?皮革のガントレットね。革自体はいい物使ってるみてーだけど、これどの位頑丈なんだ?」

いま自分が身に着けている装備品はこの研究室で開発された装備品の数々。鉄や鋼と言った物に可能な限り頼らない装備品としてなら、丈夫で耐久性のある皮革や木材と言ったものが使われやすくなる。
何より、非常に軽い。この軽さなら長距離の行軍でも疲労が軽減出来る。人間も、馬も同様に。
拳を握り締め、また開き。それを繰り返しながら研究者達からの質問に答えて行く。何かこういう動きをして欲しいと言われれば其れに従う様に。

『魔獣の牙を防げるかまでは非常に怪しいですが、遠距離からの矢くらいなら防げるかと思います』
『皮革は伸縮性にも富んでいるので、棍棒等といった鈍器にも防御は見込めるかと』

概ね8師団として求める性能は越えている。予算の範疇である程度数をそろえる事も出来るだろう。皮の表面はしっかりと固められ、膠を使い皮を2層式に。1層目は頑丈な皮革、2層目が衝撃吸収力に富んだ皮革、と。
つなぎも膠なのでガントレットやグリープの見てくれに拘らなければ非常に実用的である上に、これを作成できる鍛冶師さえいれば他師団の装備開発や生産ラインと重なり合わないのが非常に良い。

バルベリト > ただ、腕や脚なら浅い矢傷位ならば逃走する際にそこまで影響が出ないが胴体部付近、特に心臓といった急所には要求する防御性能が一つ高いものだっただけに手渡されたのは鋼製品だった。
鉄に比べれば軽い、そして薄い鋼を使うことで重量を極限まで軽く、そして腹部までを覆える面積を低い予算で確保できている。

他師団はどうか知らないが、自分の隊では極力無理な戦闘を避ける傾向が強い。数をそろえ、機動力でかき回し、引き下がる時に相手の魔物や賊の意識を逃走する8師団に向けさせ、陣を引き伸ばさせた所を他の師団が突っ込み、粉砕もしくは殲滅する事が多い。
魔法等への対策も欲しい所だが、確実にその性能を要求すれば要求される予算も跳ね上がる上に他師団とも生産ラインは被りやすくなる。

「ちなみに一般的な魔法とかならどうなる?これ燃える?」

皮革は保温性能も持ち合わせている。冷気をぶつけて来るような魔法には少しは対処できるだろう、あくまで少しはだが。冷凍や、氷結、吹雪といった超常現象には確実な防護など見込めないだろうが。

『松明を投げられても燃えないですね。膠が溶けますが』
『電撃等なら、低級な魔法には素材上で耐性が見込めます』
『一般的に人間の体が燃えるレベルの熱を受けなければ。ただ熱遮断の性能とかはないので長時間の熱波には弱いかと』

こういう時研究者や鍛冶師は素直でいい。自分達の製造物のほぼ正確な数値を言ってくれる。彼らには彼らの誇りがあり、性能を偽るという事を善しとしないのだ。
作られた装備品の数々、予算の中で数を揃えつつ順番に小隊単位で揃えて行けるだろう。
生存率が上がるなら、今は新兵でも経験を積んで何れ違う方面の才能を開花させる騎士がいるかもしれない。弱腰だろうと、チキンであろうと最後まで生き延びる事を騎士には求めている。

「良いな、じゃぁ8師団でコイツを正式に発注掛けさせて貰うか。あー、ちなみに何時も通りの取り決めでいいぜ。その分ウチは安くさせてもらってるからな。」

何時も通りの取り決めと言うのは、生産の技術者や鍛冶師が他師団の装備品の生産依頼が入れば其方を優先して構わないという取り決め。
ただ、こちらとしても装備は欲しい。だから生産難易度も低く、大量生産性に優れた素材を使った物を開発してもらっているフシはある。

防御の為、陽動の為。囮のための装備よりも、最後に止めをさせる戦力を優先させた方が結果的に損害は少なく済むという考えもある。
攻撃力、攻撃性能。突破性能が求められる他師団優先の考えは、翻せば自分達の陽動に立ち回る時間の短縮にもつながる為――。

バルベリト > 「え―――――――と。これ全部サインしなけりゃなんねぇの……?」

発注をかけた直後の話だ。にこやかな顔で研究者や鍛冶師が持ってきたのは、鈍器としても扱えそうな紙の束。
契約書や契約保証書。そして今回の彼らの働きに対する評価と王宮への彼らへの報酬請求書。それらが今回携わった人数分持って来られてきた。
ドスン、という音は普通、紙の束が立てる音じゃない。
木の机が重々しく揺れ、気のせいか天井まで震えたような。そしてパラパラと埃が落ちてくる。

『これが前回の開発の分ですね。』
『こっちは今回の分です。』

にこやかに。然し決して逃がさないという断固たる決意を秘めた彼らの笑みがぐるりと自分を取り囲む。
そういえば前回の発注の際に書類にサインをした記憶が無い。
文字を見た瞬間の記憶が薄れている。真夏の陽炎の様に記憶が薄ぼんやりと霞掛かり、凄い勢いで研究室から逃げ出した記憶があったようなないような。

「これ1枚に纏めねぇ…?」

魂の訴えも彼らには響かず。そもそも研究者や騎士で書類の形式が自由に短縮できるわけもなかった。
青空広がる一見平和なマグメール王国、王城内。
そこは決して安全な場所ではないのだ。――書類仕事につぶされそうになっている師団長がいるというのも忘れてはならない。
すべてに目を通し、書類にサインを終えた頃には城内に生ける屍のような表情で歩き回る男の姿があった、と噂がされていた――。

ご案内:「王城内 装備研究室」からバルベリトさんが去りました。