2021/02/10 のログ
ご案内:「王都マグメール 王城【イベント開催中】」にルルゥさんが現れました。
ルルゥ > こどもは早く寝るものだと、いつもならベッドに押し込まれている時間。
ドレス姿の少女は一人、供も連れずに廊下を小走りに進んでいた。

いつもの侍女がたまたま休みだったから、今日の侍女はデートの時間を気にかけて、
少女が良い子の笑顔で『おやすみなさい』を言ったら、安心して出て行ってしまったから。
少女は念願の夜の探索、オトナの時間を覗き見るため、夜会が行われている筈の広間を目指す。
―――両親が少女を夜会に出したがらない、本当の理由を本人だけが知らない。
ほのかに漂う甘い香りは、無意識に、危険を招き寄せているとも知らず―――、

「おとうさまも、おかあさまも、いつも、いっつもルルゥばっかり
 仲間外れにして、ずるいですの。
 ルルゥだって、もう立派なレディなのに…」

立派なレディは、言いつけに背いて出歩いたりしないだろう。
しかし、生憎この少女にとっては、オトナの世界の道理より、自分のワガママ、なのだった。

ご案内:「王都マグメール 王城【イベント開催中】」にトーラスさんが現れました。
トーラス > 王城の広間にて行なわれる仮面舞踏会。
普段よりも照明を落とした薄暗いホールには艶やかな音楽が鳴り響き、
華やかなドレスで着飾った男女がダンスや会話に興じている。
彼等は皆、一様に仮面を被り、己の素性が何者であるのかを分からなくしている。

表向きには社交の場である夜会。
しかし、その実は有閑貴族達が享楽に耽る遊戯会である。
その証拠に照明の光りが届かぬ会場の隅からは男女の熱い吐息や嬌声が、
音楽の途切れる合間合間に聞こえてくる事だろう。

その会場の端、入口付近にて燕尾服に身を包み、目許を仮面で隠した男が一人。
とある馴染みの貴族の護衛の仕事を受けて、此の場に足を運んだものの、
流石に王城で問題を起こすような不埒者も居らず、当の依頼主は夫人以外の女と暗がりに時化込み、
手持無沙汰に腕を組みながら、遠巻きに悪趣味極まりない背徳の宴を眺める中年の姿があった。

ルルゥ > 以前、兄さまや姉さまから聞いた限りでは、夜会の席はとにかく賑やかで、
綺羅綺羅しい装いの姫君と貴公子、優雅な舞踏、様々なご馳走、
それらすべてを照らす明かりも、色とりどりで美しく―――と、いう話だったが。

「……なんだか、思ったよりも暗いですのね」

どうやら広間に行き着いたようだ、楽団の奏でる舞踏曲が、少女の耳にも聞こえてくる。
けれども、目当ての広間から洩れる明かりは何故か、想像したよりずっと暗くて、
ほんの少し、がっかりと肩を落としつつ。

「でも、…んん、せっかくここまで来たんですもの。
 ちょっとだけ、覗いてみますの」

次にいつ、こんな機会に恵まれるかわからない。
よし、と小さな両手を握り締め、少女は何も知らないままに、
広間の明かりが届く辺りへ、ちょこちょこ足を踏み入れようとしていた。
仮面をつける決まりも知らず、大きな瞳は好奇心も露わに、きょろりと周囲を眺め回す。

トーラス > 恐らく、少女が耳にして、期待に胸を膨らませたデビュタントとは、
参加者も、雰囲気も、似ても似つかぬ代物であっただろう。
人々の声は好色と悪意を含む故に隣り合う人同士で聞こえる程度に潜められ、
肌の露出も高い毒々しさすら感じる装いの女と好色な貴族、淫靡な舞踏に酔う為の酒。
それら全てを照らす明かりは薄暗く、ムーディーな雰囲気を醸し出す。

「んっ……?」

饗宴の輪に加わらず、遠目に眺めていた男は、不意に鼻孔を擽る匂いに鼻を鳴らす。
仄かに漂う甘い香りに、一瞬、眉根を顰め、次の瞬間、心臓が早鐘を打つように脈動した。
強い酒精を浴びたような眩暈と丹田に籠る熱を感じながら、彼の視線は会場を彷徨い、
入口から広間に足を踏み入れようとする少女の姿を見付ければ、誘われるように絨毯を踏み締めながら近付き。

「くっ、はぁ、……、レディ。
 宜しければ、俺とお相手頂けませんか?」

此の場にそぐわない、仮面すら付けていない年端もいかぬ幼き少女。
彼女が此処にいる不自然さも、何故自分が彼女に引き寄せられたのかも、
熱にうなされるような思考では考えも及ばず、腰を曲げて頭を垂れると片手を差し出して。

ルルゥ > 覗き込んだ広間はとにかく、ひどく暗かった。
音楽だけは少女の気に入る艶を纏っていたけれど、貴公子たちも貴婦人たちも、
想像していたよりもずっと―――何と言うか、品のない格好に見えて。
ダンスを楽しんでいるというには、少しばかり、互いの距離が近すぎるようにも思える。
物知らずの少女は、戸惑い顔で首を傾げた。

「………ここ、で、間違いないはず……?」

もしかして、もしかしなくても場違いか。
少女の頭が退却を決断するより早く、近づいて来る影がひとつ。
はるか頭上から響く声に、華奢な肩がピクリと震え、

「―――――レディ、って、ルルゥにおっしゃってるの?」

仰ぎ見た相手の風体は―――そう、決して悪くはない。
きちんとした格好をしているし、少し年上すぎるように見えるけれども、
何と言っても、自分をレディと呼んでくれたのだ。
きょとりと瞬き、胸元に片手を当てて自分を示し、確認めいた問いを投げ掛けつつも、
もう一方の手は、ほぼ反射的に、差し伸べられた男性の手に重なろうとしていた。
小さな掌、細い指、そして近づき、触れたぶんだけ、色濃く立ちのぼる芳香。
向けた笑顔が屈託のない、子供らしいものであっても―――その香りだけは、
立派に、雄を誘う雌、そのものであったろう。

トーラス > その見た目も、自分の事を恐らく名前か愛称で呼ぶ一人称も、
彼女がまだ大人になり切れない子供である事を明確に示している。
中年の域に達した男とは下手をすれば親子程に歳の差があるのではとも思われる。
正面にて並び立てば、見下ろし見上げる角度に互いに首が痛むのではないかという体格差。

にも関わらず、差し出した手に彼女自身も手を差し伸べ、
その瞬間に立ち上がる芳香に、下半身に血が通い、確かに男は欲情を覚えていた。

「ルルゥ、可愛らしい名前だな。
 俺の名前はトーラスだ。以後、お見知りおきを、ルルゥ」

武骨で節くれ立つ己の手で、細く小さな彼女の手を掴むと、
彼は彼女の手を引いて、広間の中央へと歩き始める。
賓客達は此の場に似付かわしくない突然の闖入者の存在に、
興じていた会話を切り上げれば、何事かと彼と彼女に視線を注目させる。
衆目を浴びながら、広間の中央にまで至れば、彼は彼女の身体を抱き寄せ、
腕の中で反転させると背後から肩を掴み、ゆっくりと四方八方に見せ付けるように一回転する。
狂った宴にて賓客達に持て成される、憐れな贄を見せ付けるかのように――――。

ルルゥ > 触れた掌は温かく、握り込まれれば容易く折れてしまいそうで、
相手を見上げる瞳も、小首を傾げる仕草も、何もかもが幼い。
けれども近づけば近づくほどに、相手が健康な男性であればあるほど、
少女の纏う香りはいっそう暴力的に、相手の男性を、そして、
周囲の貴公子たちをも刺激するだろう。
あるいは、彼らのために立ち働く使用人たちさえも。

「トーラス、さま……?
 ありがとう、ルルゥ、トーラスさまのお声、好きよ」

理由は単純、自分を褒めてくれたからだ。
そうして少女は、軽くドレスを摘まんで膝を折り、男に手を引かれて更に進む。
仮面をつけない少女の姿は、それだけで人目を引くものであるし、
広間の中央へ進み出て、周囲を見渡し、ニコリと笑顔を見せる頃には、
その少女の正体に気づくものが、一人二人はいるかも知れない。

けれど、少女に救いの手を差し伸べるものは―――残念ながら、一人も居なかった。
ふわりとドレスの裾を翻し、はにかむように微笑む少女の運命は、
その肩を捉えた男の手の中に委ねられ―――。

ご案内:「王都マグメール 王城【イベント開催中】」からトーラスさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 王城【イベント開催中】」からルルゥさんが去りました。