2018/05/04 のログ
ご案内:「王都マグメール 王城/庭園」にフェイレンさんが現れました。
フェイレン > 主人が外遊に出て一週間が経とうとしている。
己に対する日頃の扱いがどれだけ過酷なものであっても、
主の不在は即ち、自分に唯一許された足場が失われたような心地でどうにも息苦しい。

当てもなく城内を彷徨う内、気づけば庭園へと降りていた。
王城と同様に広大な敷地を持つこの庭には、背の低い花々だけでなく、
華やかなバラのアーチや、青年の身長よりも高くそびえる生垣、その他にも多様な木々が生い茂り、
進む度に小さな森に迷い込んだような錯覚に陥りそうだ。
昼下がりの陽光を受けた新緑が爽やかな香りを放っていて、男の呼吸を幾許か楽にする。

「……?」

ふと視線を上へ向けると、大きな生垣の向こうにガゼボの白い屋根が覗いていた。
小鳥のさえずりに誘われるものの、王侯貴族の先客があれば厄介だ。
念のため足音を忍ばせつつ、男は生垣に囲まれたその空間へと踏み入った。

ご案内:「王都マグメール 王城/庭園」に紅月/コウゲツさんが現れました。
紅月/コウゲツ > ーーーちちち、ぴよぴよ

白いはずのガゼボは、様々な小鳥と蝶で彩られていた。
心なしかそのガゼボの周辺の草花は他のそれよりも生き生きと輝いている。

中には…髪には蝶が、体には鳥に乗られて、だがそれに気付いているのかいないのかお構い無しですやすやと眠る女が一人。
足元には無造作に脱がれたブーツと鉄扇が転がっている。

「………すー………すー……………すぴょっ」

なんとも呑気なものである。

…もし男が彼女に近付いたなら、彼女に乗っかってぬくぬくと休んでいた小鳥はガゼボの上に避難せんと飛び立つだろう。
起こそうとするのなら、揺れに驚いた蝶がヒラヒラと飛び立ってゆく。

フェイレン > 生垣の間をくぐり中の開けた空間へ進むと、ガゼボの屋根の下に人らしきものの存在があった。
らしきもの、と認識してしまうのは、蝶やら小鳥やらに群がられているせいでその姿をはっきりと確認できないからだったが、
群れの隙間から覗く、燃えるような赤髪には見覚えがあった。
近づいて目を凝らすと、人影の正体はやはり、先日教会で会ったばかりの女だ。
ここが王城であり野外であることも忘れてしまったように、気持ちよさそうに寝息を立てている。

何故このような場所に居るのだろう。この鳥や蝶は彼女が呼んだのか。
己の固い頭では理解の追い付かない光景を前に少し迷った後、控えめに声を掛けた。

「……おい。何をしている」

その刹那、鳥たちが羽音を立てて飛び去った。

紅月/コウゲツ > 唐突に起こる風と羽音に目が覚める。
むくり…
上半身を起こしはするものの、ぼんやりと…半分寝ぼけた状態で目を擦る。

彼女の突然の動作に驚いた蝶はヒラヒラと周囲を舞い戸惑っているようだったが、彼女が髪飾りを引き下げ後頭部を掻いているのを見るや、諦めたのか他の花々の元へと散っていった。

…ふと、ガゼボの外を見る。

見覚えのある青年の姿に、にぱーっ。
相手が怪訝な顔をしていようがお構い無し、おはよー、などと緩い挨拶を投げ掛けて。

「うーん、気になってたからって…まさか夢に見るとは。
お兄さんの御名前、きいていいー?」

この間聞きそびれちゃったのよなー、と、緩く笑いかける。
…どうやら、男の事を夢の中の住人だと思っているらしい。

フェイレン > 女は鳥たちの羽ばたきや、突然現れた男の存在に驚くこともなく、
そればかりか呑気な声で目覚めの挨拶をしてみせた。
廃墟と化した教会で見た怪力姿といい、今日のこの様子といい、彼女は男の予想を容易に超えてくる。

名を問われると、一瞬身構えてしまった。
仕事柄、あまり多くの人間に存在を知られることを良しとしないために、己のことを語るのは極力控えてきたが、
未だ夢心地のような笑顔を向けられると黙っているのも居心地が悪い気がする。
逡巡するものの結局、いつも通り主人に与えられた名を口にした。

「……フェイレンだ。……お前は何なんだ」

ぶっきらぼうな物言いではあるものの、彼女の名を問い返したつもりだった。

ふわりと一枚、屋根へ避難した鳥の群れから小さな羽が舞い落ち、風に揺蕩いながらも彼女の頭へと止まる。
鮮やかな赤い髪に白い羽が映え、つい視線をそこへ留めてしまった。

「……ここで何をしている。この国に長居はするなと言ったはずだ」

紅月/コウゲツ > 「ふぇいれん、フェイレンかー…
んー…………じゃあ、フェイにしよう」

うんうん、と、何やら一人納得したような様子で満足げに頷くと。

「私はコウゲツ。
東の果ての言葉で紅の月、と書いて、コウゲツだよー。
…何、かと、訊かれると、なぁ……んー、旅する混血児?」

寝癖だとか鳥の羽だとか色々気付く様子もなく、笑顔であっさり口を開き…コテリと首を傾げる。

男に先日の忠告を繰り返されれば、ぱちくり。
あー、と思い返すように虚空を数拍眺めて。

「いやまぁ、そうなんだけどさー?
ちょっと入国方法が変わってたもんで、試しにこの国の遺跡でも探索しようかなって思いまして。
…フラフラしてればまたそのうち雑に飛ばされるんだろうし」

まだ寝惚けているのか説明が下手なのか…とりあえずまだこの国に留まる気である事だけは理解できる、と言ったような雑な回答。
…訊けば、色々と答えそうではある。

フェイレン > 自分の名を繰り返し唇に乗せられると困惑からつい眉をひそめてしまうものの、
彼女を示す紅の月という名前は、似合いのように思う。
男が以前の忠告に触れると、未だ眠気に引きずられているのかふわふわとした語調で答えが返ってくる。
彼女の旅路を邪魔する意思も、素性にもさして興味は無いが、
腕に自信があるからなのだろう、危機感が感じられない声には少し苛立ちを覚えていた。

「……いいか、お人好し女」

呆れたように嘆息すると、鞘ごと小太刀を引き抜き、柄をぎゅっと握り込む。
そのまま素早く踏み込んで、彼女の白い喉元に鞘の先を突き付けた。
武芸に秀でた相手なら距離を取るだろうか。
殺気がないことを見透かされているなら動じないかもしれない。

「王城とて――…むしろ此処こそ、国を象徴する欲望の掃き溜めだ。
 ……この国は、狂っている。お前はそれを知っておいた方がいい」

ある種の恩人である彼女をどうこうしようという気はまるでない。
不穏な空気を察し、早く立ち退いてくれればいい。
そんな思いから射貫くような鋭い視線で女の顔を見つめ、声を潜めた。