2017/04/08 のログ
ご案内:「王都マグメール 王城/騎士団訓練所」にティエンファさんが現れました。
■ティエンファ > 腐敗した王国と言えど、志高い騎士達も居る。 いや、むしろそう言う者達こそ、此処には集まっていた。
外堀近くのこの訓練所は、昼の勤務を終えた騎士達が集まり、日々切磋琢磨している。
石壁に覆われた訓練所には篝火が焚かれ、刃引きをした県が煌めき、鎧や盾を打つ音や気勢が響いている。
その日は、しかし、鎧を纏った騎士たちの中に一人、異邦人が混ざっていた。
金属を身に着けず、むしろ肌を晒した姿。 向かい合う騎士の剣に対し、こちらは木の棒である。
最初は騎士達も…特に、若い者達は…呆れ半分で相手をしていたのだが…。
「はぁああっ!」
振り下ろされた剣の腹を棒で叩いて流し、手の中で回して勢いをつけた棒で、騎士の足首を外からたたく。
転倒した若い騎士の後頭部に棒の先端を突きつければ、参ったの声。 息を弾ませ、棒を外せば、
「次頼む!」
汗を拭う間もなく、次の騎士に立ち向かう少年。
■ティエンファ > なぜこんなところに、一般の冒険者である少年が混ざっているのか。
きっかけは簡単で、騎士団が追っていた犯罪者をビンゴブックを握った少年が冒険者として捕縛したのだ。
騎士の中に、最近名が売れ始めた冒険者であるティエンファを知る者が居て、その腕を試したいと誘ったのだ。
武者修行中の少年としては願ったり叶ったり。
そんなわけでこうして、騎士の訓練に参加しているのだが、
「く、ぅっ! こりゃあ、良い経験だ…っ」
長剣の鋭い突きが頬を掠める。 刃引きをしてなお、その一撃は頬の肉を浅く裂く。
そのまま首を打ち払いに来る剣を棒で上に跳ね上げ、燕が翻るような軌道で騎士の手首を打つ。
しかし、鉄の手甲に弾かれ有効打には届かない。 逆端を振り回して牽制しながら後ろに跳べば、
剣の間合いから外れ、若い騎士とにらみ合う少年。 口元には笑みだ。
「騎士団に良い噂は無かったけど、なかなかどうして、強いな…!」
■ティエンファ > 精鋭揃いの近衛程ではないにしても、仕事を終えてから尚腕を磨く騎士達の腕は、上級の冒険者に引けを取らない。
「むしろ、対人であれば冒険者よりも慣れてやがらぁ」
それなり以上に自分の腕には自信があったが、いやはや、内心で舌を巻いていた。
たった今負った頬の裂傷以外にも、むき出しの肩や胸元にも浅い傷が走っているし、打撲の跡も見える。
じり、と互いの間合いを探ったまま円を描くように動く二人。 周りで眺める騎士の目も鋭い。
騎士達としても、棒と拳法で戦う異国の少年の動きは物珍しく、興味深い物の様だ。
先に動いたのは若い騎士。 上段からの切り落としをフェイントとして、更に踏み込んでの突き。
剣よりも間合いの広い棒で一撃目の剣を払おうとしたが、でいんとに引っかかり、接近を許してしまう少年は、
舌打ち混じりに目を細めれば、一歩自分も踏み込み、そのまま踏み込み脚を前に滑らせる。
騎士の突きが少年の胸があった場所を貫く。 しかし、そこに少年の身体は無い。
騎士の目には、少年が消えたように見えただろう。 しかし、突き出した騎士の腕の死角、真下に少年はいた。
沈み込んだ構えを取る姿。 曲げた後ろ足に力を込めながら、内に籠った気合を丹田に落とし、そのまままっすぐに伸びあがる。
■ティエンファ > どしん、と重く強く響く音。 帝国武術の一流派の、癖のある踏み込み音。
その脚から伝わる力を、丹田に込めた力に練り込み、それを身体全体の捻りを通して拳に伝える。
突きを放った騎士の腹部に、カウンターとして叩き込んだ拳を真っ直ぐに打ち込む。
そのまま騎士の斜め後ろに突き上げれば、軽鎧を纏った騎士の身体が宙を舞い、吹き飛んだ。
通天砲。 天を拳で穿つかのような一撃を受けた騎士は、地面に落ち、そのまま昏倒する。
構えを解き、深呼吸すれば、少年は汗と血で濡れた頬を腕で拭い、
「…次、頼む!」
疲労を見せながらも、なお声を張るのだ。
ご案内:「王都マグメール 王城/騎士団訓練所」にツァリエルさんが現れました。
■ツァリエル > たまたま通りかかった騎士団の訓練所。
本来ならツァリエルはこちらに用向きが無ければ来ないのだが
今日は平民も交えた訓練が行われるからと誘われて少しだけ興味をいだいてやってきた。
騎士たちの勇ましい掛け声や剣を打ち合わせる音などに少しだけびっくりしつつも訓練の様子を見て回る。
と、一人の若い騎士が跳ね飛ばされる音が聞こえてきた。
見ればその対面にいたのは以前お世話になったティエンファの姿。
血と汗に濡れた姿では合ったがその姿勢は騎士たちに負けず劣らず凛々しいもので思わずツァリエルは口元を覆ってため息をついた。
「ティエンファさん……っ!」
怪我の程度が気にはなるが訓練の途中で邪魔も出来ないだろう。
おろおろと周囲を眺め、小さく声をかけるにとどめた。
■ティエンファ > ツァリエルを見た騎士の何人かが気付き、王族に対する礼を取る。
この騎士訓練所に集まる騎士達は概ね礼儀正しく、修道院上がりのツァリエルにも丁寧に接する。
しかし、それとは裏腹に訓練する姿は勇猛果敢で荒々しく、荒事に慣れないツァリエルが驚くのも当然と言えた。
自分の名を呼ぶツァリエルの声に気付いたか、一瞬視線を周囲に巡らせた少年。
しかし、次の瞬間、新しく出て来た壮年の騎士の盾の一撃で弾き飛ばされる。
ツァリエルは、その騎士がこの騎士団の副団長だと知っているだろう。
吹き飛んだ少年が、丁度ツァリエルの目の前で仰向けで転がる。
天を見た視界に、知った顔。 痛みに呻きながらも体を起こし、
「ツァリじゃん! 何だこんなトコで、騎士さん達にお説教しに来たのか?
相変わらず細っこいな ちゃんと食ってるかァ?」
に、と気安く笑い、ツァリエルの薄い胸を拳で軽く小突く。
まるで同世代の平民同士の様なそんな遠慮のない様子に、ツァリエルに礼をしていた騎士が目を丸くして何か言おうとしたが、
「ちょっと待ってな、すぐにあのオッサンに勝って見せるから!」
少年はツァリエルにそう言い残せば身を翻し、盾と木の棍棒を構えた壮年の騎士に立ち向かう。
重厚な防御に対し、飛燕の身のこなしで攻め入る姿は、この辺りの戦い方には無い軽やかさをツァリエルに見せる。
長い黒髪と肌に刻んだ刺青が松明の篝火の中に躍る。
■ツァリエル > 自分に臣下の礼を尽くす騎士たちに楽にするようにと片手で合図する。
未だに誰かにかしずかれるというのも慣れぬ様子で、騎士たちの前でも堂々とは出来ない。
自分が呼びかけたせいでティエンファが、壮年の騎士の一撃を受けて吹っ飛んでしまったことにああ、と悲鳴を上げた。
が、一撃を受けたティエンファはと言えば痛みに呻きながらも気楽な様子を見せていた。
「ティエンファさんこそ、どうしてここに?
ああ、でもどうかお気をつけてください!大きな怪我などなさらないように──」
言いかけるも、胸を小突かれた衝撃でちょっとよろめきながらそれ以上のことは言えなかった。
気安い様子を咎めるつもりは少しもない。
ただ、今はハラハラしながらティエンファと壮年の騎士の勝負の行方を神に祈るような気持ちで見守る他ない。
いかなティエンファが卓越した武術を持っていても、壮年の騎士に安々と勝つのはおそらく難しいのではないだろうか。
■ティエンファ > 若い騎士の多いこの騎士団では、楽にするようにと言われても生真面目に王族への礼を取る者が多い。
王族として未熟なツァリエルに、騎士として未熟な若者達、ちょっと微妙な空気。
しかし、その騎士達が囲む戦いは激しくも熟練の物。
軽いが素早く手数の多い少年の動きに、髭面の副団長も感心する。
ツァリエルの隣でそれを見た騎士が、ツァリエルに、お知り合い、副団長に火をつけたみたいです、と小声で伝える。
「くっそ、盾ってこんな厄介なもんだったのか…っとぁ!?」
攻めあぐねていると、その隙を見逃さずに棍棒の一撃が身体をさらおうとする。
バク転でそれを避けるが、着地を狙った盾が少年を弾かんと押し迫る。
「ツァリ、良い物見せてやるっ」
声だけ投げれば、思いついたままに動く。
長い棒を横から振るい、副団長の意識を盾の外に向けさせながらそっちに動く。
ツァリエルの髪を揺らすほどの風圧と共に、横に薙ぎ払われる盾。
しかし、刎ね飛ばしたのは、木の棒。 勢いよく飛んだそれは、壁にぶつかって落ちる。
ツァリエルには見えた。 立てた自分の身長よりも高い棒に、猿の様に飛び乗った少年は、
更にその上、中空に身を躍らせたのだ。 副団長はまだ気づいていない!
■ツァリエル > 隣りにいた騎士がツァリエルに耳打ちした内容にツァリエルも頷く。
ティエンファの動きはこの国にはあまりない武術のもの、
立ち回りが素早く軽やかな身のこなしは見事だと素人のツァリエルにもわかる。
副団長から見ればもっと何かしらを感じ取れるだろうが……。
ティエンファと副団長が一進一退のどちらも譲らぬ戦いに身を投じている間
ツァリエルはどちらを応援すればいいのかわからなくなるほど手に汗を握って行く末を見守っていた。
だが、突然自分に呼びかけられた声で、ハッと気付けば
いつの間にかティエンファは宙に飛んでいたのだ。
目を見張るツァリエル、だが宙に飛んだ後一体どうするというのだろう。
中空からまさか副団長の頭上めがけて奇襲をかけるとでも言うのだろうか。
あまりの危険な戦いに、ツァリエルは思わず目をつぶっていたくなったが
かろうじてティエンファを気遣う心から目を瞑らずにいられた。
■ティエンファ > ツァリエルの予想は的中する。 飛び上がった反動のまま身を捻れば、大きく開いた脚を副団長の頭に振り下ろす!
しかしその寸前、若い騎士が思わず副団長の名を呼ぶ。 それで、気付かれてしまった。
放った蹴りは止まらない。 見上げた副団長と目が合えば、ヤベ、と小さく漏らした少年の呟きがツァリエルに聞こえた。
寸前で首を傾けた副団長は、渾身の蹴りを鉄の肩当で受け止める。
大柄な副団長がそれでも僅かに身を傾がせたのが衝撃の証だが、
少年の首を掴んだ副団長が、そのまま少年を投げ飛ばす。
受け身も取れずに地面を転がった少年は、またツァリエルの前で大の字。
「ま、負けた…! 参った!! …あー、くっそー! 行けたと思ったんだけどなー!」
くらくらする頭を押さえながらなんとか身を起こした少年。
それを見て、痛む首を押さえて鳴らしながら副団長が笑い、また来い、と声をかけて訓練に戻る。
残された少年は悔しそうに唇を尖らせながら、ツァリエルを見上げ、苦笑した。
「負けた! 格好いいトコ見せようと思ったんだけど、上手く行かんぜ
…んで、ツァリも訓練か? そんな感じには見えないけど」
■ツァリエル > 投げ飛ばされ、自分の目の前に投げ出されるティエンファに慌てて駆け寄った。
「ご無事ですか?ティエンファさん……」
寸前で副団長が首を傾げなければ、あるいは若い騎士の声が彼に届かなければ、
もしかしたらティエンファの必殺の蹴りが副団長に命中していたかもしれない。
そう思うと、勝っていたのはあるいはティエンファだったりするのではないだろうかという思いをそっと胸にしまう。
今は彼の手当が先だ。ティエンファを助け起こし打ち身や切り傷に効く回復の魔法を小さく唱え
ティエンファの傷の手当を初めた。暖かな光がティエンファの身体を癒やしてゆく。
「本当にはらはらどきどきしちゃいました……。
でも副団長さんもティエンファさんも大きな怪我がなくってよかった。
僕は、ええと、……訓練ではなくて見学です。それからこうして皆さんの傷の手当のお手伝いを」
実際司祭が騎士の看護に当たるのは見慣れた光景だ。ツァリエル自身もそうした手伝いを何度もしたことがある。
「ティエンファさんこそ、どうして騎士に混じって訓練を?」
■ティエンファ > 「んー、あちこち痛い!」
気遣うツァリエルに、しかし明るく笑って言った。 稽古じゃ良くある怪我さ、なんて嘯いて。
しかし、ツァリエルが祈りを口にした途端に生まれる光に包まれれば、じわりと湯に浸かるような気持ちの良さ。
感心したようにツァリエルを見れば、もう薄らいでいる腕の痣に気付いて声を漏らす。
「凄いな、回復の魔法が使えるのか! こりゃ良いな、もっと激しい稽古ができる!
…あはは、悪い悪い、あのオッサン強かったのと、ツァリエルが見てたから、つい熱が入っちゃってさ
でも、怪我をしたからこうやってツァリエルの凄い所を見れた、悪くないぜ」
頬の傷を拭う。 殆ど塞がって、血は止まっていた。
ツァリエルと気安く話す少年の様子をあまり良く思わない様子で眺めていた騎士だが、
ツァリエルが司祭として振舞うのを見れば、少年の無礼を咎める言葉は呑みこみ、訓練に戻る。
「俺? ああ、騎士団が追っかけてた犯罪者を俺が捕まえたんだよ
んで、ギルドじゃなくて騎士団に引き渡す代わりに、稽古に参加させてくれって頼んだんだ
鎧を着た相手、対人に長けた相手との手合わせの機会は、そうはないしな!」
そう言って拳を掌に打ち合わせる。 ツァリエルとそう年は離れていないはずの少年だが、
ツァリエルが手を翳したその肉体の隆起は逞しく、鍛え上げられていた。
そして、怪我の痛みが薄まれば立ち上がり、ツァリエルの肩を軽く叩いて、明るく笑った。
「でも、嬉しい誤算だぜ 王城に会いにくればって思ったけど、中々きっかけが掴めなかったからさ
また会えて嬉しい 元気そうで安心したぜ、ツァリ」
■ツァリエル > 「でも、魔法は万能ではありませんからどうぞ今日はゆっくりと休んでください。
これも一時的に身体の治癒能力を強化しているだけに過ぎませんから」
もっと激しい稽古をと、勇み足のティエンファをたしなめるように言い添える。
殆どの傷が癒やされたのを確認すると、ほっと息を吐いた。
この場にいる騎士たちに内心感謝をしながら、ティエンファと再び話せたことに微笑んだ。
「犯罪者を?そうだったのですか……ティエンファさんがご無事でよかった。
でもすごいです、お手柄でしたね。
それに騎士相手にあんなに立派に立ち振る舞える人を
僕はあまり見ませんでしたからすごかったです……!」
ティエンファの戦いぶりを評してきらきらと目を輝かせた。
たくましく鍛えられた身体が偽りのものでないということも先日の件で知っていたのだが、
こうして騎士と向かい合って稽古に励む姿を見て確信を深めたのだった。
立ち上がったティエンファを助け起こし、自分も立ち上がる。
叩かれた肩ににっこりと笑って
「僕こそ、またお会い出来て嬉しいです。
こうしてお話まで出来て本当に良かった。
ティエンファさんもお元気そうで何よりです。
せっかくですから、王城の中をご案内しましょうか?」
■ティエンファ > 「えー、でも、ツァリが居てくれりゃあ大丈夫だろー? …はぁい、分かった、大人しく休むよ、訓練は終了!」
帰る時間になった子供の様な顔で言い返すが、ツァリエルの微笑みにほだされるように、大人しく頷いた。
若い騎士が少年の棒を持ってくれば、礼を言ってそれを受け取る。 訓練する騎士達にまた来る!と声を投げた。
「立ち回れるだけじゃなくって、勝って見せたかったけどなあ…まだまだ修行が足りねえや
…ん、そ、そうか? そっか、凄かったか!」
悔しそうにしつつも、真っ直ぐに褒められ、目を輝かされれば悪い気はしない。
恥ずかしそうに笑って、照れ臭さを誤魔化す様に、ツァリエルの頭をくしゃくしゃと撫で、礼を言った。
そして、ツァリエルの申し出に今度はこっちが目を輝かせる。
「マジでか! 案内してくれんの?! 俺まだ王城の中には入った事ないんだよ、中庭まででさ!
その申し出、有り難く受けるぜ! むしろ、是非案内してくれ!」
言いながら急いで上着を羽織れば、ツァリエルについて王城に向かう。
■ツァリエル > よろしい、と少しだけ大人ぶった物言いでティエンファに語りかける。
あんなにぼろぼろになったのにまだ訓練をしたいといい出す少年のタフネスに驚いてはいるが、それよりも今は休むことが第一だろう。
休息もまた修行なりとはよく言うものだ。
くしゃくしゃと髪をかき乱されるとわ、と照れたように身を縮ませる。
こうして頭を撫でられるなどだいぶ久しぶりの感覚であった。
目を輝かせたティエンファにどっちが歳上なのやらわからなくなってくるほど
子供のような無邪気さを感じてくすりと笑った。
「ええ、お客様が入れる場所には限りがあるのですが、それでよければ。
中庭はご覧になったのですね。
では客間と……大広間、それから裏庭なんかもご案内しましょう」
ティエンファを先導するつもりで、先に歩きながらいくつかの廊下を通り抜ける。
兵舎を通り過ぎ、緋色の絨毯が敷かれた廊下を抜け、まずは案内したのは客間だった。
中は客人がくつろぐときの待合室のようになっており、
豪奢なソファにテーブル、飾り皿などが手入れも行き届いて鎮座している。
窓はガラスもピカピカに磨かれ、気持ちのよい日差しが差し込んでいる。
「いかがですか?ここが客間です。
貴族の方がお城に上がられたときはここで休息をとったりするんですよ」
■ティエンファ > 年下に大人ぶられても、自分が悪いと思えば素直に頷く。
ツァリエルが心から自分の身を案じてくれていると言う事も分かったからだ。
そして、照れ隠しに司祭の頭を撫でる冒険者の様子を見て、流石に近くに居た騎士が慌てたが、
さっき少年と手合わせした副団長が笑いながらその騎士を止める。
「十分さ、王様の居る白にはいれるってだけでも中々ない話だしな!
うん、中庭はー…うん、入った 前にちょっと、王族のなんとかっていうチンピラみたいなやつに絡まれて引っ立てられたんだ」
うろ覚えの名前を伝えれば、ツァリエルも知ってる平民上がりの小者王子だった。
一月ほど前に平民をなぶろうとして逃げられて恥をかいたとか、そんな話があったかもしれない。
王族の中でも良い評判の無い末席の末席に居る王子なので、笑い話として噂されていた。
そんな話をしながら城に入れば、少年がまず驚いたのはふわふわの赤絨毯の感触だ。
足首まで埋まるんじゃないか、なんて呟くほどに上等なそれをふわふわと歩きながら、並ぶ調度品に感嘆の声。
そして、古い分厚い気の扉を開けて客間に入れば、ふぁー、とか間の抜けた声をあげて見回す。
「なんていうか、凄いな …この部屋だけで普通の家の敷地位あるんじゃないか?
休憩室にしちゃあ、なんというか、贅沢と言うか…いやまあ、これが普通だから王侯貴族なんだろうけど」
綺麗に磨かれたガラスから外を見たり、飾り皿を見上げたり。
物珍しさや好奇心を隠そうともしないその姿は、ツァリエルよりも子供の様だった。