2020/05/25 のログ
シア > 少女が最も得意とするのは死角からの不意打ち。
真正面からの力押しは、いくら身体強化を施したところで体格差もあるが故に不利になる。
それでも相手が少女と見紛うばかりの小柄な相手だったから、踏み込んだのだけれど。

「―――くっ!」

突如として現れた甲冑騎士が自分と対象との間に立ち塞がる。
手にしたのは巨大すぎる大楯と剣
ごつい鎧は敏捷性には欠けるかもしれないけれど、その分、こちらの武器が通るとも思えない。

それでも、今から踵を返して逃げに徹したところで、応援を呼ばれてしまえば逃げ道は塞がれてしまう。
となれば、できることはこの甲冑をどうにかして、その向こうの対象を無力化するしかないわけで。

完全に守りに入った騎士に対して、まっすぐに距離を詰める。
大柄な鎧に阻まれれば、向こうからもこちらの姿は見えなくなるはず。
更には盾に隠れるようにして身を屈めると、その盾を蹴って一気に跳躍する。

機会はおそらく一度きり。
騎士が剣を振り下ろすよりも先に騎士の頭上へと跳び上がると、頭部を守る兜へと回し蹴り。
身体強化を重ね掛けした一撃は、巨躯を揺らすくらいには効果があるかどうか。
それも騎士の練度次第。意識を刈り取れずともバランスを崩させれば、その向こうにいるはずの少年をどうにか出来るはず。

ギュンター・ホーレルヴァッハ > 結論から言えば、騎士との戦闘に関しては驚く程見事に少女の思惑通りに事が進むだろう。
大柄な騎士は俊敏な少女を捉え切れず、盾を踏み台にした少女の回し蹴りは兜へと見事に命中する。
身体能力が高くとも、所詮は自我の無いゴーレムの様な紛い物。踏鞴を踏んでバランスを崩した騎士は、あっさりと少年迄至る道を開くだろう。

「…随分と機敏に動く賊だな。だが、我々王族が自ら戦えぬ者ばかりだと思い込むのは早計よな」

己にとっては、それで十分であった。所詮騎士等時間稼ぎにしか過ぎない。本命は、次の一手を。新たな魔術を行使する為の数秒が稼げれば良かったのだから。

此方の魔術に依る肉体強化は、純粋に発動時に消費した魔力量に依存する。行使出来る魔術は少なく、使い勝手が良いとは言えないものばかりだが、単純な力押しならば難しい事は無い。

即ち。全く戦闘等出来ない様な華奢な体躯の己が、まるで魔族もかくやと言わんばかりの勢いで床を蹴ると、騎士に一撃を与えた少女に掴みかかろうと迫るのだろう。
尤も、肉体が強化されたとはいえ体術などはずぶの素人。場慣れした者であれば、回避が容易な直線的な動きではあるのだが――

シア > 渾身の力を込めて振り抜いた蹴りに、騎士の巨躯がぐらりとバランスを崩す。
そこまでは目論み通りだった。
けれども、開いたその先の視界に映ったのは、早くもこちらへと飛び掛かってくる相手の姿。

空中で身動きがとれるものが居れば、翼を持っているか、さもなければ曲芸師くらいのものだろう。
いくら直線的な動きとは言え、足場のない空中では身を捻るくらいが関の山。
真っ直ぐに、ゆえに最短距離で掴みかかられてしまうと、その手から逃れることはできずに。

「―――くっ は、離して!」

掴んできた手首を捻るようにして離させようと試みる。
これが普通の人間相手であれば、身体強化を施した握力で無理やり引き剥がすことも出来るだろう。
けれども相手も同じく強化したとなると、そこは純粋に魔力練度の差が出ることになる。

すぐさまに引き剥がせなければ、そのまま着地しての膠着状態。
もちろん、そんなことは少女の望むところではなく。
地面に足が付けば、すぐさま相手の足を払おうとするだろう。

ギュンター・ホーレルヴァッハ > 上手く少女の手首を掴み、至近距離で膠着状態まで持ち込む事が出来た。
だが、その状態も長くは続かない。少女が直ぐに反撃とばかりに此方に足払いを仕掛ければ、咄嗟に躱す事は出来たものの掴んだ少女の腕を離して僅かに距離を取る事になるだろう。
そうなれば、互いに次の一手を狙いながらの睨み合いになるだろうが――そういう戦い方は、生憎己の好みとするところでは無かった。

「……ふむ。不慣れな事をするものではないな。やはり、取っ組み合いだのというものは好かぬ。故に、楽な方法を取らせて貰おうか」

距離を置いたままパチリ、と指を鳴らせば、体勢を立て直した騎士が剣を向けるのは強制的な快楽に喘ぐミレー族の女性。鈍く輝く剣の切っ先が、身動きの取れぬ女性に突き付けられるだろうか。

「別に向かって来ても構わぬし、逃げの一手を打っても構わんぞ?見知らぬ同族より、自らの命を大事にするべきだろうからな」

古典的で低俗な人質、という手段。それが少女に通用するかどうかはさておき。向けられた言葉と笑みは尊大で傲慢なものなのだろう。
尤も、此処にいるミレー族は謂わば国家の財産に等しい。
己の立場であっても無意味な殺戮は行えない者達。つまり、完全にブラフでしかないのだが。

シア > 見かけ以上に力の強い相手。
となると自分と同様に身体強化を掛けているのは一目瞭然で。
咄嗟の足払いで距離を取ることに成功はしたものの、潜入している自分としては状況は良くない。
この場で使える獲物と言えば、投げナイフくらいのものだろうか。
煙玉でも仕入れておくんだったと後悔してももう遅い。
どうするべきかと睨み合いをしていると、不意に相手が構えを解いた。

「――――卑怯者。」

先ほど倒した騎士の剣がミレー族の少女の首元に宛がわれる。
鈍く光るそれは、か細い首などは容易く切り落とさせてしまうだろう。
冷静に考えれば、ここは逃げるのが最善。
無抵抗に捕まったところで、人質になった彼女が助かる保証はどこにもないのだから。

仮にこの国のミレー族に対する方針を知っていたところで、
今まさに剣を押し当てられている同胞を前に逃げるようなことはできず。
手にしたダガーを石の床に放り投げると、小さく手を挙げて。

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ギュンター・ホーレルヴァッハ > 後日継続にて――
ご案内:「王都マグメール 王城地下【イベント開催中】」からギュンター・ホーレルヴァッハさんが去りました。