2020/10/06 のログ
ご案内:「王都マグメール 王城【イベント開催中】」にリズさんが現れました。
リズ > それは本当に、いくつもの偶然が重なった結果だった。

その朝、たまたまほんの少しだけ早く目が覚めてしまったこと。
ベッドから飛び降り、声をかけてみたけれど誰かが来てくれる気配もなく、
仕方なく自分で身支度を、と思ったけれども、やっぱりうまくいかなくて。
お団子頭は少し首を傾けるだけで崩れかけ、お気に入りのひらひらした裾のネグリジェと、
ちいさな足を包むのは室内履き、なんてかっこうで、そっと与えられた部屋の扉を開いてみたら。
ちょうど、前日紹介されたばかりの王国民の侍女が、数人の男たちに囲まれ、
どこかへ引きずられていくところを見たのだ。

「あれ、……え、お耳………?」

ヘッドドレスが落ちて、アップにしていた髪がほどけたあと、
彼女の頭にはにゃんこのような尖り耳があり。
どうやらミレーの血を引いていることを隠していたらしい、彼女を捕えた男たちが、
ちょうどいいから地下送りだ、とかなんとか言っているのは耳に届いた。
けれども残念ながら、早口すぎて何を言っているのか分からなかったし、
彼女のほうはすぐに、お腹をぶたれて気を失ってしまった。

周りに誰も居ないわけではなかったけれど、誰も彼もがあまりに平然としていて、
異分子であり、物知らずの子供である身には、ことの重大性も、禍々しさも理解できない。
ただ、見知った人物が連れて行かれる先に、純粋な好奇心を誘われて―――――

何故だか誰にも見とがめられず、ここまでたどり着いてしまった。
地下とは思えないぐらい高い天井、広々とした空間に、ところ狭しと置かれた魔導機械群。
そしてそれらに繋がれた、彼女と同じ耳や尻尾をもつ人々。
彼ら、彼女らは一様に、泣いて、叫んで、自由のきかない身体を悶えさせていたけれど、

「……なに、かしら、ここ」

子供の頭で、そのおぞましさが理解できるわけがなかった。
無邪気に首を傾げながら、とと、とと、と室内へ足を運び、
魔力補給のための責めを受け続けているミレーたちを、好奇心いっぱいの目で見つめるばかり。

リズ > 「えっ、とぉ…――― あ、いた!」

さっき、ほんのすこぉしだけ、地下の通路で迷子になっていた間に、
すっかり見失ってしまった侍女の姿を見つけて、とてとてと小走りに近づいていく。
自力ではうまく編みこめなくて、だらりと崩れかけてしまった不格好なお団子を両手で掴み、

「良かった、探してたのよ、おねぇちゃん。
 見て、リズの頭……これ、ね、昨日みたいにキレイにしてほしいの」

ね、と見つめる視線の先で、彼女は侍女のお仕着せを引き剥がされた裸身を晒し、
身体のあちこちに機械の責め具をつながれて、真っ赤な顔をくしゃくしゃにして泣きじゃくっていたけれど。
よく分からない、事態の深刻さに気づかない子供は、ぷくりと頬を膨らませて。

「ねぇってば、リズのお話、ちゃんと聞いてるの?
 ……ねえ。これ、なぁに?」

遊んでるの、楽しいの、夢中だからお話聞いてくれないの―――――
子供とはいえ、畳みかけるように浴びせる質問は、きっと彼女がまだ正気だったなら、
なんとも残酷な響きに聞こえたはずだ。
幸か不幸か、くだんの彼女はもう、とうに、正気を失っていたけれど―――――。

リズ > 『きゃああああ、エリザベート様!』

不意に甲高い悲鳴とともに名を呼ばれて、びっくりまなこで振り返る。
そこには別の、えぇと、確かおとといかその前の日に、髪を結ってくれた侍女の姿。

慌てたように駆け寄ってきて、目を、というより顔をほとんど手で覆われる。
いけません、だとか、なんてところに、だとか、お気を確かに、だとか。
お気を確かに、するのは、あなたのほうじゃないの、なんてこまっしゃくれた口を利くことも、
侍女の手が口まで塞いでいるからできなかった。

「んっ、んー、んん、ん――――!!」

離して、苦しい、しゃべらせて、なんて、必死に訴えて暴れようとするも、
荷物のように抱えこまれて、あえなく運び出されてしまうことに。
結局、にゃんこの耳をした侍女はその日、姿をみせなかったし、
朝ご飯が目の前に並べられる頃には、幼い公主もそのひとのことを、すっかり忘れていたのだとか――――――。

ご案内:「王都マグメール 王城【イベント開催中】」からリズさんが去りました。