2015/10/11 のログ
ご案内:「王都マグメール 王城のサロン」にテオドラさんが現れました。
■テオドラ > (広大な王城の奥のあたりにある、通称「王妃の居間」──先々代の王妃が造らせた、比較的こじんまりした館に、三々五々と王族の女達が7,8名集まっている。このあたりは本来は王のプライベートなエリアだが、王不在の現在は、王位を狙う王家の女性がいろんな理由をつけて出入りしたり、茶会を催したりしている。今日は、次王の有力な候補とみなされている王家の妃が、たまには皆で集まろうと曖昧なことを言い出して、王城にいたそれぞれの王家の妃が集められたもので)………そうでございますの。……(別の王家に嫁いだ姉と一緒に誘われた女は、すっきりとした、簡素な昼のドレスを着て、ひたすら聞き役に回っている。話題はひたすら、王族の女達のゴシップ。誰それがどこそこに嫁ぐことになりそうだ、誰それが宮廷詩人と浮気をしているようだ、という話は、神殿騎士となるはずが見初められて嫁いだ女の興味を惹くものではないが、こうした会に誘われて断れば、会を言い出した妃の夫の擁立に反対しているとみなされる。ひたすら笑みを浮かべて相槌を打つが、そろそろ笑みがこわばってきているらしく──ソファの下で、姉に軽く足を蹴られ)
■テオドラ > (思わず姉の方を軽く睨むが、姉は知らん顔をしてよそに視線をやっている。仲の良い姉のこと、どうにも無骨で宮廷の社交が苦手な自分を心配しているのだろうから、怒るつもりはないが──次から次へと披露されるゴシップに飽々してきたところに、一段と声を低めて、妃の一人がとっておきらしい噂話を始める。大貴族の娘で、老いた富裕な王族の後添いに乞われて嫁いだ女が、よりによって馬丁と情を交わしているところを踏み込まれ、奴隷に落とされて、今ではその家の奴隷達に夜ごと「奉仕」させられていると。
その話が出た瞬間、30なかばくらいの黒髪の美しい妃の顔色が紅くなり、ぎこちない空気が流れる。噂話をした妃が知らないはずはないが、黒髪の妃はもとはといえば貴族の奴隷で似たような立場だったが、たまたま貴族の主人の手がつき、囲われて思い者になり、夜会で王族に見初められて召し上げられる形で奪われ、さらにその王族の兄が相次いで亡くなって、妃という立場になったもの──
沈黙の中、忘れたい過去を示唆するような話をわざわざされた黒髪の妃が、知っていて挑発した妃を睨み、挑発した妃が睨み返す。緊迫した中、誰かが扇をぱちりと閉じた音がやけに大きく響き)
■テオドラ > (女の夫は王位に野心がない。誰かに決まるならば勝ち馬に乗るタイミングはのがしてはならないが──ある意味宮廷のいざこざを他人事として眺めていられる女は、年若い者もあり、40近い者もいる妃たちをなかば呆れたように眺める。
自分や姉のように、血筋は正しいが実家の勢力は弱い王族の女、この会を言い出した妃のように、王家としては新興だが実家の勢力が強く、嫁いだ先も有力な王家で、王妃となる可能性もある女──だが、妃の中にはかつて奴隷もいれば、踊り子だった者もいる。それが一同に会して立ち振舞は同じく上品ぶって、茶を飲み、高価な菓子を摘んでは品のない噂話に花を咲かせる──
「そんなにその馬丁は、良い男だったのかしらね」
長い沈黙のあと、会を主催した妃が笑みを含んだ声で呟く。
この妃はこの妃で、夫の女遊びが凄まじく、即位に向けて協力しあってはいるものの、夫婦仲が完全に壊れていることは王族であれば皆知っているだけに、洒落にならない言葉ではあったが──とりあえず、緊張はほぐれ)
■テオドラ > (陽気な性質で、自分よりはるかに社交に向いている姉が、それをきっかけにあまり罪のない恋の噂話に水を向ける。王族だけでなく、それに仕える貴族や騎士の中で美しい男たちの品定め。詩人が語る恋の物語でなにが好きだったか。
思い出話を交えてひとしきり喋ったところで、会を主催した妃が「良いお天気ね、庭に出てみましょうか」と言い出す。
ぞろぞろと外へ出ると確かに秋晴れの気持ちの良い天気で、中庭の小さな噴水のまわりには、秋桜が咲き乱れかかっている。侍女を伴に、動物のかたちに刈り込んだトピアリーや、花壇のまわりを巡っていたところ──
──天誅………!
(不穏なことを叫びながら、下士の服を着た男が二人、不意に生け垣の角から踊り出てくる。その手には鞘を払った剣が鋭く光り)
■テオドラ > (短い悲鳴を上げ、妃たちが逆方向に逃げ惑うが、迷路のように組まれた生け垣の中。三重四重に警護された王城の後宮にあたる部分故、警護の騎士は遠い。
なにか身を守る物を、と走らせた視線に留まった生け垣の添え木、長い木の棒を女は反射的に引き抜く。
右に大きく払い、そのまま右脇に引き付けると、身を低くしながら殺到してきた右側の男のみぞおちのあたりに鋭い刺突を一つ。
手応えで倒したことを知ると、その隙に左を駆け抜けていった男が、妃の一人の腕を捉え、剣を振りかざしている。
……ッ……!
男の首を横からなぎ払うが、男が剣を振り下ろし、鮮血が飛び散るのには間に合わない。
振り返った男が反転してこちらに剣を構えるのに、棒を両手で握って構えたまま、後ずさりして距離を取る。
棒は長剣よりも長いが、所詮は棒。先に倒した男よりも手練と見える男なら、棒を切り払って斬りかかってくる可能性は高い。
浅黒い、眼ばかり光っている男の眼を睨めつけながら、ゆるく、気息を測るように棒の先端を上下させ、じり、じり、と下がり)
■テオドラ > (テオドラ、と無事逃げたらしい姉が自分の名を呼ぶ声が聞こえるが、応える余裕などない。
男が自分を睨めつけながら、剣を上げ、間合いを詰めてくる。それに合わせて下がったところで、踵が後ろの敷石にこつりと当たり……
足元をとられるかもしれなくてもまだ下がるか、それとも反転するか──)
……来やれ。
(なかば反射的に低い声で呟き、棒を手のひらの中でしゅる、と動かして短めに握り直す。
先に自分は、この棒を長剣のように使って突いて一人を倒した。ならば次は棒を棒として──棒術の動きに変えれば、相手が戸惑い、勝機を掴めるかもしれない。
侮られた、と思ったか、男が顔を赤く染めて剣をかざすのにあわせて間合いを詰める。
交錯した瞬間、横から棒を叩き斬るのに構わず、先端を切り飛ばされた棒を下から回転させて男の股間を撃ち)
■テオドラ > (身体を丸めて悶絶する男の首筋に手刀を打って振り返ったところで、警護の騎士が駆けつけてくる。)
……剣に触らないで。毒を塗っているでしょうから……
(短く注意をして、斬られた妃の様子を見ると、やはり顔は青黒く変色し、傷は小さくはないものの、即死するようなものではないのにもう事切れている。もう一人、突きで斃した男がうめき声を上げてもがいているのを、これも、と騎士に指さし、涙でぐちゃぐちゃになった顔で駆け寄ってきた姉と抱き合って慰める)
…………疲れたわ。しばらく、海辺の離宮にでも引きこもっていてもいいかしら…?
(まさかこんな危ないことが起きるとは思わなかった、貴女を呼ぶべきではなかった、と言い募る、自分より背の低い姉の頭をぽんぽんと撫でて笑いながら宥め、顔を上げた視線の先には、生き残った妃たちが、互いに寄り添い、さっきまで共に恋話に興じていた遺体を青い顔で恐ろしげに見下ろしているのが見える。
誰かの手引がなければここまで賊は入って来れなかったはず。手引したのは王城に仕える者たちなのか、それとも妃の誰かが関与していることなのか──眼を細めて妃達の表情を観察するが、事が終わった後に見てわかるような話ではなく)
■テオドラ > (妃達が寄ってきて、口々に暗殺された妃は残念だった、女がいてくれて良かったと言うのを、うんうんと頷いて相槌を打つべきところは打ち、謙遜すべきところは謙遜する。
暗殺された妃は、一時期次王の有力候補とも目されていた王族の妻だが、美しく多情な性格で、どこで恨まれているかわからないような人物だった。天誅、と暗殺者が叫んでいたのだから、なにかのきっかけで妃としてふさわしくないと逆上した家中の者が襲ったのかもしれないが──それなら、邸宅なり、領地の城でならいくらでも暗殺する機会はあったはず。
そして暗殺者はこれだけ妃や侍女がいる中で確実に目標を仕留め、仕留めた後も剣は捨てなかった。
自分がいなければ、他にも殺したい者があったのか、なぜここで、暗殺されたのか──「茶会」を開いた妃、殺された妃と因縁がなくもなかった妃たちに順々に視線をやり、自分にしがみつくように震えている姉をもう一度宥めたあたりで、各家の騎士団や侍女達が慌てて妃を迎えに来る。)
姉様、今日は一緒に帰りましょう……
(目端の効く姉ならば、誰が一番最初に逃げたか、必ず見ているはず。社交に疎い自分が知らない話も知っているだろう。
姉妹二人、馬車の中で情報を交換すると、それぞれの邸宅へと戻り──)
ご案内:「王都マグメール 王城のサロン」からテオドラさんが去りました。