2021/01/26 のログ
ご案内:「王都マグメール 王城 図書室」にエリアさんが現れました。
エリア > 響く音と言えば、窓から微かに入る小鳥の囀り、中庭で談笑する遠い人々のさざめき、訓練中らしい騎士の威勢。ぴったりと閉じられた窓から響く音は極仄かなもので、蔵書で覆われた壁の中では気にならない程度だ。

寧ろ、僅かに入り込む外の音が一層室内の静けさを増長させている様にすら、思えた。

ゆったりと足音にさえ気を遣って居並ぶ書架を巡り、やがて目当ての一角で足を止め。貸出不可である貴重な書の一冊を抜き出した。
パラパラと捲っては、途中で行きつく栞と思われる紙片が挟まれた頁で大きく開き、その紙片を改めて小さく微笑んだ。
それは、栞に書かれた短い文となっていた。ほんの3行程の内容に目を落とすと、

「一体どの様な方が認められておられるのでしょう……」

小さく漏らされた呟き。誰とも知らない相手と城の図書室に収められた蔵書を使用してのやりとりは、数回に及んでいた。

エリア > この古い蔵書の内容は難解で、しかも分厚く、おまけに貸出禁止である故に、読破する為には何度か足を運んで少しずつ読み進めていく必要があった。
その日読み進んだ箇所に栞を挟み、次回にまたそこから読み進むのだが、ある日同じ様に別頁に挟んである、己の物とは違う栞に気づく。
それは、やはり一日では読み切れず、時折通って読んでいるらしく、少しずつ位置が変わっていた。
自分と同じタイミングで、同じ様にして同じ書を読んでいる者が居るのだ、と判った時に何となく仲間を見つけた様で嬉しくなり、見知らぬ読書仲間が栞を挟んだ頁にメッセージを書き残して見た。

(あなたと同じく、この書を紐解いている者です。難解な内容で理解するのに時間がかかり、まだ暫く通わなくてはなりません。あなたはいかがですか?)

そんな風に他愛もなく栞を使って語り掛けてみたのだ。返事があるかどうかは……余り期待していなかったが。

しかし、後日また、同じ書を開いて前回栞を挟んだ頁を捲って見ると、やはり無地の栞に返信が書かれ、代わりに己の認めた短い文は回収されていた。

それ以来、ここで同じ書を開き読む事と、栞に便りを書くのが、秘密の習慣になったのだ。

誰が書いたのかは、判らない栞の文の主。ここに通っていればもしかすると、お会いできるかも知れない。仄かな期待を抱きながら、今日もその書を抱え、一人、閲覧机へと向かった。

「どの様な方か、お伺いするのは失礼でしょうか……。知らぬままの方が、良いのでしょうか……」

悩まし気な思索は無意識に声となって零れていた。

エリア > ――そして、今日も短い文を栞に綴り、書を読み進めてゆき。陽が傾いた頃に静かに閉じ。

「まだ、半分も読めていませんわ……」

読書は進んだかと問いかける侍女と屋敷への帰路に着きながら、少し嬉しそうにそう語る声に侍女は少し不可解な顔をしていた。

ご案内:「王都マグメール 王城 図書室」からエリアさんが去りました。