2022/06/05 のログ
ご案内:「王都マグメール 王城 庭」にイファさんが現れました。
イファ > 夜になって吹く風は急に温度を落とした。
春から初夏へと移ったとはいえ、未だ昼間の名残を一掃するような風が吹くことがある。
今宵はそんな日のひとつであるようで、湿り気を帯びたまま吹く風からは肌に雨の予感さえ感じるが、天を見上げれば月は煌々と輝いたまま。

「――――…」

王城の敷地内に幾つもある庭園のひとつで、天を見上げた女は開きかけた唇をそのまま閉じた。
やや潤むように見える月をみて、詩の一つでも思い浮かぶような洒脱さでもあればよかった、と益体もないことを考えて、再び視線を地上に降ろして零れたのは溜息だ。

(……教養、か)

如何にかしたら、己でも身につくものなのだろうか。
そんな暇つぶしの思考をしながら、再び歩みを再開する。

王城には忍び込んだのではない。歴とした『依頼』で、アスピダの騒動による人員不足のための王城の警護要員だ。
依頼を受けるにあたって騒動に関連する人物ではないかは厳しく詮議されたが、女がそもそも人々と敵対している筈の『魔族』であるかどうかについては、考慮の埒外のようだった。
女も別に嘘はついていない。ただ尋ねられなかったので答えなかっただけだ。

だもので、特に憚る事もなく
女は庭園を進む歩みを再開する。
特に騒動はないだろう。こういった人員は、得てして『見せる』ためのものだから。
それでも癖のように周囲の気配を探り、月光の中風に揺れる草花の間を音も立てずに人影が行く。

イファ > 戦場にあるときいつも纏っていた甲冑を身に着けないのは妙な心持ちだったが、漸くそれも慣れた。
警備は見せるものでもあるが、忍ぶ相手には気付かれない必要もある。
極力音は立てない装備を、と言われてもこの仕事を請け負った傭兵はいかほどいたのだろう。

夜が更けても灯りが消えない王城の窓からは、薄く音楽が零れて来る。
ああ、やはり何か教養でも身につけようかなどと思いながら
深夜の散歩めいた警備は、予定の刻限まできっちりと行われただろう。

ご案内:「王都マグメール 王城 庭」からイファさんが去りました。