2020/04/28 のログ
ご案内:「王都マグメール 王城【イベント開催中】」にキャスリーンさんが現れました。
キャスリーン > 曇天の空の下、銀色の月明かりが気紛れに照らす庭園に、白い人影が在った。
四季咲きの薔薇が咲き誇る中、ふらふらと、よろよろと、
ベールの裾を棘が引っ掛け、ずり落ちて白銀の髪と蒼褪めた顔が露わになるも、
些事に構うゆとりは無いとばかり、布靴を履いた足は止まらない。
左腕で己が身を抱き、右手で口許を押さえながら、ただ、只管にひと気の無い方を目指して。

盲いた目を覆う瞼が小刻みに震えているのは、先刻、余計なものを見てしまった所為。
定められた時刻に湯浴みをし、ふと、姿見を『見て』しまった時に、
――――今宵、実現するであろう悪夢を知ってしまった。

侍女たちが慌てたように己を呼ぶ声、追い縋ろうとする手すらも振り切り、
今、女が辿り着いたのは庭園の外れ。
瀟洒なつくりの白い四阿の中、崩れ落ちるように座り込んで。
弾む呼吸、跳ねる鼓動を抱えながら、――――己の『予知』が覆る、望みの薄い幸運を願っていた。

ご案内:「王都マグメール 王城【イベント開催中】」にアリアドネーさんが現れました。
アリアドネー > 「あら、ここにいたのね。
 あの人達の言った通りね。」

座り込んだ巫女の背後から声を掛けたのは天使のような笑顔を浮かべる可愛らしい少女だった。
その後ろで少し距離を開けて数人の男が立っているのはおそらく護衛なのだろう。
惜しげもなく脚を晒す少女はその丸い膝に両手を置いて巫女を覗き込む。

「貴方の占いすごく当たるって聞いたわ。
 だから、アリアも占って欲しいの。」

にこにこと無邪気な笑顔を向ける少女、しかし、蟻を平気で踏み潰す子供のような無邪気な笑顔の少女がこれまでどのような、そして、これからどのような非道を行うかは巫女には見えているだろうか。

キャスリーン > 背後から掛けられた声に、ぎくりと双肩を揺らして振り返る。
あどけない少女のものと思しき声、けれども人の気配はひとつでは無く。
蒼白く強張った顔、瞼はかたく閉じられた儘。
思った以上に近く、顔を寄せているらしき少女の物言いに、
小刻みに震える唇をぎこちなく開いて。

「わ、……私を、ご存知、なの、ですか……。
 貴女、……貴女を、私、が…………?」

無責任な噂であれ、己を知っているというのなら、己が『視る』もののことだって、
彼女も知っているのではないか。
声を聞く限りでは、同年配、ことによると年下の少女であるようにも。
そんな少女が、己に『視て』欲しい、というのは――――

「――――いえ、畏まりました。
 僭越ながら、私、キャスリーンが……お嬢様の、未来を、」

拝見致します、と伝える筈だった声が、不意に途切れる。
望まれる儘に閉じた瞼を開き、少女を『視た』瞬間だった。

咄嗟に口許を両手で覆い、悲鳴は呑み込んでみせたけれども。
己が明らかに、何かを『視た』ことは、誰の目にも明らかであろう。
それも、ひどく凄惨な『未来』を――――

その中心で鮮やかに笑っていたのが、目の前の少女、その人なのか。
恐ろしくて、悍ましくて――――身体の震えが止まらない。

アリアドネー > 「ありがとう。
 今日はお父様のお願いを聞いてよかったわ。
 貴方のことは色々聞いていたから、一度ちゃんとお話したかったの。」

数刻前まで、父親の頼みででっぷりと太った貴族の上で腰を振っていた少女は、そんな穢れた情事など微塵も感じさせない無邪気な笑顔で占い……正確には予知を受ける。
未来でも少女は今と変わらず無邪気な笑顔を浮かべ続けている。
ただ、今と違うのは……その足元に無数の尊厳を奪われた男女が転がっていたこと。
その中に巫女の姿は果たしてあったのだろうか。

「どうしたの?
 随分震えているようだけど、何が見えたのかしら?」

震える巫女へとさらに一歩近付き、愛らしい顔を寄せる。
そして、震える肩に両手を置いて、可愛らしく小首を傾げる。

「ねえ、何が見えたの?
 アリアに教えて?」

キャスリーン > ふわり、夜風に紛れて漂うのは、甘く華やかな貴族の少女に相応しい香り。
けれども其れに混じって、ごく微か、己も嗅ぎ慣れた淫靡な香りが鼻腔を擽る。
しかし、今、何よりも問題なのは――――己がつい先刻、姿見の中に垣間見た『未来』と、
たった今、少女を『視た』映像との間に、明確な繫がりを見出したことだ。

力無く座り込んだ其の儘に、じりりと尻で後退る。
必死の思いで稼いだ僅かな距離は、けれども直ぐに、少女の側から詰められて。
至近距離で覗き込まれた己の顔は、誤魔化しようの無い恐怖に彩られているだろう。
懸命に、声の震えを誤魔化そうとするけれど――――。

「い、……い、え、なに、も………。
 わたく、し、には、……何も、――――――ひ、っ!」

震える肩に手を置かれて、今度こそ、掠れた悲鳴が零れてしまった。
口許を覆う両掌は其の儘に、弱々しく頭を振って。

「ど、……どう、か、お許し、下さいませ……。
 いつ、でも、必ず、見える……と、いう、訳では、無いの、です、
 ―――――今、は、なにも」

途切れ途切れに口にした言い訳は、余りにも稚拙で。
どんなに鈍感な者でも、嘘だと気付かれてしまいそうだった。

アリアドネー > おそらくこの場を他の誰かが見ていたとしても巫女がここまで怯える理由はわからないだろう。
ただ、全く邪気を感じさせない愛らしい少女が肩に手を置いているだけ。
一見には調子が悪そうな巫女を心配している美しい光景と捉えることも出来るだろう。
しかし、この場に存在するのは巫女と少女、そして、少女の護衛だけ。
つまりは誰もが正しく巫女の恐怖を理解する。
――唯一人、当事者の少女を除いて。

「そうなの?残念だわ。
 すごく当たるって話だから、すごく楽しみにしてたのよ。」

いかにも残念そうに眉を下げて大きなため息をひとつ吐く。
そして、細い指先で巫女の暗がりの中でも輝くような白銀の髪を梳る。

「仕方ないわね。
 まあ、いいわ。そっちはついでだったし。」

巫女がいくら怯えようとも少女の笑顔も態度も変わらない。
ただ、そっと顔を近づけ、大輪の花が咲いたかのような満面の笑顔を浮かべ告げた。

「アリアね、お父様に最初貴方を奴隷に欲しいってお願いしたのよ。
 でも、貴方には大事なお仕事があるから奴隷はダメって言われたの。
 だから、お友達にしてもらったの。
 これからはアリア達はお友達よ、アリアって呼んでね♥」

巫女の首筋に抱きついて告げたその言葉は、果たして巫女の理解が及ぶものか……。

キャスリーン > 悍ましい『未来』の中に在っても、其れは愛らしい少女だった。
心底楽しげに、曇りなど欠片も無い笑顔で、――――けれどもその白い足は、
平然と何処かの男を、あるいは女を、踏み躙っていた。
慌てて瞼を下ろしたけれど、『視て』しまった映像は容易に消えてくれない。
其処に己自身が居た、となれば、尚のこと。

己の嘘は明らかだったが、少女の護衛たちは勿論、主たる彼女の許し無しに、
其の事実を指摘するような愚は犯すまい。
彼女の機嫌を損ねた者の末路など、きっと己より良く知っている。
――――そして当然、己に助け舟を出す者も居ないのだ。

「も、……申し訳、次第、も………ですが、あの、……見えない、のは、
 決して、悪いこと…では、御座いません、し、」

震えながら、怯えながら、其れでも何とか穏便にこの場を収めようと。
少女の機嫌を損ねないよう、――――己の髪を梳き撫でる指先も、従容と受け容れて。
辞去するタイミングを見極めようとしていた己の気も知らず、
少女は不意に、己に抱きついてきた。

「え、――――――ぁ、あの、お嬢さ、ま……?」

ふらつき、強張り、咄嗟に振り解くことなど思いつかず。
瞼を閉じた儘、見える筈も無い彼女の顔を窺い見るようにして。

「―――――――― ぁ、……アリア、さ…ま……?
 お、……お友達、って……あの、其れは、一体……どう、いう、」

手探りで、取り敢えず、知り得たばかりの名で彼女を呼んでみたが。
奴隷が駄目だからお友達、という、其の理論の展開は、己には理解不能だった。
先刻、そしてたった今、『視て』しまったもののこともあり、
彼女が何を企んでいるのか、――――己は、どんな目に遭わされるのか。
尋ねるのも怖いけれど、訊かずには居られず。

アリアドネー > 「嬉しいわ、アリアって呼んでくれて。
 でも、様は要らないわ。だって、お友達でしょう?
 確か貴方名前は……そう、キャスリーンだったわね。
 キャスって呼んでいいかしら?
 あ、もしかしてお友達知らない?
 もしかしてアリアが初めてのお友達?」

抱きついたまま、嘘偽りない喜色の声を上げ、抱きつく細い腕に力がこもる。
そして、矢継ぎ早に質問を投げかけながら、こつんと額を押し当てる。

「奴隷はほら、壊れるまで遊んでも怒られないでしょう?
 でも、お友達は違うのよ。
 お友達はね、壊れないようにずっと一緒に遊ぶの。
 キャスは壊れにくいって聞いたわ。
 だから、いっぱい遊べるわよね♥」

抱きついたまま一緒に立たせ、まるで子供がそうするように小さな手で巫女の手を握る。
そして、不意にその手を引いて歩き始める。
いつの間にか護衛の男達は取り囲み周囲へと気を配りながら同行する。
それは少女の身を守ると同時に巫女を逃さないようにしているよう……。

キャスリーン > 細い腕、柔らかな少女の身体、けれども其の腕の力は、驚く程強い。
頑健ではあるけれど脆弱な己には、到底、抗うことなど敵わないと思われた。

「あ、……アリアさ、――――…アリ、ア、待っ、て、待って、くださ、」

名前など、好きなように呼んでくれても構わないのだが。
彼女の言う『友達』というものの意味を聞かされれば、絶句、するしか無い。
『遊ぶ』――――其れが少女の外見に似つかわしい遊戯を示すものだとは、
とても、とても思えなかった。

「こ、………困り、ます、私……わ、たくし、あの、
 ――――――待って、お願……っ、………」

困惑顔で、何とか逃げ場を探そうとするも、盲目の女一人、
手を引く少女一人すら撒くのも難しかろう。
もたつく己の背後にひたと沿い、あるいは左右を挟むように、
男たちが二人を取り囲んで、移動を促してくる中では、もう――――

巫女たる女の『未来』を今宵握るのは、無邪気で残酷な少女となる。
未来を『視る』女に、其れを転換する力は無く――――。

ご案内:「王都マグメール 王城【イベント開催中】」からアリアドネーさんが去りました。
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