2022/11/20 のログ
ご案内:「王都マグメール 王城【イベント開催中】」にセレーニャさんが現れました。
セレーニャ > 王城は非常に広い。過去何度も増築が重ねられてきたことから不慣れであるほど迷いやすい。
それでもつぎはぎで外観が崩れないのは流石と言うべきか。
セレーニャは下級の清掃メイド。清掃メイドの数は非常に多く、兎に角忙しい。
セレーニャのような弱小男爵家の三女やら、平民の中でも裕福な育ちであるとか、
あるいはとある貴族の愛人の子、奴隷に産ませた子、侍女やメイドに手を出して産ませた子。
王族に買われた奴隷のほうが割合としては多いのかもしれないが、セレーニャは詳しいことはわからない。
昔は姫や王女という立場であった娘が、今は奴隷として働かされていることとて少なくはないのだ。

兎に角、広い王城は毎日毎日長い時間掃除をしても終わらない時すらある。
正午の鐘が鳴り、午前中には一緒に働いていた子が、午後に姿が見えなくなる──なんてことも普通にある。
そう言った王城の抱える闇も、セレーニャは幾度も見てきた。
夜は娼婦として金で体を売っている為、昼間のセレーニャは断固として隙を見せまいと常にきびきびと動き、
決して一人にならないよう努め、大勢いる清掃メイドの中に埋没するようにしていた。

今日もそう。
普段は使われていない客間の清掃に複数人で励んでいる。
もうすぐ正午の鐘が鳴る。
セレーニャ達も休憩の時間だが、同時に王城に勤める者たちもだ。
彼らに見つからないよう、手早く済ませて、目の届かないところへ避難する。
それが下級メイドたちの結束であった。

ご案内:「王都マグメール 王城【イベント開催中】」にメレクさんが現れました。
メレク > その日、王城では盛大な舞踏会が行なわれる予定で普段以上に大勢の貴族が賓客として招かれる事になっていた。
その為、通常利用している客間のみでは足りず、普段遣いされていない部屋までも、急遽、清掃の命令が下った次第。
そして、得てして、そのようなイレギュラーが発生する時にこそ、ヒューマンエラーは引き起こされる。
魔族の国と境界線を持つ辺境の貴族が、遠方からのために通常よりも早めの時間に到着する。
そんな連絡事項が、慌ただしい準備で忙しい王城内での官吏や執事、メイド長などの伝達ゲームの中で抜け落ちてしまっても致し方ない話。

「……、おや。これは一体、どういう事でしょうかね?」

王城内の老齢の執事に案内されて、中年貴族が通された客間の扉を開けば、其処には未だ清掃作業に勤しむ下級メイドの姿があった。
本来であれば、清掃が済んでいない事も、彼女達が貴族の前に顔を見せる事も許されざるべき大失態。
その為、目を見開いた執事のロマンスグレーの髪が、一瞬で白髪へと変わり果て、その顔色が血の気を引いて青くなる。
部屋に足を踏み入れた肥満気味の貴族の男は執事の様子を愉快そうに嗤って見せて。

「ふひっ、成る程、成る程。
 舞踏会までの時間、暇を持て余さないようにとの配慮ですかなぁ。
 誰の指示かは知りませんが、中々に活きな計らいをして下さる」

無論、そのような筈はないのだろうが、首の皮一枚が繋がった執事はこくこくと無言で首を縦に振り、
当の貴族本人は愉快そうな面持ちの侭、緊張して委縮するメイド達の姿を一人一人、検分していく。

セレーニャ > 午前の清掃も終了に近く、セレーニャ達は息を合わせてラストスパートに取り掛かっていた。
これさえ終わらせれば昼休憩。片付けを済ませればあとは部屋を出るだけという状態で、
突如開いた扉に誰もが視線を向けただろう。
そこにいたのは明らかに上質な衣装を身に着けた貴族と思しき男性。
どちらかと言えば悪い意味で人目を引くだろう体型に、容姿。
表情を蒼褪めさせている王宮執事の男を見れば、向こうも想定外の事態だったのだろう。
セレーニャ達は即座に手を止めて、壁際へと並び、メイドらしく頭を下げて顔を伏せた。
彼ら二人が話している内容は暈されているものの、理解が及ばないわけではない。
連絡ミスという失態を誤魔化すために執事がメイドたちを売った。
清掃メイドの地位は低く、家柄も身分も、逆立ちしたとて案内役の執事に届かないのだ。

「…………」

一人一人検分していく貴族の男に誰もが萎縮している中、
セレーニャもこっちには来るな、と言うことだけをひたすら願った。
自分以外にも、顔立ちの良い者や肉付きの良い者はいる。幼さの残る者も。
セレーニャ含め、誰もが選ばれたくないと、不敬ながらに貴族の男の容姿を見て思っているだろう。
顔を上げろと命じて、一人一人見ていくならば、たいていの者は怯えたり目を逸らそうとしたり、
泣きそうな顔で蒼褪めていたりする。
その中でセレーニャだけは、ただただ、嫌だという拒絶、その気の強さを感じさせる目の色をしていたか。

メレク > 王族や諸侯貴族などの貴人が足を運ぶ事になる王城内。
下働きのメイドにしても、彼等の手慰みにお手付きになる可能性はあり、
最低限以上の見目の良さも採用条件の中に含まれているらしい。
窓際に商品のように並べられたメイド達に奴隷商も営む、その貴族は、
一人一人、値踏みする視線を貌から身体付きにまで這わせていく。

「くくっ、これは中々に愉しめそうですなぁ。もっとよく顔を見せて御覧なさい」

一通りの値踏みが終わり、舞踏会までの暇潰しの目星を付けた所で顔を上げさせる。
これが眉目秀麗な貴公子であるならば、メイド達の瞳の輝きも変わっていただろうが、
生憎と彼の容姿は大半の初対面の相手に生理的嫌悪を与える醜貌にだらしない肥満体。
メイド達は目を背け、蒼褪めて、皆が皆、自身が選ばれない事を神に祈る表情を覗かせる。

「成る程、それでは、この娘に、……ん? ――――其処の蒼い瞳の貴女、名前は?」

メイド達の中で一番男好きのする身体付きで、そこそこの美人を選び掛けた所、
ただ独り、拒絶や嫌悪を前面に押し出した、気の強さを感じさせる女に目を付けると、興味本意で名前を尋ね。

セレーニャ > 別のメイドが選ばれ、絶望する彼女には申し訳ないけれどセレーニャは安堵しかけた。
そこに突如向けられた視線と、蒼い瞳、と問われればぎくりと体が強張る。
翠、黄色、ヘーゼル、様々な目の色をしているメイドたちの中で、はっきりとした蒼の色素を持つのはセレーニャのみ。
ゆっくりと視線を上げれば、貴族と視線も合うだろうか。
スカイブルーの双眸がまっすぐに、しかし嫌悪感を持って醜悪な姿を見据えている。
表情の機微に敏ければ、セレーニャがその嫌悪感を表情には出さないよう懸命に努めているのも伺えるかもしれない。

「……セレーニャ・フォールニアと申します」

貴族に名を問われれば、貴族として家名まで含めて答えねば無礼に当たる為、
名乗りたくはなかったが静かにフルネームを口にした。
弱小の、悪徳貴族にスケープゴートとして囲われた貧乏男爵家の名だ。
金で爵位が買える昨今、新興貴族の中では珍しくもないそれを彼が知っているかはさておき、
興味を失って欲しくてセレーニャは無礼にならない程度に、名乗ってすぐ目線を床に落としている。

メレク > 「セレーニャ・フォールニア……? あぁ、あの……」

懸命に感情を隠そうと表情を硬くする女が告げる名前に双眸を瞬かせる。
貴族社会に浸透して百官全てを網羅するとまではいかないものの、
新興貴族の家名にも精通している身であれば聞き憶えのある家名に記憶を辿る。

思い至ったのは、かつて、王家に滅びた国の財宝を献上した冒険家上がりの男爵。
彼女にすれば先祖にあたるであろう人物、本人の顔を思い出せば合点したように肯き。

「……成る程、血脈の成せるものですかねぇ。
 いいでしょう、セレーニャ。寝室は隣りですかな、……案内しなさい。
 後の者は支度を終えたならば、其の侭、下がらせなさい」

メイド達を売る事で保身を買った老執事に命じると、
金髪の女を伴って客間の奥に用意された寝室へと足を踏み入れていき――――。

セレーニャ > どうにも聞き覚えがあるらしい反応に、セレーニャの表情が強張った。
貴族の男が昔の事を思い出しているのか、今のフォールア家を知っているのかはセレーニャには判断できない。
しかしただわかるのは、選ばれかけたメイドではなく、セレーニャが選ばれたということ。
明らかに安堵したメイドたちも「あの子はほら、耐性あるでしょ」と無責任なことを言うのだろう。

「……かしこまりました。ご案内致します」

眉間に皺を寄せながらも、セレーニャに逆らうことは許されない。
頭を下げて唯々諾々と、セレーニャは隣の寝室へと男を案内する。
二人が移動を始めれば、誰もが目を背け、清掃具を持ち扉を閉めて、二人だけを残して客間を後にした──。

ご案内:「王都マグメール 王城【イベント開催中】」からメレクさんが去りました。
セレーニャ > 【移動します】
ご案内:「王都マグメール 王城【イベント開催中】」からセレーニャさんが去りました。